フェイクミート(代替肉)は、「植物由来で健康的」「環境に優しい」というイメージで語られることが多いですが、その製造工程や栄養素を詳細に分析すると、必ずしも手放しで推奨できるものではないことが分かってきました。特に、農業の現場を知る私たちにとっては、その原材料がどのように生産され、どのように加工されているのかというプロセスは無視できない要素です。
結論から言えば、市販されている多くのフェイクミートは、高度に加工された「超加工食品(ウルトラ・プロセス・フード)」に分類される可能性が高く、無批判に摂取することは体に悪い影響を与える懸念があります。本物の肉のような食感や風味を再現するためには、単純な植物タンパク質だけでは不十分であり、必然的に多くの工程と添加物が必要になるからです。
最新の研究では、植物由来であっても高度に加工された食品の摂取は、心血管疾患のリスクを高める可能性があることが示唆されています。また、原材料である大豆の処理に使われる化学溶剤や、輸入原料の残留農薬の問題など、見過ごされがちなリスクも存在します。この記事では、表面的な「エコ・健康」というイメージの裏側にある、具体的な懸念点を深堀りしていきます。
フェイクミートが「体に悪い」と言われる最大の理由は、その製造過程で使用される食品添加物の多さと、味付けのための塩分量の多さにあります。植物性タンパク質(主に大豆やエンドウ豆)を、牛肉や豚肉のような繊維感、色、味に近づけるという行為は、食品工学的には非常に高度な加工を意味します。
まず、食感を似せるために使用されるのが「結着剤」や「増粘安定剤」です。メチルセルロースなどの成分は、植物性のパテが焼いたときに崩れないようにするために不可欠ですが、これらは家庭のキッチンには存在しない工業的な成分です。また、肉特有の赤みを出すために、着色料(カラメル色素や赤色野菜の色素など)が使用されますが、一部のカラメル色素には発がん性が疑われる副生成物が含まれる可能性があることは、食品業界では知られた事実です。
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さらに懸念されるのが「塩分」です。大豆特有の青臭さ(ビーニー・フレーバー)をマスキングし、肉のような旨味を感じさせるために、大量の塩分と調味料、そして「香料」が投入されます。以下は、一般的なフェイクミートと精肉の比較例です。
Plant-based UPFs linked with higher risk of cardiovascular disease - Imperial College London
参考:インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究では、植物性であっても超加工食品(UPF)の摂取は心血管疾患のリスク上昇と関連していると指摘しています。
また、添加物の「複合摂取(カクテル効果)」についても考慮する必要があります。一つ一つの添加物が基準値以下であっても、保存料(ソルビン酸など)と発色剤などの組み合わせによっては、体内で化学反応を起こし、予期せぬ毒性を発揮する「相乗毒性」の懸念も一部で指摘されています。特に、長期間にわたってこれらを主食として摂取し続けた場合の人体への影響については、歴史が浅いために十分な疫学データが揃っていないのが現状です。
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フェイクミートの主原料として最も多く使われているのが大豆ですが、ここで使われているのは、私たちが普段目にする「丸大豆」ではなく、「脱脂加工大豆」であるケースが大半です。この脱脂加工大豆がどのように作られているかを知ることは、安全性を考える上で極めて重要です。
大豆から油を搾り取る際、効率を最大化するために「ヘキサン(ノルマルヘキサン)」という石油由来の化学溶剤が使用されることが一般的です。ヘキサンは大豆をドロドロに溶かし、油分を抽出した後に加熱して揮発させますが、これはガソリンに近い成分を持つ劇薬です。
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日本の食品衛生法では、ヘキサンは最終製品に残存しないことを条件に使用が認められており、建前上は「加工助剤」として表示義務もありません。しかし、残留が「ゼロ」であると完全に証明することは難しく、また、高温処理によってタンパク質が変性したり、微量栄養素が失われたりする可能性もあります。
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さらに、原材料の大豆そのものに対する懸念もあります。日本国内で流通するフェイクミートの多くは、安価な輸入大豆を使用している可能性があります。米国やブラジルなどの大規模農業地帯で生産される大豆は、遺伝子組み換え(GMO)作物である比率が高く、さらに収穫直前に除草剤を散布して乾燥させる「プレハーベスト処理」が行われている場合があります。これにより、発がん性が疑われる除草剤成分(グリホサートなど)が豆に残留しているリスクは、国産大豆に比べて格段に高くなります。
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農業従事者であれば、作物の生育過程でどれだけの農薬が使われているか肌感覚で理解できると思いますが、加工食品になってしまうと、その「トレーサビリティ(追跡可能性)」は極めて不透明になります。「植物性だから安心」というキャッチコピーの裏で、どのような品質の大豆が、どのような薬剤を使って処理されたのかが見えなくなっているのが、現在のフェイクミートの大きな問題点です。
栄養学的な観点から見ても、フェイクミートが本物の肉の完全な代替になるかというと、多くの疑問符がつきます。確かにカロリーや脂質を抑えることができる製品もありますが、同時に失われている重要な栄養素が存在します。
特に決定的な違いは「タンパク質の質」と「微量栄養素の吸収率」です。肉に含まれる動物性タンパク質は、必須アミノ酸をバランスよく含み、「アミノ酸スコア100」であることが多いですが、植物性タンパク質は一部のアミノ酸が不足しがちです。もちろん、分離大豆タンパクなどを使用することでスコアを改善している製品もありますが、それはあくまで工業的な調整の結果です。
また、ミネラルの吸収率には大きな差があります。
さらに、最新の研究では「超加工食品」としてのフェイクミートの健康リスクが浮き彫りになっています。ブラジルのサンパウロ大学などが参加した研究チームの報告によると、植物由来の食品であっても、高度に加工されたものを摂取した場合、心血管疾患のリスクが7%増加するというデータが示されました。これは、「何を食べるか(肉か植物か)」だけでなく、「どのように加工されているか」が健康にとって極めて重要であることを示唆しています。
参考)Plant-based UPFs linked with h…
Are novel plant-based meat alternatives the healthier choice? - ScienceDirect
参考:こちらの論文では、従来の赤身肉を健康的な植物性食品(全粒穀物や豆類など)に置き換えることは有益だが、新規の代替肉製品が必ずしも健康的であるとは限らないという議論がなされています。
一方で、本物の肉(特に牧草飼育されたグラスフェッドビーフなど)には、共役リノール酸(CLA)やオメガ3脂肪酸など、自然の生体濃縮によって得られる有益な脂質が含まれています。フェイクミートでは、ココナッツオイルやパーム油などを添加して脂質を補いますが、これらは飽和脂肪酸が多く、肉の脂質とは構成が異なります。「脂質ゼロ=健康」ではなく、質の良い脂質を摂ることが重要視される現代の栄養学において、フェイクミートの脂質組成は必ずしも理想的とは言えません。
ここからは、少し視点を変えて、私たち農業従事者だからこそ気づく「フェイクミートの環境負荷」という独自視点について触れたいと思います。一般的にフェイクミートは「畜産よりもCO2排出量が少なく、環境に優しい」と宣伝されます。しかし、これはあくまで一面的なデータに過ぎません。
フェイクミートの大量生産を支えているのは、巨大な「単一耕作(モノカルチャー)」による大豆やトウモロコシの生産です。広大な土地で単一の作物を育て続ける農業は、土壌の微生物多様性を破壊し、地力を著しく低下させます。その結果、化学肥料と農薬への依存度が年々高まっていくという悪循環を生んでいます。これは「持続可能(サステナブル)」とは対極にある農業形態です。
一方、適切な管理下で行われる畜産、特に「再生型農業(リジェネラティブ・アグリカルチャー)」における放牧は、土壌を回復させる機能を持っています。家畜が草を食べ、排泄物が堆肥となって土に還るサイクルは、化学肥料を使わずに炭素を土壌に固定(カーボンセクエストレーション)する最も有効な手段の一つです。
日本の農業においても、水田の有効活用として飼料用米を育て、それを家畜に与える「耕畜連携」は重要なテーマです。もし世界が極端に「脱・畜産」へ舵を切り、フェイクミート一色になれば、こうした循環システムが崩壊し、かえって化学肥料に依存した不安定な食料生産体制を招く恐れがあります。
また、「大豆ミート」の原料が輸入大豆である場合、輸送にかかるマイレージ(フードマイレージ)も無視できません。地元の畜産農家が育てた肉を地産地消で食べるのと、海外で大規模栽培され、化学溶剤で抽出され、様々な添加物を加えて成形されたフェイクミートを輸入して食べるのと、どちらが本当に環境負荷が低いのか。私たち生産者は、安易なイメージ戦略に流されず、その実態を見極める必要があります。
ここまでフェイクミートのリスクについて解説してきましたが、すべての植物性代替肉が「悪」というわけではありません。健康的に取り入れるための「選び方」には明確な基準があります。重要なのは、食品表示ラベルを読み解く力です。
1. 原材料名のシンプルさを確認する
最も簡単な判断基準は、原材料の数です。「大豆、塩、にがり」のように、家庭にある食材だけで構成されているものは安心です。逆に、原材料表示の「/(スラッシュ)」以降に、保存料、結着剤、pH調整剤、香料、着色料などがズラリと並んでいる製品は避けるべきです。これらは「超加工食品」の典型です。
2. 「クリーンラベル」の製品を選ぶ
最近では、ヘキサン抽出を行わない「圧搾法」の大豆や、遺伝子組み換えでない国産大豆を使用した製品も増えています。また、添加物を使わずに、こんにゃくやキノコなどの自然素材で食感を工夫しているメーカーもあります。こうした情報はパッケージや公式サイトで必ずアピールされていますので、価格だけで選ばず、製法を確認しましょう。
3. 日本の伝統的な「代替肉」を見直す
実は、日本には古来より優秀なフェイクミートが存在します。「高野豆腐」や「がんもどき」、精進料理の「もどき料理」です。これらは長い食文化の中で安全性が確認されており、タンパク質源としても優秀です。最新のテック系フェイクミートに飛びつく前に、こうした伝統食材の価値を再評価することも、健康を守る一つの手段です。
4. 栄養成分表示の「塩分相当量」をチェックする
パッケージ裏面の栄養成分表示を見て、1食あたりの塩分相当量が多すぎないか(例えば1食で2.5g以上など)を確認してください。味が濃く作られているフェイクミートは、主食として頻繁に食べると塩分過多になり、高血圧のリスクを高めます。
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 - 厚生労働省
参考:食品添加物や残留農薬の基準については、厚生労働省の審議会資料などで最新の規制状況を確認することができますが、規制値内であっても「長期的な複合摂取」のリスクは個人の判断に委ねられています。
フェイクミートは、あくまで「嗜好品」や「たまの選択肢」として楽しむ分には問題ないかもしれませんが、日々のタンパク源として無条件に置き換えることには慎重であるべきです。私たち農業従事者は、「作物が本来持つ力」を知っています。過度に加工された食品よりも、できるだけ素材に近い形のものを食べることが、結局は一番の健康法であるという基本に立ち返るべきではないでしょうか。