メトリクスと栽培指標と土壌診断基準

栽培現場で「何を測り、どう判断するか」をメトリクスとして整理し、土壌・肥培・品質・作業の指標をつないで改善する考え方を解説します。あなたの圃場では、どの指標を“毎週の意思決定”に使いますか?

メトリクスと栽培指標

メトリクスと栽培指標の全体像
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最初に決めるのは「目的」

収量・品質・肥料コスト・作業時間など、何を良くしたいかで指標の設計が変わります。

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測れる指標だけが武器になる

pH・EC・硝酸態窒素など、定量できる栽培指標は「判断のブレ」を減らします。

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記録→比較→改善のループ

同じ作物でも作型や圃場で“基準”が違うため、前年・前作・隣接区との比較が改善の近道です。

メトリクス 栽培指標の設計とKPIの考え方


「メトリクス」と「指標」は似た言葉ですが、現場で役に立つのは“見たい成果を、測れる数値に落としたもの”です。たとえば「品質を上げたい」という目標は抽象的ですが、「規格内率」「糖度」「秀品率」「裂果率」「病害虫の被害株率」などに分解すると、現場の作業や環境制御、施肥の判断につながります。
一方で、メトリクスを増やしすぎると、記録が目的化して意思決定が遅れます。そこでおすすめなのが「遅行指標(結果)」と「先行指標(原因側)」をセットで持つ運用です。たとえば、遅行指標を「収量(kg/10a)」「規格内率(%)」「肥料コスト(円/10a)」に置いたら、先行指標には「土壌pH」「土壌EC」「硝酸態窒素」「作業時間」「施肥量」など、現場がコントロールしやすい項目を置きます。東京都の土壌診断基準でも、pHやECを中心に診断項目と対策が整理されており、栽培管理に直結しやすい“先行指標”として使えます。特にECは塩類の量(溶ける成分量)を表し、1.5mS/cm以上で「肥やけ」の原因となり枯死リスクがある点が明記されています。


指標設計のコツは、最初から完璧を目指さないことです。まずは「週次で見る指標」を3〜5個に絞り、次に「作の終わりに評価する指標」を3個程度置き、最後に「異常時だけ見る指標(トラブルシュート用)」を用意します。異常時用には、東京都資料にあるような「硝酸態窒素(mg/100g)」の基準や、pHの偏りが生育不良につながる説明が参考になります。


現場の見え方が変わる“意外なポイント”として、メトリクスは「平均値」より「ばらつき」が問題の芯を突くことがあります。圃場の平均ECが適正でも、ハウスの端や給液末端だけECが高くなる、圃場の一部だけpHが極端に低い、といった“ムラ”が収量や品質を落とします。そこで、測定点を増やして「最大−最小」「標準偏差」などを簡易的に記録すると、改善が一気に進むケースがあります(記録は増やしすぎない範囲で)。


メトリクス 栽培指標としての土壌pHと作物別最適領域

土壌pHは、栽培指標の中でも「基本なのに効きが大きい」代表格です。大仙市の営農情報でも、pHは土壌が酸性かアルカリ性かを示す指標であり、作物ごとに最適領域が違って生育に影響することが明確に書かれています。また、土壌分析は播種定植前に行うことが推奨され、20cm程度の深さの土を複数箇所から採取して混ぜる採取方法も具体的に示されています。
pHの指標を“数字として持つ”メリットは、資材投入の根拠が作れることです。経験や感覚だけで石灰を入れると、足りない年と入れすぎる年が発生し、結果として養分吸収のバランスを崩します。東京都の資料でも、多数の作物はpH6.0〜6.5を好む一方、酸性・アルカリ性に傾くと生育不良を招くこと、露地では降雨で塩基が流亡して酸性化しやすいこと、堆肥や石灰資材の過剰施用でアルカリ化することが整理されています。


さらに「意外と見落とされがち」なのが、pHは単独で見るより、ECや交換性成分(石灰・苦土・カリ)とセットで見るほうが“再現性が上がる”点です。東京都資料では交換性成分の説明があり、黒ボク土で野菜を栽培する場合の理想的な含量(例:石灰400〜600mg/100g、苦土60〜90mg/100g、カリ50〜80mg/100g)にも触れています。pHを直しても、交換性成分のバランスが崩れていれば、根の張りや吸収効率が思うように上がらないことがあるため、土壌診断の項目を“指標セット”として扱うのが合理的です。


ここで現場向けに、pHメトリクスの運用例を示します。


  • 定植前:圃場ごとにpHを測り、作物の最適領域に入っているか確認する。
  • 資材投入:一度に急激な調整をしない(大仙市でも急激なpH調整を避ける注意が明記)。
  • 定期点検:同じ圃場でも作が進むと酸性化するため、作型に合わせて再測定の周期を決める。

参考リンク(pHの意味、作物別の最適pH領域、土壌採取方法とECの施肥目安が具体的で、現場の指標設計に使える)
営農情報 - 大仙市農業振興情報センター(土壌分析のススメ)

メトリクス 栽培指標としての土壌ECと肥やけ回避

EC(電気伝導度)は、施肥の効き方を「残り肥料」「塩類集積」という観点で見える化できる指標です。東京都の土壌診断基準では、ECは土壌中の塩類の量(水に溶ける成分量)を測定した値で、数値が大きいほど塩類が多いこと、1.5mS/cm以上で「肥やけ」の原因となり枯死することもあるため注意が必要だと書かれています。また、露地では栽培後のECが通常0.1〜0.3mS/cm程度で、多肥栽培で0.5mS/cm以上になる場合があること、施設ほ場では塩類が集積しやすいことも明記されています。
この情報は、メトリクス運用にそのまま落とせます。具体的には、ECを「施肥判断の停止ライン」として持つのが実務的です。大仙市の資料でも、施肥前のECが0.3以下なら標準施肥量で良く、ECが高い場合は施肥量を減らす必要があること、野菜ではECに応じて施肥量を標準→2/3→1/2→1/3→無施用とする目安表が示されています。つまり、ECは「肥料を増やすか減らすか」を迷ったときの“分岐点メトリクス”になります。


意外な落とし穴は、ECが同じでも“中身”が違う可能性です。東京都資料には、ECと硝酸態窒素が相関しない事例があるため、その場合は直接硝酸態窒素を測定する、と注意書きがあります。つまり、ECが高い=窒素が高い、と決めつけると外すことがあるため、「ECをアラート」「硝酸態窒素で確定診断」という二段構えが安全です。


ECを栽培指標として使うときの実務ポイントをまとめます。


  • 測るタイミングを固定:定植前、追肥前、収穫後など“判断が必要な前”に測る。
  • 施肥設計と結びつける:ECの数値に応じて減肥率を決め、記録に残す。
  • 施設では特に警戒:東京都資料が示す通り、施設ほ場は塩類が集積しやすいので、露地より頻度を上げる。
  • トラブル時は硝酸態窒素:ECが高いのに症状が合わない場合、硝酸態窒素の測定で“原因を確定”する。

参考リンク(pH/EC/硝酸態窒素まで含めた土壌診断基準がまとまっており、指標の閾値設定に使える)
土壌診断基準 - 東京都農業振興事務所(PDF)

メトリクス 栽培指標で見る土壌診断の採取と記録の標準化

どれほど良い指標を選んでも、「測り方」がブレるとメトリクスが機能しません。土壌診断でよくある失敗は、圃場の一箇所だけを掘って採取する、表層の土を混ぜてしまう、湿ったまま提出する、作物残渣や根が混ざる、といった“サンプル品質の問題”です。大仙市の営農情報では、表面の土壌は採取せず20cmくらいの深さの土を採取すること、畑の一箇所だけでなく複数箇所から採取して混ぜること、石や根っこ、モミガラなどが混ざらないようにすること、湿っている場合はよく乾かすことが具体的に示されています。
この「採取方法」自体を、栽培指標の運用ルール(標準化)として明文化すると、年ごとの比較が成立します。東京都の資料でも、普通畑では対象の畑を代表できるように数か所から採取して混和する、畑地では15cm程度の深さまで採取する、面積10a以下なら5か所が目安、といった採取の基本が図付きで示されています。つまり、行政資料が推奨する手順に寄せるだけで、メトリクスの信頼性が上がります。


記録の標準化は、難しく考える必要はありません。現場で運用しやすい最小セットは次の通りです。


  • 圃場ID(またはハウス棟・区画)
  • 作物・作型・定植日
  • サンプル採取日、採取深、採取点数
  • pH、EC、(必要なら)硝酸態窒素、可給態リン酸
  • その後の施肥・資材投入(量と日付)
  • 結果(収量、規格内率、品質)

意外に効く工夫として、「採取点の偏り」を避けるために、毎回同じルートで圃場を歩き、同じ“点数”を取ることをルール化するとデータが安定します。さらに、施設なら給液ラインの末端と中央など、ムラが出やすい場所を“固定観測点”にしておくと、原因が早く見つかります。これは数値を増やすというより、比較可能性を上げる工夫です。


メトリクス 栽培指標の独自視点:閾値より「変化率」と「回復時間」

検索上位の一般的な解説は「pHは6.0〜6.5」「ECは1.5以上注意」など、閾値(しきいち)中心になりがちです。しかし現場の意思決定で強いのは、閾値そのものより「変化率」と「回復時間」です。たとえば、ECが0.4→0.7に上がった、pHが6.3→5.8に落ちた、という“動き”は、まだ危険域に入っていなくても、次の作業(追肥・灌水・換気・除塩など)を前倒しするサインになります。
この見方が重要になる理由は、東京都資料が示す通り、露地では降雨で塩基が流亡して酸性化しやすい、施設では塩類が集積しやすい、といった「環境要因で指標が動く」前提があるからです。つまり、数字が基準内でも、動きが急なら“もうすぐ外れる”可能性が高い。ここで使うメトリクスが「変化率(前回比)」と「回復時間(資材投入後、基準域に戻るまでの日数)」です。


運用例を示します。


  • 変化率メトリクス:pHの前回比、ECの前回比を必ず記録し、急変したら原因をメモする(追肥、堆肥投入、豪雨、ハウスの乾燥など)。
  • 回復時間メトリクス:石灰・硫黄華・除塩(湛水や換土など)を行ったら、再測定日を決めて「何日で戻ったか」を残す。東京都資料では、ECが高い場合の対策として除塩(換土・湛水処理)が示され、湛水処理では環境への配慮が必要と注意もあります。ここまで含めて記録すれば、次回以降の“判断の精度”が上がります。
  • 判断の優先順位:閾値超えは即対応、閾値内でも急変は早めに手当て、緩やかな変化は様子見、という3段階にすると迷いが減ります。

この独自視点は、データ分析の専門知識がなくても実行できます。必要なのは「前回の自分(圃場)の数字」と比べる姿勢だけです。数年続けると、同じ圃場・同じ作型での“平常時の揺れ幅”が見えてきて、基準値を自分の経営に最適化できます。行政基準は出発点として非常に有用ですが、最終的には自分の圃場データで「うちの適正域」を作ることが、メトリクスを栽培指標として使い切る近道になります。




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