廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令と農業の産業廃棄物の処分

廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令は農業経営にどう影響するのか?産業廃棄物の区分や野焼きの例外、違反時の重い罰則まで、農家が知っておくべき法律の要点を徹底解説します。正しい知識で経営を守れていますか?
廃棄物処理法施行令と農業のポイント
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産業廃棄物の区分

農業特有の廃プラスチックや汚泥の扱いを正確に理解する必要があります。

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野焼きの例外規定

「やむを得ない焼却」の範囲と、近隣トラブルを防ぐ配慮が不可欠です。

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罰則とリスク管理

個人でも最大1000万円の罰金。法人なら3億円の重罰規定があります。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令

農業を営む中で避けて通れないのが、日々の作業から出る「ゴミ」の処理問題です。しかし、これを単なるゴミとして安易に燃やしたり、敷地の隅に埋めたりすることは、法律によって厳しく規制されています。その中心となる法律が「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」であり、その詳細なルールを定めたものが「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令」です。多くの農家の方が「自分は関係ない」「昔からこうしているから大丈夫」と考えがちですが、実は知らず知らずのうちに法律違反を犯してしまっているケースが後を絶ちません。

 

農業は自然を相手にする仕事ですが、法律上は「事業活動」として扱われます。つまり、農家は「排出事業者」としての責任を負わなければなりません。施行令には、どの廃棄物が産業廃棄物にあたるのか、どのような場合なら焼却が認められるのかといった、極めて具体的な基準が記されています。これらを正しく理解していないと、ある日突然、警察や行政の指導を受けることになり、最悪の場合は逮捕や巨額の罰金刑に処される可能性すらあります。

 

本記事では、難解な法文を読み解き、農業現場で特に注意すべきポイントを整理しました。廃プラスチックの適正な処理方法から、誰もが気になる「野焼き」の線引き、そして委託処理時のマニフェスト(産業廃棄物管理票)の運用まで、現代の農業経営に必須のコンプライアンス知識を網羅しています。自身の経営を守り、地域社会と共生していくために、今一度、廃棄物処理のルールを見直していきましょう。

 

廃棄物の処理と農業における産業廃棄物の区分

 

農業活動に伴って排出される廃棄物は、一般家庭から出るゴミとは全く異なる扱いを受けます。廃棄物処理法では、廃棄物を「一般廃棄物」と「産業廃棄物」の2つに大別していますが、農業者が特に注意しなければならないのは、この区分けが品目によって非常に複雑であるという点です。施行令第2条では、産業廃棄物となる20種類の品目が指定されていますが、農業分野においては「何が産業廃棄物で、何が事業系一般廃棄物なのか」の判断が誤りやすいポイントとなっています。

 

まず、農業において確実に「産業廃棄物」として処理しなければならない代表的なものが「廃プラスチック類」です。ハウス栽培で使用したビニール、マルチフィルム、肥料袋、育苗ポット、農薬のプラスチック容器などがこれに該当します。これらは、たとえ少量であっても市町村の一般ゴミ収集に出すことはできず、必ず産業廃棄物処理業の許可を持つ業者に委託して処理する必要があります。また、「ゴムくず」(ゴム手袋や長靴など)、「金属くず」(壊れた農機具や針金など)、「ガラスくず・コンクリートくず及び陶磁器くず」(割れた瓶やブロックなど)も産業廃棄物です。

 

一方で、判断に迷いやすいのが「植物性残渣(作物残渣)」や「木くず」です。施行令第2条第4号では、「食料品製造業」などの特定の業種から排出される動植物性残渣を産業廃棄物と定めていますが、一般的な「農業」から排出される作物残渣(収穫後の茎や葉、不良農産物など)は、産業廃棄物の指定業種に含まれていません。したがって、原則としてこれらは「事業系一般廃棄物」に分類されます。事業系一般廃棄物は、市町村の処理計画に従って処理するか、自ら適正に処理(堆肥化など)する必要があります。

 

しかし、ここで注意が必要なのが「廃油」や「汚泥」です。農機具のメンテナンスで出た廃油や、ハウスの洗浄などで生じた汚泥は、全業種共通で産業廃棄物となります。また、畜産農業においては「動物のふん尿」や「動物の死体」が産業廃棄物に指定されています(施行令第2条該当項目)。このように、同じ農場から出るゴミでも、その材質や発生源によって法的な扱いが全く異なるため、分別を徹底し、それぞれの区分に応じた適正なルートで処分することが求められます。

 

参考リンク:環境省 - 廃棄物処理法改正のポイント(排出事業者の責任強化について詳細に解説されています)
さらに、近年問題視されているのが、肥料や農薬の空き容器の扱いです。中身が残っている場合は、内容物に応じた処理が必要になりますが、プラスチック容器自体は洗浄しても産業廃棄物扱いとなるのが基本です。「きれいに洗ったから一般ゴミでいいだろう」という自己判断は禁物です。地域によってはJAなどが回収を行っている場合もありますが、その場合でも法的には産業廃棄物の運搬・処分の委託契約に準じた形で行われていることを理解しておく必要があります。

 

廃棄物の処理と野焼き禁止の例外の条件

「野焼き」すなわち廃棄物の野外焼却は、廃棄物処理法第16条の2により、原則として禁止されています。これに違反した場合、非常に重い罰則が科せられますが、農業者にとって重要なのは、施行令第14条に定められた「焼却禁止の例外」規定です。多くの農家が「農業だから燃やしてもいい」と認識していますが、この例外規定は無条件に認められているわけではありません。

 

施行令第14条第5号では、「農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却」を例外として挙げています。具体的には、稲わら、もみ殻剪定枝、作物残渣などの焼却がこれに該当すると解釈されています。害虫駆除や土壌改良、あるいは物理的に処理施設への搬入が困難な場合など、農業経営上必要不可欠な焼却に限って認められているものです。

 

しかし、ここで最も重要なキーワードは「やむを得ないもの」と「生活環境の保全上の支障」です。たとえ農業由来の焼却であっても、煙や臭いが近隣住民の生活環境に悪影響を及ぼしている場合、それは「やむを得ない」範囲を超えていると判断される可能性があります。近年、農村部でも混住化が進み、非農家世帯が増加しています。「洗濯物に臭いがつく」「煙で窓が開けられない」「体調が悪くなった」といった通報が行政や警察に入れば、行政指導の対象となります。指導に従わず焼却を続けた場合は、例外規定の適用外とみなされ、検挙されるケースも実際に発生しています。

 

参考リンク:福島県 - 野外焼却(野焼き)の禁止について(農業における例外と行政指導の境界線が分かりやすく解説されています)
また、絶対に勘違いしてはいけないのが、「廃プラスチック類」の焼却は、いかなる理由があっても農業における例外には含まれないという点です。ビニール、肥料袋、農薬の容器などを野外で燃やす行為は、ダイオキシン類などの有害物質を発生させる恐れがあり、即座に処罰の対象となります。「他の草木と一緒に燃やせばバレない」という考えは極めて危険であり、悪質性が高いと判断されれば逮捕されるリスクもあります。

 

例外規定のもとで適法に焼却を行う場合でも、以下の配慮が不可欠です。

 

  • 風向きや時間帯(洗濯物を干す時間を避けるなど)を考慮する。
  • 一度に大量に燃やさず、少量ずつ行い、煙の発生を抑える。
  • 事前に行政や消防署へ届け出を行う(許可ではなく、あくまで火災誤認防止のための届出)。
  • よく乾燥させてから焼却し、不完全燃焼を防ぐ。

例外はあくまで「権利」ではなく、事情を汲んで許容されている「特例」であることを認識し、周辺環境への配慮を最優先にする必要があります。

 

廃棄物の処理と違反時の罰則とリスク

廃棄物処理法違反に対する罰則は、日本の環境法令の中でも特に厳しい部類に入ります。これは、不法投棄や不適正処理が一度行われると、環境の原状回復が極めて困難であり、社会的な損害が甚大であるためです。農業者が安易な気持ちで行った処理が、取り返しのつかない事態を招くことがあります。

 

最も代表的な罰則は、不法投棄(第16条違反)や不法焼却(第16条の2違反)に対するものです。これらに違反した場合、個人の場合でも「5年以下の懲役」もしくは「1000万円以下の罰金」、またはその「併科(両方の刑が科されること)」となります。多くの法律では懲役か罰金のどちらかですが、廃棄物処理法では悪質な場合に両方が科される可能性があり、その厳しさが分かります。前科がつくだけでなく、経済的にも破滅的なダメージを受けることになります。

 

さらに恐ろしいのが、法人に対する「両罰規定」です。農業法人などが業務に関して不法投棄や不法焼却を行った場合、行為者個人だけでなく、法人そのものに対して「3億円以下の罰金刑」が科される規定があります(第32条)。これは平成22年の法改正で大幅に引き上げられたもので、組織的な環境犯罪を抑止するための強力な措置です。従業員が「会社の経費を浮かせよう」と勝手にゴミを埋めたり燃やしたりした場合でも、会社側の管理監督責任が問われれば、会社が倒産しかねない巨額の罰金を背負うことになります。

 

参考リンク:警視庁 - 廃棄物の不法投棄対策(不法投棄の現状と罰則、通報体制について警察の視点から解説されています)
また、直接的な投棄や焼却だけでなく、「委託基準違反」にも罰則があります。産業廃棄物の処理を業者に委託する際、書面での契約を結ばなかったり、マニフェスト(管理票)を交付しなかったりした場合も、「3年以下の懲役」または「300万円以下の罰金」の対象となります。無許可業者に委託してしまった場合も同様です。「業者が大丈夫だと言ったから」という言い訳は通用しません。排出事業者には、最終処分が完了するまでを見届ける責任があるのです。

 

行政処分としての「措置命令」も無視できません。不適正な処理が行われた場合、都道府県知事は排出事業者に対して、廃棄物の撤去や原状回復を命じることができます。これにかかる費用は全額事業者負担となります。自分で埋めたゴミを、莫大な費用をかけて掘り起こし、正規のルートで処分し直すことになるのです。このコストは、最初から適正に処理していた場合の何倍、何十倍にも膨れ上がります。適正処理のコストは「高すぎる」と感じるかもしれませんが、違反時のリスクと天秤にかければ、それは経営を守るための必要経費であることが理解できるはずです。

 

廃棄物の処理と委託マニフェストの管理

産業廃棄物の処理を外部に委託する場合、口約束や電話一本での依頼は法律違反となります。廃棄物処理法では、排出事業者が処理業者に対して委託する際に守るべき「委託基準」が厳格に定められており、その中核をなすのが委託契約書の締結とマニフェスト(産業廃棄物管理票)の交付です。

 

まず、委託契約は必ず「書面」で行わなければなりません。収集運搬業者と処分業者が異なる場合は、それぞれと直接契約を結ぶ必要があります(二者契約の原則)。契約書には、委託する廃棄物の種類、数量、処分方法、委託料などを明記し、許可証の写しを添付することが義務付けられています。この契約書は、契約終了後も5年間の保存義務があります。

 

次にマニフェスト制度です。これは、排出事業者が廃棄物の引き渡し時に交付し、処理の流れを追跡・管理するための伝票です。マニフェストには、誰が運び、誰が処分し、いつ最終処分が完了したかが記録されます。排出事業者は、処理業者から返送されてくるマニフェスト(B票、D票、E票)を確認し、適正に処理されたことを把握する義務があります。

 

  • A票: 排出事業者の控え(交付時に保管)
  • B2票: 運搬完了の報告(収集運搬業者から返送)
  • D票: 処分完了の報告(処分業者から返送)
  • E票: 最終処分完了の報告(二次マニフェスト等を経て返送)

これらの伝票も5年間の保存義務があります。もし、期限内にマニフェストが戻ってこない場合は、速やかに処理状況を確認し、生活環境保全上の支障除去措置を講じた上で、都道府県知事に報告書(措置内容等報告書)を提出しなければなりません。これを怠ると処罰の対象となります。

 

参考リンク:日本産業廃棄物処理振興センター - 電子マニフェストの仕組み(紙マニフェストに代わる電子化のメリットと導入方法が詳述されています)
最近では、事務負担の軽減やコンプライアンス強化の観点から「電子マニフェスト」の導入が進んでいます。JWNET(日本産業廃棄物処理振興センター)が運営する情報処理センターを介してやり取りを行うため、伝票の保管スペースが不要になり、報告漏れや紛失のリスクもなくなります。また、行政への年次報告(産業廃棄物管理票交付等状況報告書)も不要になるという大きなメリットがあります。農業者であっても、継続的に産業廃棄物を排出する場合は、電子マニフェストの導入を検討する価値は十分にあります。適正な処理委託は、信頼できる農業経営の証でもあります。

 

廃棄物の処理と有価物と廃棄物の境界線

最後に、農業現場でしばしば議論となり、法的なグレーゾーンとなりやすい「有価物」と「廃棄物」の境界線について、独自の視点から解説します。多くの農業者が「これは堆肥の原料になるから有価物だ(=ゴミではない)」と主張し、野積みや不適切な譲渡を行ってしまうケースがありますが、行政や司法の判断はもっとシビアです。これを理解していないと、「リサイクルのつもり」が「不法投棄」として摘発されることになります。

 

法律上の廃棄物かどうかの判断は、「総合判断説」という基準が用いられます。これは、「物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「占有者の意思」の5つの要素を総合的に勘案して決定するという考え方です。

 

ここで最も誤解されやすいのが「取引価値の有無」です。「無料で近所の農家に譲った」あるいは「少しお金をもらった」からといって、直ちに有価物(非廃棄物)と認められるわけではありません。

 

特に注意が必要なのが「逆有償」のケースです。例えば、廃プラスチックや汚泥をリサイクル業者に引き渡す際、その物を売って利益を得るのではなく、こちらが運搬費や処理費を支払っている(=お金を払って持っていってもらっている)場合、その物は基本的に「廃棄物」とみなされます。たとえ相手が「リサイクル資源として使います」と言っていても、金銭の流れが「排出者→受入者」である限り、廃棄物処理法の規制対象となる可能性が極めて高いのです。

 

また、堆肥化目的で家畜ふん尿や残渣を畑に野積みしているケースも危険です。たとえ将来的に肥料として使うつもりがあっても、長期間放置され、悪臭を放ち、地下水を汚染しているような状態であれば、それは「有価物」ではなく「管理されていない廃棄物」と判断されます。つまり、不法投棄とみなされるのです。

 

参考リンク:環境省 - 規制改革通知と廃棄物の定義(「おから」などの裁判例をもとにした総合判断説の詳細な解説資料です)
この「境界線」を安全に渡るためのポイントは以下の通りです。

 

  • 客観的な価値の証明: 相手から確実に対価(購入費)を受け取っているか。名目上の1円売買ではなく、輸送費を差し引いても利益が出る取引か。
  • 適切な管理: 有価物として保管しているなら、飛散流出防止措置を講じ、商品として扱っているか。
  • 需要の確実性: 譲渡先に確実に利用する需要があるか。単に押し付けているだけではないか。

「使えるからゴミじゃない」という主観ではなく、客観的な取引事実と管理実態が全てを決定します。資源循環は重要ですが、法律の枠組みを逸脱した自己流のリサイクルは、経営を揺るがす最大のリスク要因になり得ることを肝に銘じておくべきです。廃棄物か有価物か判断に迷う場合は、必ず管轄の自治体や保健所の窓口に相談し、言質を得ておくことが自分自身を守る最大の防御策となります。

 

 


九訂版 廃棄物処理法Q&A