ムギダニを見つけてから薬を撒いても、すでに収量が3割以上落ちていることがある。
ムギダニ(学名:Penthaleus major)は、ダニ目ミドリハシリダニ科に属する農業害虫です。体色は胴体が黒く、脚が橙赤色という特徴的な見た目をしており、肉眼でも確認できるサイズです。
参考)島根県:ムギダニ(トップ / しごと・産業 / 農林業 /…
活動適温は5〜8℃と低温です。これが重要なポイントで、多くの害虫が夏場に活発になるのとは逆に、ムギダニは春と秋に猛威をふるいます。 夏は休眠状態(越夏卵)で過ごし、10月上旬〜中旬にふ化して活動を再開します。jppa+1
被害が集中するのは、春(3〜4月)と秋(11〜12月)の年2回です。特に春の加害は甚だしく、その後の牧草の収量に直接影響します。 牧草の株元に多数集まっているのが確認できたら、被害が進行中のサインです。pref+1
発見しやすいタイミングがあります。晴天の日中は葉の裏などに隠れていますが、夕刻や曇天日に圃場に入ると、比較的容易に個体を確認できます。 早期発見のためには、こうした時間帯を意識した巡回が効果的です。
参考)http://jppa.or.jp/archive/pdf/54_05_36.pdf
ムギダニの被害は、見た目以上に深刻な経済的ダメージをもたらします。過去には牧草や飼料作物の収量・品質に大きな損害をもたらした記録があります。 特にイネ科牧草で深刻な被害が起きやすく、草勢が弱い経年草地ほど発生リスクが高まります。pref.fukushima+1
被害が拡大すると何が起きるのでしょうか?
ムギダニが加害する主な作物は、イネ科牧草・麦類・野菜(キャベツ、ダイコンなど)です。野菜の場合、結球野菜では結球部に侵入して加害するため、商品価値がまったくなくなることがあります。 株が小さいうちに被害を受けると萎ちょうして枯死するケースもあります。
牧草地での被害では、春の加害後の収量低下が長期的な生産コストに跳ね返ります。一度収量が落ちた草地は回復に時間がかかるため、「早めに気付いていれば」という後悔につながりやすい害虫です。
これは使えそうな知識ですね。
被害が出やすい条件を整理すると以下の通りです。
ムギダニ防除の基本は、低密度のうちに手を打つことです。密度が上がってから対処すると、散布回数が増えて薬剤抵抗性のリスクも高まります。
早め・早めの防除が原則です。
参考)ローテーションでダニ対策
代表的な防除薬剤として広く使われているのが、スミチオン乳剤(MEP剤)の1,000倍液です。 牧草・イネ科草地のムギダニに対して登録があり、現場での実績も豊富です。pref.iwate+1
散布する際の重要なポイントが2つあります。
薬剤抵抗性の問題は深刻です。ダニは卵から成虫までのサイクルが早く、抵抗性を持ちやすい生き物です。 同じ薬剤を使い続けると、その薬が「効かないダニ」が選択的に生き残り、増えていきます。3剤以上を用意してローテーションするのが理想的ですが、最低でも2剤を交互に使うことが現実的な対策です。fmc-japan+1
また、気門封鎖剤(サフオイル乳剤・サンクリスタルなど)を定期的に組み合わせると、薬剤抵抗性を持たせにくくなる効果が期待できます。 化学農薬だけに頼らない防除の組み立てが、長期的に見て有効です。
薬剤防除だけに頼らない方法もあります。農薬を使い続けることで天敵まで死滅させると、害虫の「誘導多発生(リサージェンス)」を引き起こすリスクがあります。 つまり農薬が逆効果になる場面があるということです。
参考)https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/Saishingijyutsu_2-14_3.pdf
耕種的防除として有効な方法を以下にまとめます。
ダニの天敵昆虫としては、カブリダニ類(ミヤコカブリダニ・チリカブリダニなど)が知られています。 ただし天敵製剤は注文から入荷まで時間がかかることがあるため、発生が予想される時期の前に手配することが必要です。 入荷が遅れると意味がないため、早めの準備が条件です。
耕種的防除と薬剤防除を組み合わせた「IPM(総合的病害虫管理)」の考え方が、近年の農業では推奨されています。一つの手段に頼らず、複数の対策を組み合わせることが、持続可能な防除につながります。
以下のリンクでは、天敵を活用した害虫管理の最新手法が詳しく解説されています。ムギダニを含む草地害虫の防除計画を立てる際の参考になります。
多くの農業従事者が見落としがちなのが、夏の間に圃場に残っている越夏卵への対応です。ムギダニは夏場に成虫・幼虫は姿を消しますが、圃場の土壌や残渣中には休眠卵(越夏卵)が残っています。 この卵が10月上旬〜中旬にふ化して次の世代の加害が始まります。
見えないから安心、とはいかないのが越夏卵の怖いところです。
秋の防除を始めるタイミングとして重要なのは、「ふ化が始まる10月上旬前後」です。 この時期に圃場をチェックし、幼虫の密度が上がる前に初期防除を行うことで、その後の被害を大きく抑えられます。
参考)http://jppa.or.jp/archive/pdf/64_11_39.pdf
また、越夏卵を圃場に残さないための対策として、刈り取り後の残渣を早めに処分することが有効です。 特に草勢が弱い経年草地は残渣が多くなりやすく、翌年の発生源になるリスクが高まります。草地の更新(再播種)を検討するタイミングの目安にもなります。
| 時期 | ムギダニの状態 | 推奨される対策 |
|---|---|---|
| 3〜4月(春) | 活発に活動・加害のピーク | 夕刻に巡回・スミチオン乳剤1000倍散布 |
| 5〜9月(夏) | 越夏卵として休眠中 | 残渣処理・草地更新の検討 |
| 10月上旬〜 | ふ化・幼虫密度が上昇 | 早期発見・初期防除の実施 |
| 11〜12月(秋) | 活発に活動・第2の被害期 | ローテーション薬剤で防除 |
以下の岩手県の防除試験レポートでは、スミチオン乳剤の防除効果と散布のタイミングについて実証データが掲載されています。牧草地でのムギダニ防除を計画する際の参考になります。
岩手県:牧草のムギダニ防除殺虫剤(スミチオン乳剤)試験レポート(PDF)