土耕栽培のいちご狩り農園の方が、高設栽培よりも年間来客数が多くなりやすいです。
「高設栽培ですか?」という電話問い合わせが、いちご狩り農園に届くケースが増えています。これはお客さん側が高設栽培を"選ぶ基準"にするようになったことを意味します。農業従事者にとって、栽培方法の違いが来客数に直結する時代が来ているということです。
高設栽培とは、腰の高さ(地上70〜110cm程度)にベンチや栽培槽を設置し、立ったままでいちごの管理・収穫ができる栽培方式です。従来の土耕栽培では、草丈が低いいちごの世話をするために常に中腰・かがみ姿勢を強いられていました。高設栽培ならその負担がゼロになります。
いちご狩りの文脈では、この「腰をかがめない」という特徴が来客体験の満足度に大きく影響します。たとえば子どもが目線の高さでいちごを摘める、ベビーカーを押しながら通路を歩けるという体験は、家族連れにとって非常に大きな価値です。車いすを使う高齢者や障がい者の方も楽しめるバリアフリー設計として、農福連携や福祉農園の文脈でも注目されています。
重要なのが、この「来やすさ」が口コミ・SNS拡散につながる点です。近隣の農園より価格が高くても、自社サイト経由でのリピート率が5割を超える農園の事例があります(中小企業基盤整備機構・J-Net21掲載事例)。つまり高設栽培は、農業の生産効率だけでなく、いちご狩り観光農園としてのマーケティング資産でもあるのです。
清潔感も見逃せない要素です。土耕栽培では地面に近い場所にいちごが実るため、足元の土が気になることも。高設栽培では胸の高さに実が付くため、衛生的な印象をお客さんに与えやすく、写真映えにもつながります。
つまり高設栽培への投資は、農業コストの話だけでなく、集客力と顧客満足度への投資として考えるべきです。
農業従事者が最初に直面するのが、導入費用の現実です。高設栽培の導入コストは、10a(1,000㎡=約300坪)規模で150万〜500万円が相場とされています(日本施設園芸協会・農水省資料)。この幅が大きいのは、選ぶシステムやベンチの種類によって大きく異なるからです。
費用が変わる主な要因をまとめると、ベンチの素材と構造(固定式か吊り下げ式か)、養液システムの有無と精度、環境制御システム(温湿度・CO2管理)の充実度、ハウス本体の新設か既存活用かの4点です。フルスペックで一から設備を揃えると6,000万円規模になるケースもありますが、既存ハウスを活用し中古設備を組み合わせれば2,000万円程度に抑えられる農家もいます。
では収益はどうか。いちご農家の10aあたりの農業所得は平均189万円で、農業所得率は52.8%というデータがあります(農業経営統計調査)。施設野菜農家の平均(所得率47%)を上回る水準です。観光農園化すれば、市場出荷と比べて価格決定権を農家側が持てるため、収益をさらに高めやすくなります。
具体的な数字で考えてみましょう。いちご狩りの入場料は1人あたり1,500〜3,000円が一般的です。仮に1日50人×週末40日の来客で計算すると、入場料だけで年間300〜600万円の売上になります。20aのハウスを運営すれば、さらに大きな数字が見えてきます。
ただし、見落としやすいのがランニングコストです。養液管理に使う液体肥料、水道・電気代、ポンプや配管のメンテナンス費が継続的にかかります。土耕栽培との最大の差はイニシャルコストにあり、ランニングコストは大きく変わらないという点も覚えておく必要があります。
収益性が高い分、初期投資の回収計画を緻密に立てることが条件です。農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)や、各都道府県の農業近代化資金なども活用できます。導入前に農業改良普及センターや農業試験場への相談が、失敗リスクを大きく下げます。
イチゴ農家の年収目安と経営の失敗例(minorasu・BASF)
高設栽培がいちご狩り農園にもたらす最大の"隠れた価値"は、来客できる人の範囲が大幅に広がることです。これは農業従事者があまり意識していない視点ですが、集客力に直結します。
土耕栽培のいちご狩りでは、腰をかがめる姿勢が必要なため、膝や腰に不安を持つ高齢者、車いすを使う方、ベビーカーを押す保護者にとってはハードルが高い体験でした。高設栽培に切り替えると、この3つの層がすべて来場できるようになります。
数字で見ると、栃木県内のある観光いちご農園では、高設栽培導入後の5年間で来場者数が約2,000人から8,000〜10,000人規模まで増加した事例があります(中小企業診断士栃木支部調査資料)。単純な規模拡大ではなく、来られなかった人が来られるようになったことによる成長です。これは使えそうです。
バリアフリー設計で重要なのは、ハウス内の通路幅です。土耕栽培なら30cm程度でも作業できますが、高設栽培では車いす(幅65cm程度)とすれ違えるよう、100〜120cm以上の通路幅が推奨されます。この通路幅の確保は株数の減少につながりますが、来客数増加による売上増で補える農園が多いです。
また、老人ホームやデイサービス、保育園からの団体予約が入りやすくなる点も重要なメリットです。これらの団体客は平日の稼働率を上げる効果があり、繁閑差が激しいいちご狩り農園の経営を安定させる効果があります。平日の集客は原則、団体客が担うと考えると戦略が立てやすいです。
さらに、高設栽培×バリアフリー設計の農園はSNSで拡散されやすいという特徴もあります。「車いすでもいちご狩りできた」という体験はX(旧Twitter)やInstagramで自発的に共有されやすく、広告費をかけずに新規顧客を獲得できるケースがあります。
高設栽培でいちご狩り農園を運営するなら、品種選びと栽培管理が収益を左右する核心です。どの品種を選ぶかで、来客の満足度・食べ比べ体験の価値・シーズンの長さがまったく変わってきます。
いちご狩り農園で人気の品種として代表的なのは「紅ほっぺ」「章姫(あきひめ)」「かおり野」「恋みのり」「あまりん」などです。「あまりん」は日本野菜ソムリエ協会主催の全国いちご選手権で3年連続最高金賞を受賞しており、糖度の高さがウリです。複数品種を並べて食べ比べ体験を提供することで、客単価と滞在時間を同時に伸ばせます。
高設栽培の栽培管理で農業従事者が特に注意すべき点が、養液(液体肥料)と水分管理の頻度です。土耕栽培では潅水は2週間に1回程度ですが、高設栽培では1日5回前後の潅水が必要になるケースもあります。培地(培養土)の保水量が少ないため、乾燥に対して非常に敏感です。これは土耕栽培の感覚をそのまま持ち込むと失敗する最大の原因です。
もうひとつのポイントが温度管理です。高設栽培では培地が地面から離れているため、冬場は根域温度が低下しやすく、収量減少につながりやすいです。解決策として「温湯ボイラー」による培地加温が有効で、根域を適温(15〜18℃前後)に保つことで収量の安定化が図れます。
また、土耕栽培では地面の有機物分解によって二酸化炭素が自然供給されますが、高設栽培ではそれが起きません。二酸化炭素不足は光合成を抑制し、糖度と収量の両方に悪影響を与えます。対策として炭酸ガス発生装置の導入が普及しており、これにより高設栽培でも土耕栽培と同レベルの食味を実現できます。いちご狩りの満足度を支える「おいしさ」はここで決まります。
ハダニやうどん粉病などの病害虫対策も必須です。高設栽培では土壌病害は減らせますが、空中に実が付くためアブラムシやハダニの発生に注意が必要です。栽培指導員やLINEサポートなど、トラブルに即時対応できる体制を整えておくことが、観光シーズン中の安定収穫に欠かせません。
技術面が整ったとしても、観光農園としての「運営設計」を怠ると収益が伸び悩む農園は多いです。これは検索上位の記事ではあまり触れられていない視点ですが、農業従事者にとって最も差がつく部分です。
まず収益モデルの多角化が重要です。入場料だけに依存せず、いちごを使ったジャムやスムージーの販売、摘み取り体験に加えた農園カフェ、自家製苗の直売など「いちごと農園に来た人が買いたくなるもの」を複数用意することで、客単価を上げられます。ある観光農園では、県平均より1,000円高い入場料設定(最高2,500円)でも来客が絶えなかった事例があります(マイナビ農業掲載)。価格競争に入らないことが原則です。
予約管理と繁閑差の平準化も重要な運営課題です。いちご狩りは土・日・祝日に来客が集中するため、平日の稼働率が低くなりがちです。団体予約(老人ホーム・幼稚園・学校など)を平日に誘導する仕組みを作ると、年間収益が安定します。LINEを活用した予約管理・キャンセル対応・リピーター向け情報配信は、低コストで実行できる集客施策として農業経営の現場で成果が出ています(農水省・農業経営相談所事例)。
春休み・GW・土日祝は来場者が集中するため、収穫できるいちごの量の調整が経営の生命線です。出荷農家はクリスマス・年末年始に合わせて収穫ピークを設定しますが、観光農園は正月明けから春休みが本番であり、収穫ピークのタイミングを出荷農家とは変えて設計する必要があります。このずれを知らずに栽培計画を立てると、繁忙期にいちごが足りないという最悪の事態になります。
ハウス内の動線設計も見直しのポイントです。入口付近の栽培槽をあえて外してテーブルを置き、来場者がゆっくり座れるフリースペースを作った農園では、滞在時間が伸びて追加購入につながったという報告があります(神奈川・陽だまり農園の事例)。フリースペースを1区画作るだけで、家族連れが「また来たい」と思う農園に変わります。
SNS集客については、Instagramへの農園の日常や収穫シーン、来場者のリアルな様子の投稿が最も効果的です。広告費をゼロに抑えながら数億円相当のメディア露出を獲得した大規模農園の事例もあります。高設栽培の清潔感ある空間と彩り豊かないちごは、写真・動画素材として非常に映えやすく、SNSとの相性は抜群です。
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