バイオフィルトレーションは、排気を「湿った担体(フィルター)」に通し、表面に形成された生物膜(バイオフィルム)で臭気成分を分解する生物脱臭の考え方です。環境省の畜産事例では、ハニカム状のフィルターを二段にし、後段で生物膜による生物脱臭を行う構成が紹介されています。一次的に吸着して終わりではなく、微生物が“餌”として取り込める形に変換し、最終的に臭気を弱めるのがポイントです。
農業の現場(畜舎・堆肥舎)で問題になりやすい臭気は、アンモニアだけではありません。事例では、アンモニアに加えて硫黄化合物や低級脂肪酸類なども対象になり、装置側(前段の洗浄+後段の生物膜)でまとめて落としにいく設計が取られています。つまり「何のにおいが強いか」を決め打ちせず、複合臭気を想定した“多段化”が現場では効きやすい、という示唆になります。
参考)https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/pdf/2020_sympo_ozutsumi.pdf
ここで意外に見落とされがちなのが「微生物は万能ではない」点です。畜産の臭気は濃度や組成が日々ぶれやすく、微生物が働きやすい状態(酸素・水分・温度・pH)から外れると、一気に性能が落ちます。だからバイオフィルトレーションは“設備を置けば終わり”ではなく、運転条件を作り続ける技術とセットで考えると事故が減ります。
畜舎排気は粉じんが多く、これが生物膜の働きを邪魔します。環境省の養豚事例(B2)では、1枚目のフィルターで粉じんとアンモニアを水で除去し、2枚目のフィルターで生物膜(バイオフィルム)による生物脱臭を行う二段構えが紹介されています。粉じんが先に落ちると、後段の生物膜が目詰まりしにくく、結果として安定運転に寄与します。
同じ事例では、フィルター表面を循環水で常に湿潤させて運転する点が明記されています。生物膜は乾くと働きが落ち、逆に水が滞留しすぎると通気抵抗が増えたり、嫌気化しやすくなったりします。現場での実装としては「濡らす」だけでなく「濡れ方を一定にする」ことが、脱臭効率を維持するコツになります。
さらに、一次側の洗浄で出る水(粉じん・アンモニアを含む)をどう処理するかも、運転の盲点になりがちです。事例ではオーバーフロー水を受水槽から浄化槽へ流すなど、水系の行き先まで含めて設計されています。排気だけを綺麗にしても、排水が臭えば結局は苦情源になるため、畜舎の脱臭は“空気と水”を一体で見直す発想が重要です。
畜産農業では臭気発生源が「畜舎」と「堆肥舎」に分かれ、特に堆肥化の発酵初期は硫黄化合物やアンモニアなどの濃度が高くなるため注意が必要だと整理されています。つまり、同じ農場内でも“臭気の強さ・種類・出るタイミング”が違い、バイオフィルトレーションの設計条件も変わります。堆肥舎の切り返し時や搬入時など、ピーク臭気に合わせて排気の捕集をどう組むかが実務の勝負所です。
対策の組み立ては、大きく分けて「発生を減らす」「漏らさない」「出るなら処理する」です。環境省の事例集は、清掃や敷料、堆肥化工程の管理などの“管理面”の工夫と、脱臭装置などの“設備面”を併用している事例を多く載せています。バイオフィルトレーションだけで無理に全部を受けるより、堆肥の好気化や搬送の密閉などでピークを削ると、装置が小さくなりランニングも下がります。
あまり知られていない現場の感覚として、「においの感じ方」は濃度だけでなく“質”が効くことがあります。事例集には、敷料や香料で臭質を変え不快性を軽減した例もあり、いわゆる“脱臭一点張り”ではない現実的な引き出しが示されています。もちろんマスキングは万能ではありませんが、バイオフィルトレーションと併用することで苦情リスクを下げる運用設計は十分にあり得ます。
対策の効果を説明するには、測定の考え方を持っておくと強いです。環境省の養豚事例(B2)では、自主管理として臭気指数や特定悪臭物質濃度の測定を行い、脱臭装置の導入後に苦情が落ち着いた、といった運用の文脈が示されています。設備投資の稟議や、近隣説明で“体感”だけに頼らない材料を作る意味でも、臭気指数の考え方は押さえる価値があります。
また同事例では、排気側でアンモニアのほか硫黄化合物(複数物質)や低級脂肪酸類(複数物質)が9割以上除去された、と委託分析結果に言及しています。ここが実務的に重要なのは、苦情の原因が「アンモニアだけではない」ことを裏付ける点です。アンモニア対策だけ先行して“まだ臭い”となる失敗を避けるには、複数系統の臭気成分を前提に、捕集・前処理・生物脱臭を組むのが安全です。
意外な落とし穴として、測定の“良い数値”が出ても苦情がゼロにならないケースがあります。これは風向・地形・夕方の逆転層のような気象条件で、薄くても届く場所が変わるためです。事例集でも、風向に配慮して作業時間を避けるなど、運転と地域配慮を組み合わせている例が見られ、計測と生活実感の両方を扱う必要があると分かります。
検索上位の説明は「微生物で分解する」「土壌脱臭の一種」といった一般論が多く、現場で詰まりやすいのは“水の設計”です。環境省のハニカムフィルター事例では、フィルター表面に循環水を常に流して湿潤を維持し、さらに水は2番目の受水槽へ追加し、オーバーフロー分が1番目へ流れ、1番目の洗浄水は浄化槽で処理する、という水の流れまで組まれています。つまりバイオフィルトレーションは、空気処理装置というより「薄い排水処理設備が付いた空気処理」と捉えた方が事故が少ないです。
独自の現場視点としては、循環水は“性能のつまみ”にも“故障の引き金”にもなります。散水量が不足すると乾燥で性能が落ち、散水が過剰だと通気抵抗が増えて換気が崩れ、結果として畜舎内環境(湿度・温度)にも影響が出ます。さらに、循環水に粉じんや有機物が溜まると、ぬめり・スケール・詰まりの原因になりやすく、見た目は水でも中身は“薄い汚水”です。
このため、運用上は次のような「点検の型」を先に決めておくと強いです。
要するに、バイオフィルトレーションは「微生物の装置」ではありますが、実際に守るべきは“水・粉じん・風量”の3点セットです。この3つを外すと微生物が働ける土俵自体が崩れるため、農場の管理項目として落とし込むほど費用対効果が上がります。
環境省の畜産農業の悪臭対策事例(生物脱臭・ハニカムフィルター等の具体例、運転の工夫が豊富)
https://www.env.go.jp/content/000060600.pdf