三ヶ日町農業協同組合(JAみっかび)は、静岡県浜松市浜名区三ヶ日町に本所を置く農協で、生産販売額全体の約85%を三ヶ日みかんが占める、全国でも珍しい「柑橘主軸」の産地です。 温暖で日照時間が長く、浜名湖からの反射光も期待できる地形条件が、糖度と酸度のバランスに優れた三ヶ日みかんの栽培に適していることが、高い構成比を支える土台になっています。 さらに、昭和35年に設立された三ヶ日町柑橘出荷組合が一元集荷体制を整えてきた歴史があり、農協と二人三脚で品質統一とブランド戦略を進めてきたことも、みかん依存度の高さにつながっています。
三ヶ日みかんは、冬季に収穫した果実を貯蔵した後に出荷する体系を取り、追熟させることで味をのせる「時間の技術」を重ねている点も特徴です。 この貯蔵と選別のノウハウを農協側が組織的に支えることで、単なる生果出荷にとどまらず、ジュースやスイーツ、サイダーなどのオリジナル加工品を展開し、付加価値を高める仕組みが構築されています。 農家にとっては、生食用と加工用の複数チャネルを通じて安定取引が確保されるため、面積当たりの収益性を確保しやすく、結果として「みかん中心で経営が成り立つ」地域構造が維持されているのです。
参考)https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/133742/04dai2shou08.pdf
こうした体制の裏側には、JAみっかびが金融・共済・生活事業を含めて地域のインフラを担っていることも見逃せません。 農業所得だけでなく、生活全体を支える機能を一体的に提供することで、柑橘経営を主軸とした暮らしを地域単位で維持しやすい環境を整えてきた点は、他産地にとっても参考になるポイントです。
参考)三ヶ日町農業協同組合とは - わかりやすく解説 Weblio…
この部分の参考リンク(JA概要・事業内容の詳細解説):
三ヶ日町農業協同組合(JAみっかび)の概要・事業内容
三ヶ日町農業協同組合は、2021年11月に日本最大級の柑橘選果場を完成させ、AIやスマート物流システムを導入したことで、日量500トン規模の選果能力を実現しています。 選果ラインでは、高精度センサーと人工知能が一つ一つの果実の糖度・外観を計測し、人の目による最終確認と組み合わせることで、品質のばらつきを抑えたロット形成が可能になっています。 これにより、従来の目視中心の選別作業に比べて、作業時間の短縮と選別精度の両立が図られ、省力化と高品質化が同時に進んでいる点が現場の大きなメリットです。
この新選果場では、生産者が家庭選果を終えたみかんを専用コンテナに入れて持ち込むと、出荷者・園地・数量などの情報を専用端末から入力し、そのデータが電子チップ入りのIDボールに登録されます。 IDボールは荷口に投入され、搬入したミカンと選果結果のデータが紐づけられるため、後から園地ごとの品質傾向や収量を分析できる仕組みになっており、「見える化された選果」が生産指導や園地管理に直結しています。 また、選果工程は見学できるように設計されており、観光施設としても地域社会に貢献したいという考えから、消費者や教育機関に向けた公開も視野に入れた施設になっている点が、単なる選果場を超えた役割を担っています。
参考)三ヶ日町農業協同組合 柑橘選果場 施工実績
物流面でも、パレットには8キロ入りダンボールが84箱載り、トラック1台あたり16パレット、約10トン・およそ10万個ものミカンを一度に運ぶ体制が整備されています。 柑橘選果場として1時間あたり66.9トンの処理能力を発揮することで、ピーク時の集中的な出荷にも対応できるため、農家は収穫適期を逃さずに搬入でき、品質と労働負担の両面で余裕を持った作業計画を立てやすくなっています。 こうした高度な設備投資を地域単位で共有している点は、「個別農家ではなく産地全体で技術投資を回収するモデル」として、他地域が長期的な設備更新を検討する際のヒントになるでしょう。
参考)http://www.ja-hitodukuriken.jp/topics/pdf/180226_03.pdf
この部分の参考リンク(選果工程の詳細説明・写真):
三ヶ日みかんが届くまで(柑橘選果場の流れ)
三ヶ日町農業協同組合は、選果場で蓄積される膨大なデータを活用し、システムを用いた営農指導によって柑橘栽培の労働生産性向上を目指す取り組みを進めています。 選果結果と園地情報を紐づけて分析することで、園地別の品質傾向や収量、サイズ分布などを把握できるようになり、「どの園地で肥培管理や剪定方針を見直すべきか」を客観的に示せる点が、従来の経験依存型の指導と大きく異なる部分です。 こうしたデータ解析の事例は、静岡県西部農林事務所と連携しながら普及が図られており、地域全体でデータドリブンな営農にシフトしていく動きが見られます。
コミュニケーション面では、LINEなどのツールを活用した営農相談体制を構築し、天候変化や病害虫の発生状況に応じた迅速な情報共有を行っています。 園地で撮影した画像や動画をその場で送信し、職員からのアドバイスを受けられるため、従来の「巡回指導の来訪を待つ」スタイルに比べて、初動対応のスピードが格段に上がる点が現場からも評価されています。 また、LINE配信を通じて、選果の混雑状況や搬入時間帯の注意喚起を行うことで、ピーク時の搬入集中を緩和し、労働時間の分散にも貢献しているなど、デジタルツールを労務管理にも活かしている点は、意外と知られていない取り組みと言えるでしょう。
参考)News&Topics|栽培から選果まで、データを活用した生…
営農DXの取り組みは、国の「持続的生産強化」の支援事業とも連動しており、単なるIT導入ではなく「人手不足や高齢化を見据えた産地構造転換」の一環として位置づけられています。 そのため、システム導入に際しては、現場の農家が「難しい操作を覚えなくても、結果として仕事が楽になること」を重視した設計や運用が意識されており、デジタルに苦手意識を持つ生産者にも寄り添う姿勢が感じられます。 DXを進める際に、ツールそのものよりも現場の負担軽減を優先する姿勢は、他地域でデジタル化を推進する際にも参考になる考え方です。
参考)三ヶ日町農業協同組合の新卒採用・会社概要
この部分の参考リンク(DX・データ活用の取り組み紹介):
データを活用した生産供給体制モデル構築の取り組み
三ヶ日町農業協同組合は、農業事業だけでなく、三農サービス株式会社や生活館、オートパーク、農機センター、特産センターといった関連施設を通じて、地域の生活インフラ全体を支える役割も担っています。 三農サービス株式会社は、本所と連携しながら農機具のメンテナンスや資材供給などを行い、機械化が進む柑橘栽培において欠かせないサポート体制を構築しており、「壊れたらすぐ相談できる窓口が近くにある」安心感が、生産者の設備投資を後押ししています。 こうした関連会社を通じたサポートは、農家単独では難しい大型機械の導入や維持管理を、地域全体で支える仕組みとして機能しています。
生活館では、旅行・葬祭・住宅設備など、暮らしに密着したサービスを提供し、オートパークでは自動車の販売や車検・点検・修理などを行うことで、農家の「足」と生活の安定を支えています。 特産センターでは、三ヶ日みかんをはじめとする地域の特産物や土産物を販売しており、観光客にとって産地の魅力を直接体験できる窓口としても活躍しています。 このように、JAみっかびは金融・共済・販売事業にとどまらず、生活面まで含めた総合サービスを展開することで、「農業を主軸とした地域協同組合」という将来像を具体的に形にしているのです。
参考)三ヶ日町農業協同組合 - Wikipedia
意外なポイントとして、こうした生活・自動車・特産物の事業は、農業の端境期にも一定の収益と雇用を生み出し、組合全体の経営安定に寄与している側面があります。 柑橘という季節性の強い作物を主力に据えながらも、通年型のサービス事業を組み合わせることで、職員の通年雇用や地域雇用の確保を図っている点は、「農協=農産物販売」というイメージを超えた経営戦略といえます。 これは、人口減少や高齢化が進む中山間地域においても、農協が地域商社的な役割を担うことで、地域の暮らしと産業を一体的に支えるモデルとして注目されています。
参考)https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/11406/zaiseisugatahonnpenn_r5.pdf
この部分の参考リンク(施設・関連会社の概要):
三ヶ日町農業協同組合 三農サービス株式会社 本社情報
三ヶ日町農業協同組合の事例から学べるのは、「品目を絞り込んだうえで、産地全体でブランド価値を高める」という戦略が、長期的な競争力につながるという点です。 三ヶ日みかんは、日本三大みかん産地の一つとして認知されており、「ミカちゃんマーク」をはじめとする統一ブランドで市場に出ることで、消費者に分かりやすい品質の目印を提供し続けてきました。 その裏側では、選果基準の統一や出荷ロットの安定化など、ブランドを守るための地道なルールづくりと運用が続けられており、「おいしさ」だけでなく「安心して選べる産地」であり続けることが意識されています。
次世代に向けては、AI選果場やデータ解析・LINE相談といったDXの取り組みを、若手農業者の参入ハードルを下げるツールとして活かしている点も見逃せません。 膨大な経験則に頼ってきた部分を、データや仕組みに置き換えることで、「経験年数が浅くても、一定水準以上の品質を目指せる」環境を整えれば、就農希望者にとっても魅力的な産地になります。 さらに、直売所や特産センター、観光としての選果場見学などを組み合わせた「見える産地づくり」は、消費者との距離を縮めるだけでなく、次世代の担い手にとって「地域に誇れる仕事」と感じてもらうための重要な要素になっているといえるでしょう。
他地域の農業者にとってのヒントは、必ずしも大規模なAI選果場を導入することだけではありません。小規模産地でも、出荷組合や農協と連携した一元集荷・統一ブランドづくり、簡易なデータ共有やチャットツールによる情報交換など、三ヶ日町農業協同組合のエッセンスを自分たちなりの規模感で取り入れることは十分可能です。 大切なのは、「産地全体としてどう見られたいか」という将来像を描き、それに向けて設備投資やルールづくり、人材育成を組み合わせていくことであり、その意味で三ヶ日町農業協同組合は、規模の大小を問わず参考にできる実践事例だといえます。
この部分の参考リンク(歴史的背景・ブランド形成の資料):
三ヶ日みかんの栽培にみる歴史的風致(浜松市資料)