てんぐ巣病にかかったバラの治療と対策
この記事でわかること
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てんぐ巣病のサイン
バラに現れる特有の症状と、他の病気やヤドリギとの見分け方を解説します。
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感染の根本原因
病原菌の種類や、どのようにしてバラに感染が広がるのか、そのメカニズムを深掘りします。
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剪定と薬剤の使い方
病気の部分をどう切り取るか、そして切り口の保護に有効な薬剤まで、具体的な対処法を紹介します。
てんぐ巣病のバラの見分け方と初期症状
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バラにてんぐ巣病が発生すると、まるで「天狗の巣」のような異様な見た目になります。この病気の最も特徴的な症状は、枝の一部から非常に多くの細い小枝が密集して生えることです。この部分は「てんぐ巣状」と呼ばれ、健康な枝とは明らかに違うため、比較的見つけやすいでしょう。しかし、初期症状はもっと些細な変化から始まります。
- 枝の異常な密集: 特定の箇所から、通常では考えられない数の細い枝がほうき状に密生します。これが最も分かりやすいサインです。
- 葉の小型化と黄化: 異常に密集した小枝につく葉は、健康な葉に比べて小さく、色が薄くなったり黄色くなったりする傾向があります。葉の形が奇形になることもあります。
- 花の欠如: てんぐ巣病に感染した枝には、花が咲かなくなるか、咲いても非常に小さく貧弱な花になります。蕾のうちに落ちてしまうことも少なくありません。
- 枝のこぶ: てんぐ巣状になっている部分の付け根をよく観察すると、こぶ状に膨らんでいることがあります。このこぶが病原菌の潜伏場所となっていることが多いです。
これらの症状は、病気が進行するにつれて顕著になります。特に、葉が落ちる冬の休眠期には、枝の異常な密集が際立って見えるため、発見の絶好の機会となります。初期段階では、単に枝の生育が旺盛なだけと見過ごしてしまう可能性もありますが、「一部分だけが不自然に茂っている」と感じたら、てんぐ巣病を疑うことが重要です。似たような症状を見せる「ヤドリギ」との違いは、ヤドリギが冬でも緑の葉をつけている寄生植物であるのに対し、てんぐ巣病はバラ自身の枝が変形したものである点です。
農林水産省でも、植物の病気に関する情報提供を行っており、正確な診断の参考になります。以下のリンクでは、様々な植物病害に関する情報がまとめられています。
農林水産省:病害虫防除に関する情報
てんぐ巣病のバラへの感染原因と病原菌
バラのてんぐ巣病は、主に「ファイトプラズマ」という特殊な細菌によって引き起こされます。これは一般的なカビ(糸状菌)とは異なり、植物の師管(養分が通る管)に寄生する微生物です。サクラなどで見られるてんぐ巣病はタフリナ菌というカビの一種が原因であることが多いですが、バラの場合はファイトプラズマが原因となるケースが報告されています。
感染のメカニズムは以下の通りです。
- 昆虫による媒介: ファイトプラズマは自力で移動することができません。主な感染ルートは、ヨコバイやアブラムシといった「吸汁性昆虫」による媒介です。これらの昆虫が、すでに感染している植物の汁を吸い、その口器で次に健康なバラの汁を吸うことで、ファイトプラズマがバラの体内へと侵入します。
- 師管内での増殖: バラの体内に入ったファイトプラズマは、養分が豊富に流れる師管部で増殖を始めます。
- 植物ホルモンの異常: ファイトプラズマが増殖する過程で、植物の成長をコントロールするホルモンのバランスが崩れます。これにより、細胞分裂が異常に活発化し、結果として小枝が密集する「てんぐ巣状」の症状が現れるのです。
つまり、てんぐ巣病は植物のがんのようなものと考えることもできます。一度感染すると、ファイトプラズマは師管を通って株全体に広がる可能性があり、根本的な治療が難しい理由もここにあります。また、剪定ばさみなどを介して感染が広がる可能性もゼロではありません。病気にかかった枝を切ったハサミを消毒せずに他の健康な枝を切ると、切り口から感染させてしまうリスクがあります。そのため、剪定作業には細心の注意が必要です。
てんぐ巣病のバラの治療と正しい剪定方法
残念ながら、2025年現在、バラのてんぐ巣病を薬剤で完全に治療する方法は確立されていません。そのため、最も有効かつ唯一の対策は、病気に感染した部分を物理的に取り除く「剪定」です。
正しい剪定方法は、病気の再発と拡散を防ぐために非常に重要です。
- 剪定の時期: 最も適した時期は、バラの生育が止まる冬の休眠期(12月〜2月)です。この時期は葉が落ちており、病気の枝(てんぐ巣)を発見しやすいという利点があります。また、病原菌の活動も鈍っているため、剪定時に胞子などが飛散して感染を広げるリスクを低減できます。
- 切断する位置: てんぐ巣状の枝が生えている付け根部分をよく見てください。多くの場合、その部分がこぶ状に膨らんでいます。病原菌はこのこぶの中に潜んでいるため、必ずこぶごと、それよりもさらに下の健康な部分から枝を切り落とす必要があります。中途半端に切ると、病原菌が残り、そこから再発する可能性が非常に高くなります。
- 使用する道具: 切れ味の良い清潔な剪定ばさみやノコギリを使用してください。切れ味が悪いと切り口の細胞が潰れてしまい、病原菌が侵入しやすくなります。
- 道具の消毒: 非常に重要なポイントです。てんぐ巣病の枝を切ったハサミには、病原菌が付着している可能性があります。そのハサミで他の枝を切ると、病気を自らの手で広げてしまうことになります。一つの病枝を切るごとに、アルコールスプレーや次亜塩素酸ナトリウム溶液などで刃を消毒する習慣をつけましょう。
- 切り落とした枝の処分: 切り取った病枝は、その場に放置してはいけません。病原菌の塊ですので、他の植物への感染源となります。ビニール袋などに入れて密閉し、燃えるゴミとして処分するのが最も安全です。庭の隅に積んでおいたり、堆肥に混ぜたりするのは絶対に避けてください。
この剪定作業は、一度で終わるとは限りません。見逃した小さな病巣から再発することもあるため、最低でも2〜3年は、毎年冬に注意深く株全体をチェックし、怪しい部分があれば躊躇なく切り取ることが、大切なバラを病気から守る最善の道です。
てんぐ巣病のバラに使う薬剤と切り口の保護
前述の通り、てんぐ巣病の病原菌であるファイトプラズマ自体を殺すための特効薬は現在のところ存在しません。そのため、薬剤の役割は「治療」ではなく、「感染の予防」と「剪定後のケア」に限定されます。
剪定後の切り口保護剤
てんぐ巣病の枝を剪定した後の切り口は、人間でいうところの「傷口」です。そのまま放置すると、雨水や雑菌が侵入し、木が腐ったり、別の病気に感染したりする原因となります。特にバラはデリケートな植物なので、切り口の保護は必須です。そこで使用するのが「癒合剤(ゆごうざい)」です。
- トップジンMペースト: 最も一般的で信頼性の高い癒合剤の一つです。殺菌剤が含まれているため、切り口を物理的に保護するだけでなく、病原菌の侵入を防ぐ効果も期待できます。チューブタイプで使いやすく、ヘラなどで切り口に均一に塗りつけます。特に親指よりも太い枝を切った場合は、必ず使用しましょう。
癒合剤を塗ることで、切り口にバリアを作り、バラ自身の治癒力を助けることができます。「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」ということわざがありますが、バラも桜と同様に、剪定後のケアが非常に重要です。
癒合剤の詳しい使い方や効果については、製品を販売しているメーカーのサイトが参考になります。
住友化学園芸:てんぐ巣病の情報と対策
てんぐ巣病のバラとアブラムシの意外な関係
てんぐ巣病の対策というと、多くの人が「病気になった枝を切る」ことばかりに注目しがちです。しかし、そもそもなぜ病気になるのか、その入り口を断つことを考えなければ、いたちごっこになってしまいます。そこで重要になるのが、病原菌を運ぶ「媒介昆虫」、特にアブラムシやヨコバイの存在です。
てんぐ巣病の病原菌ファイトプラズマは、自力では移動できません。彼らの「乗り物」となるのが、これらの吸汁性昆虫なのです。一見、てんぐ巣病とは直接関係なさそうに見えるアブラムシの防除が、実はてんぐ巣病の最も効果的な「予防策」の一つであるという点は、あまり知られていないかもしれません。
具体的な対策は以下の通りです。
- 定期的な殺虫剤の散布: バラの生育期には、アブラムシやヨコバイを対象とした殺虫剤を定期的に散布し、その密度を低く保つことが重要です。特に新芽や蕾の周りはアブラムシが発生しやすいので、注意深く観察しましょう。様々な殺虫剤がありますが、作用の異なる複数の薬剤をローテーションで使用すると、害虫の薬剤抵抗性の発達を防ぐことができます。
- 天敵の活用: テントウムシはアブラムシを捕食してくれる益虫です。農薬の使用は天敵にも影響を与えるため、薬剤の種類や使用時期を工夫し、天敵が活動しやすい環境を整えることも有効なアプローチです(IPM:総合的病害虫管理)。
- 物理的な除去: アブラムシの発生が少ない初期段階であれば、粘着テープで捕獲したり、牛乳スプレー(乾くとアブラムシが窒息する)を吹き付けたりするなどの物理的な方法も有効です。
- 株の健康維持: 窒素過多の肥料は、株を軟弱にし、アブラムシを呼び寄せる原因になります。適切な施肥管理で、バラ自体を健康に保ち、病害虫への抵抗力を高めることも忘れてはなりません。
剪定による「対症療法」と、媒介昆虫の防除による「原因療法」を組み合わせることで、てんぐ巣病のリスクを大幅に減らすことができます。病気の枝を見つけてがっかりする前に、春先からのアブラムシ対策を見直してみてはいかがでしょうか。それが、あなたの愛するバラを守るための、意外な近道になるかもしれません。
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