土壌肥沃度の数値と診断基準!改善の目安や分析方法

作物の収量を左右する土の力、正しく把握できていますか?CECやpH、塩基飽和度など、土壌肥沃度を表す重要な数値の意味と適正な基準を知り、理想的な土づくりに活かすための具体的な分析手法とは?

土壌肥沃度の数値

土壌肥沃度を数値で読み解く
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診断の基礎指標

CECやpHなど、土の健康状態を示す基本項目の数値を正しく理解します。

⚖️
バランスの重要性

単体の量だけでなく、塩基飽和度や成分同士の比率が作物の生育を左右します。

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生物性の分析

SOFIXなど、微生物の活性を見える化する最新の分析視点も取り入れます。

土壌肥沃度の数値:診断基準と基本項目

 

土壌肥沃度(どじょうひよくど)とは、作物を生産するための土壌の能力、いわゆる「地力」のことを指します。経験や勘に頼りがちだったこの地力を、客観的な数値として可視化するのが土壌診断です。土壌診断における基本項目は多岐にわたりますが、まず押さえておくべきなのは、土壌の化学的性質を示す数値です。

 

一般的に、農業改良普及センターやJAなどの診断で重視される主要な項目には以下のものがあります。これらは「土壌の基礎体力」と「栄養状態」を表しています。

 

  • CEC(塩基置換容量):土壌が肥料分(陽イオン)をどれだけ蓄えられるかのキャパシティ。
  • pH(酸性度:土壌が酸性かアルカリ性かを示す数値。養分の溶け出しやすさに直結します。
  • EC(電気伝導度):土壌中に残存している水溶性の肥料成分の総量。硝酸態窒素の推定に使われます。
  • 有効態リン酸:作物がすぐに利用できる形のリン酸の量。
  • 交換性塩基(カリ、石灰、苦土):植物の生理作用に不可欠なミネラル分。
  • 腐植:有機物の分解過程で生じる物質で、地力の維持に不可欠。

これらの数値には、作物や土壌の種類(水田、畑、樹園地など)に応じた「基準値」や「適正範囲」が設けられています。例えば、農林水産省や各都道府県の施肥基準では、作目ごとに詳細な診断基準が公開されています。しかし、重要なのは「基準値に入っているか」の○×判定だけではありません。数値同士の相関関係や、なぜその数値になっているのかという背景を分析することが、真の土作りへの第一歩となります。

 

特に注意が必要なのは、これらの数値が「静的」なものであるという点です。診断した瞬間の土の状態を表しているに過ぎないため、季節変動や施肥のタイミング、雨量による流亡などを考慮して数値を読み解くリテラシーが求められます。

 

参考リンク:農林水産省|都道府県施肥基準等(土壌診断基準を含む)
(リンク先の概要:各都道府県が設定している主要作物の土壌診断基準値や施肥基準がまとめられており、地域ごとの適正値を把握するのに役立ちます。)

土壌肥沃度の数値:CECとpHの目安

土壌肥沃度を語る上で、最も基本的かつ重要な数値がCEC(塩基置換容量)です。これはよく「土の胃袋の大きさ」や「肥料を掴む手の大きさ」に例えられます。

 

CECの数値と目安
CECの単位は「meq/100g」または「cmol(+)/kg」で表されます。この数値が大きいほど、肥料分(カルシウム、マグネシウム、カリウム、アンモニウムなど)を多く保持できる「肥沃な土」と言えます。

 

  • 砂質土壌:3〜8 meq/100g程度。保肥力が低く、肥料切れしやすいが、肥料効きは早い。
  • 壌土(ローム層など):12〜20 meq/100g程度。バランスが良く、耕作に適している。
  • 粘質土壌・黒ボク土:20〜30 meq/100g以上。保肥力は高いが、リン酸吸着係数が高いなどの癖もある。

一般的に、CECが10〜15 meq/100g以上あれば、野菜栽培において安定した管理がしやすいとされています。数値が低い場合は、腐植(堆肥)やゼオライトなどの土壌改良資材を投入して、物理的に保肥力を高める改善策が必要です。逆に高すぎる場合は、肥料が効きにくかったり、一度バランスが崩れると修正に時間がかかるため、長期的な視点での管理が求められます。

 

pHの数値と目安
pH(水素イオン濃度指数)は、土壌の化学反応の場としての環境を決定づけます。多くの作物はpH 6.0〜6.5(微酸性)を好みますが、品目によって適正値は異なります。

 

  • pH 6.0〜6.5トマト、キュウリ、ナス、イチゴなど多くの野菜。
  • pH 5.5〜6.0:ジャガイモ、サツマイモ(そうか病予防のためやや酸性を好む)。
  • pH 7.0付近:ホウレンソウ、アスパラガスなど(酸性に弱い)。

pHが5.0を下回るような強い酸性土壌では、アルミニウムが溶け出して根を傷めたり、リン酸が固定されて効かなくなったりします。これを改善するために石灰資材を投入しますが、「pHの数値だけ」を見て矯正するのは危険です。後述する塩基バランスを崩す原因になるためです。

 

意外と知られていない事実として、pHは測定方法(水浸出法かKCl浸出法か)によって数値が異なります。一般的な診断書に記載されるのは水浸出法のpH(H2O)ですが、KCl浸出法のpH(KCl)との差を見ることで、土壌中の予備的な酸性度合いを知るというプロ向けの分析手法もあります。

 

土壌肥沃度の数値:塩基バランスと改善

土壌診断において、個々の成分量(mg/100g)以上に重視すべきなのが「塩基バランス(塩基飽和度)」です。これは、CEC(土の胃袋)の中に、どれだけの塩基(石灰、苦土、カリ)が詰まっているかを示す指標です。

 

塩基飽和度の適正値
理想的な塩基飽和度は、一般的に80%程度と言われています。これは「腹八分目」の状態です。

 

  • 100%以上:過剰障害のリスクがあります。土壌に吸着されきれなかった肥料分がECを高め、濃度障害を引き起こす原因になります。
  • 60%以下:欠乏のリスクが高まります。酸性に傾きやすく、雨による溶脱でさらに肥沃度が低下します。

しかし、全体の飽和度だけでなく、石灰(Ca)、苦土(Mg)、カリ(K)の比率が極めて重要です。これらの陽イオンは互いに拮抗作用(きっこうさよう)を持っており、どれか一つが多すぎると、他の成分の吸収を阻害してしまいます。

 

理想的な塩基バランス比
重量比ではなく「当量比(meq比)」で見る必要がありますが、一般的な目安としては以下のバランスが推奨されています。

 

  • 石灰:苦土 = 5:1 〜 3:1
  • 苦土:カリ = 2:1 以上

例えば、土壌診断で「マグネシウム(苦土)が適正値ある」と出ても、カルシウム(石灰)が過剰に入っている場合、植物はマグネシウムを吸収できず、葉の黄化などの欠乏症状(苦土欠乏)が出ることがあります。これを「見かけの欠乏」と呼びます。

 

改善策として、単に足りない成分を足すのではなく、過剰な成分の投入を止める「引き算の施肥」が必要なケースも多々あります。特に施設栽培ではカリやリン酸が過剰蓄積しているケースが多く見られるため、診断数値に基づいた減肥が、コスト削減と収量アップの両立に繋がります。

 

参考リンク:青森県|土壌診断と対策マニュアル
(リンク先の概要:塩基バランスの具体的な計算方法や、土壌タイプ別の診断基準、過剰・欠乏時の対策が詳細に解説された技術資料です。)

土壌肥沃度の数値:腐植と生物性の分析

これまでの化学的な数値(CECやpH)は「化学性」の指標でしたが、近年注目されているのが「生物性」を含む総合的な土壌肥沃度の数値化です。その鍵を握るのが「腐植」と、新しい指標である「SOFIX(土壌肥沃度指標)」などの概念です。

 

腐植の数値と役割
腐植は土壌有機物の主成分であり、土の色を黒くしている物質です。診断基準としては、腐植含量 3〜5%以上(水田・畑ともに)が目安とされています。

 

腐植の数値が高いことは、以下の物理性・化学性の向上を意味します。

 

  • 団粒構造の形成促進(水はけ・水持ちの改善)。
  • CECの増大(腐植自体のCECは粘土鉱物よりも遥かに高いため)。
  • リン酸吸収係数の緩和(リン酸を効きやすくする)。

しかし、腐植は一朝一夕には増えません。堆肥を毎年1〜2トン/10a投入し続けても、土壌中の腐植レベルを0.1%上げるのに数年かかるとも言われています。そのため、数値目標としては長期スパンで捉える必要があります。

 

SOFIX(土壌肥沃度指標)という新視点
従来の土壌診断では測定が難しかった「土の中の微生物の量や働き」を数値化したのがSOFIXです。立命館大学の久保幹教授らが開発した指標で、以下のような独自の数値基準を設けています。

 

  • 総細菌数:1gあたり6億個以上(特A評価の目安)。
  • 窒素循環活性:有機物を分解し、植物が利用できる形に変える微生物の能力。
  • 炭素/窒素比(C/N比):微生物の活動しやすさを示すバランス。

一般的な化学肥料中心の栽培では、NPK(窒素・リン酸・カリ)の数値は足りていても、この生物性の数値が極端に低い「死んだ土」になっていることがあります。そうした土壌では、病害が発生しやすかったり、肥料効率が悪かったりします。

 

SOFIXのような生物性の分析を取り入れることで、「数値上は完璧なのに作物が育たない」という現場の矛盾を解明できることがあります。例えば、有機物を分解する細菌数が少なければ、いくら有機質肥料を入れても効き目が現れません。この場合、単に肥料を入れるのではなく、完熟堆肥微生物資材を投入して「土壌の胃腸」を整える改善策が数値的根拠を持って立案できます。

 

物理性の数値化
さらにマニアックな視点では、「固相液相気相」の三相分布や、「有効水分保持量」などの物理性も数値化可能です。理想的な三相分布は固相40%、液相30%、気相30%と言われます。これを簡易的に測る方法として、長さを測った金属管を土に打ち込み、実容積と重量を測ることで「仮比重」を算出する手法もあります。仮比重が小さいほど、ふかふかで空気を含んだ良い土壌であることを示唆します。

 

このように、土壌肥沃度を「化学性」「生物性」「物理性」の3つの視点から数値化し、それらを統合して分析することで、真に強い農業経営が可能になります。まずは身近なpHやECの測定から始め、数年に一度は詳細な分析を行う習慣をつけることが、安定多収への最短ルートと言えるでしょう。

 

 


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