オリサストロビン農薬の特徴と正しい使い方・耐性菌対策まで

水稲防除に広く使われるオリサストロビン農薬。いもち病・紋枯病に強力な効果を持つ一方で、使い方を誤ると耐性菌リスクや収量損失につながることも。正しい使用回数・時期・対策を知っていますか?

オリサストロビン農薬の特徴と正しい使い方・耐性菌対策まで

あなたが「もう1回まいても大丈夫」と思った1散布が、翌年のいもち病多発を招くことがあります。


オリサストロビン農薬 3つのポイント
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いもち病と紋枯病を同時防除

箱処理1回で、葉いもち・穂いもち・紋枯病をまとめてカバー。 省力化と防除効果を両立できます。

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使用は1作期1回が絶対ルール

ストロビルリン系殺菌剤(QoI剤)は耐性リスクが最高レベル「9」。連用すると5〜6年で耐性菌が蔓延する危険があります。

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2012年から22府県で耐性菌が発生

耐性菌が発生した圃場では薬剤がほぼ効かなくなります。他系統剤との体系使用と使用面積の管理が収量を守る鍵です。

オリサストロビン農薬とはどんな殺菌剤か



オリサストロビンは1995年にBASFアクチェンゲゼルシャフト社(ドイツ)が開発したストロビルリン系殺菌剤です。 世界で初めて日本が登録申請国となった、いわば「日本専用」の農薬であり、他国では登録されていません。


これは意外と知られていない事実です。



参考)https://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-hyouka-orysastrobin.pdf


作用のしくみはミトコンドリア内のチトクローム電子伝達系(複合体III)を阻害し、菌の呼吸を止めることで殺菌活性を示します。 化学グループはオキシイミノアセトアミド系に分類され、アゾキシストロビンやメトミノストロビンと同じQoI殺菌剤グループに属します。mhlw+1
根から吸収されて地上部に移行しやすい性質を持ちます。 そのため育苗箱処理剤として使うと、移植後に成分が稲の体内へ取り込まれ、長期間にわたって防除効果が持続する「長期持続型」として機能します。


つまり箱処理で使える点が最大の特徴です。



参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/04/dl/s0411-5c.pdf


代表的な登録製品には「嵐」(商品名)があり、箱粒剤として広く使われています。 オリサストロビン剤の普及は2007年以降に本格化し、全国で10〜15万haの面積で使用されるまでに拡大しました。


参考)https://www.mc-croplifesolutions.com/suitozai/assets/pdf/oryze/40th/contribution.pdf


オリサストロビン農薬のいもち病・紋枯病への防除効果

いもち病(苗いもち・葉いもち・穂いもち)と紋枯病の両方に登録を持つ点が、この農薬の大きな強みです。 1回の育苗箱処理でシーズンを通じた防除が可能なため、本田での追加散布回数を減らせるメリットがあります。


これは使えそうです。



参考)https://www.midori-kyokai.com/pdf/tayoriNo52.pdf


いもち病に対するQoI剤の複合リスクはFRAC(殺菌剤耐性菌対策国際機構)の基準で「9」と評価されており、これは考えうる最も高い耐性菌発生リスクのカテゴリに分類されます。 スコア9というのは、QoI殺菌剤(リスク高=3)とイネいもち病菌(リスク高=3)を掛け合わせた数値であり、他の多くの殺菌剤・病害の組み合わせよりも格段に高い水準です。


紋枯病への効果については、みどりの安全推進協会の報告でも「いもち病に加え、紋枯病にも高い効果を示す」と記載されています。 1剤で2つの主要病害をカバーできる経済性の高さが、普及拡大の主な理由です。


ただし、殺菌効果の「長期持続」という特性は、耐性菌を選抜する期間も長くなるという裏の顔があります。 長期持続型のQoI箱処理剤の普及が耐性菌の発達を速めた可能性が高い、と農研機構の研究でも指摘されています。高い効果と高いリスク、両面を理解することが基本です。


オリサストロビン農薬の使用方法と使用回数の厳守ルール

Japan FRACが定めたストロビルリン系殺菌剤の使用ガイドラインでは、「1作期1回を上限とする」と明記されています。 この回数制限は推奨ではなく、耐性菌の発生を防ぐための業界共通の絶対ルールです。


1回が原則です。



参考)301 Moved Permanently


3.3%オリサストロビン粒剤(育苗箱処理剤)の使用方法は湛水散布または散布と規定されており、本田での総使用回数は1回までとなっています。 「少し追加してもいいだろう」という判断が耐性菌リスクを急激に高めます。


参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/04/dl/s0411-5d.pdf


具体的な数字で見るとよくわかります。農研機構のシミュレーションモデルによると、QoI剤使用面積率が100%の場合は3年目に、10%では8年目に、1%では60年目に耐性菌頻度が50%を超えると計算されています。 使用面積を抑えるほど、農薬が有効に使える期間が大幅に延びるということです。


また、ガイドラインでは「作用機構の異なる殺菌剤と体系で使用すること」も求められています。 毎年オリサストロビン剤だけに頼る防除体系は、FRAC基準でも耐性菌対策として不十分とされます。


他系統剤との組み合わせが条件です。



採種圃場では、ストロビルリン系殺菌剤の使用を一切しないことが求められています。 採種圃場で耐性菌が発生した場合、感染種子を通じて広域に耐性菌が拡散するリスクがあるためです。


種子を扱う農家は特に注意が必要です。



オリサストロビン農薬の耐性菌リスクと22府県での発生状況

2012年、九州・中国・四国地方を中心に、オリサストロビンを含む箱粒剤を使用してもいもち病が多発する地域が出現しました。 調査の結果、QoI剤耐性菌の関与が確認され、国内初の耐性菌発生として記録されました。


厳しいところですね。



その後、耐性菌の分布域は九州から東北地方まで拡大し、2018年までに22府県で発生が公表されています。 22府県というと、全国47都道府県のほぼ半数に当たる広さです。東京ドーム換算ではイメージしにくいですが、日本の主要な稲作地帯の多くをカバーする規模と理解してください。


耐性菌は遺伝子レベルの変異(ミトコンドリアのチトクロームb遺伝子の143番目のアミノ酸置換:G143A)によって耐性を獲得します。 さらにQoI剤グループ内では「交差耐性」が生じるため、オリサストロビンへの耐性がアゾキシストロビンやメトミノストロビンにも同時に及びます。 つまり1種類に耐性がつくと、グループ全体が効かなくなるということです。


統計データの分析結果では、3種類のQoI剤の中でもとくに「オリサストロビンの使用面積率が高い県で耐性菌が発生した」という有意な関係が統計学的に裏付けられています。 使用面積率10%以上で連用した場合、5〜6年程度で耐性菌が蔓延することが示唆されています。


10%以下に抑えることが大前提です。


参考情報(農研機構 殺菌剤耐性イネいもち病菌対策マニュアル):耐性菌管理の考え方・モニタリング手法の詳細を解説した公式マニュアルです。


農研機構「殺菌剤耐性イネいもち病菌対策マニュアル<QoI剤>」(PDF)

オリサストロビン農薬の耐性菌発生を防ぐ実践的な対策と代替防除体系

耐性菌対策の核心は3点に集約されます:①使用面積率の管理、②連用の制限、③種子保菌率の低減です。


この3点セットが基本です。


使用面積の管理については、研究データに基づく推奨値として「作付面積の20%以下」が示されています。 地域全体でこの割合を超えないよう、JA・農薬会社・行政が連携して使用量を管理することが求められます。農家単独では難しいため、地域ぐるみの取り組みが必要です。


連用を回避するためには、数年単位の計画的な使用ローテーションが有効です。 たとえば県内を複数の地域に分けて、地域ごとに「使用年→非使用年」を順番にずらしていく方法が実践例として示されています。非使用期間を挟むことで、耐性菌が採種圃場に入り込むリスクも下げられます。


耐性菌が発生してしまった圃場での代替防除には選択肢があります。 福岡県での試験(2014年)では、MBI-R系のトリシクラゾール水和剤やピロキロン箱粒剤が耐性菌・感受性菌ともに防除価100を示しました。 他系統剤ならば耐性菌が発生した圃場でも高い効果が得られます。


実際にQoI剤を使用してもいもち病の発生を認めた場合は、検定結果を待たずに速やかに他系統の薬剤で緊急防除を行うことが鉄則です。 育苗時に発生が認められた場合は苗を廃棄する判断も必要になります。


発見が早いほど被害を抑えられます。


種子管理の面では、採種圃場での被害籾率を1%未満に抑えることが管理目標として設定されています。 種子消毒(ベノミル水和剤加用など)を徹底し、種子更新率を高めることが耐性菌の伝搬を断つ根本的な対策になります。


健全な種子選びが第一歩です。


参考情報(Japan FRAC QoIイネ作業部会 使用ガイドライン):ストロビルリン系殺菌剤の使用回数・体系使用のルールを確認できる公式文書です。


Japan FRAC「QoI殺菌剤 使用ガイドライン」(PDF)




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