生物兵器とは、炭疽菌、天然痘ウイルス、ボツリヌス毒素などの生物剤を用いて人や動植物に害を加える大量破壊兵器です。日本では1982年6月に生物兵器禁止条約(BWC)を批准し、国内法として「細菌兵器及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約の実施に関する法律」を制定しました。この法律により、生物・毒素兵器の製造、所持、譲渡、譲受けは罰則をもって全面的に禁止されています。
参考)https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bwc/torikumi.html
生物兵器の最大の特徴は、使用された場合でも自然発生の疾病との区別が困難であり、感染性のあるものは一旦使用されるとその効果が広範かつ長期的に持続する点にあります。また、消毒により証拠隠滅が可能なため、開発・生産の現場を検知することが困難とされています。日本国民の81%が核・生物・化学兵器による攻撃を現実の脅威として認識しており、この懸念は前年比で17ポイントも上昇しています。
参考)https://www.ipsos.com/ja-jp/halifax-report-2022-threats
日本の防衛省は生物兵器対処のための検知器材の整備を進めており、特に基地等の施設や展開する部隊を防護する上で広範囲にわたる地域を継続的に警戒する能力が求められています。現在、アタッシュケース型の「BioBulwark」という国産検知器が開発され、バイオテロで使われる可能性が高い約20種類の病原体を1時間程度で検出することが可能となっています。この装置は複数の警察に配備されており、神経剤など化学剤を識別できるポータブル型検知器も国産化が進んでいます。
参考)https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/seibutu/kihon.html
生物兵器として使用される可能性が高い病原体には、炭疽菌、天然痘ウイルス、ペスト菌、ボツリヌス毒素などがあります。炭疽菌は芽胞形成能力が高く環境中で長期生存が可能であり、ボツリヌス毒素は既知の毒素中最強の毒性を持つという特徴があります。これらの病原体は感染力が強い、死亡率が高い、環境の中で長く生き残れるなどの特性を持っています。
参考)バイオテロリズム – 感染症
米国疾病管理予防センター(CDC)は生物兵器として使用される可能性のある病原体をカテゴリーA、B、Cに分類しています。カテゴリーAには公衆衛生上最も危険性が高い炭疽菌、ボツリヌス毒素、ペスト菌、天然痘ウイルス、野兎病菌、出血熱ウイルスが含まれます。これらは容易に人から人へ伝播し、高い死亡率をもたらし、社会的パニックや社会的混乱を引き起こす可能性があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/11/101_3103/_pdf
日本国内でも生物兵器に関連する事件が発生しています。1993年のオウム真理教による亀戸異臭事件では炭疽菌が使用されましたが失敗に終わり、1995年には同教団による霞が関でのボツリヌス菌散布が試みられましたがこちらも失敗しました。これらの事例は、日本においても生物兵器テロの脅威が現実のものとなり得ることを示しています。
参考)生物兵器 - Wikipedia
厚生労働省による生物兵器テロの可能性が高い感染症に関する参考資料
農業テロ(アグロテロリズム)は、人の健康ではなく社会・経済に大きな影響を与える生物兵器攻撃の一形態です。世界の農業被害の70〜80%は糸状菌(カビ・菌類)によって引き起こされていると推定され、これらはすべて潜在的な生物兵器となり得ます。主要穀物への脅威として、イネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)はイネの収量に壊滅的な打撃を与え、米を主食とする地域では飢餓に直結する脅威となります。
参考)新たなテロの形態!静かに国を滅ぼす?アグロテロリズム(農業テ…
2025年6月には、米国で中国籍の男女2人が農業テロ可能な病原菌を密輸しようとした疑いで起訴されました。この病原菌は赤かび病を発症させ、農業テロの兵器になり得ると分類されており、赤かび病によって全世界で毎年数十億ドル相当の損失がもたらされているとされています。赤かび病は小麦、大麦、トウモロコシに被害を与え、収穫を大幅に減少させます。この毒素は人間や家畜にも有害で、食糧供給の安定を脅かす可能性があります。
参考)中国系カップルによる生物兵器米国密輸未遂: 極東ブログ
日本における狂牛病問題の事例からも分かるように、農業・畜産テロは国民への経済的・心理的打撃が極めて大きいという特徴があります。そのため、人間や家畜、穀物を含めた包括的なテロ対策を考えていく必要性が指摘されています。ハンガリーでは2025年3月に口蹄疫が発生し、政府が「生物兵器」の可能性について言及するという異例の事態が発生しました。この事例は、農業・畜産分野が新たな安全保障上の脆弱性を持つことを明確に示しています。
参考)ハンガリーの口蹄疫発生と「生物兵器」の可能性:国際的な獣疫危…
日本獣医学会による人獣共通感染症とアグロテロリズムの解説
日本における生物兵器対処の基本は、生物剤の有無を速やかに検知し、その種類を同定することです。防衛省では汚染地域を特定するための検知器材の整備を進めており、部隊の被害を最小限に抑えるための対抗措置を実施しています。検知は一連の生物兵器対処行動の端緒をなすことから、その巧拙が以後の行動に大きく影響します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kokusaianzenhosho/29/1/29_1/_pdf/-char/en
具体的な検知技術として、アタッシュケース型の「BioBulwark」が開発され、バイオテロで使われる可能性が高い約20種類の病原体を1時間程度で検出できるようになりました。この装置は複数の警察に配備されており、神経剤など化学剤を識別できるポータブル型検知器も国産できるようになっています。また、展開する個々の隊員に検知能力を保持させるため、携帯型で迅速・簡便な検知装置の整備が進められています。
参考)大量破壊兵器から命守る「センシング」日本の実力 − 経済安全…
防衛省の方針では、検知器に遠隔操作性を付与することにより、汚染地域でのより安全かつ広範囲に及ぶ検知活動を可能にすることが検討されています。日本は地下鉄サリン事件などを通じて神経ガスへの対処の経験があり、米国国防イノベーションユニット(DIU)は生物学的な脅威を監視・分析する日本企業の技術能力に期待を示しています。このような検知技術の発展は、生物兵器テロから国民を守るための重要な基盤となっています。
参考)生物兵器や偽情報「日米共通の脅威に対応」 米DIU長官 優秀…
防衛省による生物兵器対処に係る基本的考え方の詳細
生物兵器禁止条約(BWC)は1971年に国連軍縮委員会会議において作成され、1975年3月に発効した国際条約です。この条約の正式名称は「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約」であり、2025年5月現在で締約国数は189に上ります。条約の第一目的は生物・化学兵器使用のタブーを確立することであり、これらの兵器の生産、貯蔵の禁止に向けた第一歩となりました。
参考)毒ガス等使用禁止に関するジュネーヴ議定書調印100周年 - …
日本は1982年6月にBWCを批准し、国内におけるBWCの実施を確保するため「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約の実施に関する法律」(BWC実施法)を制定しました。このBWC実施法により、生物・毒素兵器の製造、所持、譲渡、譲受けが罰則をもって全面的に禁止されています。日本の定義では、微生物やその他の生物剤、毒素、それらを保有・媒介する生物で人や動植物に害を加えるものを生物兵器としています。
参考)https://www.disarm.emb-japan.go.jp/itpr_ja/chap9.html
外務省は生物兵器を巡る国際的な状況への取り組みとして、条約の普遍化と実効性の向上に努めています。生物兵器は比較的安価で製造が容易であるほか、製造に必要な物資・機材・技術の多くが軍民両用であるため偽装が容易という特徴があります。そのため、国際的な協力体制の強化と継続的な監視が不可欠となっています。
参考)https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2022/html/n140602000.html
外務省による生物・化学兵器を巡る状況と日本の取組に関する詳細情報
農業従事者が実施すべき生物兵器対策として、まず農場レベルでのバイオセキュリティの強化が挙げられます。これは比較的低コストで実施可能ですが、すべての農場で一定水準の対策を維持するための教育と監視システムの構築が課題となっています。具体的には、外部からの病原体の侵入を防ぐための消毒設備の設置、出入り管理の徹底、異常な病害の早期発見体制の構築などが重要です。
生物テロを早期に察知するためには、通常とは異なる症状や被害パターンを認識する能力が必要です。生物剤を大別すると、細菌やウイルスのような病原体と、動植物などに含まれている毒物である毒素に分けることができます。触れたり、口に入れたり、吸引することで人体に影響を及ぼすため、農作業中の衛生管理を徹底することが重要です。異常な発病パターンや通常では見られない症状が複数の農場で同時に発生した場合は、速やかに農業共済組合や地方自治体の農業担当部局に報告する必要があります。
参考)https://www.anzen.mofa.go.jp/pamph/pamph06/contents/kakuron2.html
農林水産省は国民保護計画の中で農林水産業に係る被害の拡大防止対策を位置づけており、有事の際の対応体制を整備しています。農業従事者は、地域の防災計画や国民保護計画に関する情報を把握し、緊急時の連絡体制を確認しておくことが推奨されます。また、被害農家への支援制度として、EU内では既存の農業支援プログラムを活用した財政支援の仕組みがあり、日本においても同様の支援体制の整備が検討されています。
参考)https://www.maff.go.jp/j/kanbo/anpo/kokumin_hogo/pdf/maff_kokumin_hogo_280329.pdf
米国農務省による農業テロ犯罪捜査ハンドブックの日本語版資料
日常的な対策としては、作物の健康状態を定期的に観察し、通常とは異なる病害の兆候に注意を払うことが基本となります。栽培記録を詳細につけることで、異常発生時の原因究明に役立つ情報を残すことができます。また、地域の農業仲間や農協との情報共有ネットワークを構築し、広域的な異常事態を早期に検知できる体制を整えることも有効です。これらの実践的な対策は、生物兵器テロだけでなく通常の病害虫対策としても有効であり、農業経営の安定化にも貢献します。