石炭クレオソート(クレオソート油)は、コールタールを蒸留して得た留出物からナフタレンやフェノール類などを回収した「残り」を用途に合わせて配合したもの、と整理されます。
そのため、現場で「成分名を一つ覚えれば終わり」ではなく、ロットや製法、原料炭の違いで組成が変わりうる混合物として扱うのが安全側です。
東京都の調査資料では、クレオソート油は多数の化学物質が混合し、PAH(多環芳香族炭化水素)が多く含まれる可能性があること、また主成分は2~3員環芳香族炭化水素だが4員環以上も含むことが示されています。
農業の現場で誤解が起きやすい点として、「クレオソート」という言葉が医薬品等の“木クレオソート”と混同されることがありますが、農業資材・防腐用途で問題になりやすいのは石炭由来のクレオソート油です。
参考)一般社団法人日本バルブ工業会 - 環境関連情報:REACH規…
資材店や中古材ルートでは「枕木」「支柱」「柵材」として出回り、用途の文脈だけ見ると木材防腐の“昔からの定番”に見えますが、成分特性は“扱いの難しい化学混合物”に近いという認識が重要です。
東京都の調査資料では、クレオソート油は刺激性が強い有毒物質で、ベンゾaピレン等の多環芳香族炭化水素を含有することがあり、発がん性の評価(IARC Group 2A等)が問題になっている流れが整理されています。
また、職場のあんぜんサイト(GHSモデルSDS)では、クレオソートオイルに「ベンゾaピレン等の発がん性既知の多環芳香族炭化水素を含むことがある」と明記され、皮膚付着での症状(発赤、灼熱感)なども記載されています。
農作業は「短時間・単発」より「少量でも反復」が起きやすく、支柱の立て替え・結束・収穫時の接触などで“触れる機会が積み上がる”ため、ばく露の設計を先に作ってから資材選定する方が事故を減らせます。
さらに、クレオソート油は水生生物に対する毒性が強い方向の分類(GHSで水生環境急性有害性 区分1)も示されています。
水路・ため池・排水桝が近い圃場では、塗布・保管・こぼれ・ウエス廃棄などの小さなミスが「油膜」「臭気」「近隣クレーム」に直結しやすいので、人体だけでなく環境経路も同じレベルで管理した方が安全です。
EUの規制整理(東京都資料の引用整理)では、一般消費者によるクレオソートでの木材処理や、一般消費者向けのクレオソート処理木材販売が禁止とされ、工業・業務用途での条件付き使用に制限される考え方が示されています。
同じ箇所で、処理木材の用途が「鉄道、電柱、塀、農業用の支柱、港湾および水路」に限られる、という枠組みも紹介されています。
つまり「農業用支柱は対象になり得る」が「だから安全」ではなく、用途を絞り込んだうえで“皮膚接触リスクのある場所や、汚染につながる用途を避ける”という思想で運用されている、と読むのが実務的です。
日本の制度はEUと同一ではありませんが、少なくとも国内の公的資料が海外の規制動向や、成分(ベンゾaピレン等)と安全性論点をまとめているため、農業現場でも「自治体・発注者・取引先が嫌がる条件」を先読みできます。
農業資材は、補助事業や共同利用で「説明責任」が発生しやすいので、購入前にメーカーSDS・表示・使用条件(どこで使うか、誰が触れるか、流出時どうするか)を文章に落としておくと、後で揉めにくくなります。
参考:クレオソート油の成分・安全性・海外規制(農業用支柱の用途制限を含む)がまとまっている
東京都「クレオソート油の成分と安全性等についての調査」PDF
参考:クレオソートオイルのSDS(用途、注意事項、環境有害性、応急措置)が確認できる
厚生労働省 職場のあんぜんサイト:クレオソートオイル(GHSモデルSDS)
職場のあんぜんサイトのSDSでは、皮膚・眼との接触回避、取扱い後の手洗い、適切な保護手袋・保護眼鏡・保護衣の着用、局所排気や換気などの基本方針が示されています。
農業だと「屋外だから換気は十分」と思いがちですが、塗布作業を物置・ハウス脇・風のない場所で行う、軽トラ荷台で溶剤臭がこもる、保管容器の開閉が多い、といった局面で体調不良が出やすいので、屋外でも“換気設計”は必要です。
またSDSには、漏出時は回収し、排水溝等への流入を防ぐこと、廃棄は許可業者へ委託することが書かれており、農場内での「土にしみ込ませて終わり」はNG側の行為として整理されます。
現場で実装しやすい運用ルール例を、農業向けに噛み砕くと次の通りです。
| 場面 | やりがちな失敗 | 安全側の運用 |
|---|---|---|
| 塗布・含浸 | 素手・軍手で作業、顔を近づける | 耐油性手袋+ゴーグル、風上に立つ、作業時間を区切る |
| 圃場設置 | 支柱を素手で持ち運ぶ、衣服に付着 | 接触前提で手袋固定、汚染衣類を休憩所に持ち込まない |
| 保管 | 半開き容器、直射日光、臭気が拡散 | 密栓・冷乾所、火気管理、子どもやペット動線から隔離 |
| ウエス・残液 | 燃やす、土に捨てる | 回収・密閉、許可業者へ委託(産廃ルートを決めておく) |
意外と盲点になるのは、「支柱そのもの」よりも、支柱に触れた手袋・結束バンド・収穫コンテナ・軽トラ荷台などへの二次汚染で、作業導線を通じて“圃場の外”へ臭気や汚れが移っていく点です。
SDSでも、取扱い後の手洗い、汚染された衣類等を休憩所・食堂に持ち込まない、といった衛生管理の考え方が示されており、農業ではこれを「収穫物の扱い」「休憩所」「共同選果場」まで拡張して考えるとトラブルを予防できます。
また、東京都の調査資料では、クレオソート油のPAHについて水系への発散・溶出の研究や、燃焼によって環境に放出される懸念が触れられており、支柱更新時の廃材処理や野焼きの判断にも関係します。
農地での現実的な判断軸としては、次の3点を“先に決める”と迷いが減ります。
この3点が整理できない圃場では、石炭クレオソート前提の設計そのものが不利になりやすいので、最初から別系統の支柱・防腐設計へ寄せた方が、コストだけでなく事故対応コストも下がります。

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