塩基バランス計算で土壌と収量を改善する方法

農業従事者が見落としがちな塩基バランスの計算方法を、CEC・石灰苦土比・苦土加里比の基礎から施肥設計への活かし方まで徹底解説。正しく計算しないと損する理由とは?

塩基バランスの計算から始める土壌改善と施肥設計

苦土が土壌診断で「適量」と出ていても、カリ過剰が原因で苦土欠乏症状が出て収量が2割以上落ちることがあります。


この記事の3つのポイント
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塩基バランスとは何か

土壌中の石灰・苦土・加里の比率(CEC対比)。この比率が崩れると、成分が十分あっても作物が吸収できなくなる。

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当量換算(meq)の計算手順

mg/100gで出た分析値を28.04(石灰)・20.15(苦土)・47.1(加里)で割り、当量比を算出するのが基本。

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施肥設計への活かし方

石灰苦土比・苦土加里比が適正範囲に入れば、過剰施肥を避けながら収量・品質が安定する。


塩基バランス計算の基礎:石灰・苦土・加里とCECの関係

塩基バランスとは、土壌中に含まれる石灰(CaO)・苦土(MgO)・加里(K₂O)という三つの交換性塩基の比率のことです。これらは土壌粒子のマイナス電荷に引き付けられて吸着されており、その吸着能力の上限を示す指標がCEC(陽イオン交換容量)です。CECは「土壌の胃袋の大きさ」にたとえられ、単位はmeq/100g(ミリグラム当量)で表されます。


黒ボク土(火山灰土)のCECはおおむね20〜40meq/100g程度あり、砂質土では5〜10meq/100gと低くなります。これが重要なのは、CECが違えば石灰や苦土の「適正量(mg/100g)」そのものが変わるからです。つまり同じ500mgの石灰が土壌に入っていても、CECが20の圃場と40の圃場では意味がまったく異なります。


この問題を解決するために使われるのが「塩基飽和度」という考え方です。塩基飽和度は、CECに対して石灰・苦土・加里が合計でどれだけ占めるかを示したもので、一般的な壌土の適正値は70〜80%とされています。砂土ではCEC自体が小さいため塩基の絶対量が不足しやすく、100%を目標とする場合もあります。


各塩基の飽和度がわかれば、目標値に対して何kg/10aの改良資材が必要かを逆算できます。これが塩基バランス計算の出発点です。


塩基バランス計算の手順:mg/100gをmeqに変換する方法

土壌診断書に記載された分析値はほとんどの場合「mg/100g」という重量単位で表されています。しかし石灰・苦土・加里は電気的な力で土壌に吸着されるため、電気的な量の単位「meq/100g(ミリグラム当量)」に変換しないと、塩基間の比率を正確に比べることができません。


変換の計算式は次の通りです。


塩基の種類 分析値の単位 除数 変換後の単位
石灰(CaO) mg/100g ÷ 28.04 meq/100g
苦土(MgO) mg/100g ÷ 20.15 meq/100g
加里(K₂O) mg/100g ÷ 47.10 meq/100g


たとえば土壌診断書に「石灰:400mg/100g、苦土:80mg/100g、加里:50mg/100g、CEC:20meq/100g」と書かれていた場合、それぞれをmeqに変換すると次のようになります。


  • 石灰:400 ÷ 28.04 ≒ 14.27 meq/100g → 飽和度 14.27 ÷ 20 × 100 ≒ 71.4%
  • 苦土:80 ÷ 20.15 ≒ 3.97 meq/100g → 飽和度 3.97 ÷ 20 × 100 ≒ 19.8%
  • 加里:50 ÷ 47.10 ≒ 1.06 meq/100g → 飽和度 1.06 ÷ 20 × 100 ≒ 5.3%
  • 塩基飽和度合計:71.4 + 19.8 + 5.3 ≒ 96.5%


この塩基飽和度が露地野菜の一般的な目標値60〜80%に対して高い場合は、石灰や苦土を追加する必要はありません。塩基飽和度の計算が基本です。


次に石灰苦土比(CaO/MgO)と苦土加里比(MgO/K₂O)をmeq値で計算します。上の例では石灰苦土比が14.27 ÷ 3.97 ≒ 3.6、苦土加里比が3.97 ÷ 1.06 ≒ 3.7となります。露地野菜の目安は石灰苦土比(meq比)で2.7〜5.0、苦土加里比(meq比)で2.5〜7.5とされているため、この例では両方とも適正範囲内に入ります。


アグリノート「イトウさんのちょっとためになる農業情報 第48回 土壌診断#8 CEC」:CEC・meq換算・塩基飽和度の逆算方法をわかりやすく解説した実用記事


石灰苦土比・苦土加里比の目標値と作物別の違い

塩基バランスの適正範囲は、作物の種類や栽培形態(露地・施設)によって異なります。「どんな作物でも石灰:苦土:加里 = 5:2:1が正解」と思い込んでいる方もいますが、実際には作物ごとに幅があります。これは覚えておくべき重要な点です。


農林水産省や各都道府県の施肥基準をまとめると、おおよそ次の通りです。


栽培形態・作物 石灰苦土比(meq比) 苦土加里比(meq比) 塩基飽和度目標
露地野菜(一般) 2.7〜5.0 2.5〜7.5 60〜80%
施設野菜 2.5〜4.0 2.5〜4.0 80%前後
水稲 2.5〜6.0 1.7〜10.0 60%前後
茶園 2.1〜8.3 0.2〜1.0 35%前後
落葉果樹 2.7〜5.0 0.9〜3.2 60〜80%


施設野菜では石灰苦土比の上限が比較的狭いのに対し、茶園では苦土加里比が非常に低い基準が設定されています。これは茶が酸性を好み、かつカリを多量に吸収する作物であるためです。


塩基の拮抗作用も忘れてはなりません。カリが過剰になると苦土の吸収が阻害され、石灰が過剰になるとカリや苦土の吸収が抑制されます。逆に苦土が過剰の場合は加里の吸収が抑えられます。つまりバランスが重要です。


宮崎県の農家・大木さんのケースでは、15aのハウスキュウリで苦土は土壌診断上「適量」と出ていたにもかかわらず、カリ過剰による拮抗作用で苦土欠乏症状が発生し、収量が反収9t弱にとどまっていました。施肥内容をカリ・リン酸を抑えたL字型(8-2-2)に変更し塩基バランスを改善した結果、翌作では収量が11t弱に改善しています。肥料代は例年並みに抑えながら収量が2t以上増えた実例です。


現代農業「土壌診断やってみた 塩基バランスを整えキュウリの苦土欠解消・収量増」:苦土加里比の改善で収量をアップさせた農家の実践事例(試し読み)


10a当たりの改良資材量の計算:処方箋の読み方と実際の施用量への落とし込み

塩基バランスが崩れていると判明したら、次は実際に何をどれだけ施用するかを計算する必要があります。ここでミスが多いのが「mg/100gのままで計算してしまう」ことです。


10a当たり・深さ10cmの改良資材量は、次の式で求めます。


> 必要資材量(kg/10a)= 不足量(mg/100g)× 仮比重 ÷ 資材の成分含有率


仮比重の目安は黒ボク土(火山灰土)が0.7、沖積土が0.9、砂質重粘土が1.1です。この係数を忘れると、実際の施用量が大きくずれます。仮比重は必ず確認が必要です。


たとえば、露地野菜(施設)でCECが40meqの圃場を例にとります。石灰の目標飽和度を50%とすると目標量は40 × 0.50 × 28.04 = 561mg/100gです。土壌診断の石灰が336mg/100gだとすると不足量は561 − 336 = 225mg/100gとなります。仮比重0.7の黒ボク土の場合、10a・10cm当たりに必要な石灰量(CaO)は225 × 0.7 = 157.5kg です。


苦土の場合、不足量が41mg/100g・仮比重0.7であれば、必要な苦土(MgO)は41 × 0.7 = 28.7kg/10a です。苦土炭カルのMgO含有率が10%なら、28.7 ÷ 0.10 = 287kgの苦土炭カル が必要という計算になります。


この計算は表計算ソフト(ExcelやGoogleスプレッドシート)で自動化しておくと毎回の作業が大幅に楽になります。神奈川県農業技術センターや各都道府県の農業試験場がウェブ上で公開している土壌診断プログラムを活用するのも実用的な手段です。計算ツールを使えば作業効率が上がります。


茨城県農業いばらき「土壌診断の処方箋の見方と減肥の方法」:石灰苦土比・苦土加里比の見方と、カリ・リン酸の減肥計算式を具体的に解説した実用ページ


塩基バランス計算を施肥設計に活かす:CEC・飽和度・過剰対策の独自視点

塩基バランスの改善で見落とされやすいのが「バランスを整えようとして逆に過剰が増える」ケースです。たとえば石灰苦土比が高い(苦土不足)と判断した農家が苦土を追加投入し続けた結果、塩基飽和度全体が100%を超えてしまい、今度はカリの吸収が阻害されるという連鎖が起きることがあります。


農林水産省・神奈川県のガイドラインでは「いずれかの塩基が過剰でバランスが悪い場合、不足している成分を追加するのではなく、過剰な成分の施用を控えることを優先する」と明記されています。これは非常に重要な原則です。


この観点から見ると、施設野菜や果樹園で蓄積傾向が顕著なリン酸・カリについては、土壌診断基準の上限を超えている場合は基肥から削減することが収量・品質の維持につながります。カリ含量が基準上限(たとえば40mg/100g)を超えている場合は、超過分(mg/100g)をそのまま施肥基準量から差し引く形で減肥計算を行います。


また、施設土壌では雨による塩基の溶脱がないため、同じ施肥量を続けると塩基が年々蓄積しやすいという特性があります。露地とは異なるリセット機能がない分、年に1回以上の土壌診断が施設栽培では特に推奨されています。定期的な診断が前提です。


さらにCEC自体が低い砂質土では、施肥した養分が流亡しやすいため堆肥の継続投入によってCECを徐々に高める土づくりが有効です。腐植が1%増えるとCECは約2meq/100g向上するという試験データもあります(兵庫県の50年間長期連用試験より)。堆肥の連用は長期的なコスト削減にもつながります。


塩基バランスの計算を正確に行い、施肥設計に反映させることで、肥料コストの削減と収量の安定という二つのメリットを同時に得ることができます。土壌診断を活用した計画的な施肥管理を、ぜひ毎作の習慣にしていきましょう。


農林水産省「土壌診断基準(神奈川県版)」:塩基バランス計算の詳細手順・処方箋作成事例・作物別土壌養分診断基準値を収録した公式PDF資料