桃シンクイムシ(現場ではモモシンクイガとして扱われることが多い)は、地域で発生回数が変わる害虫です。北海道・東北では年1~2回、本州南西部では年3回発生するとされ、地域差を前提に防除暦を組み立てる必要があります。
植物防疫所:モモシンクイガの生態(発生回数、活動時間、繭など)の「生態」には、幼虫が果実から脱出して土中で繭を作ること、成虫が日没後に活動することなど、防除の“効くタイミング”の根拠がまとまっています。
実務で大事なのは「幼虫が土に入る害虫」だと理解することです。幼虫は孵化後おおむね20日程度で老熟し、果実から脱出します。休眠しない幼虫は土中で夏繭を作って蛹化し、10~15日で羽化する一方、秋期に休眠する幼虫は球形の冬繭を土中で作って幼虫のまま越冬します。
参考)モモシンクイガの解説:植物防疫所
この“土にいる期間”があるため、樹上だけを見ていても防除が詰め切れません。実際に、土中・地表面にいる幼虫を狙って天敵線虫を散布する技術が検討され、5月中~下旬と6月中~下旬に前年被害が多かった樹の下へ重点散布(スポット散布)すると効果的、という整理がされています。
参考)https://www.mdpi.com/2075-4450/13/4/390/pdf
また、成虫の移動は飛翔で、通常は短いものの室内試験では24時間で8kmという記述もあり、「隣の園が増えると自園も増える」だけでなく「自園内の発生源を残すと園全体がじわじわ増える」タイプの害虫として考えると現場の感覚に合います。
桃の現場で厄介なのは、被害が“見えにくいタイミング”があることです。シンクイムシ類は果実内へ食入して中で加害するため、外観が一見きれいでも中が傷んで商品価値が落ちます(袋内で落果して初めて気づくケースも起きます)。
似た害虫が混在する地域では、被害の出方の違いがヒントになります。高知県の整理では、ナシヒメシンクイは果梗の付け根や果実同士の接触部などから食入し、初期は細かい糞を出しながら果皮下を食害してから果心部へ広がる、さらに新梢へ入ると“心折れ”を起こすことがある、とされています。
参考)https://wjau.academicjournal.io/index.php/main/article/download/139/113
一方でモモシンクイガ(桃シンクイムシとして扱われる対象)は、果実の側面や肩から食入することが多く、食入孔から糞を出さず、直ちに果心部へ向かい、種子を好んで摂取する、という特徴が示されています。つまり「穴が小さい/糞が外に出ないのに中がやられている」「肩・側面側の侵入が多い」などは、現場判断の材料になります。
被害果を放置すると園地内で蛹化・羽化につながるため、見つけ次第の摘除が重要です。これはナシのシンクイムシ類の対策としても明確に「被害果は見つけしだい取り除き、幼虫の脱出前に処分する」とされています。
薬剤防除で一番のポイントは「成虫の発生最盛期を重点に行う」という考え方です。高知県の整理でも、薬剤防除は成虫の発生最盛期を重点に行う、と明記されています。
ここで重要になるのが、発生盛期の把握です。もも向けIPMの資料では、フェロモントラップによってモモシンクイガ等の発生消長調査ができる旨が示されており、発生の山を掴んで散布の無駄打ちを減らす設計が可能です。
参考)https://www.pref.nagano.lg.jp/nogi/sangyo/nogyo/kankyo/documents/momo.pdf
ただし現場では、交信かく乱剤をすでに導入している園ではフェロモントラップが使えない(誘引が成立しにくい)という注意点も同じ資料に書かれています。つまり「トラップで見る」か「かく乱で抑える」かは同時に成立しない場面があり、導入順序と評価方法を最初に決めておく必要があります。
薬剤の選択は作物・時期・収穫前日数・地域の指導資料に従うのが大前提ですが、実務上のコツは“効かせたい世代”を決めることです。モモシンクイガは土中で越冬し、5月上~下旬に地表に出て蛹化し、越冬世代成虫が5月下旬~7月上旬、第1世代成虫が7月中旬~8月上旬に出現する、という整理があり、この山に合わせると設計がブレにくくなります。
耕種的防除は地味ですが、年によるブレが少なく再現性が高い“土台”です。まず、被害果の回収と処分を徹底し、幼虫の脱出前に園外で処分することが基本として挙げられています。
次に、周辺樹種や周辺園の発生源管理という視点が効きます。ナシヒメシンクイの例ですが、園付近のもも・うめ等が第1世代の増殖源となるので、新梢の被害部や被害果を見つけ次第処分する、とされており、「園の外周から増える」現象への対処の考え方として応用できます。
IPMの“意外な選択肢”としては、土壌・地表面にいる幼虫を狙う天敵線虫(Steinernema carpocapsae)の活用があります。福島県の試験では、地表面へ2~3回散布して被害を大幅に軽減できたこと、地温16℃以上で活性が高まる一方で直射日光・高温(35℃以上)・乾燥に弱いこと、降雨時散布が効果的と考えられることなど、使いどころが具体的に示されています。
さらに、交信攪乱剤と天敵線虫の組み合わせにより、多発園でも樹上への非選択性殺虫剤の追加散布を低減できることが明らかになった、という整理もあります。薬剤一辺倒で回らない園ほど、樹上・地表・土壌の“3層”で考えると改善の余地が出ます。
現場で取り入れやすいIPMの組み立て例を、作業順にまとめます。
🔧 作業の流れ(例)
検索上位の説明では「薬剤をいつ打つか」に寄りがちですが、実際に差が出るのは“被害が出た年の後始末”です。モモシンクイガは幼虫が果実から脱出して土中で繭を作るため、収穫後~翌春までのどこかで「土に残った個体」を前提に来季の密度が決まります。つまり、被害果の回収漏れが多い園ほど、翌年の立ち上がりが早くなりやすい構造です。
ここで意外に効くのが「樹の下の“重点管理”」という考え方です。福島県の試験では、前年被害の多かった樹の下にスポット散布するのが効果的とされ、全面一律ではなく“ホットスポット”を叩く設計が紹介されています。これはコストを抑えつつ効果を狙う上で、上司チェックでも説明しやすい合理性になります。
また、天敵線虫は直射日光・乾燥・高温に弱く、地温16℃以上で活性が高まる、と特性がはっきりしています。つまり、梅雨期の雨に合わせる、草生管理で極端な乾燥を避ける、散布直後の土壌到達を意識する、といった“環境を味方にする段取り”が効果の分かれ目になります。薬剤の銘柄選びよりも、こうした条件設計の方が現場の再現性が高いことが少なくありません。
最後に、夜間に活動し走光性が弱いという生態も、実は現場向きの示唆があります。ライトトラップ頼みの監視は過信しない方がよく、フェロモン等の手段で発生の山を掴む、あるいは交信攪乱で“交尾そのもの”を崩す、という方向性が理にかないます。
【参考リンク:モモシンクイガの生態(発生回数・土中の繭・活動時間など)】
モモシンクイガの解説:植物防疫所
【参考リンク:シンクイムシ類の症状(食入部位・糞の出方・心折れなどの見分け)】
https://www.nogyo.tosa.pref.kochi.lg.jp/info/dtl.php?ID=3583
【参考リンク:天敵線虫によるモモシンクイガ防除(スポット散布時期、弱点、交信攪乱併用)】
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/449044.pdf