土壌肥沃度(どじょうひよくど)とは、作物を生産するための土壌の能力、いわゆる「地力」のことを指します。経験や勘に頼りがちだったこの地力を、客観的な数値として可視化するのが土壌診断です。土壌診断における基本項目は多岐にわたりますが、まず押さえておくべきなのは、土壌の化学的性質を示す数値です。
一般的に、農業改良普及センターやJAなどの診断で重視される主要な項目には以下のものがあります。これらは「土壌の基礎体力」と「栄養状態」を表しています。
これらの数値には、作物や土壌の種類(水田、畑、樹園地など)に応じた「基準値」や「適正範囲」が設けられています。例えば、農林水産省や各都道府県の施肥基準では、作目ごとに詳細な診断基準が公開されています。しかし、重要なのは「基準値に入っているか」の○×判定だけではありません。数値同士の相関関係や、なぜその数値になっているのかという背景を分析することが、真の土作りへの第一歩となります。
特に注意が必要なのは、これらの数値が「静的」なものであるという点です。診断した瞬間の土の状態を表しているに過ぎないため、季節変動や施肥のタイミング、雨量による流亡などを考慮して数値を読み解くリテラシーが求められます。
参考リンク:農林水産省|都道府県施肥基準等(土壌診断基準を含む)
(リンク先の概要:各都道府県が設定している主要作物の土壌診断基準値や施肥基準がまとめられており、地域ごとの適正値を把握するのに役立ちます。)
土壌肥沃度を語る上で、最も基本的かつ重要な数値がCEC(塩基置換容量)です。これはよく「土の胃袋の大きさ」や「肥料を掴む手の大きさ」に例えられます。
CECの数値と目安
CECの単位は「meq/100g」または「cmol(+)/kg」で表されます。この数値が大きいほど、肥料分(カルシウム、マグネシウム、カリウム、アンモニウムなど)を多く保持できる「肥沃な土」と言えます。
一般的に、CECが10〜15 meq/100g以上あれば、野菜栽培において安定した管理がしやすいとされています。数値が低い場合は、腐植(堆肥)やゼオライトなどの土壌改良資材を投入して、物理的に保肥力を高める改善策が必要です。逆に高すぎる場合は、肥料が効きにくかったり、一度バランスが崩れると修正に時間がかかるため、長期的な視点での管理が求められます。
pHの数値と目安
pH(水素イオン濃度指数)は、土壌の化学反応の場としての環境を決定づけます。多くの作物はpH 6.0〜6.5(微酸性)を好みますが、品目によって適正値は異なります。
pHが5.0を下回るような強い酸性土壌では、アルミニウムが溶け出して根を傷めたり、リン酸が固定されて効かなくなったりします。これを改善するために石灰資材を投入しますが、「pHの数値だけ」を見て矯正するのは危険です。後述する塩基バランスを崩す原因になるためです。
意外と知られていない事実として、pHは測定方法(水浸出法かKCl浸出法か)によって数値が異なります。一般的な診断書に記載されるのは水浸出法のpH(H2O)ですが、KCl浸出法のpH(KCl)との差を見ることで、土壌中の予備的な酸性度合いを知るというプロ向けの分析手法もあります。
土壌診断において、個々の成分量(mg/100g)以上に重視すべきなのが「塩基バランス(塩基飽和度)」です。これは、CEC(土の胃袋)の中に、どれだけの塩基(石灰、苦土、カリ)が詰まっているかを示す指標です。
塩基飽和度の適正値
理想的な塩基飽和度は、一般的に80%程度と言われています。これは「腹八分目」の状態です。
しかし、全体の飽和度だけでなく、石灰(Ca)、苦土(Mg)、カリ(K)の比率が極めて重要です。これらの陽イオンは互いに拮抗作用(きっこうさよう)を持っており、どれか一つが多すぎると、他の成分の吸収を阻害してしまいます。
理想的な塩基バランス比
重量比ではなく「当量比(meq比)」で見る必要がありますが、一般的な目安としては以下のバランスが推奨されています。
例えば、土壌診断で「マグネシウム(苦土)が適正値ある」と出ても、カルシウム(石灰)が過剰に入っている場合、植物はマグネシウムを吸収できず、葉の黄化などの欠乏症状(苦土欠乏)が出ることがあります。これを「見かけの欠乏」と呼びます。
改善策として、単に足りない成分を足すのではなく、過剰な成分の投入を止める「引き算の施肥」が必要なケースも多々あります。特に施設栽培ではカリやリン酸が過剰蓄積しているケースが多く見られるため、診断数値に基づいた減肥が、コスト削減と収量アップの両立に繋がります。
参考リンク:青森県|土壌診断と対策マニュアル
(リンク先の概要:塩基バランスの具体的な計算方法や、土壌タイプ別の診断基準、過剰・欠乏時の対策が詳細に解説された技術資料です。)
これまでの化学的な数値(CECやpH)は「化学性」の指標でしたが、近年注目されているのが「生物性」を含む総合的な土壌肥沃度の数値化です。その鍵を握るのが「腐植」と、新しい指標である「SOFIX(土壌肥沃度指標)」などの概念です。
腐植の数値と役割
腐植は土壌有機物の主成分であり、土の色を黒くしている物質です。診断基準としては、腐植含量 3〜5%以上(水田・畑ともに)が目安とされています。
腐植の数値が高いことは、以下の物理性・化学性の向上を意味します。
しかし、腐植は一朝一夕には増えません。堆肥を毎年1〜2トン/10a投入し続けても、土壌中の腐植レベルを0.1%上げるのに数年かかるとも言われています。そのため、数値目標としては長期スパンで捉える必要があります。
SOFIX(土壌肥沃度指標)という新視点
従来の土壌診断では測定が難しかった「土の中の微生物の量や働き」を数値化したのがSOFIXです。立命館大学の久保幹教授らが開発した指標で、以下のような独自の数値基準を設けています。
一般的な化学肥料中心の栽培では、NPK(窒素・リン酸・カリ)の数値は足りていても、この生物性の数値が極端に低い「死んだ土」になっていることがあります。そうした土壌では、病害が発生しやすかったり、肥料効率が悪かったりします。
SOFIXのような生物性の分析を取り入れることで、「数値上は完璧なのに作物が育たない」という現場の矛盾を解明できることがあります。例えば、有機物を分解する細菌数が少なければ、いくら有機質肥料を入れても効き目が現れません。この場合、単に肥料を入れるのではなく、完熟堆肥や微生物資材を投入して「土壌の胃腸」を整える改善策が数値的根拠を持って立案できます。
物理性の数値化
さらにマニアックな視点では、「固相・液相・気相」の三相分布や、「有効水分保持量」などの物理性も数値化可能です。理想的な三相分布は固相40%、液相30%、気相30%と言われます。これを簡易的に測る方法として、長さを測った金属管を土に打ち込み、実容積と重量を測ることで「仮比重」を算出する手法もあります。仮比重が小さいほど、ふかふかで空気を含んだ良い土壌であることを示唆します。
このように、土壌肥沃度を「化学性」「生物性」「物理性」の3つの視点から数値化し、それらを統合して分析することで、真に強い農業経営が可能になります。まずは身近なpHやECの測定から始め、数年に一度は詳細な分析を行う習慣をつけることが、安定多収への最短ルートと言えるでしょう。

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