スラリースプレッダーは、家畜ふん尿スラリーなどの液状資材を「ほ場表面に散布する」ための散布車(散布機)として位置づけられ、土中に貫注するスラリーインジェクターと並んで紹介される代表的な方式です。
液肥の散布方法は「散布車による散布(スラリースプレッダー、スラリーインジェクター)」「かんがい用水路への流し込み」などに分類されており、スプレッダーは現場で扱いやすい一方、臭気や飛散、窒素損失(揮散)への配慮が課題になりやすい側面があります。
散布装置はメーカーや仕様で差がありますが、たとえば飛散を抑える下方散布装置を標準装備し、散布角度を調整できる例もあります。
参考)スラリータンカスプレッダ – 株式会社タカキタ
また「下水汚泥」やコンポスト等の散布に対応する機種もあり、用途の幅は広いものの、資材の性状(粘度・固形分・異物)により詰まりやすさや洗浄性が変わる点は共通して注意が必要です。
参考)https://www.agriexpo.online/ja/prod/zdt-zemedelska-a-dopravni-technika-spol-s-ro/product-170680-122957.html
現場で意外と効くのが「散布方式を“資材の性格”で使い分ける」発想です。消化液は原料スラリーと比べて圃場施用に伴うアンモニア揮散が少なく、窒素損失が小さい、という報告もあり、同じ機械でも“何を撒くか”で結果が変わります。
参考)https://www.leio.or.jp/pdf/62/chiku_j_42.pdf
ただし、消化液も表面施用では揮散がゼロにはならないため、「どの作物・どの圃場で、どの方式が費用対効果に合うか」を一段深く考えると、更新投資の失敗が減ります。
参考)メタン発酵消化液を土中に安定的に施用でき低コストで導入できる…
スラリースプレッダー(表面散布)は、機械構成が比較的シンプルで、作業の段取りも組みやすく、草地や畑で広く使われてきた方式です。
一方で、空中散布(スプラッシュプレート等)はアンモニアが揮散しやすく、温室効果ガス排出削減の観点から欧州では使用が禁止され、インジェクターが使われている、という指摘もあります。
臭気の正体を「におい」だけで終わらせず、肥料成分(とくにアンモニア態窒素)の損失とセットで捉えると、対策の優先順位が決めやすくなります。
参考)http://www.nissangosei.co.jp/nissan/m040.pdf
散布方法の違いによる悪臭防止効果を、アンモニア揮散の抑制率で比較した資料では、衝突板方式に比べて浅注入方式が50~90%抑制、帯状施用方式が35~75%抑制と整理されています。
つまり「表面に細かく撒ける=良い」ではなく、「大気に触れる面積・時間を減らす=肥効と臭気の両方に効く」という、少し逆の発想が重要です。
ここで“あまり知られていない現場の盲点”として強調したいのは、臭気対策が近隣配慮だけでなく「収量や飼料品質」にも跳ね返る点です。土中施用は牧草への付着を軽減し、空中散布に比べて体感で臭気が少ないという現場報告があり、付着低減はサイレージ不良発酵のリスク低下にもつながります。
参考)スラリー土中施用による良質粗飼料生産に向けた取り組み(上) …
草地で「撒いた後の匂いが残りにくい」ことは、結果として“刈取り・調製時の品質事故”を減らす可能性があるため、散布方式の検討は畜産の生産性にも直結します。
スラリースプレッダーが表面散布であるのに対し、スラリーインジェクターは液肥を土中に注入してアンモニア揮散を抑制し、液肥中の窒素を有効利用でき、施用時の臭気も軽減できる、と農研機構の成果情報で説明されています。
同じ「液肥を還元する」目的でも、方式が変わると“肥料としての効き”が変わるため、特に窒素主体で設計している圃場では差が出やすい領域です。
さらに、インジェクターで消化液を土中施用した場合、アンモニア揮散量は表面施用に比べて格段に少ないとされ、既存のスラリータンカーに後付けして導入できる方向性も示されています。
報道ベースでは、消化液を土壌表面に施用した場合に窒素成分の最大3割程度がアンモニア揮散で減少する一方、インジェクターでは消化液が表面に露出せず、アンモニア揮散量はほぼゼロになる、という整理もあります。
参考)農研機構、家畜ふん尿由来液肥を効果的に散布できるスラリーイン…
ただし「土中施用=万能」でもありません。土中施用は作業負荷(牽引抵抗)や機械コストが増えやすく、圃場条件(石礫・硬盤・過湿)で詰まりや摩耗が増えることもあるため、まずはスプレッダーで“できる範囲の最適化”を詰め、その上で更新・追加導入を判断するのが現実的です。jeinou+1
国の資料でも、土中施用は専用機(インジェクター)だけでなく、ハロー等で切り込みを作って流れ込みやすくする組み合わせ作業が示されており、段階的にレベルアップできる余地があります。
参考)https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/l_zigyo/h28_yosan_kettei/pdf/pamp_all_2.pdf
参考:土中施用の考え方(専用機だけでなくハロー等との組み合わせも含む)
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/l_zigyo/h28_yosan_kettei/pdf/pamp_all_2.pdf
スラリースプレッダーを含むふん尿処理作業機械は、作業を安全に確実に行うために保守点検が不可欠で、簡単な修理でも後回しにしないことが重要だとする安全・点検資料があります。
散布機は“汚れる機械”であると同時に“腐食しやすい機械”でもあり、機体・配管・ポンプ・バルブ・ジョイントの劣化が、漏れや詰まり、最悪の場合は路上でのトラブル(落下・飛散)に直結します。
点検の実務は「壊れてから」では遅いので、作業前・作業後・格納前の3段階に分けると抜けが減ります。以下は現場で再現しやすいチェック項目です。
✅ 作業前(始業点検)
参考)https://www.ihi.co.jp/iat/star/man/wp-content/uploads/201208man/toritsd13000dx_s-181022t.pdf
参考)https://www.leio.or.jp/pub_train/publication/tkj/tkj19/tokus1_19.pdf
🧪 作業中(異常検知)
🧼 作業後(洗浄・防錆)
ここで独自視点として提案したいのが、「臭気対策=散布方式」だけでなく「点検品質=臭気対策」という見方です。散布の飛散を抑える下方散布装置があっても、配管の微小漏れやパッキン劣化があると“機械の横腹から臭いが出る”状態になり、方式の議論以前に信頼を失います。takakita-net+1
点検は地味ですが、近隣対応・作業効率・事故防止を同時に底上げできる、最も費用対効果が高い改善策になりやすいです。
参考:スラリースプレッダ取扱説明書(安全操作上の注意点の確認に有用)
https://www.ihi.co.jp/iat/star/man/wp-content/uploads/201208man/toritsd13000dx_s-181022t.pdf
スラリースプレッダー運用で見落とされがちなのが、「散布性能」ではなく「移動制約」が作業効率を支配するケースです。散布機はタンクに液体を積むため、圃場間移動が長い地域ほど“道路条件・許可・速度”がボトルネックになります。
一般的な制限値の整理では、軸重10t、総重量(最大25t)などが示され、制限値を超える場合は特殊車両通行許可または確認が必要とされています。
また自治体の案内でも、農耕作業用トレーラ等のけん引時は条件を満たさないと速度制限(時速15km以下等)を遵守する必要がある旨が示されており、「遠い圃場ほど散布が遅れる」現象は機械能力より制度・安全側に寄ります。
参考)農耕作業用トレーラ等の取り扱いについて|軽自動車税(種別割)…
ここが“意外な情報”になりやすい理由は、カタログ比較では散布幅やタンク容量に目が行き、実際の運用コスト(移動時間、許可手続き、燃料、作業者の拘束時間)が軽視されやすいからです。town+1
対策は、機械更新より先に「運用設計」をやり直すことです。例えば次のように考えると、設備投資なしでも詰まりが取れることがあります。
参考)https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/anzen/oogata/seigenchi.pdf
参考:車両制限令・道路交通法の一般的制限値(総重量・軸重などの整理)
https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/anzen/oogata/seigenchi.pdf