結着剤は、肉同士を結びつけ、水分を固定する食品添加物です。ハンバーグを作る際に使う卵が天然の結着剤と言えるように、食肉加工においても同様の「つなぎ」としての機能を果たします。ハムやソーセージの製造では、結着剤により冷凍・解凍時の品質変化を防ぎ、塩の結晶が出てくるのを防ぐ効果も得られます。
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食肉製品の製造において、結着剤は保水性と結着性という重要な加工特性を向上させます。加熱によって失われてしまう肉の水分を保持することで、食感のパサつきを抑え、ジューシーな仕上がりを実現できます。サイコロステーキやハムなど、きれいに丸く成型された製品は、肉を集めて結着剤で形を整えたものです。
参考)https://www.itoham.co.jp/contact/faq.html
農業従事者が食肉加工事業を展開する場合、結着剤の理解は不可欠です。端材や規格外の肉を有効活用し、付加価値の高い加工品を製造できるためです。結着剤を使用すると、水分保持の作用が働き、肉に含まれる水分が流出しないため、加熱後もパサパサとした食感になりません。
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食肉加工で最も一般的に使われる結着剤はリン酸塩です。リン酸塩(リン酸ナトリウム)は、ハムやソーセージなどの食肉製品で主に使用され、肉の結着性と保水性を向上させる効果があります。リン酸塩を添加することで肉の保水性は増大しますが、肉の種類によって効果は異なり、加熱温度が高くなると保水効果は減少します。
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トランスグルタミナーゼは酵素系の結着剤で、小さな肉片をつなぎ合わせて大きな肉片にするために使用されます。宮崎県の研究では、地鶏胸肉を成形する結着剤として、従来使用されているリン酸塩と比較して、トランスグルタミナーゼ製剤は同程度の強度を示しました。トランスグルタミナーゼは重合リン酸塩の代替または低減可能な食品添加物として、農林物資規格調査会でも認められています。
参考)食品安全関係情報詳細
リン酸塩とトランスグルタミナーゼには構造的に異なる結着メカニズムがあります。リン酸塩は接着剤としての効果が非常に高い一方、トランスグルタミナーゼは高価という特徴があります。結着補強剤としてリン酸塩以外に、大豆たんぱく、乳たんぱく、卵たんぱく、でんぷんなども結着剤の代わりや補強役としてよく利用されます。
参考)https://www.iri.pref.miyazaki.jp/pdf/H12/h12027.pdf
日本食肉加工協会の食肉加工品の知識(PDF)では、結着剤を含む食品添加物の使用方法が詳しく解説されています
成形肉は、結着効果のある食品添加物により結着成形された肉のことで、カゼインNa、増粘剤、リン酸Na、トレハロース、マルトースなどが使用されます。成形肉の製造では、肉片に結着剤を注入し圧力をかけて結合させるインジェクション法が代表的で、この方法は肉の食感を比較的保持しやすく均一な仕上がりが得られます。
参考)http://www.green.dti.ne.jp/food_safe/seikei.htm
具体的な成形技術として、牛横隔膜を数枚重ね、上部にだけ脂身を結着剤でくっつけてステーキにする方法があります。この際、酵素添加物を使用して柔らかくし、保水性を向上させる植物たんぱくでジューシーさをプラスすることも可能です。焼肉用の牛タンや豚タンでは、薄い側を折り返して結着剤でくっつけ、スライスしたときに大きさがあまり変わらないように成型する技術も使われています。
農業従事者が自家生産の食肉を加工する場合、正肉と端肉を混合して結着剤でくっつけ、サイコロステーキなどに加工できます。端肉は結着力が非常に弱いため、結着剤や増粘剤を添加して調整する必要があります。山口県畜産試験場の研究では、原料に冷凍肉を使う場合は結着剤が必要であり、モモ肉が最も結着性に優れ、くび肉やすね肉はやや劣ることが報告されています。
参考)https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/61581.pdf
結着剤として使用されるリン酸塩には、過剰摂取によるリスクが指摘されています。リン酸塩の過剰摂取はカルシウムの吸収を妨げ、骨粗しょう症等を引き起こす可能性があります。ただし、ウインナーに含まれる食品添加物は厚生労働省に安全性が認められており、適量の使用であれば健康影響の心配はありません。
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成形肉の製造には、結着剤として卵や大豆などのアレルゲンを使用することがあるため、アレルギーを持っている方は特に注意が必要です。大豆や卵白、乳たんぱくや脂肪、油脂などが混ぜ物として使われることがあり、これらのアレルギーを持っている人が口にした場合は命にかかわる危険性もあります。購入する際は必ず食品表示を確認し、どんな原材料や添加物が使われているかチェックすることが重要です。
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成形肉は食中毒のリスクが通常の肉より高いという特徴があります。O157の菌は肉の表面についていますが、インジェクションや筋切りの加工処理をすると、菌が肉の中まで入り込んでしまいます。そのため、成形肉は均一に加熱しないと中が生のままになることがあり、中心までしっかり加熱する必要があります。焼き加減が甘いと食中毒の原因となるため、家庭で筋切りした場合も同様の注意が必要です。
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農業従事者が食肉加工に取り組む場合、結着剤を活用することで規格外や端材を有効活用し、収益性を高めることができます。地域の畜産物を使った加工品開発では、トランスグルタミナーゼ製剤のような天然添加物を使用することで、付加価値の高い商品を作れます。宮崎県の地鶏加工の研究事例では、胸肉の形状を改善するためにトランスグルタミナーゼ製剤を使用した結着が試みられ、良好な結果が得られました。
参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030835311.pdf
小規模な食肉加工事業では、重合リン酸塩を使用しないハムの製造も可能です。トランスグルタミナーゼ製剤を使用することで、リン酸塩に頼らない結着性向上が実現でき、インジェクション使用も可能になります。生活クラブ生協の事例では、亜硝酸ナトリウムの発がんリスクを考慮し、無塩せきの食肉加工品製造に44年間取り組んでいます。このような差別化戦略は、健康志向の消費者をターゲットにした販路開拓に有効です。
参考)「業界常識」にあらがい続けて44年│生活クラブ生協連合会 ニ…
農業従事者が結着剤を選択する際は、コストと品質のバランスが重要です。トランスグルタミナーゼは高価ですが、リン酸塩の代替として使用することで健康志向の商品を開発できます。一方、リン酸塩は接着剤としての効果が非常に高く、コスト面でも有利です。使用する食肉の品質(等級の高低)に関わらず、適切な結着剤の選択により軟らかな食感を提供できるため、商品開発の選択肢が広がります。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2014207887A/ja
結着剤の効果を最大化するには、肉の種類や加工条件への理解が必要です。研究データによれば、結着性はモモ肉が最も優れ、くび肉やすね肉はやや劣ります。また、加熱温度が高くなると保水効果は減少するため、製造工程における温度管理が品質に大きく影響します。これらの科学的知見を活かすことで、安定した品質の加工品を製造できます。
参考)肉の保水性に関する研究
農林水産省のハム・ソーセージ製造に関する記事では、結着剤を使わない製造方法についても紹介されています
| 結着剤の種類 | メリット | デメリット | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| リン酸塩 | 結着力が強く、コストが安い | 過剰摂取でカルシウム吸収阻害 | ハム、ソーセージ、成形肉 |
| トランスグルタミナーゼ | 天然酵素で健康イメージが良い | 高価、使用技術が必要 | 高付加価値商品、リン酸塩代替 |
| 植物性たんぱく | 天然素材、増量効果もある | 結着力は比較的弱い | 補助的使用、コスト削減 |