茄子の土作りは、最初に「pHをどこへ持っていくか」を決めると迷いが減ります。ナス科は土の酸性が強いと根の動きが鈍り、結果として元肥を入れても吸い上げが弱くなりがちです。目安として、最適pHは5.5〜6.8とされ、土作りの2週間前に苦土石灰を120g/㎡程度、全面にまいて耕起20cmする例が示されています(講習会資料のナス項)。
ただし、ここで大事なのは「量」より「混ぜ方」と「待ち時間」です。苦土石灰は、土とよく混ざるように耕すことでpHが安定し、栄養分が吸収されやすくなるとされています。現場では、表層だけ白くなる“化粧まき”で終わらせず、鍬やロータリーで土全体に散らす意識が効きます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11548510/
さらに、石灰施用後は最低でも1〜2週間の“寝かせ”を確保してください。石灰と堆肥・元肥を同時に入れると、肥料の窒素成分が石灰のアルカリ分と反応して気体になり、窒素ガスとして空気中へ出てしまい肥料分が無駄になる、と注意書きがあります。これは「肥料代を払って空に逃がす」状態なので、忙しい時期ほど段取りで回避したいポイントです。
酸度矯正の“意外な落とし穴”は、pH数値だけ見て安心してしまうことです。pHが合っていても、根が酸素不足(過湿・硬盤)だと吸収は止まります。だから次の堆肥・耕起の工程とセットで、pHを“機能する状態”にしていきます。
pHの方向性が決まったら、茄子の土作りは「堆肥で土の体力を上げる」工程に入ります。資料では石灰が土になじんでから、植え付け1週間前に完熟堆肥を2〜3kg/㎡まく手順が示されています。ナスの項では発酵牛糞堆肥3〜4kg/㎡という目安も記載されています。
堆肥は“肥料”というより、土の構造と水分のブレをならす資材です。実際、堆肥などの有機物投入は土壌のpHや有機物、CEC(陽イオン交換容量)を改善し得ることが報告されています(連用でpH上昇・SOM/CEC増加など)。露地でも施設でも、根が長く働く作型ほど「途中で土が疲れてくる」現象が出やすいので、スタート時点の有機物が効いてきます。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpls.2022.972789/pdf
一方で、堆肥は“完熟”が前提です。未熟〜中熟の堆肥は土中で分解が進む最中に窒素を一時的に奪ったり、発熱・ガスで根にストレスをかけたりします。見分けは難しいですが、最低限の現場チェックとして次を押さえると事故が減ります。
「堆肥を入れたのに効かない」時の原因は、量不足よりも“混和不足”か“時期が遅い”が多いです。ナスは根が深く広く伸びて長丁場になるため、次の工程(溝施用・深めの層への配置)が効いてきます。
堆肥の次は元肥です。資料では植え付け1週間前に堆肥のあと、さらに元肥として化成肥料100〜200g/㎡をまき、土とよく混ざるように耕す流れが示されています。ナスの項では数日前に化成肥料(8-8-8)を200g/㎡という例もあり、畝の高さは20cmとされています。
ここでのポイントは「ナス科は“溝に入れる”発想が強い」ことです。ナス科野菜(ナス、トマト、ピーマン等)では、堆肥と元肥を施用する時に畝に30cm(できれば深いめ)の溝を掘り、堆肥と元肥を入れて土を埋め戻す、と明記されています。長丁場で根が深く広く伸びていくため、表面だけに養分を置かず“根が追いかける位置”を作る狙いです。
また、肥料設計で忘れられがちな注意点が「肥料の残り」です。基準量として苦土石灰100g/㎡、化成肥料(8-8-8)100g/㎡、堆肥3〜4kg/㎡が示され、残存する肥料成分があれば元肥量を2〜3割減らすとされています。前作の追肥が多かった圃場ほど、元肥を同じ感覚で入れると“効き過ぎ→樹だけ旺盛→着果が乱れる”方向にぶれます。
逆に、ナスは長期間栽培で後半に生育が衰えることがあるため、堆肥と元肥量を3割程度増やし、畝底まで深く耕す、という考え方も同資料内にあります。つまり「一律に増やす/減らす」ではなく、前作残肥・作型の長さ・土質で元肥を寄せていくのが、プロ現場の土作りです。
元肥まで入れたら、仕上げは畝づくりです。資料のナス例では畝の高さ20cmが目安として示されています。畝が低すぎると、梅雨〜ゲリラ豪雨の時期に根域が過湿になり、pHや肥料以前に根が止まります。逆に高すぎる畝は乾きやすく、「水と肥料でつくる」ナスにとって水分管理が難しくなります。
地ごしらえの工程として、タキイの栽培ポイントでは、粗起こしの時に苦土石灰と堆肥を多めに施して土のpHを調整した後、元肥を施して再度耕し、幅1.2m程度の畝を立てる流れが紹介されています。また、早植えしたい時は一雨降ってから黒ポリマルチをして地温を高めておく、とされています。地温が上がると根の動き出しが早くなり、結果的に初期の追肥や灌水の効きも読みやすくなります。
現場での“意外と効く小技”は、畝を立てた後に表面を軽くならしておくことです。資料でも最後に表面を軽くならす工程があります。凸凹があると潅水ムラ・肥料ムラ・マルチの密着不良につながり、初期の根張りに差が出ます。
なお、畝づくりは排水だけでなく、土の空気(通気)を確保する作業でもあります。資料では「よく耕すことによって土の中に隙間ができ、水のとおりや空気のとおりがよくなり、根が元気になる」と説明されています。ナスの土作りは、化学性(pH・養分)と物理性(通気・排水)の両輪で整えるのが最短です。
最後に、検索上位では“手順”として触れられても、現場の損益として意識されにくい視点を入れます。それが「窒素ガス化による目に見えない損失」と「溝施用の効き方の違い」です。資料の注意書きにある通り、石灰と肥料を同時に入れると、肥料の窒素成分が反応して気体になり空気中へ出てしまう、とされています。この損失は、葉色が薄くなるまで表に出にくいので、“後追い追肥”で帳尻合わせをしがちですが、実は最初の段取りで防げます。
ここで簡単な損益計算の考え方を持つと、上司への説明もしやすくなります。例えば、同日投入で窒素の一部を逃がすと、追肥で補う必要が出て、肥料コストだけでなく作業回数(人件費)と潅水回数(燃料・電気)が増えます。しかも追肥は効き出しにタイムラグがあるので、初期の着果・樹勢が乱れた場合は収量や秀品率にも跳ね返ります。「最初に1週間待つ」という段取りは、時間を使うようでいて、実は“全体の手間を減らす投資”です。
もう一つは溝施用の意味です。ナス科では畝に30cmの溝を掘って堆肥と元肥を入れて埋め戻す、とされています。これを単なる作業手順で終わらせず、「根の進路に沿って養分と有機物の層を作る」設計として捉えると、後半のスタミナが変わります。ナスは栽培期間が長く、追肥しても後半に生育が衰えることがあるため、堆肥と元肥量を3割程度増やし、畝底まで深く耕すという記載があるのも、この“根域を深く使わせる”方向性と一致します。
実務でのチェック項目として、次の「3点セット」を作業後に確認すると、土作りの再現性が上がります。
「茄子の土作り」は、資材の種類よりも、順番・深さ・待ち時間で差がつきます。焦って一度に終わらせるより、“2週間前→1週間前→数日前”のリズムで組むほうが、肥料も堆肥も効かせやすく、結果として収量と品質が安定します。
石灰の順番と理由(窒素ロスの注意)がまとまった資料。
https://www.amaryoku.or.jp/files/file/fl00000053.pdf?1606443082
地ごしらえ〜畝立て〜マルチの流れ(幅1.2mの畝など)の参考。
https://www.takii.co.jp/umauma/manual/nasu/index.html