収穫後に薬剤散布をやめると、翌年の黒星病発生リスクが最大で数倍に跳ね上がります。
ニホンナシ黒星病は、葉・果実・新梢など複数の部位に発症する点が厄介です。 最初に現れるのが芽基部病斑で、花芽や葉芽の基部近辺に黒い病斑が生じます。指先でこすって黒い粉がつけば黒星病と判断できます。
参考)https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/63415/36pearblackstar.pdf
果実への被害が最も深刻です。 幼果期に感染すると黒いすす状の病斑ができ、果実のゆがみや裂果が起こります。幸水など感受性の高い品種では、6月以降も感染が続き、肥大後期まで黒くへこんだ病斑をつくって商品価値を完全に失わせます。
葉では夏から秋にかけて、葉裏に薄墨色の病斑(秋型病斑)が点々と形成されます。 これは翌年の第一次伝染源になるため、秋に見つけた際の対処が翌年の発生量を大きく左右します。
見落としがちな葉裏のチェックが重要です。
| 発病部位 | 症状の特徴 | 発生時期 |
|---|---|---|
| 芽基部 | 黒い病斑、黒い粉が指につく | 萌芽期〜開花期(3〜4月) |
| 葉(秋型病斑) | 葉裏に薄墨色の点状病斑 | 夏〜秋(8〜11月) |
| 幼果 | 黒いすす状病斑・裂果・ゆがみ | 落花後〜幼果期(4〜6月) |
| 成熟果(幸水等) | 黒くへこんだ病斑・商品価値消失 | 肥大後期まで継続 |
黒星病菌は落葉や鱗片(りん片)の中で越冬し、翌春に第一次伝染源となります。 春、気温が上がると胞子を飛散させ、萌芽期前後の感受性が高い時期に一気に感染が広がります。
これを「第一次感染」と呼びます。
参考)ナシ黒星病の秋季防除
感染が成立する温度帯は平均気温15〜21℃です。 10月上旬〜11月上旬がまさにこの範囲に重なるため、収穫後も油断できません。胞子が飛び散るのは春だけと思っている農家は少なくありませんが、秋にも活発な感染が起きています。
意外ですね。
鹿児島県での研究では、地表が雑草に覆われている条件下では子のう胞子の飛散が阻害される可能性が示唆されています。 ただし、慣行防除を続けていれば罹病落葉の有無による発病差はほとんど確認されていないとも報告されており、草生管理だけでは限界があります。
薬剤防除との組み合わせが基本です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyubyochu/58/0/58_34/_pdf
参考:鹿児島県での子のう胞子飛散と草生の関係(九州病害虫研究会報・論文)
ナシ黒星病の第一次伝染源に関する研究(J-STAGE)
防除のタイミングを間違えると、薬剤を何度散布しても効果が出ません。
重要なのです。
茨城県の防除指針では、以下の3時期を「重要防除時期」として定めています。
この3時期にDMI剤(FRACコード3)やDHODHI剤(FRACコード52)を確実に散布することが原則です。 また、千葉県の事例では4月中下旬から5月下旬にかけて、おおむね10日間隔での散布が実施されています。nippon-soda.co+1
降雨直前の散布が最も効果的です。 黒星病菌の分生胞子は罹病葉から雨水とともに流れるため、雨が降る前に薬剤で保護しておくことで感染を防げます。天気予報を毎日確認し、雨の前日までに散布を終えることを習慣にしてください。
参考:千葉県における黒星病の発生状況と防除体系(日本曹達株式会社・農業専門資料)
千葉県におけるナシ黒星病の発生状況と対策(PDF)
DMI剤は黒星病に対して非常に高い防除効果を持つ特効薬ですが、同一系統の成分であるため、乱用すると耐性菌が発生するリスクが常につきまといます。 耐性菌が発生すると、これまで効いていた薬が効かなくなり、防除コストが大幅に増加します。
痛いですね。
福岡県では2005年以降、薬効低下を伴うDMI剤耐性菌が確認されています。 耐性菌が蔓延した園地では、防除体系を一から見直す必要があり、余分な作業コストと経費が発生します。これを防ぐために、DMI剤の使用は年間3回以内(できれば年2回以内)が目安です。jppa+1
耐性菌対策として推奨されているのが、異なる系統の薬剤とのローテーション散布です。
具体的には以下の組み合わせが有効です。
参考)https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00322997/3_22997_146775_up_dxkt4dm2.pdf
同一FRACコードの薬剤を連用しないことが原則です。 薬剤の系統コードを一覧表で管理し、散布記録をつける習慣がリスク低減につながります。防除記録の保管は、農薬適正使用の観点からも重要な農作業のひとつです。
参考:DMI剤耐性菌の発生と対策(梨栽培専門サイト kajyu.org)
ナシ黒星病のDMI剤の防除効果・残効性・耐性菌対策
多くの農家が「収穫が終わったら防除も終わり」と思いがちですが、秋こそが翌年の黒星病発生を左右する最重要時期です。 収穫後から落葉期(10月〜11月中旬)にかけて、2〜3回の薬剤散布を行うことが推奨されています。pref.saga+1
秋季防除の目的は、葉裏に形成された秋型病斑からの鱗片への感染を防ぎ、越冬する菌密度を下げることです。 菌密度が高い状態で翌春を迎えると、どれほど薬剤を散布しても防除効果が出にくくなります。
秋の一手が翌年の収量を守ります。
秋季防除に適した薬剤は耐性菌リスクが低いものを選びます。
代表的な薬剤は以下のとおりです。
落葉処理も重要です。 感染した落葉は翌春に子のう胞子を飛散させる伝染源となります。落葉を集めて適正処分するか、ロータリーで土にすき込むだけでも伝染源の減少に効果があります。 発病した芽基部・果そう基部は見つけ次第除去し、園外に持ち出して処分することが大切です。
福井県の試験では、鱗片脱落前(3月上中旬)にデランフロアブル1000倍液とハーベストオイル100倍液を混用散布した結果、5月末の発病葉率が薬剤単体散布時の半分程度に抑えられたと報告されています。 複数の薬剤を組み合わせることで、単独使用よりも高い効果が得られることがわかります。
これは使えそうです。
参考)https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/noushi/kikaku/hukyu_d/fil/r01_04_tebiki.pdf
参考:落葉処理と薬剤散布による黒星病防除の実証事例(福井県農業試験場)
落葉処理と薬剤散布でナシ黒星病を防除!(福井県・PDF)
参考:茨城県の黒星病防除指針(茨城県農業総合センター)
ナシ−黒星病 防除指導資料(茨城県公式)