テトラニリプロールを「葉にかければどの害虫にも効く」と思って使うと、登録外使用で出荷停止になることがあります。
テトラニリプロールは、ジアミド系に分類される比較的新しい殺虫成分です。 作用機構はリアノジン受容体(RyR)の活性化で、昆虫の筋肉収縮を異常に引き起こして行動を阻害し、死に至らせます。 従来のネオニコチノイド系やピレスロイド系とは作用点が異なるため、それらに抵抗性を持つ害虫にも効果が期待されます。kumiai-chem+1
国内では「ヨーバルフロアブル」「ヨーバルシードFS」「ブーンレパード箱粒剤」などの製品名で登録されています。 製剤の形態は水和剤・粒剤・種子処理剤など複数あります。
これが大事なポイントです。
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用途や対象害虫によって使う製剤が変わるため、ラベルの確認は必須です。
バイエルクロップサイエンス社が登録している製品が中心で、成分含有量はヨーバルシードFSで40.3%となっています。 比較的新しい成分であるため、今後も適用作物の追加・拡大登録が進む可能性があります。kumiai-chem+1
テトラニリプロールを含む農薬製品の詳細な登録情報・適用病害虫は農林水産省のデータベースで確認できます。
農林水産省 農薬審査報告:テトラニリプロール(登録情報・適用作物・使用方法)
「登録されている作物以外には使えない」というのは農薬の鉄則です。
テトラニリプロールを含む農薬は、作物ごとに「本剤の使用回数」と「テトラニリプロールを含む農薬の総使用回数」の両方が設定されています。 この「総使用回数」の概念を見落としがちです。
参考)ヨーバルシードFS│水稲/殺虫剤│農薬製品│クミアイ化学工業…
たとえば稲(育苗箱)でテトラニリプロールを含む農薬を使う場合、ヨーバルシードFSによる種もみ処理が「1回」とカウントされます。 同じ作季にテトラニリプロール成分を含む別の農薬(箱粒剤など)を追加で使うと、総使用回数の上限を超えてしまう可能性があります。kumiai-chem+1
つまり「製品が違えば何回でも使える」は誤解です。
農薬適正使用基準への違反は農薬取締法の対象となり、生産物の出荷停止や農協からの指導につながるケースもあります。
同成分の重複使用を防ぐためには、ラベルの総使用回数欄を確認することが第一歩です。「今年度に使ったジアミド系農薬の一覧メモ」を農作業日誌に記録する習慣をつけると管理しやすくなります。
組合化学 ヨーバルシードFS製品ページ(適用病害虫・使用回数・使用方法の詳細確認に)
育苗箱処理は、本田での防除に比べて農薬の飛散リスクが大幅に低くなります。
ヨーバルシードFSは種もみに直接処理するため、本田での散布作業と比較して大幅な省力化が実現します。 全ての種もみに均一に処理されるため、効果のムラが出にくいという大きなメリットもあります。
これは使えそうです。
さらに注目すべき特徴として、テトラニリプロール処理した浸種前の種もみは最大9ヶ月間保存可能で、鉄コーティング種子でも6ヶ月の保存ができます。 これにより、農繁期の春先ではなく農閑期に薬剤処理を前倒しすることが可能です。
農繁期の作業分散が、体力的にも経済的にも有利になることがあります。
なお、鉄コーティング時に塗沫処理する場合は、コンクリートミキサーまたは回転式コーティング機を使用し、鉄コーティング資材の量に応じて加水量を調整する必要があります。
作業前に必ずラベルを確認してください。
抵抗性管理を怠ると、数年後に手持ちの農薬が全部効かなくなることがあります。
テトラニリプロールはジアミド系(RACコードグループ28)に分類されます。 ジアミド系農薬は、クロラントラニリプロール(コード28)などと同じグループであるため、同グループの農薬を同一作季に連続使用すると薬剤抵抗性が発達するリスクが高まります。
参考)https://www.naro.go.jp/laboratory/nias/contents/files/PRMfull.pdf
薬剤抵抗性農業害虫管理ガイドラインでは、テトラニリプロールなどのジアミド系農薬について「年1回までの使用にとどめる」ことが推奨されています。
これが抵抗性管理の基本です。
実際のローテーション設計は、地域の農業改良普及センターや病害虫防除所に相談することが効果的です。防除所では地域ごとの抵抗性モニタリング結果も提供しています。
薬剤抵抗性管理の詳細なガイドラインは、農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)が公開しています。
農研機構 薬剤抵抗性農業害虫管理ガイドライン(ジアミド系農薬の使用回数の考え方も記載)
使い残した農薬液を溝に流すと、農薬取締法違反になるケースがあります。
テトラニリプロールは水産動植物の中でも特に甲殻類(エビ・カニなど)への影響が懸念されており、環境省による水産動植物被害防止に係る農薬登録保留基準が設定されています。 水田使用時のPEC(環境中予測濃度)は0.68 μg/Lと算出されており、甲殻類への急性影響濃度と比較した上で登録基準が設けられています。env+1
厳しいところですね。
農薬ラベルにも「使用残液及び容器の洗浄水等は河川等に流さず適切に処理する」と明記されています。 廃液を圃場周辺の排水路や河川に流した場合、農薬取締法第24条に抵触するリスクがあります。
廃液処理には「廃農薬回収ボックス」を設置しているJAや農協も多いため、まず地元のJAに問い合わせてみることをおすすめします。空容器についても、農薬容器回収事業(バイエルクロップサイエンス等メーカー回収スキーム)を利用すると安心です。
環境省 水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準(テトラニリプロールの基準値の設定根拠)
農林水産省 テトラニリプロール審査報告書(水産動植物への影響試験結果の詳細)