抽水植物とビオトープで農業の水質浄化と害虫対策!選び方と管理

農業現場で注目される抽水植物とビオトープの活用法を知っていますか?水質浄化や害虫対策だけでなく、予期せぬメリットも。おすすめの植え方や管理のコツ、そして意外な効果まで深掘りします。あなたの農地でも試してみませんか?
抽水植物とビオトープの農業活用
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水質浄化の切り札

窒素・リンを強力に吸収し、根圏微生物が汚染物質を分解します

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天敵を呼び寄せる

トンボやカエルが定着し、農作物の害虫を捕食する環境を作ります

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見えない地下の力

アレロパシーや根圏酸化作用で、雑草抑制や土壌改良に貢献します

抽水植物とビオトープ

農業で役立つ水質浄化の仕組み

 

農業用水や排水の管理において、抽水植物を用いたビオトープシステムは、単なる景観形成以上の実用的な機能を持っています。特に注目すべきは、植物そのものによる栄養塩類の吸収と、植物の根圏(こんけん)に形成される微生物群集による浄化作用のダブル効果です。

 

  • 栄養塩の吸収メカニズム: ヨシやマコモなどの抽水植物は、成長過程で水中や土壌中の窒素(N)やリン(P)を大量に吸収します。これらは肥料成分として農地から流出しがちですが、抽水植物がこれらを「栄養」として取り込むことで、下流への富栄養化負荷を劇的に軽減します。特に成長期の春から夏にかけての吸収量は凄まじく、農業排水の一次処理施設としても機能します。

    参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jila/66/4/66_4_320/_pdf/-char/ja

  • 物理的な濾過作用: 密生した茎や根は、水中の懸濁物質(SS)を物理的に捕捉するフィルターの役割を果たします。泥や有機物が根元に沈殿することで、水が澄み、光合成が促進される好循環が生まれます。これは、農業用水路の泥上げ頻度を減らす省力化にもつながります。

    参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/kankyo/kankyo_hozen/attach/pdf/index-28.pdf

  • 脱窒(だっちつ)作用の促進: 水質浄化の核心は、実は植物の「根」の周りにあります。抽水植物は通気組織を持っており、地上から取り込んだ酸素を根から放出します。これにより、根の周囲には「好気的(酸素がある)」な環境が、少し離れると「嫌気的(酸素がない)」な環境がモザイク状に形成されます。この環境差が、アンモニアを硝酸に変え、さらに窒素ガスとして空気中に放出する「脱窒菌」の活動を活発化させ、水中の過剰な窒素を除去します。

    参考)lecture

参考リンク:植物による水質浄化メカニズムの詳細と各植物の浄化能力比較(大阪大学)

おすすめの抽水植物と選び方

農業用ビオトープに導入する抽水植物を選ぶ際は、「浄化能力の高さ」「管理のしやすさ」「副次的な利用価値」の3点を基準にすることが重要です。観賞用とは異なり、機能性を重視した選定が成功の鍵を握ります。

 

  • ヨシ(アシ):
    • 特徴: 水質浄化能力が非常に高く、根茎を深く張るため土壌の安定化にも寄与します。日本の気候に完全に適応しており、放置しても育つ強健さがあります。
    • 農業的メリット: 地上部は刈り取って乾燥させれば、極めて良質なマルチング材や堆肥の原料になります。分解が比較的遅いため、長期間雑草を抑制する被覆資材としても優秀です。​
  • マコモ:
    • 特徴: ヨシと同様に高い浄化能力を持ちますが、特筆すべきはその大きさです。2メートル以上に成長し、強力な日陰を作るため、水温上昇を防ぎアオコの発生を抑制します。
    • 選び方のコツ: 食用となる「マコモダケ」ができる品種を選ぶと、収穫の楽しみも増えます。ただし、大型化するため広めのスペースが必要です。

      参考)自然体験ゾーン - 埼玉県立総合教育センター江南支所

  • ミズトクサ:
    • 特徴: 直立する茎が特徴的で、横に広がりすぎないため管理が容易です。景観を整えるアクセントとして優秀で、密集して生えるためメダカなどの隠れ家としても最適です。
    • 選び方のコツ: 狭い水路や小さなビオトープに最適です。冬も常緑を保つ種類があり、冬場の殺風景な水辺に彩りを与えます。

      参考)ビオトープ向け水草のおすすめ人気ランキング【2025年11月…

  • セリ(芹):
    • 特徴: 春の七草の一つで、浅い水辺を好みます。繁殖力が旺盛で、水面を覆うように広がり、水質の浄化と共に食用としても利用可能です。
    • メリット: 競合する雑草の抑制効果が高く、収穫して出荷や自家消費ができるため、経済的なメリットも享受できます。

    参考リンク:ビオトープ向け水草・抽水植物の人気ランキングと育成の難易度(mybest)

    害虫対策と管理のポイント

    ビオトープを導入する農家が最も懸念するのは、「害虫の発生源にならないか」という点です。しかし、適切に管理されたビオトープは、むしろ害虫の天敵を育む「基地」となり、農地全体のIPM(総合的病害虫・雑草管理)に貢献します。

     

    • メダカによるボウフラ駆除:
      • 最も基本的な対策は、ボウフラ(蚊の幼虫)を捕食するメダカやフナなどの魚類を放流することです。特にメダカは浅い水域を好み、抽水植物の隙間に入り込んでボウフラを徹底的に捕食します。1匹のメダカが1日に数十匹のボウフラを食べるとも言われており、その効果は絶大です。

        参考)ビオトープの作り方|東京アクアガーデン

    • トンボやカエルの定着:
      • 抽水植物の茎は、トンボ(ヤゴ)が羽化するための足場として不可欠です。ビオトープが成熟すると、多様なトンボやカエル、クモなどが定着します。これらの捕食者は、イネミズゾウムシやウンカ類などの農業害虫を捕食してくれます。特に「空の捕食者」であるトンボの成虫は、農地を飛び回り広範囲の害虫密度を下げてくれます。

        参考)https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/agriculturalcanal_manual_07.pdf

    • 適切なトリミング(刈り取り):
      • 管理の最重要ポイントは、枯れた植物体を水中に放置しないことです。枯死した植物が水中で腐敗すると、逆に水質を悪化させ、ヘドロ化してしまいます。晩秋から冬にかけて地上部が枯れたら、水面より上の部分を刈り取り、系外に持ち出します。これを堆肥化することで、吸収した栄養塩を農地に還元する「資源循環」が完成します。​
    • 外来種対策:
      • ホテイアオイなどの浮遊植物や一部の外来抽水植物は、繁殖力が強すぎて水面を塞ぎ、酸欠を引き起こすリスクがあります。農業水利施設への影響を避けるため、地域の在来種を中心に選定し、特定外来生物の混入には細心の注意を払う必要があります。

        参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/kankyo/kankyo_hozen/attach/pdf/gairai-94.pdf

      参考リンク:農業水路における生物多様性保全のための植物管理技法と留意事項(農林水産省)

      クワイやヨシの活用メリット

      「抽水植物は管理が面倒な雑草」というイメージを捨ててください。特定の植物を選ぶことで、ビオトープは「生産の場」へと変わります。ここでは、特に農業との親和性が高いクワイとヨシの活用メリットを深掘りします。

       

      • クワイ(慈姑)の二毛作的活用:
        • クワイは、おせち料理に使われる高級食材ですが、植物学的にはオモダカ科の抽水植物です。ビオトープの底土にクワイの球根を植えておけば、夏場は大きな葉が水面を覆って水温上昇を防ぎ、メダカの隠れ家となります。そして冬には水を抜いて球根を収穫できます。
        • 経済性と機能性の両立: スーパーで購入した食用のクワイを種芋として利用できるため、導入コストが極めて低く済みます。発芽率も高く、初心者でも容易に栽培できます。まさに「食べるビオトープ」として、収益と環境保全を両立できる品目です。
      • ヨシ(葦)の農業資材化:
        • ヨシは繊維質が強靭で、腐りにくい性質を持っています。秋に刈り取ったヨシを束ねて乾燥させれば、伝統的な「よしず」として利用できるほか、野菜栽培の敷きわら代わりや、果樹の根元を覆うマルチング材として最適です。
        • 土壌改良効果: ヨシを細かく粉砕して土にすき込むと、通気性を高める土壌改良材になります。C/N比(炭素率)が高いため、肥料過多の畑に入れて窒素飢餓を意図的に起こし、過剰な肥料分を調整する調整材としても利用可能です。最終的には良質な腐植となり、地力を底上げします。

          参考)緑肥を使って水はけを改良するには?【実際やってみた!】|マイ…

        参考リンク:クワイの知られざる魅力とサステナブルな農業への活用法(Chibanian)

        根圏微生物とアレロパシーの意外な効果

        検索上位の一般的な記事ではあまり触れられていませんが、抽水植物が持つ「化学的な武器」と「微生物との共生」は、農業において驚くべき効果を発揮します。これは、単なる水質浄化を超えた、植物の生存戦略を利用する高度な農業技術です。

         

        • アレロパシー(他感作用)による雑草・藻類抑制:
          • 多くの抽水植物は、根から「アレロケミカル」と呼ばれる化学物質を放出しています。例えば、ヨシやガマ、特定のマメ科水生植物は、周囲の他の植物の種子発芽を抑制したり、アオコの原因となる植物プランクトンの増殖を阻害したりする物質を出しています。
          • 農業への応用: この作用を意図的に利用することで、ビオトープ内の水路維持管理コストを下げることが可能です。例えば、アレロパシー活性の強い植物を水路の上流に配置することで、下流での藻類の異常発生を抑制し、ポンプの詰まりや水流阻害を防ぐ「生物的防除」が期待できます。これは除草剤の使用を減らす環境保全型農業の切り札となり得ます。

            参考)https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/72024.pdf

        • 根圏酸化と鉄・マンガンの可溶化:
          • 抽水植物の根は、酸素を放出することで根の周りを酸化状態にします。これにより、土壌中の有毒な還元物質(硫化水素など)を無毒化するだけでなく、鉄やマンガンなどの微量要素を酸化・沈殿、あるいはキレート化して植物が利用しやすい形に変える働きがあります。
          • 微生物の「燃料」供給: 根からは糖やアミノ酸などの有機酸(根滲出物)も放出されており、これが特定の有用微生物(PGPR:植物生育促進根圏細菌)を爆発的に増殖させます。これらの微生物は、土壌中の難溶性リンを植物が吸収できる形に変えたり、植物ホルモンを生産して作物の成長を促したりします。ビオトープの水を農業用水として還流させることは、単なる水やりではなく、「有用微生物入りの活性水」を畑に撒くことに等しいのです。

            参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8724949/

        • 水温緩衝効果と微気象の改善:
          • 意外な効果として、抽水植物の群落は局所的な気象緩和効果を持ちます。夏場の水面からの蒸散作用は気化熱を奪い、周辺の気温を下げます。ハウス栽培の近くにビオトープを配置することで、冷却コストの低減や、高温障害の緩和に寄与する可能性も研究されています。

            参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9054867/

          参考リンク:アレロパシーの基礎知識と農業における雑草抑制への応用可能性(SPACESHIP EARTH)

           

           


          金持ち農家、貧乏農家