オオムギ縞萎縮病の症状と防除対策

オオムギ縞萎縮病は土壌伝染性ウイルス病で、発病すると最大97%もの減収を招く深刻な病害です。ポリミキサ菌が媒介するこの病気の症状から抵抗性品種、麦種転換、播種時期調整まで、効果的な防除方法を知っていますか?

オオムギ縞萎縮病の症状と防除

抵抗性品種でも新系統には感染する


この記事の3ポイント要約
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土壌伝染性ウイルス病の特徴

ポリミキサ菌が媒介し、汚染土壌は何年も病原性を維持。休眠胞子は数年間土中で生存可能で、激発すると最大97%もの減収を引き起こす難防除病害です。

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黄白色のかすり状病斑が特徴

2~3月頃に展開葉に退緑斑点が出現し、黄白色のかすり状となります。分げつ不良や株の萎縮が見られ、ウイルスは5系統(I~V型)に分化しています。

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抵抗性品種と耕種的防除の組み合わせ

播種時期を10日遅らせる晩播、麦種転換(5年間)、深耕25cm、抵抗性品種の導入が有効。薬剤ではフロンサイドSCが播種前処理で効果を示します。


オオムギ縞萎縮病とは何か



オオムギ縞萎縮病は、オオムギ縞萎縮ウイルス(BaYMV)によって引き起こされる土壌伝染性のウイルス病です。この病気はビール大麦をはじめとするオオムギ栽培において、生産量と品質の両面で深刻な被害をもたらす重要病害として知られています。


病原ウイルスは土壌中に生息するポリミキサ・グラミニスという原生動物によって媒介されます。ポリミキサは極めて耐久性の強い休眠胞子を形成し、土壌中で数年間生存することができます。この休眠胞子は厚い膜に覆われているため、環境変化に強く、宿主植物がない状態でも長期間生き延びることが可能です。一度汚染された土壌は何年も病原性を維持するため、難防除病害の1つとされています。


本病は大正年間から昭和初期にかけて日本で初めて報告された病害で、現在では全国の主要なオオムギ栽培地域で発生が確認されています。特に栃木県、茨城県、岡山県、福岡県などでは常発化している地域もあり、栽培面積の約4分の1に達する発生が報告されたこともあります。


ウイルスは播種後10日から約1か月の間に根から感染します。感染適温は10~16℃で、5℃以下および20℃以上では感染しにくくなります。つまり秋が暖かく12月中旬から1月下旬が低温の年に発生しやすい傾向があります。


茨城県の病害虫防除指導資料には、本病の発生生態と防除方法について詳しい情報が掲載されています。


オオムギ縞萎縮病の症状と診断方法

発病の初期症状は2~3月頃から現れます。展開葉に退緑斑点が出現し、それが次第に黄白色となって「かすり状」の特徴的な病斑を形成します。この病斑は葉脈に沿って連続的に現れるため、遠目からでも識別しやすい特徴です。


発病株では分げつが不良となり、株全体が萎縮します。葉先から黄変が進み、下葉は特に症状が顕著になります。重症株では草丈が著しく低くなり、出穂しても不稔粒が多くなります。軽症株の場合は、4月頃から気温が上昇するにつれて病徴が不鮮明になり、茎立ちが始まると症状が消えることもあります。


この「症状が消える」現象は一見すると回復したように見えますが、実際にはウイルスは植物体内に残存しており、収量や品質への影響は避けられません。発病茎率が80~100%に達した場合、罹病性品種では67~97%もの減収が報告されています。これは健全株と比較すると、ほぼ全滅に近い被害といえます。


診断方法としては、早春の病徴観察が最も確実です。また、エライザ検定というウイルス検出法も利用されており、縞萎縮病にかかっていると試薬が発色して判定できます。圃場全体の発生状況を把握するためには、複数箇所でサンプリング調査を行うことが推奨されます。


土壌pHと発病程度の関係も明らかになっています。土壌pHが6.5以上では発病が多く、6.0以下で少ない傾向があります。土壌pHの上昇がオオムギ縞萎縮病の病徴反応を促進し、被害を増大させるということですね。


オオムギ縞萎縮病のウイルス系統と抵抗性品種

オオムギ縞萎縮ウイルスは日本国内で系統分化が進んでおり、現在I型からV型までの5系統が確認されています。この系統分化が防除を複雑にしている大きな要因です。各系統はオオムギ品種に対する病原性が異なるため、ある系統に抵抗性を持つ品種でも、別の系統には感染してしまうことがあります。


地域によって発生するウイルス系統が異なることも判明しています。例えば栃木県南地域ではIII型が常発化しており、県中北地域ではI型が発生しています。福岡県や九州北部地域ではIII型の発生が多く報告されています。このため、栽培地域に発生しているウイルス系統を把握した上で、それに対応した抵抗性品種を選択することが極めて重要です。


抵抗性遺伝子はrym1からrym15まで(rym10を除く)が報告されており、品種育成にはこれらの遺伝子を集積させる取り組みが進められています。抵抗性遺伝子を単独で有する品種はいずれかのウイルス系統に罹病してしまうため、複数の抵抗性遺伝子を持つ品種の開発が求められています。


主要な抵抗性品種としては、以下のようなものがあります。


📌 二条大麦の抵抗性品種
- 「はるか二条」:I~V型に抵抗性、多収で倒伏に強い
- 「はるみやび」:I~V型とうどんこ病に複合抵抗性、福岡県育成
- 「はるしずく」:III型に抵抗性、長崎県奨励品種
- 「はるさやか」:抵抗性で被害粒や穂発芽が少ない
- 「カシマゴール」:茨城県で推奨される抵抗性品種


📌 六条大麦の抵抗性品種
- 「ミサトゴールデン」:rym3遺伝子を持つ


ただし、抵抗性品種を栽培していても、感受性品種に比較して被害は軽微ですが、新たな系統の出現や複合感染により発病することがあります。抵抗性品種は「万能薬」ではなく、あくまで防除対策の一つとして位置づけるべきです。


品種選択の際は、地域の農業改良普及センターや農業試験場に相談し、その地域で発生しているウイルス系統に対応した品種を選ぶことが大切です。


オオムギ縞萎縮病の耕種的防除方法

オオムギ縞萎縮病は土壌伝染性であり、発病後の治療は不可能です。したがって予防を主体とした耕種的防除が極めて重要になります。


播種時期の調整が最も実用的で効果的な対策の一つです。発病圃場では標準的な播種時期より10日ほど播種を遅らせる晩播が推奨されます。これはウイルスの感染適温が10~16℃であることを利用した方法です。播種を遅らせることで、感染期の気温を感染適温から外すことができます。茨城県では標準播種期が11月1日から10日までですが、発病圃場では11月中旬まで遅らせることで発病軽減効果が得られます。


二条オオムギでは1~2週間程度の晩播が有効とされています。ただし、播種が遅すぎると生育量不足により収量が低下するリスクもあるため、播種適期の晩限までに留めることが重要です。


麦種転換も有効な防除手段です。オオムギ縞萎縮ウイルスはオオムギにのみ感染し、コムギには感染しません。逆にコムギ縞萎縮ウイルスはコムギにのみ感染します。この特性を利用し、オオムギ縞萎縮病の発生圃場ではオオムギからコムギへ、コムギ縞萎縮病の発生圃場ではコムギからオオムギへ麦種を転換することで、ウイルスの増殖を抑制できます。


麦種転換の効果は転換年数が長いほど高くなります。数年間麦種を転換することで発病が軽減されます。激発地では5年間くらい作付けを行わないことが推奨されます。抵抗性品種や免疫性の麦種を作付けした後、罹病性の品種や麦種を作付けした時にも発病軽減効果が認められます。


深耕も発病抑制に一定の効果があります。深耕25cmにすることで、発病をある程度抑制できるという報告があります。ただし、深耕や表土鎮圧の効果は限定的で、晩播や排水対策ほど顕著ではないという試験結果もあります。深耕の効果は、表層に集中している病原菌を希釈する効果と、根の伸長を促進して健全な生育を確保する効果の両面があると考えられます。


排水対策も重要です。感染期の土壌水分の影響が大きく、感染期に暖かく降水量が多いと翌春の発病が激しくなります。萎縮病類は排水性が悪い圃場で発生が助長されるため、明渠や暗渠による排水改善が効果的です。


播種量の調整として、やや多めに播種することで、発病による欠株を補い、収量低下を軽減できるという報告もあります。


春先の追肥も減収被害の軽減に効果があります。深耕して適期に播種し、春先に追肥すると減収被害を軽減できるとされています。


農機具の衛生管理も見落とせません。発病圃場の土壌や被害株の根部残渣が伝染源となるため、作業時には発病した圃場を最後にして、伝染源を無病圃場に持ち込まないようにします。作業後は機械に付着した土を必ず洗い流すことが大切です。


オオムギ縞萎縮病の薬剤防除と総合対策

オオムギ縞萎縮病に対する薬剤防除は限られていますが、フルアジナムを有効成分とする「フロンサイドSC」や「フロンサイド水和剤」が登録されています。


フロンサイドSCは播種前の全面散布土壌混和で使用します。使用量は600ml/10aで、水量は100L/10aが標準です。播種前処理で3回以内(ただし播種前は1回以内、播種後は2回以内)の使用が認められています。根雪前の処理も可能で、播種後から10月中旬および根雪直前に散布すると効果が高いとされます。


フロンサイド水和剤は600g/10aを播種前に全面散布土壌混和します。抗菌スペクトルが極めて広く、植物病原菌の各感染過程を低濃度で強力に阻害します。残効性・耐雨性に優れ、高い予防効果がありますが、植物体内への浸透移行性はほとんどなく、治療効果は認められません。


つまり予防専用の薬剤です。


既存の薬剤耐性菌にも有効であることが大きな特徴です。


薬剤防除の効果は限定的であり、単独での防除は困難です。したがって総合的な防除対策が必要になります。


総合防除の組み合わせ例として以下のような対策が推奨されます。


🔹 基本的な組み合わせ
- 抵抗性品種の導入(地域のウイルス系統に対応したもの)
- 播種時期を10日遅らせる晩播
- 深耕25cmによる耕土の改善
- 排水対策の実施
- 播種前のフロンサイドSC処理


🔹 激発圃場での対策
- 5年間の麦種転換または休作
- 抵抗性品種への完全切り替え
- 土壌改良による排水性の向上
- 農機具の徹底した洗浄


多発条件下での試験では、播種時期を播種適期の晩限まで遅らせる晩播対策が、発病軽減および生育・収量の両面で最も効果が高いことが確認されています。抵抗性品種の利用も有効で、岡山県では1993年に抵抗性品種が二条オオムギの作付面積(3,006ha)の82%を占めるまで普及が進みました。


緑肥作物の活用も新しい対策として注目されています。イネ科緑肥作物の後作では縞萎縮病の発生が軽減される効果が報告されています。ポリミキサの休眠胞子から発芽した遊走子は、土壌中では短い期間しか生存できません。イネ科緑肥を栽培することで、遊走子を消耗させる「おとり作物」としての効果が期待できます。


発病圃場では、単一の対策に頼るのではなく、複数の防除手段を組み合わせた総合的な管理が成功への鍵となります。


オオムギ縞萎縮病の発生リスクを下げる圃場管理

オオムギ縞萎縮病の発生を未然に防ぐためには、長期的な視点での圃場管理が不可欠です。特に新規に麦類栽培を始める場合や、圃場を借り受ける場合には、事前の情報収集が重要になります。


まず圃場の発生履歴を確認することから始めましょう。前作や前々作でオオムギ縞萎縮病が発生していた圃場では、高確率で病原ウイルスが土壌中に残存しています。ポリミキサの休眠胞子は数年間生存するため、最低でも過去5年程度の栽培履歴と病害発生状況を把握しておくことが望ましいです。


土壌診断の実施も予防に役立ちます。土壌pHが6.5以上の圃場では発病が多い傾向があるため、土壌pHを測定し、必要に応じて調整することで発病リスクを下げられます。土壌pHの測定は、簡易測定キットを使えば自分でも行えます。農業協同組合や農業改良普及センターでは、詳細な土壌診断サービスも提供しています。


輪作体系の設計も長期的な防除戦略として有効です。麦類の連作は避け、イネ科以外の作物(大豆、野菜類など)を組み込んだ輪作を行うことで、ポリミキサの増殖を抑制できます。特に激発圃場では、5年程度麦類の作付けを休止することが推奨されます。この期間に他の作物を栽培することで、経営的なダメージも最小限に抑えられます。


圃場の排水性改善は、多くの土壌伝染性病害に共通する基本対策です。暗渠排水の整備、明渠の設置、畝立て栽培の導入などにより、過湿状態を回避します。排水不良の圃場では、感染期に土壌水分が高くなり、ポリミキサの活動が活発化します。湿気る場所から発生が始まることが多いため、圃場内の低湿部には特に注意が必要です。


有機物管理にも配慮しましょう。麦稈の未分解が発病を助長するという報告があります。前作の稲わらや麦稈は十分に腐熟させてから鋤き込むか、圃場外へ持ち出すことが望ましいです。未熟な有機物を大量に投入すると、土壌環境が悪化し、病害の発生を助長する可能性があります。


作業動線の管理も見落としがちですが重要です。発病圃場で使用した農機具や長靴には、病原菌を含む土壌が付着します。これを他の圃場に持ち込むことで、汚染が拡大します。発病圃場での作業は必ず最後に回し、作業後は農機具を高圧洗浄機でしっかり洗浄します。長靴も同様に洗浄し、可能であれば消毒液で処理すると安心です。


モニタリングの習慣化も大切です。早春(2~3月)に圃場を巡回し、黄白色のかすり状病斑がないか確認します。初期段階で発見できれば、翌年に向けた対策を早めに講じることができます。発病株を見つけた場合は、その位置をGPSやマーカーで記録しておくと、発生分布の把握に役立ちます。


圃場全体で発病が見られる場合は、抵抗性品種への切り替えや麦種転換を検討する段階です。逆に局所的な発生であれば、その部分の土壌改良や排水改善で対応できる可能性があります。適切な判断のためには、発生状況を正確に把握することが第一歩です。


地域の農業者との情報交換も有効な予防策です。近隣圃場での発生情報を共有することで、自分の圃場でのリスクを予測できます。地域全体で防除意識を高めることが、結果的に個々の圃場を守ることにつながります。




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