ようりんは「熔成りん肥(熔リン)」と呼ばれる、りん酸質肥料の一種です。
大きな特徴は、りん酸が水にサッと溶けるタイプではなく、「く溶性りん酸」を主体にしている点です。
く溶性という言葉は、肥料の表示で見かける「水溶性」「可溶性」と並ぶ“溶け方の分類”で、く溶性は一般に“水には溶けにくいが、薄い有機酸には溶ける”性質を指します。
農業従事者の実感としては、「効き始めが遅い=悪い」ではなく、土の中で効き方が安定しやすい“設計のしやすさ”がメリットになります。
参考)ようりん(熔リン)の概要と特徴、効果的な使い方
水溶性りん酸は効きが早い一方、土壌条件によっては固定されやすい(作物に使われにくい形になりやすい)ことがあり、これがりん酸管理の難しさにつながります。
参考)https://bsikagaku.jp/f-knowledge/knowledge14.pdf
ようりんは、この“速さ”より“持続と安定”に寄せた資材として理解すると、施肥計画の中で位置づけしやすくなります。
また、ようりんは「りん酸だけの肥料」と思われがちですが、けい酸・苦土・石灰なども同時に含む点が土づくり資材として評価される理由です。
実際、ようりんを例に「主成分=リン酸、副成分=石灰・苦土・鉄・ケイ酸」と整理している技術資料もあります。
参考)https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/515296.pdf
“りん酸施用”のつもりで入れた資材が、結果としてpHやミネラルバランスにも触れるため、単肥よりも「土全体を見て判断」する必要があります。
ようりんを理解するうえで重要なのが「く溶性=2%クエン酸可溶性」という考え方です。
“2%クエン酸”は、く溶性成分を測る試験で使われる代表的な条件で、たとえば公的資料でも「ク溶性リン酸(2%クエン酸可溶性リン酸)」のように表記されます。
この表現は、単なる業界用語ではなく、「水には溶けないが、弱い酸性条件なら溶ける」ことを定量評価するための実務上の基準です。
ようりんの肥効は、土中で根や微生物が出す有機酸(根酸)などの影響で、徐々に溶け出して吸収される、と整理されることが多いです。
南九州化学工業の説明では、ようりんの成分が根から出る有機酸や土壌中の弱い酸と接触してゆるやかに溶け出す「く溶性」で、成長に沿って長時間吸収される点が強調されています。
参考)土づくり肥料・ようりん
この“ゆっくり”が意味するのは、施用直後にピークを作るのではなく、土壌中で一定期間「使える形」を供給し続ける設計に近い、ということです。
現場での落とし穴は、く溶性=万能と誤解して、追肥や即効性の改善を期待してしまうことです。
ようりんは基本的に元肥で使うのが前提とされ、速効性で短期に反応させたい場面には向きにくい、という注意が示されています。
“いま不足しているから今すぐ入れる”より、“不足しにくい土に作り替える”方向の資材だと捉えると失敗が減ります。
ようりんは、リン酸質肥料に分類される一方で、苦土(マグネシウム)や珪酸(ケイ酸)、石灰(カルシウム)も含むため、これらも狙って施用するのが推奨されることがあります。
特に稲作では「土づくり肥料」として重宝される、という整理がされており、りん酸の補給と同時に複数の要素を一度に入れられる点が省力化にもつながります。
「りん酸・苦土・けい酸・石灰を1回で施用することで省力化につながる」という製品説明もあり、要素同時投入の価値が明確です。
けい酸については、作物体の抵抗性(倒伏しにくさ等)に関わる話題として取り上げられることが多く、施設園芸の解説では、ケイ酸施用で葉や茎の表面にガラス質の「ケイ化細胞」が形成され、組織が硬く丈夫になり茎折れ・葉折れが少なくなる、と説明されています。
参考)ケイ酸で作物の抵抗性を高めよう!種類と効果的な使い方
もちろん作物・栽培体系で効果の出方は変わりますが、「リン酸目的の資材なのに、けい酸の視点でも意味がある」というのはようりんの面白いところです。
また苦土や石灰も、欠乏や土壌反応に関係するため、単純に“リン酸量”だけで施用設計すると過不足が起こりやすくなります。
実務では、ようりんを入れる前に「いま足りない要素は何か」を土壌分析で確認し、石灰資材(苦土石灰など)と役割が重なっていないかをチェックするのが安全です。
愛知県の技術指針でも、ようりんのような改良資材は副成分による改良効果も加味し、無駄な施用を防ぐ、という考え方が示されています。
“りん酸のついでにミネラル補給”は魅力ですが、逆に言えば“ミネラル過多のリスクも一緒に持つ”ため、施用は土壌の現状から逆算するのが基本です。
ようりんは、一般的に元肥として使うのが基本で、水稲では収穫後や春の代かき前に施用する、といった使い方が紹介されています。
畑作でも「土づくりのときに施用」という整理がされており、追肥のように短期で効かせる使い方より、作付け前に混和して“土中に置く”使い方が中心です。
理由はシンプルで、く溶性のため水に溶けてすぐ効くタイプではなく、土と根の環境の中で時間をかけて効く設計だからです。
施用量は作物・土壌で変わるため、製品表示や土壌診断に合わせて検討すべき、とされています。
このとき農業者が意識したいのは、ようりんを「リン酸量の調整弁」としてだけ扱わず、石灰分(アルカリ分)によるpHへの影響も含めて見ることです。
農林水産省の資料では、BM熔リン(BMようりん)について“アルカリ分”を含む性格が示され、土づくり資材として扱われる文脈があります。
参考)https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/06250204chap2souron.pdf
もう一つのコツは、有機物と一緒に考えることです。
ようりんが、稲わらなど有機物の分解に必要な微生物の栄養源となり、有機肥料の肥料効果の発現が増進される、という説明があります。
つまり「土に有機物を入れる→分解が進む環境を整える→結果として養分が回りやすくなる」という連鎖の中で、ようりんが脇役として効く場面がある、という見立てです。
ここで、現場でありがちな誤解を整理しておきます。
参考リンク(く溶性・水溶性・可溶性の違い、表示の読み方が整理されていて、ようりん理解の土台になる)
肥料成分の水溶性、ク溶性、可溶性(PDF)
参考リンク(ようりんの製法・成分、1400〜1500℃で溶融し急冷する点やBM熔リンの扱いがまとまっている)
農林水産省:土づくり資料(熔リンの製法・成分)
検索上位の解説は「く溶性でゆっくり効く」「土づくりに良い」でまとまることが多いのですが、実務で事故が起きやすいのは“副成分の重複”です。
ようりんはリン酸に加えて石灰・苦土・鉄・ケイ酸などを含む、という整理が公的な技術資料にあり、単肥のつもりで入れると、別の要素まで同時に増やしてしまいます。
この重複は、コスト面だけでなく、pHや塩基バランスにも波及し、結果として別の欠乏・過剰のきっかけになることがあります(とくに複数の土壌改良資材を毎年ルーチンで入れている圃場)。
たとえば「苦土石灰も入れている」「ケイ酸資材も入れている」「ようりんも入れる」となると、狙いは別々でも、土壌には同じ系統の成分が積み上がります。
愛知県の技術指針が示すように、改良資材の副成分による改良効果も加味して、無駄な施用を防ぐ、という発想がまさにこの点を突いています。
ようりんを上手に使う農家ほど「リン酸のために入れる」のではなく、「圃場の処方箋の中で、何を削って何を足すか」をセットで考えています。
独自視点としての具体策は、難しいことではありません。
最後に、ようりんの製造の話を一つだけ入れておきます。
農林水産省の資料では、熔リン(BM熔リン)はリン鉱石と蛇紋岩を電気炉で1400〜1500℃で溶かし、水で急冷して製造する、と説明されています。
この“高温で溶融→急冷”という工程が、土中での溶け方(く溶性)につながる材料科学的な背景で、単なる粉砕鉱石ではない点が、ようりんを理解する意外な入口になります。