クローラロボットが農業現場で選ばれる最大の理由は、タイヤ式(ホイール式)の機械では立ち往生してしまうような悪路でも走行できる「圧倒的な走破性」にあります。この走破性を支えているのが、クローラ特有の接地メカニズムです。
通常のタイヤは点で地面に接するため、車体の重量が一点に集中します。これに対し、クローラ(無限軌道)はベルト状の接地面全体で重量を分散させます。これを「接地圧」と言いますが、接地圧が低いほど、水分を含んだ柔らかい土壌や泥ねい地でも車体が沈み込みにくくなります。雨上がりの畑や、水田のあぜ道など、不安定な足場が多い日本の農業環境において、この特性は極めて重要です。
また、クローラロボットはその場での旋回(超信地旋回)が可能である点も、狭い農地での運用に適しています。左右のクローラを逆方向に回転させることで、車体の中心を軸に回転できるため、狭い畝(うね)の間やハウスの端でもスムーズに方向転換が行えます。
最新の自律走行型クローラロボットでは、これらの機械的な特性に加えて、高度なセンサー技術が組み込まれています。
これらの技術の組み合わせにより、「ただ走れる」だけでなく、「作物を踏まずに」「安全に」走行することが可能になっています。特に、車輪ではスリップして制御不能になりやすい泥地においても、クローラはグリップ力が強いため、自律走行プログラムが想定した通りの挙動を維持しやすいという制御上のメリットもあります。
農業におけるロボット技術の基礎と、移動ロボットが解決する課題については、以下のリンクが参考になります。
モバイルロボットがスマート農業においてどのように生産性や持続可能性の課題を解決しているかについての研究論文(英語PDF)
農業ロボットの種類や導入メリット、今後の課題までを網羅的に解説した記事
農業現場における最も過酷な作業の上位に挙げられるのが、「傾斜地での草刈り」と「収穫物の運搬」です。クローラロボットは、これらの作業を自動化・省力化する切り札として導入が進んでいます。
1. 傾斜地草刈りのリスク低減と効率化
中山間地域が多い日本では、棚田や果樹園の急な斜面での草刈りが必須です。従来の肩掛け式草刈機では、足元が滑って転落する事故のリスクが常にありました。
クローラ型の草刈りロボットは、低重心設計と高いグリップ力により、最大40度〜45度といった急斜面でも安定して作業が可能です。多くの機種はラジコン操作や自律走行に対応しており、作業者は平坦な安全な場所から操作するだけで済みます。
| 比較項目 | 手作業(刈払機) | クローラロボット草刈機 |
|---|---|---|
| 身体的負担 | 非常に重い(振動・重量・足場の悪さ) | 軽い(遠隔操作または監視のみ) |
| 安全性 | 転倒・刃の接触リスクあり | 人が斜面に立ち入らないため安全 |
| 作業効率 | 1日あたり数アールが限界 | 人手の数倍~十数倍の面積を処理可能 |
| 対応斜度 | 人が立てる範囲に限られる | 45度程度の急斜面も走行可能 |
2. 収穫・運搬作業の重労働からの解放
カボチャ、大根、キャベツなどの重量野菜や、果樹の収穫コンテナの運搬は、腰への負担が大きく、長年の作業で体を痛める農家が後を絶ちません。
「追従型」や「自律走行型」のクローラ運搬車は、収穫作業を行う人の後ろをついて回ったり、満載になったコンテナを自動で集荷場所まで運んだりします。これにより、人は「収穫する」という付加価値の高い作業に集中でき、単なる「移動」や「運搬」という非生産的な時間を削減できます。特にぬかるんだ畑では、手押しの運搬車(一輪車など)を押すこと自体が重労働ですが、クローラであればパワフルに走破してくれます。
ラジコン式草刈機がどのように急斜面での作業負担を軽減しているか、および運搬ロボットの事例については以下が参考になります。
最大傾斜45度でも安定して作業可能なラジコン草刈機「アラフォー傾子」の製品詳細
農業向け運搬ロボット「メカロン」や自律走行型草刈りロボットの販売・マーケティング事例
現在、クローラロボットの開発は、単なる「足回り」の提供から、AIと連携した「統合的な作業システム」へと進化しています。これを牽引しているのが、日本のスマート農業推進の動きです。
従来の開発は、大手農機メーカーが製造する大型のトラクターやコンバインのクローラ化が主流でした。しかし近年では、ベンチャー企業や大学発のスタートアップによる、小型・軽量で多機能なクローラロボットの開発が活発化しています。これらの新しいロボットは、以下のような特徴を持っています。
スマート農業への導入においては、RTK-GNSS(リアルタイムキネマティックGPS)基地局の整備も重要です。これにより、クローラロボットは数センチ以内の誤差で正確に畝(うね)の間を走行できるようになります。さらに、カメラで撮影した画像をAIが解析し、病害虫の発生箇所を特定してピンポイントで農薬を散布するといった高度な活用も実用化されつつあります。
スマート農業におけるロボット技術の全体像や、導入による具体的な経営上のメリットについては、以下の記事が詳しいです。
ロボット技術を農業に導入する4つのメリット(大規模化、省力化など)と最新技術
スマート農業の仕組みやメリット・デメリット、ICTとロボット技術の活用について
クローラロボットの導入を検討する際、最も気になるのが価格と選び方です。価格帯は機能によって大きく異なりますが、大まかな相場を理解しておくことが重要です。
価格帯の目安
選び方のポイント
実際に、農業大学校の学生や兼業農家のエンジニアが、これらの技術を使って「自動除草ロボット」や「自律運搬車」を試作する事例が増えています。すべてをメーカー製品に頼るのではなく、足回りだけを購入し、制御系はオープンソースを活用して自作するという「ハーフメイド」な導入スタイルは、今後の農業DXの隠れたトレンドになる可能性があります。
クローラユニットを使った開発事例や、ROS対応のプラットフォームについては以下のリンクが参考になります。
電動クローラユニット「CuGo」を使って移動ロボットを簡単に製作する事例
クローラロボット開発プラットフォームのROS2対応と不整地走行の強み
ROSと市販モジュールを使って農業用自動走行運搬車を自作する技術解説