温室効果ガス削減の取り組みで日本の農業が変わる

日本の農業分野における温室効果ガス削減の取り組みとは何か?中干し延長によるJクレジット収入、みどりの食料システム戦略、補助金要件の変化など、農業者が今すぐ知っておくべき情報をわかりやすく解説します。あなたの農業経営はこの変化に対応できていますか?

温室効果ガス削減の取り組みで日本の農業が変わる

水田の中干しを1週間延ばすだけで、あなたは10haあたり最大31万円以上の収入を得られます。


🌱 この記事の3つのポイント
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Jクレジットで農家に新収入

水稲の中干し期間を延長するだけで、温室効果ガス削減量がクレジットとして認証され、10haあたり最大31万円超の収入になる可能性があります。

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2027年度から補助金の条件が変わる

農林水産省はすべての補助金に脱炭素対策のチェックシートを義務付ける方針。対策なしでは補助金が受け取れなくなる可能性があります。

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農業は日本の排出量の約3.9%を占める

農林水産分野の温室効果ガスは年間約4,747万トン(CO2換算)。稲作・家畜・農地土壌が主な排出源で、農業者自身の取り組みが問われています。

温室効果ガス削減:日本農業の排出実態と農業者が知るべき数字



日本の温室効果ガス総排出量のうち、農林水産分野が占める割合は約3.9%、CO2換算で年間約4,747万トンにのぼります。 一見「小さな割合」と思いがちですが、エネルギー部門や産業部門に次ぐ位置づけであり、決して無視できる数字ではありません。


参考)https://japr.or.jp/wp-content/uploads/shokucho-shi/56/shokucho_56-03_05.pdf


農業から排出される温室効果ガスの内訳を見ると、CO2が34.1%、メタン(CH4)が46.2%、亜酸化窒素(N2O)が19.7%と、半分近くがメタンで占められています。 メタンの温室効果はCO2の25倍、N2Oは実に298倍と言われています。 数字がイメージしにくければ、東京ドーム約1,000個分の面積の水田から、毎年1,195万トン(CO2換算)ものメタンが発生していると考えると実感しやすいでしょう。


つまり、農地そのものが排出源になっているということですね。


全世界に目を向けると、農業・林業・土地利用に起因する温室効果ガスは全体の約22%を占め、エネルギー部門(34%)、産業部門(24%)に次ぐ第3位です。 日本だけの問題ではなく、世界的な課題として農業者が巻き込まれている状況です。


参考)農業における脱炭素化:企業の取組みやTerrascopeの成…


農林水産省では2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化を目指す方針を打ち出しており、農業者はこの大きな流れの中にすでに立っています。


参考)農業のカーボンニュートラルに向けた取り組み〜持続可能な「食」…


農林水産省の農業と温室効果ガスに関する詳細データについては下記の公式資料で確認できます。


農林水産省:農業分野の温室効果ガス対策について(PDF)


温室効果ガス削減の取り組み:水稲農家が今すぐ始められるJクレジット制度

農業者にとって最も身近な取り組みの一つが、水稲栽培における中干し期間の延長によるJクレジット制度の活用です。 中干しとは水田の水を一時的に抜いて土を乾かす管理作業のことで、多くの稲作農家がすでに実施している慣行です。これを通常より1週間程度延長するだけで、水田から発生するメタンを大幅に削減できます。


参考)J−クレジット制度を活用した『水稲栽培の中干し期間延長』って…


削減量はクレジットとして国が認証し、企業に売却することで収入を得られます。


これは使えそうです。


具体的な収入の目安を見てみましょう。


参考)J-クレジット 水稲中干し期間の延長について |営農情報|農…


地域 10haあたりの参考収入(稲わらすき込み9割以上・2024年)
🌾 東北 158,400円〜316,800円
🌾 北陸(石川・富山・福井・新潟) 149,600円〜233,200円
🌾 北海道 88,000円〜299,200円
🌾 中国・四国 74,800円〜180,400円
🌾 関東(長野含む) 66,000円〜101,200円
🌾 東海・近畿 57,200円〜171,600円
🌾 九州・沖縄 44,000円〜70,400円

クレジット単価は相対取引で決まるため、地域や排水条件・施用有機物の量によって異なります。 近畿農政局の試算では、近畿の10haの水田で想定収入13万円(クレジット単価1万円/tCO2)というケースも公表されています。 この金額から取りまとめ事業者への手数料を差し引いた分が農家の実収入です。jacom+1
2023年度の実績では、全国で約4,600ヘクタールの水田がこの取り組みに参加しており、今後さらに面積が拡大する見込みです。 新しい収入源として注目度は高まっており、農協などの取りまとめ機関を通じた参加が一般的です。


参考)温室効果ガス削減 中干し延長でJクレジット、今後さらに広がる…


参考になる収入シミュレーションはこちらで試算できます。


井関農機:Jクレジット かんたん収入シミュレーション


温室効果ガス削減の補助金が2027年度から農業者全員に関係する理由

多くの農業者が「補助金はもらえれば得だが、環境対策は余裕があればやるもの」と考えているかもしれません。


しかし、その認識はもう通用しません。


農林水産省は2027年度を目標に、すべての補助金(3〜4兆円規模)の支給要件に脱炭素など地球環境対策を追加する方針を打ち出しました。 農薬の適正利用・燃料の節減・廃棄物削減などの具体的な対策を実施しているかどうかが、補助金受給の条件になります。


参考)農水省の全補助金、脱炭素を要件に 3兆〜4兆円規模 - 日本…


これは農業経営に直結する変化です。


さらに2024年度からは、各補助金の申請時に「環境対策チェックシート」の提出が段階的に義務付けられます。 事業実施後の報告書提出も求められ、実際にどのような環境対策が行われたかが審査対象になります。この仕組みは欧州の農業補助金制度を参考にしており、土壌保全やアニマルウェルフェアなど先進的な視点が取り入れられています。


参考)農水省が全補助金支給に脱炭素の要件:肥料・農薬・燃料・廃棄物…


補助金が条件付きになる前に、農薬・肥料の使用記録の整備や燃料消費量の把握を始めておくことが重要です。記録保管には農業専用の営農管理アプリ(例:農業日誌・GAPアシスト)を活用することで、チェックシート記入の手間が大幅に減ります。


農林水産省の全補助金への脱炭素要件導入に関するニュースはこちら。


日本経済新聞:農水省の全補助金、脱炭素を要件に 3兆〜4兆円規模


温室効果ガス削減の手段:バイオ炭・有機農業・みどりの食料システム戦略

中干し延長以外にも、農業者が取り組める温室効果ガス削減の手段は複数あります。農林水産省が推進する「みどりの食料システム戦略」は、2050年までに化学農薬の使用量50%低減・化学肥料使用量30%低減・有機農業面積を耕地面積の25%(100万ヘクタール)に拡大することを目標としています。


参考)農業脱炭素化の未来像:気候変動対策への挑戦と可能性


有機農業への転換を検討している農業者向けには、「みどりの食料システム戦略推進交付金」が用意されており、有機種苗の購入・土づくり・病害虫が発生しにくいほ場環境整備にかかる費用が支援されます。 慣行栽培から有機農業への転換初年度の農地が対象となるため、まず一部の農地で試験的に有機転換を始めるという進め方が現実的です。


参考)安城市/みどりの食料システム戦略推進交付金


もう一つ注目を集めているのがバイオ炭(バイオチャー)の農地施用です。バイオ炭とは農業残渣などを350℃超の温度で酸素を制限して加熱・炭化したもので、農地に散布すると分解されにくい状態の炭素が長期間土中に固定されます。 中国科学院の研究では、4年以上継続的に施用することで作物収量が平均10.8%増加し、メタン排出を13.5%、N2O排出を21.4%削減できるという結果が示されています。maff.go+1
収量アップとガス削減が同時に実現できる点が大きなポイントですね。


バイオ炭を農地に施用する場合には、農林水産省の「見える化」ツールを活用して削減量を算定し、Jクレジット認証に向けた手続きに進むことも可能です。


参考)農業からの温室効果ガスを削減する取組を「見える化」しています…


みどりの食料システム戦略の補助金詳細はこちら。


農業の税金Q&A:「みどりの食料システム戦略」と有機農業推進の補助金について


温室効果ガス削減の「見える化」:農業者が炭素クレジットを収入にする独自戦略

多くの農業者が知らないのは、温室効果ガスの削減量や吸収量を「Jクレジット」として売ることで、農業を「排出源」から「収入源」に転換できるという仕組みです。 これは環境への貢献が直接的な経営利益になるという点で、農業経営の発想そのものを変えます。


Jクレジット制度では、農業者が取り組める方法論として「水稲中干し期間の延長」以外にも拡大が続いています。 「肉用牛へのバイパスアミノ酸の給餌」が新たに方法論として加わるなど、畜産農家にも活用の機会が広がっています。


参考)https://www.env.go.jp/content/000209418.pdf


条件は整いつつあります。


一方で課題もあります。Jクレジットとして登録されている農業者の件数は現状25件と、まだ非常に少ない水準です。 これは裏を返せば、今から取り組む農業者には先行者メリットがあるということです。取りまとめ事業者を通じた集団申請が一般化しつつあり、農協や農業法人単位での参加が増えています。


農林水産省が提供している「温室効果ガス削減量の見える化ツール」では、コメ・トマトキュウリなどの品目ごとに削減量を簡易に算定できます。 自分の農場の取り組みがどの程度の削減に相当するかを可視化することが、クレジット化の第一歩です。


農業者が取り組む温室効果ガスの見える化と削減についての公式情報はこちら。


農林水産省:農業からの温室効果ガスを削減する取組を「見える化」しています
また、環境保全型農業を実践する農業者への直接支払い制度(環境保全型農業直接支払交付金)も、化学肥料・農薬の5割以上低減と組み合わせて活用できます。 脱炭素への取り組みを積み重ねることで、複数の支援制度を同時に活用できる農業経営へとシフトできます。


参考)環境保全型農業直接支払交付金:農林水産省





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