メカロンとDoogが創る追従運搬ロボットと農業の自動走行

農業の現場で重労働となる運搬作業を劇的に変えるDoogのメカロン。その追従機能やメモリトレースはどう機能し、価格や導入メリットはどうなのか?農研機構との連携も含めて解説します。あなたの農場に合う相棒ですか?

メカロンとDoog

記事の概要
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追従と記憶

人の後を追う追従機能と、一度通った道を記憶して自動走行するメモリトレース機能を搭載。

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悪路も走破

クローラー(キャタピラ)採用で、傾斜や凹凸のある果樹園や圃場でも安定した運搬が可能。

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開発の背景

農研機構との共同研究により、実際の農業現場の声を取り入れた実用性の高い設計。

メカロンのDoog技術が生む追従とメモリトレース


農業の現場において、収穫物の運搬は最も肉体的な負担が大きい作業の一つです。この課題に対し、株式会社Doogが開発した「メカロン」は、画期的な「追従」機能と「メモリトレース」機能で解決策を提示しています。Doogは筑波大学発のベンチャー企業であり、同社の主力製品である「サウザー(Thouzer)」で培った自律移動技術を、農業という過酷なフィールドに応用したのがこのメカロンです。


まず、追従機能(カルガモ走行)について詳しく解説します。これは、作業者が特別な発信機を持つことなく、ロボットがセンサーで対象者を認識し、一定の距離を保ちながら後ろをついてくる機能です。LiDAR(レーザーセンサー)を用いて周囲の環境と人の位置をリアルタイムで把握するため、GPSが入らないような果樹園の木陰や、ビニールハウス内でも正確に作動します。作業者が移動すればメカロンも移動し、停止すればメカロンも停止する。まるで忠実な「相棒」のように振る舞うこの機能により、農家は重いコンテナを持ってトラックまで往復する必要がなくなります。


次に、Doog独自の技術であるメモリトレース(記憶走行)機能です。これは、一度作業者が手動(あるいは追従)で誘導したルートをロボットが記憶し、二回目以降はそのルートを無人で自動走行できるというものです。


  • ティーチング(記憶): 最初の1回だけ、人間が誘導して走行ルートを教えます。
  • 再生(自動走行): 記憶したルートをボタン一つで再現し、出発点と終点を往復します。
  • ループ走行: 集荷場所と収穫ポイントを自動で往復させることが可能です。

この機能の最大の強みは、高価なRTK-GPSや複雑なマッピングシステムを必要としない点にあります。周囲の景色(ランドマーク)をセンサーが読み取り、「あの木の横を通った」「ここで曲がった」という相対的な位置情報で走行するため、インフラ整備が不要で、導入したその日から使い始めることができます。


株式会社Doog:農業用運搬ロボット「メカロン」の製品詳細ページ
参考)【プレスリリース】Doog、農業の相棒ロボット「メカロン」の…

リンク先では、実際の走行動画や詳細なスペック、Doog社の技術背景が確認できます。


この技術により、収穫作業中に「運搬」という工程が実質的に消滅します。作業者は収穫だけに集中し、溜まった作物はメカロンが自動でトラックまで運び、空のコンテナを積んでまた戻ってくる。このサイクルの確立こそが、メカロン導入の真の価値と言えるでしょう。


メカロンが農業の現場で運搬の負担軽減を実現

日本の農業、特に果樹栽培においては、傾斜地での作業や重量物の運搬が日常茶飯事であり、これが高齢化する農業従事者の身体を蝕む大きな要因となっています。メカロンは、まさにこの「運搬の負担軽減」に特化して設計されました。


具体的な作業シチュエーションを見てみましょう。例えば、リンゴやナシ、ブドウなどの果樹園では、収穫した果実がいっぱいになったコンテナ(約20kg)をいくつも持ち上げ、軽トラックが入れる場所まで手運びする必要があります。この「持ち上げて、歩く」という動作が、腰痛や関節痛の主要な原因です。


メカロンを導入することで、作業フローは以下のように変化します。


  1. 収穫作業: 作業者は手ぶらで、あるいは収穫カゴだけを持って木の周りを移動します。メカロンは常に背後に待機しています。
  2. 積載: 収穫した作物は、すぐ後ろにいるメカロンの荷台に載せるだけ。数メートルの歩行すら不要になります。
  3. 自動運搬: 荷台がいっぱいになったら、メモリトレース機能で集荷場へ自動返送させます。その間、人間は次の木へ移動し、収穫を継続します。

この変化は単なる「楽になる」以上の意味を持ちます。労働時間の短縮はもちろん、疲労が蓄積しないため、作業の質が維持され、結果として収穫物の品質向上や、作業ミスの減少につながります。また、女性や高齢者でも重量物の運搬を気にせず作業に参加できるようになるため、雇用確保の面でも大きなメリットがあります。


さらに、メカロンは収穫時だけでなく、肥料の運搬や剪定枝の搬出など、年間を通じて圃場での様々な運搬作業に活用可能です。


  • 肥料散布: 重い肥料袋を積んで追従させ、撒きたい場所で停止させる。
  • 定植作業: 苗を満載して移動し、植え付け作業をサポートする。
  • 道具の運搬: チェーンソーや草刈り機など、重い道具の移動基地として使う。

このように、メカロンは単一のタスクだけでなく、農作業のあらゆるシーンで「運ぶ」という行為を代替し、農業従事者が本来注力すべき「作物を育てる・見極める」作業にリソースを集中させてくれるのです。


農研機構:追従型ロボットによる運搬作業の軽労化に関する研究成果
参考)農業向け運搬ロボット「メカロン」、マーケティング機として販売…

リンク先では、農研機構による実証実験のデータや、具体的な労働負担軽減の数値効果が参照できます。


メカロンのクローラー走破性と価格に見合う導入

農業用ロボットにおいて、最も重要な要素の一つが「足回り」です。工場や倉庫のような平坦な床とは異なり、農地は土、泥、雑草、石、そして傾斜が存在する過酷な環境です。Doogはメカロンの開発にあたり、農業機械メーカー(河島農具製作所など)と連携し、実績のあるクローラー(キャタピラ)を採用しました。


クローラー式の最大の利点は、接地面積が広く、地面への圧力が分散されることです。これにより、雨上がりでぬかるんだ圃場でもタイヤのようにスタック(立ち往生)することなく、力強く進むことができます。また、段差や木の根などの障害物も乗り越えやすく、最大15度程度の傾斜地でも安定して荷物を運ぶことが可能です。タイヤ式の「サウザー」が屋内や舗装路を得意とするのに対し、メカロンは完全にオフロード仕様となっています。


スペックと走破性の概要

項目 内容 備考
足回り クローラー式(ゴムクローラ) 不整地、軟弱地盤に強い
積載量 100kg ~ 200kg コンテナ4~6個分に相当(仕様による)
防水性能 IP44相当 水洗いが可能で、泥汚れに対応
登坂能力 最大10度~15度 果樹園の緩やかな斜面に対応
稼働時間 バッテリー式(数時間~一日) 作業内容により変動、交換可能

次に、気になる価格導入のハードルについてです。メカロンの価格帯は、仕様やバッテリー容量、カスタマイズの有無によって異なりますが、概ね250万円から600万円(税別)程度とされています。決して安い投資ではありませんが、以下の点を考慮すると、そのコストパフォーマンスが見えてきます。


  1. 人件費の削減: 収穫期の運搬要員を1人減らすことができれば、数年で元が取れる計算になります。特に人手不足でアルバイトが集まらない地域では、金銭以上の価値があります。
  2. 既存設備の活用: トラクターなどの大型機械と違い、軽トラックに積載して移動できるサイズ感(幅60cm〜80cm程度)であるため、特別な運搬車両を用意する必要がありません。
  3. 補助金の活用: スマート農業実証プロジェクトや、省力化投資補助金など、国や自治体の支援制度の対象になるケースが多く、実質的な負担額を抑えて導入できる可能性があります。

価格単体で見ると高額に感じるかもしれませんが、「10年間文句を言わずに働き続ける力持ちの従業員」を雇うと考えれば、その価格は決して不当なものではありません。特に、規模拡大を目指す農家や、法人化を進める農業生産法人にとっては、戦略的な設備投資となるでしょう。


メカロンの圃場での雑草対策と荷台カスタム術

ここでは、一般的なカタログスペックや検索上位の記事ではあまり触れられない、メカロンのよりディープな魅力と、現場での運用ノウハウについて深掘りします。その一つが、独自の「環境認識アルゴリズム」による雑草対策です。


通常、LiDARセンサーを用いた自律移動ロボットにとって、背の高い雑草は「壁」や「障害物」として認識されてしまいます。これが原因で、少し草が伸びただけでロボットが停止してしまい、使い物にならないというケースが過去の農業ロボットでは多発しました。しかし、メカロン(およびDoogの制御システム)は、細い雑草や風に揺れる草を「無視」し、本当の障害物(人や木、岩)だけを検知して停止する高度なフィルタリング機能を備えています。


この「雑草を無視して突き進む」能力こそが、きれいな実験室ではなく、実際の圃場で使えるかどうかの分かれ目です。もちろん、あまりに密生した藪では走行不能になりますが、通常の管理された草生栽培の果樹園であれば、多少の下草があっても問題なく追従・自動走行を行います。この現場対応力の高さは、長年の実証実験の賜物です。


もう一つの独自の視点は、荷台のカスタマイズ性です。メカロンのベース部分は汎用的な運搬車のシャーシを利用しているため、荷台部分はユーザーの工夫次第で無限に拡張できます。


  • コンテナ専用枠: コンテナが揺れで落ちないように、ぴったりサイズのガイド枠を単管パイプで自作する。
  • 収穫カゴ用フック: 高い位置にカゴを引っ掛けられるフックを増設し、腰を曲げずに果実を投入できるようにする。
  • ダンプ機能の活用: 堆肥や土砂を運ぶ場合、手動ダンプ機能付きの荷台を選択すれば、積み下ろしが一瞬で終わります。
  • 電源の取り出し: 大容量バッテリーから電源を取り出し、電動剪定ハサミの充電や、防除機の動力源として活用する(※メーカー保証範囲要確認)。

メカロンは「完成された家電」というよりは、「賢い足回りを持ったプラットフォーム」と捉えるべきです。自分の農場の作物や作業スタイルに合わせて、ホームセンターで買える資材で荷台を改造(DIY)することで、その利便性は2倍にも3倍にも跳ね上がります。メーカー純正のオプションを待つのではなく、農家特有の「工夫する力」と組み合わせることで、メカロンは真の相棒へと進化するのです。


メカロンと農研機構の連携とサウザーの技術応用

メカロンの信頼性を裏付ける最大の要素は、その開発体制にあります。メカロンは、単に一企業のアイデアで作られたものではなく、国立研究開発法人農研機構農業・食品産業技術総合研究機構)との長年にわたる共同研究の成果として誕生しました。


農研機構は、日本の農業技術研究の総本山とも言える組織です。彼らは「果樹生産における労働力不足」という明確な課題を持っていました。一方、株式会社Doogは、産業用ロボット「サウザー」で、物流倉庫や工場内での追従運搬技術を確立していました。この両者がタッグを組み、「サウザーの頭脳(AI・センサー技術)」と「農業機械の足回り(クローラー)」を融合させるプロジェクトが始動しました。


この連携の過程では、全国各地の試験場や協力農家で徹底的なフィールドテストが行われました。


  • 多様な作物での検証: リンゴ、ナシ、モモ、ブドウ、カンキツなど、樹形や植栽間隔が異なる様々な環境でテスト走行を実施。
  • 四季を通じた耐久試験: 夏の猛暑、雨天時の泥はね、冬の寒さなど、電子機器にとって過酷な環境下での耐久性を検証。
  • 作業者との親和性: ロボットの速度設定や停止距離など、高齢の作業者が恐怖感を感じないような「人への優しさ」のチューニング。

これらのフィードバックは全てメカロンの製品仕様に反映されています。例えば、操作パネルがシンプルで直感的なのは、「複雑な画面操作は軍手をしたままではできない」という現場の声があったからです。また、万が一の故障時に地元の農機具店でも修理対応しやすいよう、足回りに汎用部品を多用しているのも、農業現場のリアリティを知る農研機構ならではの視点です。


また、ベースとなったサウザーの技術も進化を続けています。サウザーシリーズは世界中の工場や空港で稼働しており、そこで得られた膨大な走行データやエラー対応のノウハウが、ファームウェアのアップデートという形でメカロンにも還元されます。つまり、メカロンは「農業専用の特注品」でありながら、「量産工業製品の信頼性」も併せ持っています。


今後、スマート農業が加速する中で、メカロンのような「人と協調するロボット」は、完全無人化ロボットへの架け橋として、あるいは人間が介在する高品質な農業における最適解として、ますます重要な位置を占めることになるでしょう。


農林水産技術会議:メカロンに関するセミナー情報と普及への取り組み
参考)オンラインセミナー(メカロン):農林水産技術会議

リンク先では、政府や公的研究機関がどのようにメカロンの普及を後押ししているか、最新のセミナー情報や政策的な背景を知ることができます。




陰謀論-民主主義を揺るがすメカニズム (中公新書 2722)