Jクレジット制度とは、国が認証する温室効果ガス削減の仕組みを指し、農業分野でもその活用が急速に広がっています。農業者が行う「温室効果ガスの排出削減」や「吸収量の増加」といった取り組みを数値化し、それを「クレジット」として企業や自治体に売却できる制度です。
参考)Jクレジット制度の活用。農業収益と環境貢献の両立に役立つ!?…
導入の最大のメリットは、通常の営農活動にプラスして「副収入」が得られる点です。さらに、環境に配慮した農法を実践していることを「見える化」できるため、農産物のブランド価値向上や、SDGsに取り組む企業との取引拡大も期待できます。
参考)Jクレジット制度とは?メリット・デメリットや取り組み事例、普…
一方で、デメリットとしては申請手続きの複雑さが挙げられます。計画書の作成からモニタリング、審査機関による検証まで多くの工程が必要であり、個人で取り組むには時間的・金銭的なコストが負担となる場合があります。
参考)カーボンクレジットにおける農業への期待_ シリーズ「CO2削…
農林水産省:J-クレジット制度について(農業分野の方法論など詳細情報)
水稲栽培において、土壌から発生するメタンガスは強力な温室効果ガスです。このメタン排出を抑制する有効な方法として推奨されているのが「中干し期間の延長」です。通常の中干し期間よりも7日間以上延長することで、メタン発生量を約3割削減できることが研究で確認されています。
参考)J−クレジットにおいて農業分野の方法論(水稲栽培における中干…
具体的な方法論としては、直近2カ年以上の実施平均日数と比較して、さらに7日間長く水を抜く期間を設けます。これにより、土壌への酸素供給が増え、メタン生成菌の活動が抑制されます。この取り組みは、追加の設備投資がほぼ不要で、水管理の工夫だけで始められるため、多くの稲作農家にとって参入しやすい手法です。
参考)【JA(農業協同組合)様限定】Green Carbon株式会…
収益性の目安として、10a(1反)あたりの削減効果は金額換算で約1,000円〜3,600円程度と試算されています(炭素価格による)。金額は大きくありませんが、広大な面積を持つ農業法人や、集落営農組織全体で取り組むことで、まとまった収益源となる可能性があります。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/021_04_00.pdf
農林水産省:水稲栽培における中干し期間の延長に関する詳細ガイドライン
バイオ炭(バイオたん)とは、木材や竹、もみ殻などのバイオマスを加熱して炭化させたものです。これを農地土壌に混ぜ込む(施用する)ことで、炭素を半永久的に土壌中に閉じ込める「炭素貯留」が可能になります。植物が吸収したCO2を大気に戻さず地中に固定するため、非常に効果的な温暖化対策とされています。
参考)https://www.maff.go.jp/kyusyu/oita/attach/pdf/220721_6-6.pdf
バイオ炭の施用には、Jクレジットの創出以外にも「土壌改良効果」という実利があります。透水性や保肥力が向上し、作物の品質改善や収量増加につながるケースも報告されています。つまり、土づくりと収益化を同時に進められる一石二鳥の取り組みと言えます。
参考)「ウチのCO2削減がカネになる?」農家が今知っておくべき『カ…
10aあたりの収益性は、施用量にもよりますが約2,700円〜7,500円と試算されており、中干し延長よりも単価が高い傾向にあります。ただし、高品質なバイオ炭の調達コストや散布の手間がかかるため、これらを差し引いた純利益を計算しておく必要があります。
参考)https://www.hkd.meti.go.jp/hokni/20221031/data03.pdf
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象資材 | 木炭、竹炭、もみ殻燻炭など(要件あり) |
| クレジット量 | 粉炭1t施用で約2.3t-CO2のクレジット創出 |
| 副次的効果 | 土壌の透水性改善、微生物活性化 |
| 注意点 | 炭化温度や品質証明が必要 |
Jクレジットの認証を受けるプロセスは厳格で、以下のステップを踏む必要があります。特に個人農家にとっては、「プロジェクト計画書」の作成や、第三者機関による「検証」の費用(数十万円〜)が大きなハードルとなります。
この複雑さとコストを解決するために、多くの農家は「プログラム型(コンソーシアム)」を利用しています。これは、JAや民間企業、自治体が取りまとめ役(アグリゲーター)となり、複数の農家を束ねて一括申請する仕組みです。参加農家は初期費用を抑えられ、事務手続きの多くを運営者に代行してもらえるため、実質的な参入障壁が大幅に下がります。
参考)https://www.maff.go.jp/tohoku/tiiki/yamagata/midori/attach/pdf/J-cre230216-4.pdf
Green Carbon:農業向けJ-クレジット創出支援・コンソーシアム事例
個人農家が単独でJクレジットに参入する場合、最大の壁は「費用対効果の分岐点」です。登録・審査費用を回収するには、ある程度大規模な面積(数十ヘクタール以上)での削減実績が必要となるため、小規模農家単独では赤字になるリスクがあります。現状では、前述のコンソーシアムへの参加が現実的な解となっています。
しかし、市場の将来性は非常に明るいと予測されています。世界の脱炭素化の流れを受け、炭素価格(クレジット取引価格)は上昇トレンドにあります。2030年には、炭素価格が現在の数倍にあたる6,000円〜1万円以上/t-CO2に達すると予測する機関もあり、農業由来クレジットの市場規模は2024年比で50倍に拡大すると見込まれています。
参考)【25年11月】カーボンクレジット価格ガイド|Jクレ・海外・…
今後は、企業が「農業支援」としてクレジットを高値で購入する動きや、ブロックチェーン技術を活用して少額・小規模でも安価に認証できる仕組みの登場が期待されています。今は利益が薄くても、ノウハウを蓄積しておくことが、将来的な農業経営の大きな資産になる可能性があります。

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