節間伸長と麦の倒伏を防ぐ適期管理の完全ガイド

麦の節間伸長期は追肥・麦踏み・除草剤散布の全てに関わる最重要ステージです。管理を誤ると倒伏や減収に直結しますが、偽茎長5cmという簡単な指標を知っていれば現場で迷わず対応できます。あなたの圃場は大丈夫ですか?

節間伸長と麦の倒伏を防ぐ管理の全て

節間伸長期を過ぎても麦踏みを続けると、幼穂を直接傷つけて減収に直結します。


この記事の3つのポイント
📏
偽茎長5cmが節間伸長開始期のサイン

品種・播種日が違っても、偽茎長が約5cmになったタイミングが節間伸長開始期の目安。解剖せずに圃場で素早く判断できます。

⚠️
麦踏み・追肥・除草剤には明確な「期限」がある

節間伸長期を境に、使える除草剤が激減し、麦踏みは幼穂を傷つけるリスクに変わります。このステージを基準に全作業を組み立てましょう。

💰
倒伏は品質・収量・作業効率の3つを同時に悪化させる

倒伏すると赤かび病リスクが上がり、コンバイン作業効率も落ちます。節間伸長期前の管理をきちんと行うことが、最終的な収益を守ります。


節間伸長とは何か?麦の生育ステージを整理する

麦を育てるうえで、「節間伸長」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。しかし、その正確な意味と、管理作業との関係を体系的に理解している農家は意外と少ないのが実情です。まずは基本から整理しましょう。


節間伸長とは、茎の「節(ふし)」と「節」の間が伸びていく現象のことです。麦の草丈は節の数と節間の伸長によって決まります。出穂前の重要な生育プロセスであり、このタイミングで草丈が急速に増していきます。


麦の生育ステージは大きく次のように流れます。播種 → 発芽・出芽 → 分げつ期 → 幼穂形成期 → 節間伸長期 → 止葉期 → 出穂期 → 登熟期 → 成熟期、という順番です。この中で節間伸長期は、幼穂が小花分化期に達した頃に始まります。


つまり節間伸長が始まる時期です。


農研機構(中央農業総合研究センター)の研究によれば、東海地域の小麦において、節間伸長開始期は品種・年次・播種日に関係なく、主茎の偽茎長が約5cmになったときと一致することがわかっています。偽茎長とは、地面から最上位の展開葉の葉節までの長さのことで、葉鞘が重なって茎のように見える部分の長さです。定規一本あれば圃場で即座に計測でき、解剖する手間がかかりません。


偽茎長5cmはがきの横幅(約10cm)の約半分の長さです。


この「偽茎長5cm」という指標は非常に実用的で、これを基準に追肥・麦踏み・除草剤散布といった複数の管理作業の適否をまとめて判断できます。生育ステージを見極めることが、安定した収量と品質の土台になるということです。


参考:節間伸長開始期の指標について(農研機構・中央農業総合研究センター)

https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/narc/2015/narc15_s07.html


麦の節間伸長期における麦踏みの適期と晩限を知る

麦踏みは分げつ促進耐寒性向上・倒伏防止など多くの効果がある管理作業です。しかし正しいタイミングを外すと、これが一転して減収の原因になります。これは基本です。


麦踏みの実施時期と、それぞれの主な目的は以下のとおりです。








実施時期の目安 主な効果
12月(3〜4葉期以降) 霜柱による根の浮き上がり(凍上害)防止、根張り強化
1〜2月(越年後) 耐寒性・耐干性向上、幼穂形成を遅らせ凍霜害回避
茎立ち期直前(草丈20〜25cm程度) 茎の伸長を抑え倒伏軽減、穂揃いの向上


麦踏みはおおよそ3〜5回、2週間以上の間隔を空けながら行うのが一般的です。効果を高めるには晴天の乾燥した午後に行い、土壌が湿っている状態での実施は避けます。土が締まりすぎて逆効果になるためです。


重要なのが「晩限」です。


麦踏みの晩限は、節間伸長が始まる茎立ち期(主稈長が約2cm、草丈20〜25cm程度)の直前までです。これを過ぎて麦踏みを続けると、茎の初期分げつが折れ、幼穂を物理的に傷つけてしまいます。その結果、穂数が減少し、収量が大きく落ち込むリスクがあります。


草丈と節間長が重要な判断基準です。


BSI生物科学研究所の栽培資料によれば、「草丈が20〜25cm、または節間長が2〜3cmを超えた以降は絶対に麦踏みを行わない」と明記されています。暖冬年など生育が例年より早く進む場合は、特に注意が必要です。平年の暦日ではなく、圃場の草丈・節間長を実測して判断することが、トラブルを未然に防ぐ一番確実な方法です。


参考:麦踏みの実施時期・効果・注意事項(茨城県農業改良普及センター)

https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/nishinourin/bannofu/keiei/documents/r6mugihukyujohou3.pdf


節間伸長期の追肥タイミングと倒伏リスクの関係

麦の追肥は収量と品質に直結する重要な作業です。しかし「追肥は多いほど良い」という考え方は危険です。節間伸長期との関係を正しく理解しなければ、追肥が倒伏の引き金になります。


麦の追肥は大きく2回に分けて行われます。1回目(分げつ肥・穂肥)は幼穂形成期前後の1月下旬〜2月上旬頃、2回目(実肥)は止葉期〜出穂期頃の4月上旬〜中旬頃です。この追肥によって1穂あたりの粒数を増やし、タンパク質含有率を高める効果が期待できます。


問題は追肥のタイミングです。


節間伸長開始期に過剰な窒素を施用すると、下位節間(地際に近い節間)が伸びすぎてしまいます。下位節間が長くなると茎の重心が上がり、風雨に対する抵抗力が著しく低下します。その結果が倒伏です。栃木県農業総合研究センターの研究資料によれば、「節間伸長開始期の追肥は増収効果は高いが、下位節間の伸長時期と一致し倒伏を助長しやすい」と指摘されています。


倒伏が起きると複数のダメージが重なります。具体的には、①コンバイン作業効率の低下、②赤かび病(DON汚染)リスクの増大、③穂発芽・低アミロ発生による品質等級の低下、④千粒重の減少による減収、という4つの問題が同時に発生します。


痛いですね。


北海道農産協会のデータでは、倒伏が発生した圃場では過繁茂による整粒率の低下が顕著になることが報告されています。特にパン用小麦や醸造用大麦は品質等級が価格に直結するため、倒伏は即座に販売収益に影響します。


追肥設計の基本は「葉色・茎数を確認し、生育量に応じて施用量を調整する」ことです。具体的には、茎数が1,500本/㎡を超えている圃場では追肥量を減らし、止葉期の追肥も出穂期まで遅らせるなどの判断が求められます。生育が過剰な圃場での増肥は控えるのが原則です。


参考:良質小麦生産のための施肥および土壌管理(北海道農産協会)

https://hokkaido-nosan.or.jp/manager/wp-content/uploads/r05_wheat-3.pdf


節間伸長期以降の除草剤使用制限と薬剤選択の注意点

麦栽培で除草剤を使う際、節間伸長期は重要な「切り替えライン」になります。この時期を境に、農薬登録上の使用制限が大きく変わるためです。知らずに使うと農薬取締法違反になります。


多くの麦用選択性茎葉処理除草剤(代表例:バサグラン液剤など)の農薬登録には、「使用時期:小麦・節間伸長開始期まで」または「大麦・裸麦:節間伸長前まで」という制限が明記されています。節間伸長期以降はほとんどの除草剤が使用できなくなるため、除草剤を計画的に使うためには、節間伸長がいつ始まるかを事前に把握しておくことが不可欠です。


宮城県農業・園芸総合研究所の麦作情報(令和8年2月発行)でも、「幼穂形成期および節間伸長期を過ぎると使用できる除草剤が少なくなる。最新の農薬登録を確認したうえで使用すること」と注意喚起されています。


これは必須の確認事項です。


具体的な使用限界の目安は次のとおりです。







作物 主な除草剤の使用可能な晩限
小麦 節間伸長開始期まで(収穫45日前まで)
大麦・裸麦 節間伸長前まで(収穫45日前まで)


なお、農薬取締法の規定により、未登録農薬または登録された使用方法を逸脱した農薬の使用は、3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることがあります。たとえ農耕地内の使用であっても同様です。


圃場で「雑草が多いから」と節間伸長期以降に除草剤を散布することは、法的なリスクを伴うことを意識しておきましょう。節間伸長開始期前に除草を完了させておくことが、現場の鉄則です。雑草防除の適期を逃さないためにも、偽茎長5cmという節間伸長のサインを早めに把握する習慣が役立ちます。


参考:農薬取締法における除草剤使用の規制について(農林水産省)

https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/herbicide.html


節間伸長期後の倒伏軽減剤(植物成長調整剤)の活用法

節間伸長期前の麦踏みや適正施肥に加えて、節間伸長が始まった後でも倒伏リスクを下げられる手段があります。それが「倒伏軽減剤(植物成長調整剤)」です。これは使えそうです。


倒伏軽減剤は、茎の伸長を化学的に抑制して草丈を短く保ち、倒伏を防ぐ農薬です。主成分はクロルメコートやウニコナゾールPなどが代表的で、「サイコセルPRO(BASF)」や「カルタイムフロアブル(クミアイ化学)」などが市場に流通しています。


使用時期は製品によって異なりますが、秋播き小麦では幼穂形成期または止葉期〜出穂始期までが主な散布ウィンドウとなります。農研機構の試験研究によれば、クロルメコートを出穂前40〜20日頃に茎葉散布することで倒伏が軽減され、増収効果が確認されています。


倒伏軽減剤だけに依存するのは危険です。


基本的な麦踏み・適正施肥・排水対策を実施したうえで、茎数が多い圃場や過繁茂が懸念される圃場に対して倒伏軽減剤を追加的に使うというのが正しい位置づけです。茎数が1,500本/㎡を超えている圃場では特に検討する価値があります。


倒伏軽減剤を使う際の注意点として、降雨前の散布は効果が薄れるため避けること、散布後の気温や生育状況によって効果が変わること、使用回数・収穫前日数などの登録内容を必ず確認することが挙げられます。麦踏みと倒伏軽減剤の組み合わせは相乗効果があると茨城県農業改良普及センターの資料でも報告されており、より確実に倒伏を防ぎたい場合に有効な戦略です。


参考:生育調節剤による小麦の倒伏軽減効果(農林水産省・農研機構データベース)


参考:倒伏軽減剤「カルタイムフロアブル」製品情報(クミアイ化学工業

https://www.kumiai-chem.co.jp/products/document/caltime_fl.html