カリの多い肥料を選ぶとき、まず「水に溶けやすい速効タイプ」か、「溶けにくい持続タイプ」かを押さえると失敗が減ります。加里肥料(単肥)は化学成分で塩化加里(塩化カリ)、硫酸加里(硫酸カリ)、けい酸加里(珪酸カリ)、硝酸加里、りん酸一加里などに分けられ、原料として化成肥料にも組み込まれます。
塩化カリは主成分が塩化カリウム(KCl)で、K2O換算で57~62%程度と濃く、加里肥料の中で生産量・流通量が大きい代表格です。
参考)https://www.mdpi.com/2073-4395/11/9/1735/pdf?version=1630560011
一方で塩素(Cl)を多量に含むことが前提なので、塩類アルカリ土壌では塩害を増強する恐れがあり、土壌・地域条件の確認が必要です。
作物側にも相性があります。塩化カリは繊維作物では繊維の質に良い方向に働く例がある一方、果物類では糖度低下や「薄い塩味」の食感につながり得ること、イモ類ではでん粉蓄積を妨げ収量・でん粉含量が低下し得ること、タバコでは燃焼性悪化が問題になり得ることが整理されています。
このあたりは「効く/効かない」ではなく、品質評価(糖度、でん粉、加工適性)まで含めた“出口”で判断するのが実務的です。
硫酸カリは主成分が硫酸カリウム(K2SO4)で、K2O換算で48~52%程度、さらに硫黄(S)も含むため「カリ+硫黄」を同時に入れたい場面で候補になります。
福島県の施肥基準の抜粋でも、カリ肥料(単肥)として塩化カリ・硫酸カリ・珪酸カリが挙げられ、畑では硫酸カリを施用するのが良い、と明記されています。
ただし硫酸カリは「生理的酸性肥料」で、硫酸イオンが土壌に残りやすく、長期施用で酸性化や硬化(硫酸カルシウム生成)リスクがあるため、必要に応じて熔燐や苦土石灰などの併用が必要とされています。
ここで意外と見落としやすいのが「水田での硫酸カリ」です。硫酸イオンが湛水下の嫌気環境で硫化水素に還元され、稲根の発育と吸収機能を阻害し得るため、水田での施用は避けた方がよい、と整理されています。
水田で“カリを入れたい”場合は、硫酸カリありきで考えず、圃場条件と肥料形態をセットで再検討するのが安全です。
参考リンク(加里肥料の種類、塩化カリと硫酸カリの特徴、作物適性や水田での注意点)
https://bsikagaku.jp/f-knowledge/knowledge64.pdf
カリの多い肥料は「入れたらすぐ効く」だけが正解ではありません。土壌が砂質で流亡(溶脱)が大きい圃場や、追肥回数を減らしたい経営では、持続性がある“く溶性”の選択肢が効いてきます。
珪酸カリ(けい酸加里)は、水に不溶で根酸や土壌中の酸で溶けて吸収される「く溶性肥料」という位置づけで、従来型の水溶性カリ肥料(塩化カリ、硫酸カリ)より流失が少なく、肥効が長い、施肥回数を減らせる可能性がある、とされています。
国内市販品の例としてはK2O20~21%程度に加え、可溶性ケイ酸やく溶性苦土も含む、と整理されており、カリだけでなく品質面(ケイ酸・苦土)も含めた設計ができます。
福島県の資料でも、珪酸カリは「比較的流亡しにくく電気伝導率(EC)を高めにくい」とされ、資材特性として土壌塩類化リスクの文脈で触れられています。
この「ECを上げにくい」は、速効性の塩類資材を連用した圃場で特に体感差が出やすく、単に“カリ%”だけを見る選び方から脱却するヒントになります。
一方で珪酸カリは、溶出に酸が必要なため弱酸性~微酸性土壌に最適で、アルカリ性土壌では肥効が落ちる恐れがある、とされています。
同じカリ補給でも、土壌pHのゾーンによって「速効を分施する」か「く溶性で基肥寄りにする」か、意思決定が変わります。
カリの多い肥料というと化成(塩化カリ・硫酸カリ)の話になりがちですが、現場では「有機質資材に含まれるカリ」の寄与が想像以上に大きいことがあります。特に堆肥や灰は、施肥設計で“カリを入れたつもりがないのに上がる”典型パターンの原因になります。
草木灰は植物残渣を燃やした灰で、水溶性の加里を含み、有機肥料として使われます。
強いアルカリ性(pH10.5以上)を示し、酸性土壌では基肥・追肥に使える一方、アルカリ性で発芽や初期生育を妨げるため種肥には不適、とされています。
さらに“意外な落とし穴”が、混用禁忌です。草木灰はアンモニア性窒素を含む肥料と反応してアンモニアを揮発させるなど悪影響があり、配合禁止と明記されています。
つまり、草木灰を「有機だから安全」「ゆっくり効くはず」と雑に扱うと、窒素ロスや初期障害という別の損失が出ます。
草木灰のK2O含有量は原料で大きく変わり、ワラや雑草由来で6~8%程度の例がある一方、植物系産業廃棄物由来の灰では14%を超えるものもある、とされています。
同じ“草木灰”という名前でも中身が別物になり得るため、資材ロットや原料由来の確認、少量での試験投入が現実的です。
また、福島県の資料では、家畜ふん堆肥はカリウム含量が高いことに触れつつ、堆肥施用区で土壌中の交換性カリ含量が増加した例が示されています。
堆肥は土づくりの基本技術であり、養分の持続供給や団粒化促進、微生物活性化にも寄与するとされますが、同時に「カリの上振れ要因」でもあるので、化成の追肥を入れる前に“堆肥由来カリを差し引く”発想が重要です。
カリの多い肥料で狙うのは「適正域に乗せる」ことで、過剰に振り切ることではありません。福島県の資料でも、野菜畑はカリウムが過剰傾向にあるため、土壌分析結果などで判断し、基準値を参考に適正施用する、と明確に書かれています。
同資料には普通畑土壌の交換性カリウム(K2O)基準値の例として、土壌区分(CEC)に応じて14~71mg/乾土100g、11~56mg/乾土100g、9~47mg/乾土100gの範囲が示されています。
つまり、同じ「カリ不足」に見えても、土壌タイプで“適正”の物差しが変わるので、数値の読み方が最初の分岐点になります。
過剰の問題は、単にECが上がるだけではありません。福島県の資料では、カリ過剰になるとカルシウム・マグネシウム欠乏を引き起こすおそれがあるので注意、と明記されています。
加えて、硫酸カリの解説でも、一度に多量施用すると作物の苦土吸収を妨げ、苦土欠乏を起こすので、施用量が多い場合は分施する、という実務上の注意が示されています。
欠乏側の考え方としては、カリは土壌中に総量としては多く存在しても、多くが鉱物中の不溶性形態で、植物が利用できる水溶性加里・イオン交換態加里は少ないため、外部から施用が必要になる、という整理が基本です。
この「総量はあるのに使えない」は、特に地力があるように見える圃場で起きやすく、葉色や草勢だけでは判断しづらいので、土壌診断に戻るのが結局早道になります。
参考リンク(カリ肥料の適正施用、交換性カリ基準値、塩化カリ・硫酸カリ・珪酸カリの性質比較、過剰でCa/Mg欠乏の注意)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/61240.pdf
カリの多い肥料の“独自視点”として、現場で効くのは「銘柄選び」より先に、圃場のKを“見える化して運用ルール化する”ことです。要するに、毎年の経験値を、交換性加里と資材投入履歴に紐づけて再現性を上げます。
福島県の資料では、土壌中の交換性カリ含量を高めることで(放射性セシウムの)吸収抑制につながる一方で、野菜畑のカリウムは過剰傾向であるため適正施用が必要、と相反する論点が同じページに並んでいます。
ここから学べるのは、「カリは多いほど良い」という単純な軸ではなく、“目的(品質・収量・リスク低減)に対してどこまで上げるか”を数字で管理する必要がある、という点です。
運用例(圃場ルール化のたたき台)
もう一つ、地味に効くのが「速効性=いつでも追肥で間に合う」という思い込みを捨てることです。珪酸カリは緩効性で基肥向き、追肥に使うなら早め、根の近辺など工夫が必要とされています。
この“タイミング設計”を押さえると、追肥回数や労力と、効きの安定性が同時に改善します。
最後に、資材選定のチェックリストを置きます(現場メモ用)