環状剥皮 根回し 方法と時期 移植成功の作業手順

樹木の移植を成功させるには環状剥皮と根回しが欠かせません。しかし、正しい手順や時期を知らないと、大切な樹木を枯らすリスクもあります。この記事では農業従事者向けに具体的な作業方法や注意点を解説します。

環状剥皮と根回しの基本

樹勢が弱った樹に環状剥皮すると枯れます


この記事のポイント
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環状剥皮と根回しの目的

移植前に太い根の樹皮を剥ぎ取り、細根の発生を促進する技術。移植後の活着率を大幅に向上させる

実施時期と養生期間

移植の半年から3年前に根回しを実施。樹齢が長いほど養生期間を長く設定する必要がある

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失敗を防ぐ注意点

剥皮幅15cm、形成層まで削る深さ、消毒と発根促進剤の塗布が重要。樹勢低下時は実施を避ける


環状剥皮と根回しが移植に必要な理由


樹木を移植する際、そのまま掘り起こして植え替えると活着率が極端に低下します。樹木は長年同じ場所で根を張り巡らせているため、太い根が広範囲に伸びており、移植時にはこれらの根を切断せざるを得ません。太い根だけでは水分や養分を十分に吸収できないため、移植後に枯れてしまうリスクが高いのです。


これを防ぐのが環状剥皮を伴う根回しです。移植予定の樹木の周囲を掘り、直径4cm以上の太い根に対して環状剥皮処理を施します。つまり、樹皮と形成層を幅15cm程度剥ぎ取る作業です。この処理により、剥皮した部分から細根が大量に発生します。細根は水分や養分の吸収を担う重要な器官であり、移植後の活着に直結します。


環状剥皮の仕組みは養分の流れを制限することにあります。樹皮の内側にある篩管(師管)は葉で作られた糖分などの養分を根へ送る役割を持ちますが、環状剥皮によってこの流れが遮断されると、養分が剥皮部分より上側に蓄積されます。すると植物は危機感から新たな根を作ろうとし、剥皮部分から細根が発生するのです。導管は残っているため、根からの水分供給は継続されます。


一般的に、根の直径の3倍から5倍の範囲を根鉢として確保し、その外側に伸びる太い根に環状剥皮を施します。支持根となる太い根は3方向または4方向に残し、バランスを保ちながら細根を増やすことが重要です。根回しをせずに移植すると、活着率が50%以下になることもありますが、適切な根回しを行えば90%以上の成功率が期待できます。


環状剥皮の具体的な作業手順と必要な道具

環状剥皮を行うには、まず樹木の周囲を掘り起こして根の状態を確認します。このとき地ゴテやバールを使い、根を傷つけないよう慎重に掘り進めます。掘削の深さは根鉢の大きさによりますが、通常は地表から30cm~50cm程度です。根鉢の外に伸びる直径4cm以上の太い根を見つけたら、それが環状剥皮の対象となります。


作業に必要な道具は鋭利なナイフ、小刀、またはカッターです。最近では専用の環状剥皮鎌や剥皮ナイフも市販されており、効率的に作業できます。環状剥皮鎌二枚刃は、2本の刃で一度に一定幅の樹皮を剥ぎ取れる構造になっています。プライヤー式の環状剥皮ばさみもあり、枝や細めの根に対して使いやすい工具です。


剥皮の手順は次の通りです。対象となる太い根の表面に刃を当て、樹皮と形成層を幅15cm程度剥ぎ取ります。深さは形成層まで達する必要がありますが、木部(導管がある部分)は傷つけないように注意します。形成層はやや湿った薄い層で、ナイフで削ると白っぽい色をしています。この層まできれいに削り取ることが発根促進の鍵です。


剥皮後はすぐに薬剤処理を行います。切り口の幹側の形成層部分にはβ-インドール酪酸タルク剤などの発根促進剤を塗布します。木部にはチオファネートメチルペースト剤または木工用ボンドを塗り、病原菌の侵入を防ぎます。剥皮部分が乾燥すると細根の発生が悪くなるため、水苔で包んで保湿することも有効です。その後、良質な完熟堆肥を混ぜた土で埋め戻し、根が新しく伸びるのを待ちます。


環状剥皮の実施時期と養生期間の設定

環状剥皮と根回しの時期は樹木の生育サイクルと密接に関係します。最適な時期は初春から春、または初秋から秋です。この時期は樹木が成長を止めて養分を貯え始める、あるいは成長を再開する直前にあたり、細根の発生が活発になります。具体的には2月から7月、9月から10月が作業に適した季節とされています。


逆に避けるべき時期は、樹木の成長が最も活発な4月から5月、7月から8月です。この時期は樹液の流れが盛んで、環状剥皮を行うと樹木が大きなダメージを受けやすくなります。新芽が伸びて固まる前の春先も移植を嫌う時期であり、根回しも控えるべきです。冬季は根の伸長が遅いため、細根の発生に時間がかかります。


養生期間は樹木の大きさと樹齢によって大きく異なります。若木や小さな樹木であれば、根回し後3ヶ月から4ヶ月で移植可能になります。一方、大きな樹木や樹齢の長い樹木は6ヶ月から1年、場合によっては2年から3年の養生期間が必要です。貴重な樹木や古木の場合は、根回しから2年以上待つことで安全性が高まります。


養生期間が短すぎると細根の発生が不十分で、移植後に枯れる可能性が高まります。目安として、根回しした部分から白い新しい細根が十分に確認できるまで待つことが大切です。また、移植時期も重要で、常緑樹は芽の動き出す前の3月下旬から4月上旬、落葉樹は落葉期の11月から3月が適しています。根回し時期と移植時期を逆算して計画することが、移植成功の鍵となります。


環状剥皮で失敗しないための注意点とリスク管理

環状剥皮は強力な技術ですが、使い方を誤ると樹木を枯らす危険があります。最も重要な注意点は、樹勢が低下している樹木には絶対に環状剥皮を行わないことです。環状剥皮は養分の流れを遮断するため、もともと栄養分が少ない状態の樹木に施すと、樹が一気に衰弱して枯死する可能性があります。葉の色が悪い、枝の伸びが悪い、病害虫の被害を受けているなどの症状がある場合は、まず樹勢回復を優先します。


剥皮幅と深さの管理も失敗を防ぐポイントです。剥皮幅が狭すぎると発根が不十分になり、広すぎると樹木が過度に衰弱します。


標準的な幅15cmを守ることが基本です。


深さに関しては、形成層まで確実に削り取る必要がありますが、木部の導管を傷つけると水分供給が途絶えて枯れます。鋭利な刃物を使い、慎重に作業することが求められます。


同じ樹木に対して環状剥皮を複数回行う場合は、最低20日以上の間隔を空けることが原則です。短期間に連続して処理すると樹木の負担が大きく、回復できなくなります。また、主幹部に環状剥皮を施す際は、上から下へ順番に実施します。一度に多くの場所を剥皮すると、樹木全体の養分供給が崩れるためです。


環状剥皮後の管理も重要です。剥皮部分が乾燥すると発根が悪くなるため、水苔で保湿するか、定期的に水やりを行います。ただし過湿も病原菌の繁殖を招くため、適度な湿度を保つバランス感覚が必要です。発根促進剤と消毒剤の塗布を怠ると、発根不良や病気のリスクが高まります。特に切り口からの病原菌侵入は樹木の枯死に直結するため、必ず薬剤処理を行いましょう。


養生期間中は樹木の状態を定期的に観察します。葉の色や枝の伸び具合をチェックし、異常があればすぐに対応します。養生期間が3年程度取れない場合は、根回しを行わずに十分な根鉢をとって直接移植する方が活着がよい場合もあります。状況に応じて柔軟に判断することが、樹木を守る上で重要です。


環状剥皮が適用できる樹種と特別な配慮が必要なケース

環状剥皮は多くの樹種に適用できる技術ですが、樹種によって反応や適性が異なります。一般的に落葉樹は環状剥皮に対する耐性が高く、モミジ、サクラ、ウメなどの庭木では広く実践されています。モミジは根上がり樹形を作る際にも環状剥皮が用いられ、発根促進効果が高い樹種です。サクラも移植前の根回しに環状剥皮を活用できますが、樹勢が弱りやすいため慎重な管理が求められます。


常緑樹の中では、マツ類への適用には特別な配慮が必要です。マツは菌根菌と共生関係にあり、根の構造が他の樹種と異なります。外国産マツの根回しでは環状剥皮法が採用されていますが、発根促進剤の選定や菌根菌の維持に注意が必要です。ゴヨウマツなどの高価な盆栽用樹種では、半周ずつ段階的に環状剥皮を行い、リスクを分散させる方法もあります。


果樹への環状剥皮は、移植目的だけでなく果実品質向上にも使われます。ブドウ、カキ、キウイフルーツなどでは、枝や主幹に環状剥皮を施すことで糖度向上、着色促進、果粒肥大の効果が得られます。ただし、果樹への環状剥皮は樹勢を低下させる側面もあるため、着果過多の状態では実施を避け、適正な摘果を行った上で処理します。


樹齢が非常に長い古木や天然記念物級の貴重な樹木に対しては、環状剥皮のリスクを慎重に評価する必要があります。このような樹木は一度失敗すると取り返しがつかないため、樹木医などの専門家に相談することをおすすめします。特に根系が衰えている古木では、環状剥皮を行わずに十分な根鉢を確保して移植する方が安全な場合もあります。


また、環状剥皮は木を枯らす技術としても知られています。巻き枯らしという方法では、伐採したい樹木の幹を一周環状に剥皮し、1年から2年かけて枯らします。移植目的の環状剥皮とは剥皮の幅や位置が異なりますが、原理は同じです。誤って移植目的でない場所に環状剥皮を施すと、樹木が枯れる恐れがあるため、作業前に目的と対象を明確にしておくことが大切です。


環状剥皮と根回しは、正しい知識と技術があれば樹木の移植成功率を大幅に高める強力な手法です。実施時期、剥皮幅、養生期間、樹勢の確認など、各ステップを確実に守ることで、大切な樹木を安全に移植できます。


日本緑化センターの技術資料には環状剥皮の詳細な手順と図解が掲載されています




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