畜産物とは、牛・豚・鶏などの家畜や家禽から生産されるもの全般を指し、肉・乳・卵だけでなく、その加工品や脂肪も含めた広い概念とされています。
毛・皮革・骨・羽毛・血液・臓器といった工業原料や薬品原料、さらには糞尿などの肥料原料までが畜産物に含まれ、食卓に上る食品を超えて生活全体を支える素材群になっています。
日本食肉消費総合センターの解説では、畜産物を牛乳・卵・羊毛などの「直接生産物」と、と畜後に得られる食肉や副産物などの「と体生産物」に大別しており、現場での管理ポイントもこの区分を意識すると整理しやすくなります。
畜産物の定義を押さえる際、しばしば見落とされるのが「家畜の仕事」そのものです。
農業史的には、牛馬の使役力(耕起・運搬など)も畜産から得られるサービスとして扱われており、現代でも観光牧場や乗馬、アニマルセラピーなど「サービス型の畜産物」をどう評価・収益化するかが、新しい議論のテーマになりつつあります。
参考)畜産 - Wikipedia
畜産物のうち、もっとも身近なのが食肉(牛肉・豚肉・鶏肉・羊肉など)、牛乳や乳製品、鶏卵に代表される「食用畜産物」で、日本の食料供給のタンパク質源として重要な位置を占めています。
一方で、カイコガから得られる絹糸や、セイヨウミツバチから得られる蜂蜜なども畜産物とされ、繊維原料や甘味料・加工原料として、農家にとっては「異なる市場につながる畜産物」としてユニークな存在です。
あまり知られていませんが、畜産物の分類を家畜・用途ごとに整理すると、次のような広がりが見えてきます。
参考)家畜の畜産物の分類(肉・乳・毛皮・使役など) - 地理ラボ …
近年は、牛や豚の骨・皮・結合組織から抽出したコラーゲンやゼラチンが、機能性食品や化粧品、医療用途(カプセル材など)に広く利用されており、「食べる畜産物」と「化粧する畜産物」「治療に使う畜産物」が一本の線でつながるようになっています。
参考)https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kiroku/2-0202.pdf
農林水産省の「畜産加工品」に関する資料では、日本各地のハム・ソーセージ、ヨーグルト、蜂蜜などが伝統食文化の担い手として紹介されており、地域ブランド化や観光との連携という意味で、畜産物が持つポテンシャルはまだ掘り起こし余地が大きいといえます。
参考)畜産加工品
牛乳・食肉・卵といった畜産物は、良質なタンパク質に加え、脂質・ミネラル・ビタミンをバランスよく含み、人の健康維持にとって欠かせない栄養源と位置づけられています。
特に乳製品は、カルシウムの供給源として吸収率に優れており、ヨーグルトなどの発酵乳は腸内環境を整えるプロバイオティクス効果も期待されるなど、単なるエネルギー源を超えた機能性が評価されています。
一方で、畜産物はアレルギーやアトピー性皮膚炎などの原因になることもあり、「畜産物は不健康」という極端なイメージが広がりがちですが、科学的な報告では、適正量の摂取が健康に寄与するという見解が示されています。
例えば、肉や乳脂肪に含まれる飽和脂肪酸は動脈硬化と結びつけて語られることが多いものの、牛脂・豚脂には血清脂質改善作用が期待されるオレイン酸なども含まれており、「どの脂を、どれくらい、何と組み合わせて食べるか」という文脈で捉えることが重要とされています。
農業者の立場から見ると、「健康リスクがあるから畜産物は悪」と単純化せず、栄養バランスや適正摂取の情報をセットで伝えることで、自分たちの畜産物の価値を正しく理解してもらうことができます。
例えば、赤身肉に含まれる鉄やビタミンB群、卵に含まれるビタミンA・ビタミンDなどを具体的に示し、「週〇回・一食あたり〇グラム」といった目安とともに発信することは、地域住民の健康づくりと畜産物消費の両方にプラスにはたらきます。
日本の畜産物需要量は、食肉・牛乳・鶏卵ともおおむね増加・高止まり傾向にあり、直近の統計では食肉の国内消費仕向量が年およそ650万トン規模で推移しています。
食肉生産量は約350万トンで、牛肉・豚肉・鶏肉が三本柱となっており、重量ベースの自給率は50%前後、牛肉に限ると3〜4割程度と報告され、輸入への依存と国内生産維持のバランスが政策上の大きなテーマになっています。
畜産統計調査では、乳用牛・肉用牛・豚・採卵鶏・ブロイラーなどの飼養戸数・頭羽数が詳細に公表されており、長期的には戸数の減少と一戸あたり頭数の増加、つまり「少数大規模化」の流れが鮮明です。
参考)http://aafs.or.jp/books/ISBN978-4-541-04326-9.html
この構造変化は、経営の効率化やスマート畜産技術の導入余地を広げる一方で、小規模家族経営が地域の景観や雇用、環境保全に果たしてきた役割が薄れる懸念も含んでおり、「どの規模の畜産経営が地域として望ましいか」という議論が各地で起きています。
参考)畜産統計調査:農林水産省
意外に見落とされがちなのが、都市近郊や大都市圏における畜産物の存在です。
東京都でも牛・豚・鶏・ミツバチが飼育され、牛乳や卵、蜂蜜などが生産されており、都市住民が畜産物の生産現場に触れる機会を提供する「教育的な畜産」の役割を担っています。
参考)STUDY02 東京の畜産を学ぼう!|農林水産業をみんなで学…
こうした小規模ながら高付加価値な都市畜産は、量的には統計の中で小さく見えるものの、ブランド力や直売・体験型観光など、別の軸で畜産物の価値を引き出している点で、これからの畜産経営のヒントになる存在といえます。
畜産物が消費者に届く段階では、JAS法・食品表示法などに基づいた表示ルールが細かく定められており、食肉や殻付き鶏卵は「生鮮食品」、牛乳やハム・ソーセージなどは「加工食品」に分類され、それぞれ義務表示項目が異なります。
畜産物の表示では、原産地や品種、部位、消費期限・賞味期限に加え、「国産牛」「和牛」「交雑種」「乳用種」などの区別も重要で、乳用種の雄牛肥育や交雑種などの畜産物が、どのように表示されるかは価格形成やブランドイメージにも直結します。
近年は、環境負荷や動物福祉(アニマルウェルフェア)に配慮した畜産物であることを示す認証・ラベルも増えており、消費者が「どんな環境で飼われた家畜の畜産物か」を選べるようになりつつあります。
参考)統計情報:農林水産省
糞尿の適正処理や再資源化(バイオガス・堆肥化)、温室効果ガス排出削減、放牧や飼育スペースの確保など、畜産物が環境・福祉の観点からも評価される時代になっており、「飼い方」そのものが付加価値として可視化され始めています。
参考)https://www.alic.go.jp/content/001218280.pdf
ここで、現場目線の少しマニアックな話を挟むと、畜産物の品質評価の一部には、まだ「人の舌と鼻」が不可欠な領域が残っています。
例えば熟成肉やチーズ、発酵バターなどは、脂肪酸組成や菌の種類といった科学的指標に加えて、香りやコクといった官能評価がブランド価値に直結し、その結果が取引価格や輸出競争力にも影響します。
最近はAIによる香気成分分析や画像解析による肉質判定なども登場していますが、職人の経験に基づく「ここで切り上げる」「もう一日寝かせる」といった判断が、数%の価格差だけでなく、口コミやリピーター獲得に大きく効いてくることが知られています。
つまり、畜産物とは、単なるタンパク質の塊ではなく、「飼い方」「処理」「熟成」そして「伝え方」までを含んだ総合的なプロダクトであり、そのどこに農家や地域がこだわるかによって、まったく違うストーリーと価値を持ち得るのです。
参考)https://www.jmi.or.jp/info/word/ta/ta_035.html
畜産物の定義や種類、栄養・市場動向、表示・環境・福祉まで俯瞰したうえで、自分の農場の畜産物はどこに強みを持たせ、どのような物語とともに届けていくのか、今一度じっくり棚卸ししてみませんか。
畜産物の定義・分類・栄養・健康への影響などを総合的に整理した報告書(畜産物の役割を深く理解するのに有用)
日本学術会議「畜産物のはたす役割(食肉、乳、卵、蜂蜜)」
日本における畜産物の統計(頭数・生産量・自給率など)を体系的に確認できるページ(経営や政策の背景を読む際の基礎資料)
農林水産省「畜産統計調査」
畜産物の表示やJAS規格、表示義務項目の考え方を解説した資料(ラベル作成や販路拡大を考える際の実務的な参考)
農畜産業振興機構「畜産物の表示とJAS規格について」