営農支援システムは、JAが持つ組合員情報・作物情報・購買や販売の履歴などを集約し、「経営」「生産」「販売」の3つの視点で分析・指導に使えるよう設計された情報基盤です。
一般的な営農管理システムと同様に、作付情報や作業記録、農薬・肥料使用履歴、圃場ごとの収量や収支を紐づけて管理できるため、GAPや有機JASなど高度な管理基準への対応にも役立ちます。
ここで重要なキーとなるのが「JAコード」で、これは各JAや関連団体に付与される固有の団体コード・組合員コード体系の中核をなすIDです。
参考)https://www.ja-saroma.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/12/H31kohdo.xls
営農支援システムのログイン画面や利用者登録では、このJAコードと組合員コードを組み合わせることで、「どのJAの・どの組合員か」を一意に特定し、誤ったデータ参照を防いでいます。
参考)https://ja-imakane.or.jp/manager/wp-content/uploads/2019/05/84ed1f8bccee190dec0a2a72305e3221.pdf
JAによっては「営農コード表」を定め、作物・事業・勘定区分ごとに細かいコードを割り当て、それを営農支援システム上で収支や集計の単位として活用しています。
このコード体系とJAコードを組み合わせることで、「どのJAの・どの組合員が・どの営農コード(作目や事業)で・どれだけ収益やコストが発生したか」を、ワンクリックで一覧できる環境づくりが可能になります。
参考)https://www.jahokkaido-cnt.jp/img/service/agri_system.pdf
意外な活用として、農薬トレースや農協等リストと紐づけることで、地域単位・JA単位での生産履歴トレースや食の安心・安全の説明資料作成にもJAコードが使われています。
参考)https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trace/pdf/noukyou_list.pdf
さらに、二次元バーコードや産地パッケージ上のコードと連携させることで、消費者向けの「安心・安全情報ページ」に圃場情報を自動表示する仕組みを導入しているJAもあります。
JA全農の資料では、営農支援システムやZ-GIS等を「スマート農業ソリューション」と位置づけ、JAコードを起点に圃場・農家・JA事業を横断的に結びつける構想が示されています。
参考)https://www.jataff.or.jp/project/inasaku/koen/koen_R5_2.pdf
このように、JAコードは単なるログイン用の番号ではなく、データ連携の「共通言語」として、DX全体の設計思想の中に組み込まれていると理解すると運用のイメージがつかみやすくなります。
参考)JAのDXを推進する「戦略営農Navi」営農支援システム
JAや農協の団体コード体系や連絡先の一覧は、農林水産省の農協等リストにも整理されており、外部システムとのコード連携を検討する際の基礎資料として活用できます。
農協等リストでJAコード・団体コードの体系を確認したいときの参考リンクです。
農協等リスト(農林水産省)
北海道エリア向けの営農支援システムのマニュアルでは、ログイン画面で「JAコード・ログインID・パスワード」の3項目を入力し、利用者認証を行う仕様が明記されています。
利用者の属性に応じて利用できる機能を制限するセキュリティ設定も行われており、経理機能や税務支援システムとの連携情報などは、権限のある職員のみが閲覧可能です。
ログイン認証の運用面では、「組合員コードごとにユーザ登録を行う」運用を取るJAも多く、同じ家族であっても別の組合員コードを使う場合は、それぞれに申込書とアカウントを用意する運用例が紹介されています。
参考)https://www.ja-m.iijan.or.jp/agri/img/0312.pdf
これにより、世帯単位ではなく「経営単位」での記帳・営農コード集計がしやすくなり、補助金申請や税務申告の裏付け資料としても一貫したデータを出力しやすくなります。
また、一部のマニュアルでは営農支援システム内に「希釈倍率計算」機能が搭載されており、散布面積・散布液量・使用薬量から必要な農薬量を自動計算できることが紹介されています。
こうした計算結果も、ログインアカウントに紐づく作業記録として保存されることで、農薬使用履歴の帳簿出力や、将来のJ-GAP・有機JAS対応の証跡として活用しやすくなります。
参考)営農管理システムとは?メリット・デメリットや主要メーカーを…
実務で気をつけたいのは、JAコード・組合員コード・営農コードをExcelや紙台帳で別管理しているケースから、クラウド型の営農支援システムへ移行する際の名寄せ作業です。
参考)機能紹介
「戦略営農Navi」などのサービスでは、既存Excelや他システムで使っているコード類を取り込み、比較的スムーズに農家台帳を構築できると紹介されているため、移行プロジェクトではこの機能を積極的に活用したいところです。
ログイン運用の工夫としては、以下のようなポイントが現場でよく問題になります。
参考)営農支援システム15選!圃場管理に役立つおすすめをタイプ別に…
意外なポイントとして、営農支援システムのログイン画面の下部には「システム運用に関する情報や連絡事項」を掲示する欄を設け、メンテナンス予定や機能追加のお知らせを自動配信している事例もあります。
JAコードで特定される管内全体に一斉に周知できるため、紙の回覧板やFAXに頼っていた業務連絡が徐々にデジタルへ置き換わりつつあります。
北海道向けの操作マニュアルでは、画面遷移やボタン名称まで詳細に説明されているため、ログイン運用ルールの設計や職員研修資料づくりのベースとして参考になります。
参考)https://fss.ja-hokkaido.gr.jp/einou/html/pdf/manual/manual_pc_kumiaiin.pdf
営農支援システムのログイン画面構成や操作手順を確認したいときに役立つリンクです。
営農支援システム 操作マニュアル(ログイン画面)
近年は、営農支援システム単体ではなく、「戦略営農Navi」「Z-GIS」「ザルビオ」「あい作」など複数のクラウドサービスを組み合わせた“プラットフォーム型”の運用が増えています。
JAのDXを推進する戦略営農Naviでは、購買システムやExcel台帳のデータを一元化し、営農指導情報の共有と指導レベルの平準化を目指すとされています。
Z-GISは圃場情報をインターネットの電子地図と紐づける営農管理システムで、圃場ごとの作付・生育・収量情報を地図上で見える化できるのが特徴です。
参考)Z-GIS Redirect
全農の資料では、Z-GISやザルビオを全JA管内に導入し、可変施肥や病害発生アラート、生育予測などを組み合わせることで、収量向上と営農指導の高度化を狙う取り組みが紹介されています。
参考)事業紹介 耕種総合対策
営農支援システム側から見ると、これら外部システムとの連携ポイントは主に次の3つです。
意外な事例として、全農のスマート農業資料では、Z-GISの営農情報をJAと共有することで、J-クレジット申請に必要なデータをAPI経由で取得し、申請作業の負担を軽減する構想が示されています。
単に「圃場を見える化するツール」ではなく、環境価値のクレジット化や新たな収益源の創出につながるインフラとして位置づけられつつある点は、DXの次のステージを考えるうえで重要です。
さらに、「あい作」のようなクラウド型栽培管理ソリューションでは、栽培計画・栽培記録・連絡相談機能をJAと生産者双方が利用し、JA購買のペーパーレス化やオンライン注文にも対応しています。
参考)あい作
ここでもJAコードや組合員コードがキーとなり、営農支援システムと購買・販売・コミュニケーションツールが一体となった「JA DXプラットフォーム」を構成していると言えます。
参考)栽培管理ソリューション
スマート農業向けの気象情報システムと連携し、異常低温や高温時にアラートを出す「KOSEN Weather Station」のような取り組みもあり、これらのデータも将来的には営農支援システムの画面上に統合されていくと考えられます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8950270/
温度アラートや降雨予測を圃場マップと一体的に表示できれば、防除計画や収穫タイミングの判断を、これまで以上に科学的な裏付けをもって行えるようになります。
参考)301 Moved Permanently
戦略営農NaviやZ-GISの機能・画面イメージを詳細に確認したい場合、公式サイトの資料請求ページや製品紹介PDFが分かりやすくまとまっています。
JAのDXを推進する戦略営農NaviやZ-GISの概要を知るのに役立つリンクです。
戦略営農Navi(営農支援システム)公式サイト
営農支援システムの最大のメリットの一つは、「散在する情報の一元化」と、それに基づくデータ分析・経営判断の高度化です。
JA北海道情報センターの資料では、購買取引・クミカン取引・税務支援システムの申告データなどを連携し、組合員ごとの経営成果や生産原価分析、経営規模・耕地面積・作物構成などを一覧で比較できる構成が示されています。
営農管理システムの一般的な解説記事でも、圃場の位置や栽培品目、作業担当者を遠隔から一覧できることや、GAP・有機JASなど高い生産管理基準に準拠しやすい点がメリットとして挙げられています。
これをJA視点で見ると、「どの圃場・どの農家に・どのような指導が必要か」をデータから逆算し、重点先を絞り込む“攻めの営農指導”が可能になることを意味します。
具体的なDX効果として、全農の資料では、Z-GISと連携した防除計画により、受託防除業務の事務負担軽減で残業時間を約15時間削減できた事例も紹介されています。
また、出向活動の実績集計を自動化することで、防除組合の経費削減や作業員の会議出席負担の低減といった副次的な効果も報告されており、「見えないコスト」を削るDXとして注目されています。
最近では、スマートフォンの位置情報を活用して農作業データを自動収集し、作業記録の登録そのものを自動化するサービスも全国展開に向けて動き始めています。
参考)農業DXが拓く未来へ。農作業自動記録サービスの全国展開に向け…
営農支援システム側がこのデータを取り込めるようになれば、「いつ・誰が・どの圃場で・どんな作業をしたか」をほぼリアルタイムで把握し、人員配置や機械稼働計画の最適化に活かすことが可能になります。
営農支援システムと経理・税務支援システムを連携させれば、貸借対照表や損益計算書のデータを営農コード単位の収支と紐づけ、作物別・部門別の収益性を可視化できます。
これにより、「販売額は大きいが実は粗利率が低い作目」や「労務コストが高く、機械化投資の効果が大きい部門」など、従来は勘だけでは見抜きにくかった経営課題を早期発見できます。
JA職員側の働き方という観点でも、紙ベースで行っていた農家巡回記録や指導履歴、資料配布を、タブレットやスマートフォンでリアルタイム記録・共有することで、残業時間や移動時間の削減につながります。
さらに、クラウド上に文書を登録してペーパーレス化する機能を使えば、技術資料や販売要領を常に最新の状態で全支所に共有でき、紙差し替え作業や古い資料の混在を防げます。
データ分析の入口として、簡単な「生産分布図」や「反収ランキング」「営農コード別損益表」から始め、徐々に相関分析やシミュレーションへ発展させると、現場の負担を抑えながらDXの成果を共有しやすくなります。
営農管理システム全般のメリットや導入時のポイントを整理した日本語解説記事として、クラウドサービス業界団体の比較記事も参考になります。
営農支援システム15選に関する解説記事(ASPIC)
検索上位にはあまり明示されていませんが、営農支援システムとJAコードを上手に組み合わせると、「人材育成」と「業務引き継ぎ」の質を大きく高められます。
特に、担当者が頻繁に異動するJAでは、組合員ごとの営農履歴・指導履歴がバラバラなExcelや個人メモに残っていると、異動のたびにノウハウが失われるリスクが高くなります。
営農支援システム上で、JAコード・組合員コードをキーに、以下のような「引き継ぎに効く情報」を蓄積する設計にしておくと、人が替わっても指導レベルを維持しやすくなります。
JA全農のスマート農業の資料でも、「データに基づいた適切な営農指導」や「営農指導DX」というキーワードが繰り返し登場し、特定の担当者の経験や勘に依存しない指導体制への転換が示されています。
営農支援システムは、そのための“記憶装置”として機能し、JAコードが「どの経営体の記憶なのか」を識別するラベルとして働いていると言えます。
さらに、J-クレジットや環境配慮型農業の取組データを営農管理システムから自動的に抽出できるようになれば、若手職員が新たなビジネスや補助事業を企画する際の「データの宝庫」としても活用できます。
例えば、可変施肥や病害発生アラートの活用履歴と収量データを組み合わせ、どの地域でどの程度の効果があったかを分析し、次年度の事業計画や機械投資の優先順位付けに反映する、といった使い方が考えられます。
もう一つの意外な活用として、「教育ツール」としての側面があります。営農支援システムに蓄積された成功事例・失敗事例を題材に、若手職員向けのケーススタディ研修を行うJAも増えています。
実際の数値や圃場マップを匿名加工したうえで、どのタイミングでどんな指導をすべきだったかをディスカッションすることで、机上の研修では得られない“リアルな判断感覚”を共有できます。
このように、「営農支援システム+JAコード」は、単なる記帳・報告の道具ではなく、JA職員と生産者双方の“ナレッジプラットフォーム”として設計・運用することで、組織全体の学習速度を高める基盤になり得ます。
DXの次の一手として、自JAの人材育成や事業継承の課題と照らし合わせながら、どのような情報をシステム上に残していくべきか、一度棚卸ししてみる価値は大きいでしょう。