乾性油は、空気(酸素)に触れると酸化が進み、最終的に固化して膜を作りやすい油のことです。代表例として亜麻仁油が挙げられ、塗料・ワニスなどで知られます。乾く=水分が蒸発する、ではなく、油の成分が酸化して分子同士がつながり「重合」していくイメージです。
この“乾きやすさ”の目安として、油脂を分類する指標に「ヨウ素価」が使われます。一般的な区分では、ヨウ素価130以上が乾性油、100~130が半乾性油、100以下が不乾性油とされます。ヨウ素価は、油脂100gに付加できるヨウ素量(g)で、二重結合が多いほど数値が高くなり、酸化されやすい性質を表します。
農業の現場で重要なのは、乾性油の価値が「乾きやすい=酸化しやすい」という表裏一体の性質に支えられている点です。つまり、工業用途では“乾く”が武器になり、食用用途では“酸化しやすさ”が弱点になり得ます。用途に合わせ、原料品質・搾油方法・保管条件の設計が必要になります。
参考:乾性油の定義とヨウ素価の分類の根拠
乾性油とは/ヨウ素価の考え方(乾性油130以上など)
乾性油の“乾く性質”の中心にあるのが、不飽和脂肪酸、とくに二重結合が多い脂肪酸です。α-リノレン酸は二重結合を3つ持つn-3系脂肪酸で、油の酸化を受けやすい側面があります。日本植物油協会も、あまに油・しそ油(えごま油)にはα-リノレン酸が豊富だが、二重結合が多いため酸化しやすく、加熱調理に向かない・長期保存に耐えにくい点を注意として挙げています。
ここで農業従事者向けに整理すると、酸化の起点は「搾油後」だけではありません。収穫が遅れ、種子が雨に当たる、乾燥が長引く、貯蔵で温湿度管理が甘い、といった段階でも酸化や品質低下のリスクが積み上がります。乾性油の原料作物は、収穫適期と乾燥工程の組み立てが“品質の上限”を決めやすい作物群です。
また、食用としての品質を考えると、酸化は風味劣化だけでなく、用途(生食向け、加工向け、工業向け)を分ける判断材料にもなります。たとえば「生食用は鮮度・低温・遮光」「工業用途は乾きの設計(硬化・乾燥速度)」というように、同じ植物由来でも求める性質が逆方向になるケースがあります。
参考:α-リノレン酸が多い油は酸化しやすく、加熱や長期保存が難しい点
日本植物油協会:脂肪酸のはたらき(n-3系・酸化しやすさ)
乾性油の代表的な植物由来として、亜麻(アマ、flax/lineseed)は外せません。亜麻は工芸作物(繊維・油料)に分類され、亜麻仁油は印刷用インクやペイントの原料となり、搾りかす(搾粕)は飼料・肥料にする、と整理されています。つまり「油だけでなく副産物まで含めた利用設計」が可能な作物です。
栽培面では、亜麻は冷涼・湿潤な気候を好み、成熟期には降雨が少ない条件が理想とされています。さらに、分枝を抑える目的で窒素施肥を控えめにし、散播密植や密条播を行う、といった“作物の姿を作る管理”が記載されています。一方で過度の密植は倒伏を招き得るため、圃場の肥沃度・風当たり・倒伏リスクを見て密度を決める必要があります。
意外と見落とされがちなのが、乾性油作物では「倒伏→地際の蒸れ→カビ・発芽→脂質劣化」という連鎖が起きやすい点です。種子品質はタンパク作物以上に“収穫後の手当て”で差が出ます。乾性油の価値を最大化するなら、栽培暦と乾燥設備(乾燥温度、乾燥時間、送風量)の現実的な整合を先に作り、後から面積を伸ばすほうが失敗しにくいです。
参考:亜麻の作物特性(冷涼条件・密植と倒伏・用途:インク/ペイント、搾粕は飼料/肥料)
農研機構:作物見本園 アマ(作物的特徴・用途)
植物由来の乾性油として、えごま油も頻出です。えごま油はα-リノレン酸が多いことで知られ、酸化しやすいという前提に立つ必要があります。したがって、農業側が「栽培」だけでなく「加工・保存」まで一体で設計できるかが、収益性とクレーム率(風味劣化、えぐみ、におい)の分かれ目になります。
現場の運用としては、次のような“当たり前を徹底する”ほど効きます。特別な技術より、ミスが起きやすい点を潰すのが重要です。
✅酸化を遅らせる基本
・遮光(透明ボトルは不利になりやすい)
・低温(冷暗所、できれば温度変動が小さい場所)
・密栓(開封後のヘッドスペースが増えるほど酸化が進みやすい)
・小容量化(回転を上げて「開封後に使い切る設計」へ)
また、乾性油は“乾く性質”ゆえに、作業布やウエスに染み込むと酸化反応が進みやすいと語られる領域です。とくに搾油・瓶詰め・機械清掃の現場では、油の付いた布類の集積、通気、保管容器の扱いをルール化すると安全側に寄せられます。乾性油の価値を守ることは、同時に現場安全の品質でもあります。
さらに独自視点として、えごまは「地域資源化」との相性が強い作物です。遊休農地の活用や、搾油まで含めた一貫体制の事例が公的資料にも見られ、加工を地域内に置くほど付加価値が残りやすくなります。乾性油は“製品にした瞬間から劣化が始まる”ため、地域内加工でリードタイムを短くできること自体が品質戦略になります。
参考:遊休農地活用や栽培~加工・販売の一貫取組に触れた資料(地域づくり視点)
地域特産作物に関する資料(えごま栽培の取組例)