豊作の年ほど、あなたの手取りは減っていく。
「作況指数」とは、コメのできぐあいを数値で表した指標のことです。
簡単にいえば、10アール(=1000㎡、テニスコート約4面分)あたりの収量を「平均的な年」と比較して、今年が良かったのか悪かったのかを100を基準にして示したものです。100より大きければ平年より良く、小さければ悪かったことになります。
農林水産省が毎年秋に調査し、全国約8000カ所の「作況標本筆」と呼ばれる圃場(ほじょう)を実測して算出します。
これが基本です。
従来の作況指数では、過去30年間の平均収量を「平年収量」として比較のベースにしていました。ただし、2025年産から状況が大きく変わりました。
なぜ変わったのかというと、過去30年という長い時間軸の平均は、近年の気候変動を十分に反映できないという問題が生じてきたからです。たとえば、冷害が多かった1970〜80年代のデータも含まれているため、現代の高温環境下では「実態より低く見える」という歪みが生まれていました。また、指標が「全体の収穫量」と誤解されやすいという構造的な欠点も指摘されていました。
| 作柄の表現 | 旧・作況指数 |
|---|---|
| 良 | 106以上 |
| やや良 | 102〜105 |
| 並み | 99〜101 |
| やや不良 | 95〜98 |
| 不良 | 94以下 |
この区分は農家にとって「今年の作柄がどのランクか」を判断するうえで長年使われてきた基準です。
意外ですね。
農林水産省が公表する詳細なデータについては、以下で確認できます。
2025年産の作況統計の詳細(農林水産省・公式)
農林水産省|令和7年産稲の作付面積及び10月25日現在の予想収穫量
2025年産から、約70年続いてきた「作況指数」が正式に廃止されました。
これは驚くべき変化です。
代わって導入されたのが「作況単収指数」という新しい指標です。最大の変更点は比較の基準となる「平年収量」の計算方法です。
これにより、ここ数年の気候変動の影響をより素直に反映した数値が出るようになりました。つまり、近年の高温による収量変動を「標準」として取り込む仕組みに変わったということです。
この変更の影響は数字にも表れています。たとえば、2024年産を新旧両方の指数で試算すると、北海道は旧指数「103」に対し新指標では「101」、岩手県は旧「106」が新指標で「103」となりました(農水省資料より)。同じ年・同じ収量でも、指数の数字が変わるのです。
これは農家にとって重要な認識の変化です。
新指標では、10アールあたりの「単収(単位面積あたりの収量)」の比較に焦点を絞っており、収穫量全体の増減とは別に読む必要があります。
新指標導入の背景と詳細は以下で確認できます。
新指標導入の背景と廃止の経緯(農村ネットメディア)
農村ネット|農水省「作況指数」を廃止へ、新指標「作況単収指数」を導入予定
2025年産の主食用米について、農林水産省が公表した作況単収指数は「102」です。
旧来の基準に照らせば「やや良」に相当するランクで、これは過去10年でも上位に入る水準です。
しかしここで注意が必要です。「102」という数字は全国平均であり、地域によって大きく異なります。
全体での数値はひとつの目安に過ぎません。
10月25日現在の発表によると、地域別の10アールあたり予想収量は次のとおりです。
九州や西日本では前年を大きく上回る一方、北海道では春先の日照不足が響き前年比でマイナスとなっています。作況単収指数が同じ「102」でも、自分の圃場がある地域・品種で状況は大きく変わります。都道府県単位のデータを農林水産省の統計表で個別に確認する習慣をつけておくことが大切です。
また、白未熟粒(しらみじゅくりゅう)の割合は3.7%と、前年よりは改善しています。ただし、高温障害がゼロになったわけではありません。
品質面での確認も欠かせない要素です。
作況指数102という豊作の数字が、なぜ農家の収入減につながりうるのかを整理しておきます。
2025年産米の収穫量は約747万7000トンで、国内の需要量(約700万トン前後)を大きく上回る見通しです。差し引きで40〜50万トン規模の過剰供給が生じる可能性があります。東京ドームに玄米を積み上げると、ドーム約39杯分に相当する規模です。
需要を上回る供給は、価格の下落圧力に直結します。
2025年産米では高騰が続いた市況を背景に、JA全農各県本部が軒並み高い概算金を提示しました。東北・北陸などのコシヒカリや主力品種で、玄米60kgあたり3万〜3万3000円水準の概算金が出された地域もあります。しかし、2025年末にかけて先安感が強まりました。
農水省の推計では、2026年6月末の民間在庫量が215万〜229万トンに達する見通しとなっており、適正水準とされる180万〜200万トンを大幅に上回ります。在庫が積み上がれば翌年の価格形成にも影響します。
痛いですね。
さらに農政は2025年秋以降、増産方針からわずか数カ月で転換し、2026年産の生産量目安を前年産比で約37万トン減らす方向を打ち出しました。農家の経営判断が振り回されやすい状況が続いています。
作況指数が良い年ほど、翌年の農政が引き締めに転じるリスクがある。
これが基本です。
全国平均の作況単収指数「102」だけで「今年は豊作だ」と判断するのは、実は危険です。
地域ごとの実態を見ると、数字の見え方がかなり変わります。たとえば滋賀県の作況単収指数は「105」(湖南地域で103)と全国平均を上回り、九州各県でも中・四国・近畿地域全般で前年を大きく超える収量となりました。一方で北海道は日照不足の影響を受け前年割れとなっています。
品種によっても差が出ます。高温耐性のある「にこまる」(九州・四国など)や「つや姫」(東北・山形)は比較的品質が安定しましたが、「コシヒカリ」は高温環境下での品質管理に注意が必要な品種です。
これは使えそうです。
農家の目線で大切なのは、「全国の数字」ではなく「自分の圃場の地域・品種での数字」です。農水省の統計表には都道府県別・地域別のデータが掲載されています。毎年秋に更新される数値を確認し、自分の産地・作柄ランクを把握することが経営判断の第一歩になります。
概算金の交渉や翌年の作付計画を立てるうえでも、地域別の作況単収指数は欠かせません。
「豊作」という言葉は数量の話です。
「品質」は別の問題です。
コメは等級によって価格が変わります。1等、2等、3等、規格外の4段階があり、1等が最も高く取引されます。登熟期(8〜9月)に高温が続くと「白未熟粒(でんぷんが十分に蓄積されず白く濁った粒)」が増え、等級が下がります。等級が1ランク下がると、玄米60kg換算で数百〜1000円前後の価格差が生じることもあります。
2025年産はおおむね気候に恵まれ、白未熟粒の割合は全国で3.7%にとどまりましたが、近年の傾向として高温障害リスクは毎年ゼロにはなりません。猛暑年では白未熟粒率が10〜15%に達する地域も出てきます。
高温障害対策として現在広まっているのは、早植え・早刈りによる登熟期の高温を回避する「スケジュール管理」と、高温耐性品種の導入です。農業資材メーカーや農業試験場が提供する品種情報や栽培暦を活用することで、リスクを下げることができます。
作況指数が「102(やや良)」でも、品質トラブルがあれば実質的な収入はそれを下回ります。
数量と品質を分けて管理することが重要です。
高温障害リスクと品種選定についての最新情報は以下が参考になります。
気候変動と白未熟粒・品質への影響(JAcom 環境省報告)
JAcom|米は白未熟粒増え、高品質米維持には高温耐性品種が必要(環境省レポート)
作況指数は農家の経営を守る制度と深くつながっています。
これが原則です。
代表的なのが「米・畑作物の収入減少影響緩和対策(ナラシ対策)」です。これは、当年産の販売収入が過去5年の平均(最大・最小を除く3年の平均)を下回った場合に、その差額の9割を補填する仕組みです。2025年から作況単収指数の計算方法が「5中3方式」に変わったことと、ナラシ対策の発動条件の計算方法が近い考え方を持っています。
農業共済(NOSAI)の水稲共済では、作況標本調査に基づく損害評価が行われます。収量が著しく下がった年には共済金が支払われますが、損害評価は地域単位(市町村・農業地域ごと)で行われるため、隣接地域でも支払い額が異なることがあります。
2025年産のように収穫量全体が増えても、特定の圃場で局地的な被害があった場合は、個別の被害申告が重要です。「全体が豊作だったから共済は使えない」と思い込まずに、NOSAI窓口への相談を検討してください。
農業共済に関する情報はNOSAI協会の公式サイトで確認できます。
作況指数と農業共済・ナラシ対策の関係(NOSAI協会)
NOSAI協会|水稲「作況単収指数」102、収穫予想は63万トン増の概要
作況指数が廃止されても、その数値と役割はなくなりません。
農林水産省は公式に、作況(単収)指数の数値を以下の目的に継続活用すると明記しています。
つまり、名前が変わっても指数が農政の根幹を支えていることには変わりありません。「廃止された」という言葉だけを聞いて「もう関係ない」と思うのは危険です。
一方で、農業界からは「廃止によって需給の先読みがしにくくなる」という声も根強くあります。流通業者や米卸業者にとっても、作況数値は在庫調達の判断材料になっていたからです。日本農業新聞も「廃止より精度向上を優先すべき」との社説を掲載しました。
農家として重要なのは、新しい指標「作況単収指数」のデータ公表スケジュールを把握し、毎年9月〜11月の発表に合わせて経営判断を更新していく習慣を持つことです。
2025年産の豊作と作況単収指数102を踏まえ、2026年産の経営判断に活かせる視点を整理します。
まず、政府の方針として2026年産の主食用米の生産量目安は前年産より約37万トン少ない水準に設定されました。
生産調整が再び重要なテーマになります。
増産から一転しての方針変更であることを念頭に置く必要があります。
次に、米価の先安感に備えた経営の多角化です。2025年末から2026年にかけて、東北を中心に令和7年産米の「荷余り感」が報告されており、概算金の追加払いが遅れる動きも出ています。一品目依存の収益構造は、豊作年ほど脆弱さを露わにします。
新規需要米(飼料用米・米粉用米・酒造好適米)への転換も選択肢です。交付単価は米粉用米が10アールあたり9万円、加工用米が3万円、酒造好適米は最大3万円(取組年数に応じて)となっています。水田を活用しながら収益の柱を分散させることが、経営安定の一手となりえます。
2026年産に向けた生産計画の考え方については以下が参考になります。
2026年産米の動向と農家経営戦略(smartagri-jp.com)
スマート農業jp|令和8年、水稲農業を取り巻く環境と大きく変わる市場
農家の間には以前から「作況指数と肌感覚がずれる」という声がありました。産地を回る米業者や記者からも同様の証言が相次ぎ、これが廃止の一因となりました。ただ、この「ずれ」が起きるメカニズムを正確に理解している農家は多くありません。
主な理由は3つあります。
第1の理由は、作況指数が「平均」であることです。全国や都道府県の平均収量と個別農家の実収量は、当然ながら一致しません。指数が101でも、自分の圃場では98ということは十分に起こりえます。個別の圃場条件・管理技術・品種が数字に反映されないのは当然のことです。
第2の理由は、品質と量の混同です。作況指数は収量ベースの指標であり、品質(等級・食味)は別問題です。量は多くても、高温障害で等級が下がれば農家の実収入は減ります。2024年産は作況指数101(並み)でしたが、品質面の低下により農家の手取りが想定より少なかった事例が各地で報告されています。
第3の理由は、ふるい目幅の問題です。従来の指数はふるい目幅1.7mmを基準にしていましたが、農家が実際に使っているふるいは1.85〜1.9mmが多く、指数と実態の乖離が生じていました。2025年産からは生産者の実際のふるい目幅ベースに変更されています。この変更だけで、農家の肌感覚との一致度は大きく改善されると期待されています。
つまり、新指標への移行は「農家が感じている実態」により近づくための改革でもあります。
これだけ覚えておけばOKです。
作況単収指数という国全体の統計と、自分の圃場の記録を組み合わせることで、より精度の高い経営判断が可能になります。
具体的には、自圃場の過去5年間の10アールあたり収量を記録しておき、作況単収指数の算出方法(5中3方式)と同じ形で「自分の平年収量」を計算してみることをお勧めします。これにより、国の指数と自分の状況の差がどれくらいあるかが見えてきます。
スマート農業の文脈では、ドローンやセンサーによる生育診断・収量マップの活用が普及しつつあります。これらのデータを年ごとに蓄積することで、圃場ごとの傾向(高温に弱い区画、水管理が難しい区画など)を把握できます。全国平均の「102」という数字ではなく、「自分の圃場A区画は3年平均で95、B区画は105」という個別データが、実際の経営改善に役立ちます。
また、農業経営記録と収益管理には農業会計ソフト(「農業簿記」など)の活用が有効です。圃場別の収量・品質・費用・収益を年単位で比較することで、どの圃場・品種への投資が効率的かが可視化されます。
経営判断の精度が上がります。
農業経営の数値管理を始めるうえで参考になるサイトを紹介します。
農業経営記録と収益改善の入口(農業利益ラボ)
農業利益ラボ|2024年度の営農類型別農業経営収支の動向