薬用植物一覧:種類と効能や初心者向け家庭菜園での育て方

薬用植物の種類や効能、家庭菜園での栽培方法を網羅的に解説します。初心者でも育てやすいハーブや、利用時の注意点、生薬名の知識まで詳しく紹介。あなたも薬用植物のある生活を始めてみませんか?
薬用植物一覧活用ガイド
🌿
種類の選定

目的や環境に合わせた薬用植物を選ぼう

🌱
栽培の実践

初心者でも安心な育て方のコツを習得

🍵
日々の活用

お茶や料理で健康的な生活に取り入れる

薬用植物の一覧

薬用植物の種類の選定と主な効能

 

薬用植物を生活に取り入れる際、まず理解しておきたいのがその多様な種類と、それぞれが持つ特有の効能です。日本薬局方に収載されているような本格的なものから、身近な園芸店で手に入るハーブまで、その範囲は非常に広大です。自身の健康状態や改善したい症状に合わせて適切な植物を選ぶことが、薬用植物活用の第一歩となります。

 

例えば、消化不良や胃腸の不調を感じている場合、健胃作用のある植物が適しています。一方で、リラックス効果や安眠を求める場合は、鎮静作用を持つ植物を選ぶ必要があります。また、これらは単に「体に良い」というだけでなく、植物が持つフィトケミカル(植物化学成分)が人体の生理機能に直接的に働きかけるものです。

 

以下に、代表的な薬用植物とその効能、および特徴をまとめました。これらは比較的入手しやすく、日本の気候でも育ちやすいものを選定しています。

 

植物名(和名) 使用部位 主な効能・効果 特徴
ドクダミ 地上部 解毒、利尿、緩下 独特の臭気があるが、乾燥させると和らぐ。十薬(ジュウヤク)と呼ばれる。
ゲンノショウコ 地上部 整腸、下痢止め 「現の証拠」の名通り、即効性のある整腸薬として古くから利用。
シソ(紫蘇) 葉、種子 発汗、解熱、鎮咳 蘇葉(ソヨウ)として漢方にも配合。抗アレルギー作用も注目される。
カモミール 鎮静、発汗、抗炎症 ジャーマン種とローマン種がある。ハーブティーの代表格。
アロエ(キダチ) 葉肉 健胃、緩下、火傷 「医者いらず」の別名を持つ。苦味が強いが効果は鋭い。
ヨモギ 止血、保温、健胃 艾(モグサ)の原料。お灸や入浴剤、食用と用途が広い。

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所による、薬用植物のデータベースです。詳細な植物の特性や画像を検索できます。

 

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 薬用植物総合情報データベース
効能を最大限に引き出すためには、収穫時期も重要です。一般的に、葉を利用するものは開花直前、花を利用するものは開花時、根を利用するものは地上部が枯れた晩秋に収穫すると、有効成分が最も充実していると言われています。

薬用植物の初心者向け家庭菜園のコツ

薬用植物の栽培は、一般的な野菜や観葉植物とは少し異なるアプローチが必要です。多くの薬用植物は野趣に富み、生命力が強い反面、肥料の与えすぎや過保護な管理が逆効果になることがあります。
初心者家庭菜園で失敗しないためには、まず「その植物が自生している環境」を再現することを意識しましょう。

 

1. 土作りと環境選び
多くの薬用植物は、水はけの良い土壌を好みます。市販の「ハーブの土」や「山野草の土」を使用するのが最も手軽で確実です。特に高温多湿を嫌う種類(ラベンダーやタイムなど)の場合、通常の培養土では保水性が高すぎて根腐れを起こす可能性があります。

 

  • 日当たり: 大半は日向を好みますが、ミツバやドクダミのように半日陰を好むものもあります。
  • 肥料: 一般的な野菜の半分〜3分の1程度で十分です。肥料を与えすぎると、葉は茂りますが、香りが弱くなったり、耐病性が落ちたりすることがあります。

2. 初心者におすすめの品種
栽培の難易度は植物によって大きく異なります。最初に挑戦するなら、強健で失敗の少ない以下の品種がおすすめです。

 

  • ミント類: 非常に強健で、放っておいても増えます。ただし、繁殖力が強すぎて他の植物を駆逐してしまうため、プランター栽培か、地植えの場合は根止め(仕切り)が必要です。
  • ローズマリー: 乾燥に強く、一度根付けばほとんど手がかかりません。料理や入浴剤に年中利用できます。
  • カレンデュラ(キンセンカ): 花をオイルに漬け込んで皮膚ケアに使えます。種からでも育てやすく、明るい花が庭を彩ります。

3. プランター栽培のメリット
家庭菜園において、プランター栽培は非常に有効です。天候に合わせて移動ができるため、梅雨の長雨や真夏の直射日光を避けることができます。また、土壌の性質を植物ごとに管理しやすいという利点もあります。
日本薬学会による、薬用植物の栽培や基礎知識に関する情報です。

 

公益社団法人 日本薬学会 薬用植物のページ
栽培を通じて植物の成長サイクルを知ることは、薬用植物への理解を深める最良の手段です。自分で育てた植物をお茶や料理に使う喜びは、市販品では得られない特別な体験となるでしょう。

 

薬用植物の生薬名と成分の基礎知識

薬用植物を深く理解するためには、植物名と生薬名の違い、そしてその効果を裏付ける成分についての知識が不可欠です。私たちが普段呼んでいる植物名(和名)と、乾燥させて薬として用いる時の名前(生薬名)は異なる場合が多く、これが初心者を混乱させる一因となっています。

 

植物名と生薬名の違い
例えば、「クズ(葛)」という植物の根を乾燥させたものは「カッコン(葛根)」と呼ばれます。同様に、「キキョウ」の根は「キキョウ(桔梗)」、「ミカン」の皮は「チンピ(陳皮)」となります。これらの生薬名は、漢方薬の処方箋や成分表示で頻繁に見かけるものです。

 

植物名 使用部位 生薬名 漢方処方例
クズ 葛根(カッコン) 葛根湯
マオウ 地上茎 麻黄(マオウ) 麻黄湯、葛根湯
シャクヤク 芍薬(シャクヤク) 当帰芍薬散
ショウガ 根茎 生姜(ショウキョウ) 桂枝湯
カンゾウ 根・ストロン 甘草(カンゾウ) 多くの漢方薬に配合

主要な薬効成分(フィトケミカル)
薬用植物が体に作用するのは、特定の化学成分が含まれているからです。

 

  • アルカロイド: 強い生理作用を持つ成分群。鎮痛作用のあるモルヒネ(ケシ)や、気管支拡張作用のあるエフェドリン(マオウ)などが代表的です。毒性が強いものも多く、取り扱いには専門的な知識が必要です。
  • フラボノイド: 植物の色素成分で、抗酸化作用を持ちます。イチョウ葉や緑茶に含まれ、血管の保護や老化防止に関与します。
  • 精油(エッセンシャルオイル): 香りの成分。ミントのメントールや、シソのペリルアルデヒドなどがあり、抗菌作用や健胃作用、リラックス効果をもたらします。
  • タンニン: 渋み成分。ゲンノショウコやお茶に含まれ、タンパク質を変性させて組織を引き締める収斂(しゅうれん)作用があり、下痢止めとして働きます。

東京都薬用植物園が提供する、薬用植物の成分や利用法に関する詳しい解説です。

 

東京都薬用植物園 薬用植物データベース
これらの成分は、植物が外敵から身を守るために作り出したものです。人間はその防御システムを「薬」として借りているに過ぎません。そのため、適量を守れば薬となりますが、過剰に摂取すれば毒となることを常に意識しておく必要があります。

 

薬用植物の見分け方とハーブの活用

フィールドワークや家庭菜園で最も重要なスキルの一つが、薬用植物の正しい見分け方です。特に野外で採取する場合、薬用植物とよく似た有毒植物が存在するため、確実な同定能力が求められます。また、身近なハーブとの境界線を知り、安全に活用する方法を学びましょう。

 

誤食しやすい有毒植物への注意
毎年、薬用植物や山菜と間違えて有毒植物を食べてしまう事故が発生しています。

 

  • ニラとスイセン: 葉の形状が似ていますが、スイセンにはニラ特有の香りがなく、球根があります。スイセンは全草が有毒です。
  • ギョウジャニンニクとイヌサフラン: どちらも春に芽を出しますが、イヌサフランはコルヒチンという猛毒を含んでいます。
  • セリとドクゼリ: 湿地に生える様子が似ていますが、ドクゼリは地下茎が太く、筍状の節があります。

見分け方のポイントは、「視覚(葉の形、花の形)」だけでなく、「嗅覚(特有の香り)」や「触覚(毛の有無、茎の断面)」を総動員することです。少しでも自信がない場合は、絶対に口にしないことが鉄則です。
西洋ハーブと和ハーブの融合
「薬用植物」というと堅苦しく聞こえますが、バジルやタイムなどの西洋ハーブも立派な薬用植物です。これらは料理の風味付けとして日常的に使われますが、同時に消化促進や防腐作用も担っています。

 

一方、日本古来の「和ハーブ」も見直されています。サンショウ(山椒)、ミョウガ(茗荷)、ユズ(柚子)などは、日本の食卓に欠かせない薬味でありながら、体を温めたり食欲を増進させたりする薬効を持っています。

 

  • キッチンでの活用:
    • ミントやレモンバームの生葉を使ったフレッシュハーブティー。
    • ローズマリーやタイムをオリーブオイルに漬け込んだハーブオイル。
    • ドクダミやヨモギを乾燥させて作る自家製健康茶。

    熊本大学薬学部薬用植物園による、薬用植物と有毒植物の見分け方に関する注意喚起情報です。

     

    熊本大学薬学部 薬用植物園 植物データベース
    ハーブや薬用植物を生活に取り入れる際は、まず少量から試し、自分の体質に合うかどうかを確認してください。特に妊娠中の方や持病のある方は、医師や薬剤師に相談の上で使用することが推奨されます。

    薬用植物の季節ごとの栽培管理と収穫

    薬用植物の持つ力を最大限に引き出すためには、日本の四季に合わせた季節ごとの栽培管理が欠かせません。植物の生理サイクルを理解し、適切なタイミングで手入れや収穫を行うことで、有効成分が豊富で元気な植物を育てることができます。ここでは、年間を通じた管理の流れを解説します。

     

    春(3月〜5月):目覚めと植え付け
    多くの薬用植物が芽吹く季節です。

     

    • タネまき・植え付け: 霜の心配がなくなったら、種まきや苗の植え付けを行います。カモミールやバジルはこの時期が適期です。
    • 株分け: 増えすぎたミントやレモンバームは、この時期に株分けをしてリフレッシュさせます。
    • 収穫: ギョウジャニンニクやヨモギなど、若芽を利用するものは春が収穫のピークです。柔らかいうちに摘み取りましょう。

    夏(6月〜8月):成長と蒸れ対策
    高温多湿な日本の夏は、多くの薬用植物にとって試練の時期です。

     

    • 剪定・切り戻し: 茂りすぎると風通しが悪くなり、病気や害虫の原因になります。ラベンダーやタイムなどは、梅雨入り前に思い切って剪定し、風通しを良くします。
    • 収穫と乾燥: ドクダミやシソなど、夏に旺盛に育つものは随時収穫します。強い日差しを利用して、収穫したハーブを乾燥保存するのにも最適なシーズンです。
    • 水やり: 朝か夕方の涼しい時間帯にたっぷりと与えます。日中の水やりは、土の中で水がお湯になり根を傷めるので避けましょう。

    秋(9月〜11月):結実と根の充実
    地上部の成長が落ち着き、栄養が根や種子に蓄えられる時期です。

     

    • 種取り: 花が終わり、種ができたら採取して来年用に保存します。
    • 根の収穫: キキョウやウコンなど、根を利用する薬用植物は、地上部が枯れ始めた晩秋が収穫のベストタイミングです。この時期の根は、越冬のために栄養(薬効成分)をたっぷりと蓄えています。
    • 土作り: 来春に向けて、腐葉土堆肥を混ぜ込み、土壌を改良しておきます。

    冬(12月〜2月):休眠と保護
    植物は休眠期に入りますが、管理は続きます。

     

    • 防寒対策: 耐寒性の低い植物(レモングラスなど)は、鉢上げして室内に入れるか、腐葉土で株元を覆う「マルチング」をして霜から守ります。
    • 寒肥(かんごえ): 2月頃、春の芽吹きを助けるために、ゆっくり効く有機質肥料を少量与えます。

    独立行政法人 農畜産業振興機構による、薬用作物の国内生産拡大に向けた取り組みと栽培技術の紹介です。

     

    独立行政法人 農畜産業振興機構 薬用作物に関する情報
    このように、季節ごとの変化を感じながら栽培に関わることで、薬用植物は単なる「物」から、共に生きる「パートナー」へと変わっていきます。手間をかけた分だけ、植物はその香りや効能で私たちに応えてくれるのです。

     

     


    見つけて食べて愉しむ 季節の薬用植物150種