クレオソート油は危険物で消防法の指定数量や規制対象か

農作業の杭打ちで使う防腐剤ですが、実は消防法上の取り扱いに厳格なルールがあることをご存知ですか?保管量や廃棄方法を間違えると法令違反になるリスクについて解説します。
クレオソート油の危険性まとめ
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消防法第4類危険物

第3石油類に該当し、引火性があるため厳重な管理が必要です。

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指定数量は2000L

これを超える貯蔵は許可が必要。少量でも届出が必要な場合も。

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正露丸とは別物

医薬品の木クレオソートと工業用は成分も毒性も全く異なります。

クレオソート油と危険物の消防法規制

農業の現場、特に果樹園の棚や獣害対策の柵などで長年愛用されてきた「クレオソート油」。その強力な防腐性能は頼もしいものですが、同時に法律上非常にデリケートな扱いが求められる薬剤でもあります。多くの農業従事者が「ホームセンターで買えるから大丈夫だろう」と安易に考えがちですが、実は保管している量や場所によっては、消防法違反として摘発されるリスクを孕んでいます。


本記事では、クレオソート油を取り巻く法規制、特に消防法における「危険物」としての立ち位置と、安全かつ合法的に使用するための具体的な基準について、現場目線で徹底的に深堀りします。また、意外と知られていない医薬品との違いや、最新の規制動向についても触れていきます。法令順守は自身の安全だけでなく、地域社会からの信頼を守るためにも必須の知識です。


消防法におけるクレオソート油の分類と指定数量


まず大前提として、クレオソート油は消防法において「危険物 第4類 引火性液体 第3石油類」に分類されます。これは、ガソリンや灯油と同じく、火災発生のリスクが高い液体として法律で厳しく管理されていることを意味します。


危険物には、その危険性の度合いに応じて「指定数量」という基準が設けられています。指定数量とは、「これ以上の量を保管するなら、消防法の厳しい基準を満たした許可施設でなければならない」というボーダーラインのことです。クレオソート油が該当する第3石油類(非水溶性液体)の指定数量は、2,000リットルです。


ここで重要なのが、第3石油類の定義です。


消防法では、第3石油類を「1気圧において引火点が70℃以上200℃未満のもの」と定義しています。クレオソート油はこの範囲に収まるため、重油などと同じカテゴリーに入ります。


  • 第4類 引火性液体:引火しやすい液体のグループ
  • 第3石油類:重油、クレオソート油など(引火点70℃~200℃)
  • 指定数量:2,000リットル(非水溶性の場合)

「2,000リットルも持っていないから大丈夫」と安心するのは早計です。指定数量未満であっても、指定数量の5分の1以上(つまり400リットル以上)を保管する場合は、管轄の消防署へ「少量危険物貯蔵取扱」の届出が必要になる自治体がほとんどです。また、それ以下の量であっても、市町村の火災予防条例によって保管場所の構造や消火設備の設置が義務付けられています。


参考リンク:総務省消防庁 - 消防法における命令・罰則の概要(指定数量以上の無許可貯蔵には懲役や罰金の罰則があります)
さらに、この「第4類」という分類は、火気厳禁はもちろんのこと、静電気対策や換気設備など、物理的な管理環境にも影響を及ぼします。農業倉庫の奥で、ガソリン携行缶の隣にクレオソート油のドラム缶を無造作に置いているような状況は、まさに「危険」な状態と言えるのです。


指定数量の倍数計算と貯蔵や取扱いの基準

農家の方が最も注意しなければならないのが、「指定数量の倍数(ばいすう)」という計算方法です。


危険物の規制は、単一の種類の量だけで決まるわけではありません。同じ場所で複数の種類の危険物を保管している場合、それぞれの「指定数量に対する割合」を足し算して判断します。これを「倍数計算」と呼びます。


例えば、農業用ハウスの暖房機用に灯油や重油を保管しているケースを考えてみましょう。


  1. 重油(第3石油類):1,000リットル保管(指定数量2,000リットル)→ 倍数は 0.5
  2. 灯油(第2石油類):500リットル保管(指定数量1,000リットル)→ 倍数は 0.5
  3. クレオソート油:200リットル保管(指定数量2,000リットル)→ 倍数は 0.1

この場合、合計倍数は $0.5 + 0.5 + 0.1 = 1.1$ となります。


合計が「1.0」を超えているため、この保管場所は法律上「指定数量以上の危険物貯蔵所」として扱われます。つまり、都道府県知事(または市町村長)の許可を受けた正式な「危険物貯蔵所」でなければ、法律違反(無許可貯蔵)となり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という非常に重い刑罰の対象となる可能性があります。


貯蔵・取扱いの主な基準(共通事項):

  • 掲示板の設置:「危険物貯蔵所」や「火気厳禁」を表示した掲示板を見やすい位置に設置すること。
  • 整理整頓:空箱やゴミなど、燃えやすいものを周囲に放置しないこと。
  • 容器の密栓:揮発したガスが滞留しないよう、容器は確実に密閉し、通気性の良い場所(屋外や換気設備のある倉庫)に置くこと。
  • 流出防止:万が一容器が転倒しても、油が土壌や河川に流出しないよう、防油堤(ぼうゆてい)や吸着マットを準備すること。

特にクレオソート油は独特の強い臭気があり、揮発成分が含まれています。夏場の高温になるトタン倉庫内などは危険度が増します。直射日光を避け、冷暗所に保管するのが鉄則です。また、地下タンクなどで保管する場合も定期的な漏洩点検が義務付けられています。


参考リンク:危険物第4類・指定数量早見表(自治体による分かりやすい分類表)
「昔からこうやって置いていたから」という慣習は通用しません。消防署の立ち入り検査で指摘を受けてからでは遅いため、今一度、手持ちの油類の総量を計算し直すことを強くお勧めします。


家庭用品規制法による発がん性リスクと防腐剤の規制

クレオソート油が単なる「燃える油」以上に警戒される理由は、その成分に含まれる健康リスク、特に発がん性の問題があるからです。


かつてのクレオソート油には、ベンゾaピレンなど、発がん性が疑われる多環芳香族炭化水素(PAHs)が多く含まれていました。これを受けて、平成16年(2004年)に「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律(家庭用品規制法)」が改正され、一般家庭用として販売されるクレオソート油の成分規制が大幅に強化されました。


現在、ホームセンターなどで「クレオソート油R」や「改良クレオソート」として販売されているものは、この規制をクリアし、発がん性物質の含有量を大幅に低減(10ppm以下など)させた製品です。しかし、古い在庫や、規制前の業務用のものが倉庫の奥に残っている場合は注意が必要です。


規制対象となった主な3物質:

  • ベンゾaピレン
  • ベンゾaアントラセン
  • ジベンゾa,hアントラセン

これらは皮膚から吸収されるほか、揮発したガスを吸入することでも体内に取り込まれます。


農作業で杭(くい)にクレオソート油を塗布する際は、以下の防護対策が必須です。


  1. 保護具の着用:不浸透性の手袋(耐油性ゴム手袋)、保護メガネ、有機ガス用マスクを着用する。軍手は油が浸透して皮膚に密着するため、絶対に使用してはいけません。
  2. 作業環境:風通しの良い屋外で行う。閉め切った作業小屋での塗布は中毒のリスクがあります。
  3. 皮膚付着時:直ちに石鹸と大量の水で洗い流すこと。クレオソート油は光線過敏症を引き起こすことがあり、付着した皮膚が日光に当たると激しい炎症(火傷のような症状)を起こすことがあります。

参考リンク:東京都保健医療局 - クレオソート油及び処理木材の基準(家庭用品規制法の詳細)
また、DIYやガーデニングブームで枕木(まくらぎ)を使うケースが増えていますが、屋内での使用は推奨されません。揮発成分が室内に充満し、シックハウス症候群のような健康被害を引き起こす可能性があるためです。農業用であっても、居住スペースに近い場所での使用や保管は避けるべきです。


農業用廃クレオソート油の産業廃棄物としての廃棄

使い残したクレオソート油や、クレオソート油を塗布して腐敗した廃材(杭や棚の支柱)の処分は、非常に頭の痛い問題です。しかし、ここでも「廃棄物の処理及び清掃に関する法律廃棄物処理法)」が立ちはだかります。


まず、液体のクレオソート油そのもの(廃油)は、産業廃棄物の「廃油」として処理しなければなりません。絶対に、畑の隅に穴を掘って埋めたり、野焼きで燃やしたりしてはいけません。不法投棄として厳罰に処されるだけでなく、土壌汚染や地下水汚染を引き起こし、自身の農作物に悪影響を与える可能性があります。


特に注意が必要なのは、「引火点70℃未満」の廃油などは「特別管理産業廃棄物」として、通常の産業廃棄物よりもさらに厳しい管理が求められる場合がありますが、一般的なクレオソート油(引火点70℃以上)であれば通常の産業廃棄物(廃油)として扱われることが一般的です。ただし、性状によっては処理業者が限定されることもあります。


廃クレオソート油・処理木材の正しい廃棄フロー:

  1. 処理業者の選定:産業廃棄物収集運搬業および処分業の許可を持つ業者を探す。特に「廃油」や「木くず(薬剤処理木材)」の許可品目を持っているか確認する。
  2. 委託契約:書面での委託契約を結ぶ。
  3. マニフェスト(産業廃棄物管理票):排出事業者がマニフェストを交付し、適正に処理されたことを確認する義務がある。

また、クレオソート油が染み込んだ木材(防腐処理木材)も、単なる「木くず」として燃やすことは環境負荷が高いため推奨されません。焼却時に有害なガスやダイオキシン類が発生するリスクがあるため、多くの自治体のクリーンセンター(一般廃棄物焼却場)では受け入れを拒否しています。これも産業廃棄物として、専門の焼却炉を持つ業者に依頼するのが唯一の正解です。


「少量だから家庭ゴミに出してもバレないだろう」という考えは捨ててください。収集車での圧縮時に廃液が飛び散り、作業員が怪我をする事故や、焼却炉のトラブルにつながる事例が報告されています。


参考リンク:産業廃棄物収集運搬業許可の基礎知識(廃油の定義について)

正露丸の木クレオソートと工業用石炭クレオソートの誤解

最後に、クレオソート油に関する最も有名な「誤解」について解説します。


それは、「お腹の薬である正露丸』の主成分もクレオソートだから、クレオソート油は安全、あるいは正露丸は危険なのではないか?」という混乱です。


結論から言うと、「正露丸のクレオソート(木クレオソート)」と「防腐剤のクレオソート(石炭クレオソート)」は、原料も製法も成分も全く異なる別物です。


特徴 木クレオソート (Wood Creosote) 石炭クレオソート (Coal-tar Creosote)
主な用途 医薬品(胃腸薬、正露丸の主成分) 工業用防腐剤(枕木、電柱、農業用杭)
原料 ブナやマツなどの樹木 石炭(コークス製造時の副産物)
成分 フェノール、グアヤコール等 多環芳香族炭化水素(PAHs)、ベンゾピレン等
発がん性 なし(安全性が確認されている) あり(IARC等の評価による)
規制 医薬品医療機器等法 消防法、家庭用品規制法、労働安全衛生法

この混同は、歴史的にどちらも単に「クレオソート」と呼ばれていたことに起因します。英語では明確に区別されていますが、日本では名称が似ているため、長年にわたり風評被害や誤った安心感の原因となってきました。


正露丸に使われる木クレオソートは、天然の木材を炭化させる際に出る煙を冷却・精製して作られる植物由来の成分であり、防腐剤のような発がん性リスクはありません。逆に、工業用の石炭クレオソートを「薬と同じ名前だから」といって素手で触ったり、安易に吸い込んだりすることは極めて危険です。


農業従事者として、この違いを明確に理解しておくことは、作業の安全管理上、非常に重要です。「名前が同じでも別物である」という認識を持ち、防腐剤としてのクレオソート油(石炭由来)に対しては、化学物質としての最大限の警戒を持って接してください。


参考リンク:大幸薬品 - 木クレオソートと石炭クレオソートの違い(メーカー公式の詳しい解説)
このように、クレオソート油は非常に有用な資材である一方、消防法、家庭用品規制法、廃棄物処理法と、多岐にわたる法律の規制対象となっています。正しい知識を持ち、適正に管理することで、自身と環境を守りながら農業経営を続けていきましょう。




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