食品のエライジン酸含有量とトランス脂肪酸の規制

エライジン酸が多く含まれる食品や、農産物加工におけるリスク管理について解説します。トランス脂肪酸の規制が進む中、生産者が知っておくべき正しい知識とは何でしょうか?
食品中のエライジン酸と対策
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加工食品の含有量

マーガリンやショートニングに含まれる工業由来のトランス脂肪酸に注意が必要です。

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健康リスクと規制

心疾患リスクを高めるとして、各国で表示義務や含有量の上限規制が進んでいます。

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天然由来との違い

反芻動物由来のバクセン酸は、エライジン酸とは異なる生理作用を持つ可能性があります。

エライジン酸と食品

食品加工業界や農業界において、「トランス脂肪酸」に関する議論は避けて通れないテーマとなっています。特に、工業的に生成されるトランス脂肪酸の代表格である「エライジン酸」は、健康への悪影響が懸念され、世界中で規制の対象となっています。農業従事者や食品加工に携わる生産者にとって、自社の農産物や加工品がどのように評価され、どのようなリスク管理が必要かを理解することは、ブランド価値を守る上で極めて重要です。本記事では、エライジン酸が含まれる食品の現状、規制の動向、そして天然由来トランス脂肪酸との違いについて、専門的な知見を交えて解説します。


参考)トランス脂肪酸とその現状 - ものづくりドットコム

加工食品におけるエライジン酸の含有量と低減対策


エライジン酸は、植物油に水素を添加して硬化させる「部分水素添加」の過程で生成されるトランス脂肪酸の一種です。この工程は、常温で液体の植物油を半固体や固体にするために行われ、マーガリンやショートニング、ファットスプレッドなどの製造に不可欠な技術でした。


参考)https://www.jffic.or.jp/download_files/inspection/pdf/document/fftr_no021.pdf

エライジン酸が多く含まれる食品として、以下のようなものが挙げられます。これらの食品は、食感の良さや保存性を高めるために、硬化油(ショートニングなど)が多用されてきた歴史があります。


  • マーガリン・ファットスプレッド: パンに塗る用途だけでなく、加工食品の原料としても広く使用されています。
  • ショートニング: クッキーやビスケットのサクサクした食感を出すために使用されます。
  • 揚げ物(フライ製品): 業務用の揚げ油として、酸化安定性の高い硬化油が使われることがあります。
  • 洋菓子・スナック菓子: パイやケーキ、ポテトチップスなどに含まれる油脂に由来します。
  • インスタント食品: カップ麺の揚げ油やスープの素に含まれる粉末油脂などに使用される場合があります。

しかし、近年では消費者の健康志向の高まりや国際的な規制の流れを受け、食品業界ではエライジン酸の低減対策が急速に進んでいます。具体的な技術としては、「エステル交換技術」の導入が挙げられます。これは、水素添加を行わずに油脂の物性を調整する技術であり、トランス脂肪酸をほとんど生成せずにマーガリンやショートニングを製造することを可能にしました。


参考)トランス脂肪酸問題についてのQ&A

また、パーム油など、常温で固体の性質を持つ天然油脂をブレンドすることで、硬化油の使用量を減らす取り組みも行われています。農林水産省の調査によれば、日本国内で流通する加工油脂中のトランス脂肪酸濃度は、過去に比べて大幅に減少しており、多くの製品で総脂肪酸の1%未満(WHOの目標値レベル)を達成しています。


参考)食品中のトランス脂肪酸の低減:農林水産省

農業生産者が六次産業化などで自社製品を開発する場合、原材料として使用する油脂の選定には十分な注意が必要です。「トランス脂肪酸フリー」や「低トランス脂肪酸」を謳う油脂を選択することは、製品の安全性をアピールする上で強力な差別化要因となります。


参考リンク:農林水産省 - 食品中のトランス脂肪酸の低減に向けた取り組み
(リンク先では、食品事業者が行っている具体的な低減技術や、製品開発における工夫が詳細に紹介されています。)

トランス脂肪酸の規制と国内での食品表示の現状

世界的に見ると、トランス脂肪酸に対する規制は年々厳しさを増しています。WHO(世界保健機関)は、2023年までに食品中の工業由来トランス脂肪酸を撤廃する目標を掲げました。これを受け、米国、カナダ、台湾、タイ、シンガポールなど多くの国々で、部分水素添加油脂の食品への使用禁止や、トランス脂肪酸含有量の表示義務化が導入されています。


参考)トランス脂肪酸に関する各国・地域の規制状況:農林水産省

一方、日本国内における現状はどうでしょうか。日本では、トランス脂肪酸の表示義務はありません。これは、日本人の平均的な食生活において、トランス脂肪酸の摂取量がWHOの目標値(総エネルギー摂取量の1%未満)を大きく下回っているため、通常の食生活を送っていれば健康への影響は小さいと考えられているからです。消費者庁は2011年に「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」を策定し、食品事業者による自主的な情報開示を推奨していますが、強制力のある規制ではありません。


参考)一般社団法人パン工業会:トランス脂肪酸に関する低減化に関する…

しかし、この「規制がない」という状況は、逆に言えば消費者の不安を招きやすいとも言えます。一部の消費者団体や健康意識の高い層は、自主的にトランス脂肪酸を避ける傾向にあり、表示がないこと自体をネガティブに捉えることもあります。


農業従事者が加工品を販売する際、法的義務がなくとも、トランス脂肪酸の含有量(あるいは「不使用」であること)を積極的に表示することは、信頼獲得のための有効な戦略となります。特に、海外輸出を視野に入れている場合は、輸出先国の規制(米国や台湾など)に準拠する必要があるため、エライジン酸を含むトランス脂肪酸の厳格な管理と表示が必須となります。


参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/livestocktechnology/2011/674-Jul/2011_47/_pdf

表示を行う際には、以下の点に留意する必要があります。


  • 分析値の根拠: 公的検査機関による分析データを取得し、正確な数値を把握すること。
  • 0g表示の基準: 食品100g当たりトランス脂肪酸が0.3g未満であれば「0g」と表示できる基準(消費者庁指針)を理解すること。
  • 強調表示: 「トランス脂肪酸フリー」などの強調表示を行う場合、飽和脂肪酸の量も併せて表示することが求められる場合があること。

参考リンク:消費者庁 - トランス脂肪酸の情報開示に関する指針
(リンク先では、事業者がトランス脂肪酸の含有量を表示する際のガイドラインや、分析方法についての技術的な情報が掲載されています。)

工業由来のエライジン酸と天然由来バクセン酸の違い

トランス脂肪酸には、大きく分けて二つの由来があります。一つは前述した、植物油の水素添加によって生成される「工業由来」のもの。もう一つは、牛や羊などの反芻動物の胃の中で微生物の働きによって生成される「天然由来」のものです。


参考)食品に含まれるトランス脂肪酸の由来:農林水産省

ここで重要となるのが、それぞれの主成分の違いです。


この分子構造のわずかな違いが、生体内での代謝や健康への影響に大きな差を生む可能性が研究されています。エライジン酸は、心疾患のリスクを高める要因として広く認識されていますが、天然由来のバクセン酸に関しては、異なる見解が存在します。


バクセン酸は、摂取後に体内で「共役リノール酸(CLA)」という物質に変換されることが分かっています。共役リノール酸は、抗がん作用や体脂肪低減作用など、健康に有益な効果を持つ可能性が報告されている成分です。つまり、同じ「トランス脂肪酸」というカテゴリーに分類されていても、工業由来のエライジン酸と、牛乳や牛肉に含まれる天然由来のバクセン酸は、生理学的に別物として扱うべきだという議論が科学界でなされています。


参考)https://www.j-milk.jp/report/study/h4ogb400000011vd-att/h4ogb400000011xq.pdf

畜産農家にとって、この違いは極めて重要です。「牛肉や牛乳にもトランス脂肪酸が含まれているから危険だ」という誤解に対し、「天然由来のトランス脂肪酸(バクセン酸)は、工業由来のエライジン酸とは性質が異なり、有用な成分に変わる可能性がある」と科学的根拠に基づいて説明できることは、風評被害を防ぐための強力な武器になります。


オレイン酸の異性体が健康に及ぼすリスクとメカニズム

エライジン酸は、オリーブオイルなどに豊富に含まれる良質な脂肪酸である「オレイン酸」の立体異性体(トランス型)です。オレイン酸(シス型)が分子内で折れ曲がった構造をしているのに対し、エライジン酸(トランス型)は直線的な構造をしています。この形状の違いが、細胞膜の流動性や酵素の働きに悪影響を与えるとされています。


参考)エライジン酸(えらいじんさん)とは? 意味や使い方 - コト…

エライジン酸が健康に及ぼす具体的なリスクとしては、以下のようなものが挙げられます。


  • LDL(悪玉)コレステロールの増加: 血管壁にプラークを形成しやすくします。
  • HDL(善玉)コレステロールの減少: 余分なコレステロールを回収する機能を低下させます。
  • 冠動脈性心疾患のリスク増大: 動脈硬化を進行させ、心筋梗塞などの原因となります。

さらに、近年の研究では、より詳細な毒性のメカニズムが明らかになりつつあります。東北大学などの研究グループによると、エライジン酸は細胞に対して「アポトーシス(プログラムされた細胞死)」を促進する作用があることが示唆されています。


参考)魚のEPA・DHAが「トランス脂肪酸」の毒性を打ち消す 「天…

具体的には、エライジン酸は細胞外からのストレスシグナル(ATP刺激)に対する感受性を高め、細胞内の特定の経路(ASK1-p38経路など)を過剰に活性化させることで、細胞死を誘導すると考えられています。この作用は、シス型のオレイン酸では観察されず、エライジン酸特有の毒性である可能性が高いとされています。


参考)トランス脂肪酸の毒性があるのは「人工型」のみ EPA・DHA…

一方で、魚油に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などの多価不飽和脂肪酸が共存すると、このエライジン酸による細胞死の誘導が抑制されるという研究結果もあります。これは、バランスの取れた食事がリスク軽減につながることを示唆しており、農家が提案する「和食中心の食生活」や「農産物と水産物の組み合わせ」の重要性を裏付けるデータとなります。

参考リンク:食品安全委員会 - トランス脂肪酸の食品健康影響評価
(リンク先では、トランス脂肪酸のリスク評価に関する科学的な詳細データや、国内外の研究結果がまとめられています。)

畜産農家が知るべき反芻動物由来脂質の優位性

最後に、畜産業に携わる農家が特に知っておくべき、反芻動物由来脂質の独自性について深掘りします。一般的に「トランス脂肪酸=悪」というイメージが定着していますが、前述の通り、反芻動物(牛、羊、山羊)の胃内で生成されるトランス脂肪酸は、工業的なものとは組成が異なります。


特に注目すべきは、反芻動物由来のトランス脂肪酸が「自然の摂理」の中で生成されている点です。反芻動物の第一胃(ルーメン)には多数の微生物が生息しており、牧草などの飼料に含まれる不飽和脂肪酸に対して「水素添加」を行います。これは、微生物が不飽和脂肪酸の毒性から身を守るための防御反応(解毒作用)の一部であると考えられています。この過程で生成されるのがバクセン酸であり、これが家畜の乳や肉、体脂肪に蓄積されます。


興味深いことに、放牧主体で育てられた牛(グラスフェッド)の牛乳は、穀物飼料主体の牛に比べて、共役リノール酸(CLA)やバクセン酸の含有量が高い傾向にあるという報告があります。牧草にはα-リノレン酸が豊富に含まれており、これがルーメン内で代謝される過程で良質な脂肪酸が生成されるからです。


参考)https://souchi.lin.gr.jp/ninsho/pdf/kinou002.pdf

この事実は、畜産農家にとって「飼養管理の方法」がそのまま「脂肪酸の質」という付加価値に直結することを示しています。「ウチの牛は牧草をたっぷり食べているから、脂の質が違う(エライジン酸ではなく、有用なバクセン酸やCLAが豊富である)」というストーリーは、健康意識の高い消費者に対して非常に強い訴求力を持ちます。


単に「美味しい」だけでなく、「脂質の質が良い」「自然由来の機能性成分が含まれる」という科学的な視点を取り入れることで、輸入牛肉や代替肉との差別化を図ることが可能です。エライジン酸のリスクが叫ばれる今こそ、天然由来の脂質が持つ可能性を正しく理解し、発信していくことが求められています。




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