経営所得安定対策廃止で農家の収入はどう変わるか

経営所得安定対策の廃止・見直しが令和9年度から始まります。水活交付金の転換やゲタ・ナラシ対策の変化など、農家の経営にどんな影響があるのでしょうか?

経営所得安定対策の廃止が農家経営に与える影響と対策

転作田を守ってきた農家ほど、令和9年度以降に年間収入が数十万円単位で消える可能性があります。


📋 この記事の3つのポイント
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水田政策が令和9年度から根本的に転換

「水田を対象にする支援」から「作物ごとの生産性向上支援」へと大きく方向転換。5年水張りルールも廃止され、制度の枠組み自体が変わります。

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交付金単価の見直しが段階的に進行中

飼料用米(一般品種)の標準単価は令和8年度に6.5万円/10aへ引き下げ。畑地化促進助成も14万円→10.5万円と段階的に縮小されています。

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対応策は「収入保険」と「作付け見直し」

ナラシ対策から収入保険への切り替えや、麦・大豆の本作化への転換など、制度変更に合わせた早めの経営戦略の見直しが求められます。


経営所得安定対策の廃止・見直しとは何か:制度の全体像

「経営所得安定対策が廃止される」と聞いて、制度全体がなくなるとイメージする農業者も多いかもしれません。ただし、正確には「水田政策の根本的見直し」であり、制度の一部が廃止・転換されるという内容です。


経営所得安定対策は大きく3本柱で構成されています。①諸外国との生産条件の格差を補正する「ゲタ対策(畑作物の直接支払交付金)」、②農業者の拠出を前提とした収入減少時の補てん制度「ナラシ対策」、③水田のフル活用を促す「水田活用の直接支払交付金(水活)」です。


このうち、今回の見直しで最も大きく変わるのが「水活」です。令和9年度(2027年度)から「水田を対象として支援する仕組み」から「作物ごとの生産性向上を支援する仕組み」へと転換される方針が、令和7年4月に策定された食料・農業・農村基本計画に明記されました。


つまり、廃止されるのは「水田であることを前提とした交付金の枠組み」です。


それが重要な点です。


農林水産省の令和8年度パンフレットによれば、令和8年度の経営所得安定対策等の主な予算は、ゲタ対策1,924億円、ナラシ対策468億円、水田活用の直接支払交付金2,612億円となっており、これだけの規模の制度が大きく変わります。


農林水産省「経営所得安定対策」公式ページ(制度概要・最新情報)


経営所得安定対策の廃止の背景:なぜ今、見直しが必要なのか

「今まで機能していた制度を、なぜ変えるのでしょうか?」と疑問に思う方もいるはずです。見直しの背景を理解しておくことが、今後の経営判断に直結します。


最大の理由は、農業経営体の急減です。農林水産省が2025年11月に発表した農林業センサスでは、農業経営体数が前回調査(2020年)比で23.0%減少し、初めて100万を下回る82.8万経営体となりました。


こうした担い手の急減に加え、「水田であること」を維持するための5年水張りルールが、転作に一生懸命取り組んできた農業者にとって逆に足かせになっていた現実があります。たとえば、6年以上の輪作体系を組んでいた農家は、水稲を5年以内に一度作付けしないと交付金対象外になるというルールにより、確立した営農体系を崩さざるを得ない状況に追い込まれていました。


さらに、食料安全保障の観点から輸入依存度の高い麦・大豆の国産化を強力に推進する必要性が高まったことも、見直しを後押しする大きな要因です。現在の水活の交付単価は麦・大豆・飼料作物が一律3.5万円/10aですが、水田か畑かを問わず生産性向上に取り組む農業者を支援する方向に転換します。


農業者が急減するなかで「水田の維持」よりも「作物の生産性向上」に重心を移した、という構造転換だと理解するのが正確です。


財務省「農林水産分野の財政審議会資料」(令和7年11月・水田政策見直しの方向性を詳説)


経営所得安定対策の廃止で5年水張りルールはどうなるか

5年水張りルールは廃止されます。


これは確定です。


令和4年度(2022年度)に導入されたこのルールは、転作田で5年間に1度も水稲作付けをしない農地を令和9年度以降の水活の交付対象から外すというものでした。しかし、令和7年(2025年)4月の政策転換により、令和9年度以降はこの要件が求められなくなりました。


| 時期 | 5年水張りルールの扱い |
|------|----------------------|
| 令和7・8年度(2025・26年産) | 連作障害回避のための土壌改良材投入や薬剤使用等の取組を行えば、水張りなしで交付対象 |
| 令和9年度(2027年度)以降 | 5年水張り要件そのものが廃止 |


ただし、令和9年度以降の交付金の仕組みそのものが「水田対象」から「作物ごとの生産性向上支援」に転換されるため、単純に「ルールがなくなってよかった」とは言い切れない面もあります。


重要な点です。「5年水張りルールが廃止=水活交付金がこれまで通り受け取れる」ではありません。令和9年度以降は交付金の対象要件や仕組み自体が変わるため、現行の3.5万円/10aの交付がそのまま継続されるとは限りません。


麦・大豆・飼料作物を転作田で栽培している農業者は、令和9年度以降の新たな交付体系の詳細が2025年度中に示される予定であるため、引き続き農政局や市町村の情報を確認することが欠かせません。


福井市「経営所得安定対策等・水田政策の見直しの方向性」(令和9年度以降の動向を分かりやすく整理)


経営所得安定対策の廃止と飼料用米農家への影響:単価はここまで下がった

飼料用米(一般品種)を栽培している農家にとっては、交付金単価の段階的引き下げが直接的な収入減につながっています。


| 年度 | 飼料用米一般品種の標準単価 |
|------|--------------------------|
| 令和6年度(2024年度) | 7.5万円/10a(収量により5.5〜9.5万円) |
| 令和7年度(2025年度) | 7.0万円/10a(収量により5.5〜8.5万円) |
| 令和8年度(2026年度) | 6.5万円/10a(収量により5.5〜7.5万円) |


たとえば10haの飼料用米(一般品種)を栽培している農家で考えると、令和6年度の標準単価7.5万円と令和8年度の6.5万円の差は1万円/10a、面積換算で100万円の収入減になる計算です。


これは痛いですね。


なお、多収品種については収量に応じて5.5万円〜10.5万円/10aの範囲が維持されています。一般品種の単価が引き下げられる一方で、多収品種を選択することで一定の収入水準を維持できる可能性があります。


多収品種への転換が条件です。


飼料用米の多収品種については、地域の農業試験場や農協(JA)で推奨品種を確認し、地域の畜産農家との連携によって安定的な販路を確保することが、収入維持の現実的な手段となります。


経営所得安定対策の廃止とゲタ対策の現状:麦・大豆農家は今すぐ確認を

ゲタ対策(畑作物の直接支払交付金)は、現時点では存続しています。ただし、令和9年度以降の水田政策見直しのなかで「ゲタ対策やナラシ対策も含めて検討する」とされており、将来的な制度改変の可能性がゼロとは言えません。


令和8年産の交付単価(平均単価)は以下のように設定されています。


| 作物 | 課税事業者向け単価 | 免税事業者向け単価 |
|------|------------------|------------------|
| 小麦(円/60kg) | 5,590円 | 6,000円 |
| 大豆(円/60kg) | 10,340円 | 10,910円 |
| 六条大麦(円/50kg) | 5,710円 | 6,110円 |
| そば(円/45kg) | 15,930円 | 16,730円 |


注意が必要なのはインボイス制度との関係です。インボイス(適格請求書)発行事業者として登録した農家は課税事業者向け単価が適用されます。2年前の課税売上高が1,000万円以下でも、インボイス登録をしていれば免税事業者向け単価は適用されません。


ゲタ対策の加入申請期限は令和8年6月30日までです。申請が必要な確認書類(確定申告書の写しなど)は入手に1か月程度かかるものもあるため、早めの準備が原則です。


認定農業者でない農業者は、まず農業経営改善計画を作成して市町村に申請する必要があります。


経営規模の要件はなく、年齢も問いません。


この点は意外ですね。規模が小さくても申請できるという点は、広く知られていない事実です。


農林水産省「令和8年度 経営所得安定対策等の概要」(ゲタ・ナラシ・水活の最新単価を網羅)


経営所得安定対策の廃止とナラシ対策:収入保険との違いを整理する

ナラシ対策(米・畑作物の収入減少影響緩和交付金)は、米・麦・大豆・てん菜・でん粉原料用ばれいしょの当年産の収入額が標準的収入額を下回った場合に、その差額の9割を補てんする仕組みです。


農業者と国の積立比率は1対3です。


つまり積立金は掛け捨てではありません。


ナラシ対策と混同されやすいのが「収入保険」です。


両者の主な違いを整理します。


| 比較項目 | ナラシ対策 | 収入保険 |
|----------|-----------|---------|
| 対象品目 | 米・麦・大豆・てん菜・でん粉原料用ばれいしょ | 農業者が生産する全農産物 |
| 加入資格 | 認定農業者・認定新規就農者・集落営農 | 青色申告を行っている個人・法人 |
| 対象リスク | 収入減少(価格下落等) | 収入減少(自然災害含む) |
| 重複加入 | 収入保険との重複不可 | ナラシ対策との重複不可 |


重要なのは、ナラシ対策と収入保険はどちらか一方しか選べないという点です。自然災害リスクにも備えたい農家、または米・麦・大豆以外の作物も手がける農家にとっては、収入保険のほうが適している場合があります。


収入保険への移行を検討する場合、青色申告の実績が1年以上必要です。まだ白色申告の農家は、加入を目指すなら今年度中に青色申告へ切り替える準備が条件になります。


経営所得安定対策の廃止後の代替策:畑地化促進事業を活用する選択肢

水活交付金の見直しに伴い、水田から畑への転換(畑地化)を後押しする「畑地化促進事業」が設けられています。令和7年度補正予算額として195億円が措置されました。


畑地化促進事業では、水田を畑として利用し畑作物の本作化に取り組む農業者に対して、生産が安定するまでの一定期間、継続的に支援(伴走支援)を行います。また、畑地化に伴う費用負担として、土地改良区の地区除外決済金などの経費も支援対象となります。


ただし、畑地化を選択する際には慎重な判断が必要です。


これが原則です。


一度畑地化した農地は水田には戻しにくいという農地の特性があります。令和9年度以降の新しい交付体系の全容は2025年度中に示される予定であり、その内容次第では畑地化せずに水田機能を維持しながら作物転換を図ることが有利になる可能性もあります。


地域の農業再生協議会や市町村農政担当窓口に、自分の農地の状況を確認したうえで方針を決める、という順番が重要です。


また、畑作物産地形成促進事業(令和7年度補正予算135億円)も活用できます。実需者との結び付きのもと、麦・大豆等の生産性向上に取り組む農業者を支援する事業であり、水田・畑を問わず対象となります。


経営所得安定対策の廃止にどう備えるか:認定農業者の資格と手続きの確認

経営所得安定対策の見直しがどのような方向に進んでも、「認定農業者」「認定新規就農者」「集落営農」という交付対象者の資格要件は、現段階では引き続き重視される方向です。


認定農業者になるには、市町村が定める農業経営の目標水準(基本構想)に向けた「農業経営改善計画」を作成し、市町村に申請します。


規模の大小や年齢は問いません。


この条件だけ覚えておけばOKです。


認定農業者の認定は5年間有効です。認定期間が満了する前に更新(再認定)の手続きをしないと、交付金が交付されなくなる場合があります。


認定期限の管理は必須です。


✅ 今すぐ確認すべきチェックリスト


- 🗓️ 認定農業者・認定新規就農者の認定期限はいつか
- 📄 ゲタ対策・ナラシ対策の加入申請期限(令和8年6月30日)に間に合うか
- 🌾 令和7・8年産で5年水張りルールへの対応(連作障害回避の取組)が必要か
- 💡 インボイス登録の有無と、課税事業者向け・免税事業者向け単価のどちらが適用されるか
- 📊 ナラシ対策と収入保険のどちらが自分の経営に合っているか


認定農業者の申請や更新の書き方については、市町村農政担当窓口や普及指導センター、JAがサポートしています。一人で抱え込まず窓口に相談することで、見落としを防げます。


経営所得安定対策の廃止と集落営農:組織要件の見直しが必要になるケースも

集落営農がゲタ・ナラシ対策の対象となるためには、①組織の規約の作成、②対象作物の共同販売経理の実施、③地域における農地利用の集積および農業経営の法人化を確実に行うと市町村から判断を受けていること、という3要件を満たす必要があります。


③の「法人化の取組」については、市町村が「確実である」と判断することが前提です。この市町村判断を受けるための手続きを、加入申請の前に完了させる必要があります。手続きを踏む順番を間違えると申請できなくなります。


これは注意が必要ですね。


経営所得安定対策の制度が変わる局面では、集落営農の組織が解散・合併・再編されるケースも出てきます。都道府県には集落営農の経営改善や多角化、組織合併等の取組に関する経営相談体制が整備されているため、大きな変化が生じる前に専門家の経営診断を受けることが現実的な対応です。


なお、集落営農が法人化した後は、ゲタ・ナラシ対策の交付対象は「認定農業者(法人)」として処理されます。法人化後に改めて要件を確認しておくことが基本です。


経営所得安定対策の廃止を独自視点で読む:「令和のコメ騒動」が制度転換を加速させた

2024年夏から秋にかけて、スーパーの店頭からコメが消えた「令和のコメ騒動」を覚えていますか?


この出来事は、経営所得安定対策の見直しを単なる財政縮小の文脈で語るだけでは不十分であることを示しています。三菱総合研究所が2025年10月に発表したレポート「コメの安定供給に向けた政策の方向性」では、令和のコメ騒動の根本原因として水田政策の構造的問題を指摘し、転換の必要性を論じています。


長年、水田活用交付金は「米の生産を減らして他の作物に転換させる」政策として機能してきました。ところが、実際には米の需要が想定を超えて回復したり、訪日外国人の増加で米消費が増えたりする場面で、生産調整の慣性が供給不足を招くという構造的弱点が露呈しました。


令和9年度以降の新制度が目指すのは、主食用米・飼料用米・麦・大豆・有機農産物など、それぞれの「作物に合った支援」によって多様な農業経営を維持する仕組みです。水田か畑かという土地の属性ではなく、何をどれだけ効率的に生産するかが支援の基準になる、という発想の転換が起きています。


農業者の立場から見れば、「どの作物を作れば交付金をもらえるか」から「どの作物を作れば生産性が上がり、持続的な収入が得られるか」という視点で営農計画を組み立てる時代が来た、とも言えます。


これは使えそうです。


三菱総合研究所「コメの安定供給に向けた政策の方向性」(令和のコメ騒動と水田政策の課題を詳説)


経営所得安定対策の廃止に関するよくある疑問:Q&Aで整理

農業者から寄せられやすい疑問を、Q&A形式で整理します。


Q1. ゲタ対策もナラシ対策もなくなるのですか?


令和8年度時点では存続しています。ただし、令和9年度以降の水田政策見直しの全体像を策定する過程で「ゲタ対策やナラシ対策も含めて検討する」とされており、将来的な変更の可能性はあります。


現時点では廃止は決定されていません。


Q2. 水活交付金は完全になくなるのですか?


「水田を対象とした仕組み」としての水活は終わりますが、作物ごとの生産性向上への支援として再編される方向です。麦・大豆・飼料作物への支援は継続的に検討されています。


Q3. 認定農業者の資格がなくても転作支援は受けられますか?


水活の産地交付金などは市町村・地域単位での配分もあります。ただし、ゲタ対策・ナラシ対策については認定農業者・認定新規就農者・集落営農が交付対象のため、該当しない場合は支援を受けられません。


Q4. 令和9年度以降の新しい制度の内容はいつわかりますか?


令和7年(2025年)中に全体像をまとめる予定とされています。農林水産省の公式ホームページや地域の農政局・市町村からの情報を定期的に確認することが不可欠です。


不明点がある場合は農政局等の相談窓口を活用することが原則です。地方農政局等では、制度に関する情報提供と意見等を伺う相談窓口が設置されています。


鏡石町「経営所得安定対策等事業の制度について」(令和8年2月更新・制度の最新動向と窓口案内)


経営所得安定対策の廃止を踏まえた農業経営の見直し:今やるべき3つのこと

制度の変化に対応するために、今すぐ取り組める具体的な行動を整理します。


① 令和8年6月30日までに加入申請を済ませる


ゲタ対策・ナラシ対策の令和8年産の加入申請期限は令和8年6月30日です。申請期限を過ぎると令和8年産の交付金が受け取れません。確認書類(確定申告書の写しなど)の準備に1か月程度かかる場合があるため、今から動き始めることが重要です。


② 令和9年度以降の新制度の情報収集を続ける


2025年度中に令和9年度以降の交付体系の全体像が示される予定です。


情報が出てから動いても遅い場合があります。


特に、畑地化の検討や輪作体系の再設計は1年以上の準備が必要なケースも多いため、早めの情報収集が経営を守ることに直結します。


③ ナラシ対策と収入保険のどちらが適切かを試算する


ナラシ対策は米・麦・大豆等の限られた品目の収入減に対応しますが、収入保険は全品目・自然災害にも対応します。自分の経営規模と作物構成を整理したうえで、JAや農業共済組合(NOSAI)に相談して試算を依頼することが現実的な対応です。


どちらの制度も重複加入はできません。


それが条件です。


農業経営の安定に向けて、補助金・交付金に依存した経営から脱却し、生産性向上と販路開拓によって自立した経営基盤を構築していくことが、制度変更に左右されない農業経営の本質です。変化の波を、経営を見直す機会として前向きに捉えることも大切です。


minorasu「米・畑作物のナラシ対策とは?収入保険との違いを徹底解説」(制度比較の参考に)