アビオン展着剤の使い方と希釈倍率!パラフィン系の混用順序と注意点

アビオン展着剤の使い方は?希釈倍率や混用の順番、有機JAS適合の理由まで徹底解説。パラフィン系展着剤の効果を最大限に引き出し、農薬の無駄を減らすコツとは?

アビオン展着剤の基本的な使い方

アビオン展着剤のポイント
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パラフィンの保護膜

雨に強く農薬をしっかり固着させる

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希釈は500〜1000倍

目的や気温に応じて濃度を調整する

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有機JAS適合

有機栽培でも安心して使用可能

アビオンの特徴とパラフィン展着剤の効果

 

農業現場において、農薬散布の効果を左右する重要な資材が展着剤です。その中でも「アビオンE」に代表されるパラフィン系展着剤は、一般的な展着剤とは一線を画すユニークな特徴を持っています。多くの農家が「雨に強い」という理由でアビオンを選びますが、そのメカニズムを正しく理解しているでしょうか?ここでは、アビオンが持つパラフィン被膜の特性と、それが作物にもたらすメリットについて深掘りします。

 

まず、アビオンの主成分である「パラフィン」について理解しましょう。パラフィンとは、いわゆる「ロウ(ワックス)」の一種です。植物の葉の表面には、もともとクチクラ層(ワックス層)があり、これが水分の蒸発を防いだり、病原菌の侵入を物理的に防いだりしています。アビオンを散布すると、この天然のワックス層の上に、さらに人工的なパラフィンの被膜を形成します。これが「パラフィン被膜」です。

 

一般的な界面活性剤主体の展着剤(ダインなど)は、表面張力を下げて薬液をベタッと広げる「濡れ性」を重視しています。これに対し、アビオンは「固着性」に特化しています。一度乾くと、パラフィンが葉の表面にしっかりと張り付き、農薬成分を抱え込みます。これにより、散布後に雨が降っても農薬が流れ落ちにくくなるのです 。

 

参考)プロ農家が教える本当に効く農薬展着剤|失敗しない選び方&使い…

  • 耐雨性の向上: パラフィン被膜が水を弾くため、散布後の急な降雨でも薬剤が流亡しにくくなります。梅雨時期や台風シーズンの防除において、再散布の手間とコストを大幅に削減できます。
  • 効力の持続: 農薬が葉面に長期間留まるため、予防効果(残効性)が長く続きます。特に、表面で病原菌を待ち受けるタイプの「保護殺菌剤」との相性は抜群です。
  • 水分の蒸散抑制: パラフィン被膜は、葉からの過剰な水分蒸散を抑える効果も期待できます。乾燥ストレスがかかる夏場などにおいて、作物の生理状態を安定させる副次的なメリットもあります 。

    参考)アビオン|農薬(アビオンE)や肥料の製造・販売|農薬類

株式会社アビオンコーポレーション:アビオン-Eの特徴とパラフィン被膜のメカニズム
※公式情報として、パラフィンがクチクラワックスを強化し、病原菌の侵入を防ぐイメージ図などが掲載されています。

 

しかし、注意点もあります。パラフィン系は「固着」させる力が強いため、逆に言えば「洗い落としにくい」という性質も持ちます。収穫直前に使用すると、果実や野菜に白い跡(汚れ)が残る場合があるため、使用時期には配慮が必要です。また、浸透移行性のある薬剤(葉の中に成分を入れたい場合)と併用する場合、パラフィン被膜が邪魔をするのではないか?という疑問を持つ方もいるでしょう。実際には、アビオンは気孔を塞ぐことはなく、薬剤の取り込みを阻害するほどの厚い膜を作るわけではありませんが、浸透性を主目的とする機能性展着剤(アプローチBIなど)とは役割が明確に異なることを理解しておく必要があります。

 

アビオンの希釈倍率と効果的な散布タイミング

アビオンを使いこなす上で最も悩ましいのが「希釈倍率」です。製品ラベルには通常「500倍〜2000倍」といった幅広いレンジが記載されており、初心者は「結局何倍で使えばいいの?」と迷ってしまいます。ここでは、状況に応じた最適な希釈倍率の選び方と、効果を最大化する散布タイミングについて解説します。

 

基本となる希釈倍率は以下の通りです。

 

  • 500倍〜1000倍(標準使用):
    • 最も一般的な濃度です。しっかりとした被膜を作りたい場合や、雨が続く予報が出ている場合におすすめです。
    • 特に、キャベツやネギのように葉にワックス分が多く、薬液が弾かれやすい作物には、濃いめの濃度(500倍〜800倍)で使用することで、付着率が劇的に向上します 。

      参考)https://www.zennoh.or.jp/cb/producer/einou/base/pdf/22-2015.pdf

    • 10リットルの水に対して、10ml〜20mlのアビオンEを添加します。
  • 1500倍〜2000倍(高温期・安全性重視):
    • 夏場の高温期など、薬害のリスクが懸念される場合は、薄めの倍率で使用します。
    • また、収穫が近く、農産物に汚れを残したくない場合も、薄めの倍率を選択するのが賢明です。

    具体的な使い分けの基準として、以下の表を参考にしてください。

     

    状況・目的 推奨希釈倍率 理由
    梅雨入り前・台風接近時 500倍 耐雨性を最大化し、再散布を防ぐため。
    通常の予防防除 1000倍 コストと効果のバランスが良い標準濃度。
    高温・乾燥時 1500〜2000倍 薬害(葉焼け等)のリスクを避けるため。
    ワックスが強い作物 500〜800倍 ネギ、キャベツ等の弾きやすい葉に付着させるため。

    散布のタイミングに関しては、「乾く時間を確保すること」が何よりも重要です。アビオンの効果である「パラフィン被膜」は、散布された薬液が完全に乾いた後に形成されます。乾く前に雨が降ってしまうと、被膜が形成されず、普通の展着剤と同じように流れてしまいます。

    • ベストなタイミング: 朝露が乾いた後の午前中、または夕方。散布後、最低でも1〜2時間は雨が降らない時間を確保してください。
    • 避けるべきタイミング: 雨が降る直前や、雨上がりで葉が濡れている状態。葉に水分が残っていると、アビオンの濃度が薄まり、均一な被膜が作れません。

    また、アビオンは「殺虫剤」や「殺菌剤」の効果を安定させるために使われますが、特に予防剤(保護殺菌剤)との組み合わせで真価を発揮します。マンゼブ水和剤や銅剤など、葉の表面で病原菌を迎え撃つタイプの薬剤にアビオンを混用することで、鉄壁の防御層を作ることができます。

     

    アビオンの混用順序は最初か最後か?泡立ち対策のコツ

    展着剤の混用順序については、農業界でも意見が分かれる「永遠のテーマ」の一つです。一般的には「展着剤は一番最初に入れる」と教わることが多いですが、アビオンに関しては「最後に入れるべき」という意見も散見されます。この矛盾の正体と、現場で失敗しないためのリアルな手順を解説します。

     

    結論から言うと、アビオンEは「泡立ちやすい」ため、タンクに直接投入する場合は最後に慎重に入れるか、あるいは「予備溶解」をしてから最初に入れるのが正解です。
    一般的に展着剤を最初に入れる理由は、界面活性剤の力で水を「薬液が混ざりやすい状態」にするためです。しかし、アビオンには乳化剤が含まれており、勢いよく水流がある状態で投入すると、激しく泡立ってしまいます。タンクが泡だらけになると、以下の問題が発生します。

     

    1. 計量ミス: タンクの目盛りが泡で見えなくなり、正確な水量が分からなくなる。
    2. 溢れ出し: 薬剤を追加する際に泡が溢れてしまい、周囲を汚染したり薬剤が無駄になったりする。
    3. エア噛み: 動噴が泡(空気)を吸い込んでしまい、圧力が安定しなくなる。

    このため、一部の指導では「アビオンは最後に入れましょう」とされています 。しかし、粘度の高いアビオンを最後に冷たい水に投入すると、うまく拡散せずに底に溜まってしまうリスクもあります。

     

    参考)希釈タイプの農薬を選ぶとき・組み合わせるときの基礎知識と注意…

    バラの育て方・栽培管理:農薬の希釈と混用順序の注意点
    ※アビオンEのような発泡性のある展着剤は、泡立ちを防ぐために最後に入れるというテクニックが紹介されています。

     

    そこで、プロの農家が実践している「失敗しないアビオンの投入手順」を紹介します。

     

    1. 予備溶解テクニック(推奨):
      • 小さなバケツに少量の水を入れ、そこにアビオンを既定量を投入します。
      • 棒などでよくかき混ぜて、白濁した「アビオン希釈液」を作ります。
      • タンクに水を半分ほど溜めた状態で、この希釈液を投入します。
      • これなら、最初に入れても激しい泡立ちを抑えつつ、全体に均一に混ぜることができます。
    2. タンクへ直接投入する場合:
      • 水を8割〜9割まで溜めます。
      • 乳剤や水和剤を先に溶かします。
      • 最後にアビオンを投入し、撹拌機を弱めに回すか、手動で優しく混ぜます。
      • ※この方法は、アビオンが混ざりきらないリスクがあるため、撹拌能力の高い動噴を使う場合に限ります。

    また、混用時の注意点として、強アルカリ性の薬剤(石灰ボルドー液など)との混用には注意が必要です。パラフィンは比較的安定した物質ですが、極端なpH条件下では乳化バランスが崩れ、分離や凝固(ダマになる現象)が起こることがあります。必ず少量の水で「プレ混用テスト」を行い、沈殿や凝固が起きないか確認することをおすすめします。

     

    アビオンEが有機JAS適合である理由とメリット

    近年、環境保全型農業や有機栽培への関心が高まる中で、「使える農薬がない」と嘆く生産者は少なくありません。そんな中で、アビオンEは有機JAS規格(有機農産物の日本農林規格)に適合した資材として、有機農家にとって強力な武器となっています。なぜ化学合成されたように見える展着剤が、有機栽培で使えるのでしょうか?
    その理由は、主成分である「パラフィン」の安全性にあります。

     

    パラフィンは、食品添加物(ガムの基礎剤やチョコレートの艶出しなど)や、化粧品、医薬品のコーティング剤としても広く使われている物質です。人体への毒性が極めて低く、環境中での残留性も問題にならないレベルであるため、有機JAS規格においても「使用可能な調整用資材」として認められています 。

     

    参考)https://www.sandonoyaku.com/?pid=178596629

    有機栽培におけるアビオンのメリット:

    • 貴重な防除手段の強化: 有機栽培で使用できる農薬(BT剤、銅剤、硫黄剤、植物抽出液など)は、一般的な化学農薬に比べて効果が穏やかで、残効性が短い傾向があります。アビオンを混用して固着性を高めることで、これらの「弱い農薬」の効果を底上げし、長持ちさせることができます。
    • 散布回数の低減: 有機栽培では病害虫が発生すると抑え込むのが難しいため、頻繁な散布が必要になりがちです。耐雨性を高めることで、散布間隔を少しでも延ばすことができれば、労力と資材コストの削減につながります。
    • 特別栽培農産物への対応: 「減農薬栽培(特別栽培)」において、化学合成農薬の使用回数(成分カウント)を減らすことが求められます。多くの自治体において、展着剤は「農薬散布回数(成分数)」にカウントされません(※地域や認証団体により異なる場合があるため要確認)。アビオン自体はカウント外でありながら、主剤の効果を高めて減農薬をサポートできるため、非常に使い勝手が良い資材です。

    農薬通販サイト サンド:アビオンEの有機JAS適合詳細
    ※有機JAS適合資材としての仕様や、有効成分パラフィンの安全性が解説されています。

     

    ただし、有機JASで使用する場合でも、「アビオンなら無制限に使って良い」というわけではありません。使用目的はあくまで「農薬(特定農薬や天然系農薬)の効果増進」であり、アビオン単体で殺菌や殺虫を行うものではない点を誤解しないようにしましょう。

     

    アビオンと他展着剤の使い分けと失敗しない選び方

    展着剤にはアビオン以外にも「ダイン」「アプローチBI」「スカッシュ」など多くの種類があり、それぞれ特性が異なります。これらを適切に使い分けることが、プロの防除技術です。「とりあえず全部アビオン」では、状況によっては効果が落ちたり、コスト高になったりすることもあります。

     

    ここでは、代表的な展着剤とアビオンの違いを比較し、失敗しない選び方を提案します。

     

    展着剤の機能別比較表

    商品名 タイプ 主な機能 希釈倍率 コスト おすすめの場面
    アビオンE パラフィン系 固着・耐雨性 500-1000倍 予防散布、梅雨時、有機栽培
    アプローチBI 機能性(浸透) 浸透・移行性 1000-2000倍 治療散布、殺虫剤、難防除病害
    ダイン 一般(界面活性剤) 濡れ・拡展性 3000-10000倍 とりあえずの散布、低コスト重視
    スカッシュ 機能性(吸着) 気門封鎖・拡展 1000-3000倍 中〜高 ハダニアブラムシ、濡れにくい虫

    1. 予防剤(保護殺菌剤)には「アビオン」
    病気が出る前に撒く「ジマンダイセン」や「Zボルドー」などの保護殺菌剤は、葉の表面をコーティングして菌を防ぐのが目的です。この場合、葉の表面に留まらせる力が強いアビオンが最適解です。逆に、浸透性の高い展着剤を使ってしまうと、せっかくの保護成分が薄く広がってしまい、防御壁としての機能が低下する恐れがあります。

     

    2. 治療剤(浸透移行性剤)には「アプローチBI」
    既に病気が発生してしまい、葉の中にいる菌を叩きたい場合(治療剤)や、葉裏に潜む害虫に成分を届けたい場合は、浸透性を高めるアプローチBIなどの機能性展着剤を選びましょう。アビオンでは内部への浸透を促進する力は弱いため、治療効果を最大化できない可能性があります 。

     

    参考)展着剤の種類と基本的な使い方!農薬メーカーに問い合わせてみた…

    3. コスト重視の定期散布には「ダイン」
    特段、雨の心配もなく、対象作物も濡れやすい(キュウリやナスなど)場合は、高価な機能性展着剤を使う必要はありません。安価なダインなどの一般展着剤で十分です。アビオンは一般展着剤に比べるとコストがかかるため、ここぞという時(雨前や長期予防)の切り札として使うのが経済的です。

     

    4. 混用時の失敗例
    最も避けるべきは、「アビオン」と「アプローチBI」のような機能性展着剤同士の混用です。「固着させたいのか、浸透させたいのか」が矛盾し、互いの効果を打ち消し合うだけでなく、界面活性剤の濃度が高くなりすぎて深刻な薬害(葉焼け、落葉)を引き起こすリスクがあります。展着剤は「混ぜれば強くなる」ものではありません。必ず1種類を選択して使用してください。

     

    アビオンは「守りの展着剤」です。この特性を理解し、攻め(浸透)が必要な場面と明確に使い分けることで、農薬のパフォーマンスを最大限に引き出すことができるでしょう。

     

     


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