農業ハウス栽培において、植物の成長を劇的に変える要素の一つが「二酸化炭素(CO2)」です。植物は光合成によって成長しますが、その材料となるのが光、水、そして二酸化炭素です。通常の空気中の二酸化炭素濃度は約400ppmですが、密閉されたハウス内で作物が活発に光合成を行うと、午前中の早い段階でハウス内のCO2濃度は200ppm以下まで低下してしまうことがあります。これを「CO2飢餓」と呼びます。
この状態になると、どれだけ日当たりが良く、水や肥料を与えても、植物は光合成ができず成長が止まってしまいます。ここで二酸化炭素発生装置を用いて濃度を人工的に高めること(CO2施用)により、光合成の速度を最大化させることができます。一般的に、光飽和点が高いトマトやキュウリなどの果菜類では、CO2濃度を800ppm〜1500ppm程度まで高めることで、光合成速度が通常大気時の1.5倍〜2倍になり、収量が20〜30%増加することが多くの研究で実証されています。
参考)https://shizuoka-agri-lab.amebaownd.com/posts/40063012/
この効果は「リービッヒの最小律」で説明されます。植物の成長は、最も不足している要素(制限要因)によって決まるという法則です。冬場のハウス栽培では、温度や水は管理されていても、CO2が不足しているケースが非常に多く、ここを補うことが収量アップの最短ルートとなるのです。
岩手県農業研究センター:環境制御技術導入の手引き(CO2施用による増収効果について解説されています)
小型の二酸化炭素発生装置を選ぶ際、最も重要なのは「発生方式」と「ランニングコスト」のバランスです。主に以下の3つのタイプが主流ですが、それぞれの特徴を理解して自園に合ったものを選ぶ必要があります。
| 方式 | 特徴 | メリット | デメリット | ランニングコスト目安 |
|---|---|---|---|---|
| 燃焼式(灯油) | 専用の灯油ヒーターで燃焼させCO2と熱を発生 | ランニングコストが最も安い。暖房効果もある。 | 夏場は温度が上がりすぎるため使いにくい。水分も発生する。 | 約58円/kg-CO2 |
| 燃焼式(LPG/プロパン) | ガスを燃焼させるタイプ | 灯油より燃焼がクリーン(煤が出にくい)。制御が容易。 | 灯油より燃料代が高い。ガス配管工事が必要な場合がある。 | 約80〜100円/kg-CO2 |
| 生ガス式(液化炭酸) | ボンベから純粋なCO2を供給 | 熱が出ないため通年使用可能。制御が極めて正確。 | ランニングコストが最も高い。ボンベ交換の手間がある。 | 約120円/kg-CO2 |
小規模なハウスや個人の農家の場合、初期費用を抑えつつ冬場の暖房費も補助できる「灯油燃焼式」が人気です。灯油1リットルを燃焼させると、約2.5kgの二酸化炭素と、約1.1リットルの水蒸気が発生します。この水蒸気は冬場の乾燥防止には役立ちますが、多湿になりすぎると病気の原因になるため注意が必要です。
参考)https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/network/field-r6/documents/tomato.pdf
一方、春先や秋口など、ハウス内の温度を上げたくない時期にもCO2施用を行いたい場合は、熱を発生しない「生ガス式(液化炭酸ガスボンベ)」や、燃焼排ガスを冷却してから供給する高機能な小型装置が推奨されます。ランニングコストは高くなりますが、換気が必要な時期でも局所的に施用することで効率を高めることが可能です。
参考)炭酸ガス発生装置「燃焼式」と「液化炭酸ガス式」の違いとは?長…
施設園芸.com:炭酸ガス発生装置「燃焼式」と「液化炭酸ガス式」の違いとは
コスト削減のために二酸化炭素発生装置を「自作」しようと考える農家さんも少なくありません。DIYの方法としては、ドライアイスを設置する方法、イースト菌と砂糖水を発酵させる方法、石油ストーブや練炭を使用する方法などがインターネット上で散見されます。しかし、農業経営の視点で見ると、自作には見過ごせない重大なリスクが存在します。
開放型の石油ストーブなどを代用する場合、酸素不足により不完全燃焼が起きやすくなります。これにより発生する一酸化炭素は作業者の健康を害するだけでなく、同時に発生する「エチレンガス」が植物に深刻なダメージを与えます。トマトやキュウリはエチレンに敏感で、葉が垂れ下がったり、花が落ちたり、果実が早期に熟しすぎて腐敗するなどの「ガス障害」を引き起こします。
自作装置(特に発酵式やドライアイス)は、CO2の発生量を制御できません。夜間にCO2が出続けると、植物の呼吸を阻害し、徒長(ひょろひょろに伸びること)の原因になります。
簡易的な燃焼装置は、転倒防止機能や過熱防止センサーが不十分なことが多く、ハウス火災の原因となります。
これに対し、専用の小型製品を導入するメリットは「安全性」と「最適化」です。農業専用のCO2発生装置は、不完全燃焼防止装置や対震自動消火装置が標準装備されており、ハウス内のCO2濃度センサーと連動して、必要な時だけ必要な濃度(例:日中の光合成が盛んな時間帯に1000ppm維持など)を自動供給できます。結果として燃料の無駄がなくなり、ガス障害のリスクを回避できるため、長期的には製品導入の方が安上がりになるケースが多いのです。
イチゴテック:二酸化炭素発生装置なしでもハウスのCO2濃度を高める方法とリスク
小型の装置を導入しても、ただ漫然と稼働させるだけでは効果は半減します。最も効果的な使い方は、「いつ」「どこに」CO2を届けるかを理解することです。
植物が最も活発に光合成を行うのは、日の出から正午までの数時間です。特に、日の出直後の1〜2時間は、夜間の呼吸で溜まったCO2を一気に消費し、ハウス内の濃度が急激に下がります。このタイミング(日の出30分後〜)に合わせて施用を開始し、換気窓が開くまでの間、高濃度(600〜1000ppm)を維持するのが鉄則です。換気窓が開いてからは、外気と同じ400ppmを下回らないように「補償施用」を行うのがコストパフォーマンスの良い運用です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shita/24/2/24_110/_pdf
CO2は空気より重いため、単に放出しただけでは地面に溜まってしまいます。そこで推奨されるのが、穴の開いたビニールダクト(多孔ダクト)を使って、植物の群落内や株元に直接CO2を送り込む「局所施用」です。これにより、葉の裏にある気孔付近のCO2濃度を効率的に高めることができます。特に小型装置はパワーが限られるため、ハウス全体を満たすよりも、作物の周りだけを高濃度にするこの方法が非常に有効です。ファンを使って空気を撹拌し、温度ムラとCO2ムラを同時に解消することも重要です。
未来の農業:失敗しないビニールハウス建設・CO2施用装置の効率的な施用方法
多くの農家が「収量アップ(重量の増加)」を目的に二酸化炭素発生装置を導入しますが、実はそれ以上に経営にインパクトを与えるのが「品質の向上」と「病害抵抗性」という意外な副次効果です。これは検索上位の一般的な解説記事ではあまり深く触れられていない、現場レベルの重要な視点です。
光合成が促進されると、植物体内で生成される炭水化物(糖)の量が増加します。これにより、トマトやイチゴなどの果実の糖度が有意に上昇し、コクや深みのある味になります。実際にCO2施用を行ったイチゴは、無施用のものに比べてBrix糖度が1〜2度高くなるというデータもあり、高付加価値商品としての販売が可能になります。
光合成産物は果実だけでなく、植物体の構造維持にも使われます。十分なCO2を与えられた作物は、葉や茎の細胞壁が厚く強固になります。これにより、「うどんこ病」や「灰色かび病」などの菌糸が細胞内に侵入しにくくなり、結果として農薬の使用回数を減らせる可能性があります。葉が厚くなることで、害虫による食害への耐性も多少向上します。
細胞が緻密になることで、収穫後の実の締まりが良くなり、輸送中の傷みが減ったり、店頭での日持ち(シェルフライフ)が延びたりします。直売所出荷や通販を行う農家にとって、クレーム削減につながる大きなメリットと言えるでしょう。
単なる「量」の追求だけでなく、「味」や「強さ」を作るために小型CO2発生装置を活用する。この視点を持つことで、設備投資の回収期間は大幅に短縮されるはずです。
ニッポー株式会社:冬のハウス栽培は日射量に合わせた環境管理で光合成を最大に

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