土地改良区の賦課金は、農地の所有者や耕作者に課される維持管理費です。相続で農地を取得したものの農業をしない場合や、耕作放棄地を抱えている場合でも、土地改良区の地区内に農地として残っている限り、賦課金の支払義務は継続します。この負担に悩む農業従事者は多く、「払いたくない」という声が寄せられています。
参考)土地改良区の賦課金について – 水土里ネット福島…
賦課金は、水そのものに対する料金ではなく、送水施設やポンプ、用水路などのインフラ維持管理費として徴収されるため、実際に水を使っているかどうかに関係なく支払義務を負います。土地改良区は土地改良法に基づく公的組織であり、組合員は強制加入制となっているため、任意に脱退することはできません。
参考)賦課金
土地改良法第11条により、土地改良区の地区内にある土地につき資格を有する者は、その土地改良区の組合員となることが定められています。これは強制加入制であり、自作地では所有者が、貸借地では原則として耕作者が組合員となります。組合員は議決権や選挙権といった権利を持つ一方で、賦課金等の負担という義務も負います。
参考)土地改良区の賦課金の時効|支払い義務と消滅時効の考え方 - …
賦課金の支払いを拒否した場合、督促手数料(100円程度)、延滞金、最終的には財産差押えと段階的に措置が重くなります。土地改良法第39条により、賦課金は国税及び地方税と同様の強制徴収権を持つため、都道府県知事の認可に基づく差押えなどの滞納処分が可能です。実際に、未納賦課金がある農地が公売にかけられた事例も存在します。
参考)各種ご質問の Q&A
農業を継いでいない相続人や、農地を保有しているだけの所有者にとって、この法的強制力は大きな負担となっています。組合員資格は土地に紐づくものであり、農業委員会や法務局で手続きをしても、土地改良区に届出をしなければ賦課金は従来どおり課され続けます。
参考)農地を相続した場合,「○○土地改良区」から「賦課金」を課され…
賦課金にも債権としての消滅時効が存在します。土地改良法によれば、過去の未納分の消滅時効は国税及び地方税の例によるとされ、5年の時効期間が適用されます。時効の起算点は各年度の納期限の翌日からとなり、例えば令和2年度の納期限が9月30日であれば、翌日の10月1日から起算して令和7年9月30日で時効完成となります。
ただし、時効が成立するには一定の条件があり、時効の更新(督促など)や完成猶予が起きれば請求は有効になります。土地改良区が督促を行うと、その時点で時効が中断し、再び5年の期間が進行します。また、滞納者が債務を承認した場合も時効が更新されます。
参考)https://awatoti.or.jp/wp-content/uploads/2025/07/6-2-1-325.pdf
時効により消滅した分の賦課金については支払義務はありませんが、時効が成立していない未納分については引き続き請求され、延滞金も加算されます。差押えが実行された場合、差押対象の土地に係る未収賦課金の時効は中断します。このため、時効を主張するには法的な知識と証拠が必要となり、専門家への相談が推奨されます。
参考)http://www.ryoso-lid.or.jp/R3.12.102/R3.12.102PDF/006_102.pdf
土地改良区の賦課金の時効について詳しく解説した法律事務所の記事
土地改良区から脱退するための正式な手続きは「地区除外申請」です。土地改良法第66条により、地区内にある土地がその土地改良区の事業により利益を受けないことが明らかになった場合において、その土地についての組合員の届出があるときは、その土地改良区はその土地をその地区から除かなければなりません。
参考)https://ando-harumi.com/HP/ftop/gijiroku2012/1301214.html
地区除外が認められる主なケースは以下の通りです:
参考)土地改良区の地区除外とは?手続き方法と決済金について解説
無利益地として除外を申請する場合、用水供給の記録、配水計画図、道路や排水路の位置関係がわかる地図、航空写真などの客観的証拠が必要です。間接的な利益(道路整備や排水路の恩恵など)があるとみなされる場合、申請が認められないこともあります。
参考)土地改良区の脱会方法と手続き完全ガイド - 熊谷行政書士法務…
地区除外の手続きは、土地改良区での事前確認、必要書類の準備、書類の提出、意見書の受取、農地転用許可申請という流れで進みます。手続きが完了すると翌年度より賦課金の負担は無くなりますが、除外決済金の支払いが必要になります。
参考)土地改良区の賦課金を払わない方法はあるのか?
土地改良区の地区除外手続きの流れと必要書類について行政書士が解説した記事
農地転用時に支払う除外決済金は、将来にわたって負担するはずだった賦課金を一括で精算するものです。土地改良法第42条第2項により、地区から除外される組合員は、その土地の全部または一部につき、その者の有するその土地改良区の事業に関する権利義務について必要な決済をしなければなりません。
参考)農地転用で必須!土地改良区の手続きと決済金を行政書士が徹底解…
決済金の金額は土地改良区ごとに異なり、法律で一律に定められているわけではありません。一般的な目安は1㎡あたり100円~200円程度ですが、地域や土地改良区によって大きく変動します。例えば500㎡の農地を転用する場合、50,000円~100,000円の決済金が必要になります。中には数十万円~百万円単位になることもあります。
参考)農地転用時の決済金について詳しく解説します
決済金の計算方法は、以下の要素を考慮して算定されます:
参考)https://www.sekikawasuikei.com/wp/wp-content/uploads/2021/07/482de072034457d928850b9fe43b4f9a.pdf
決済金の支払いは、残りの組合員の賦課金負担が過重にならないようにするためのものです。例えば、6筆の圃場で年間6万円の維持管理費を負担している場合、1筆あたり1万円の賦課金を支払っています。このうち1筆が転用されると、残り5筆で6万円を負担することになり、1筆あたりの賦課金が1万2千円に上昇します。この不公平を解消するために決済金が徴収されます。
参考)令和6年度 地区除外決済金単価(1㎡当たり)
道路拡幅や区画整理等の公共事業に伴う農地転用でも決済金の支払いは必要です。また、地目変更(埋め立て等)をする場合も必ず届出を行い、決済金と手数料を納めなければ土地改良区の台帳から除外されず、従来通り賦課金が課され続けます。
参考)組合員の皆様へ お願い・お知らせ│水土里ネット みやたけ 手…
農地転用時の土地改良区手続きと決済金について専門家が詳しく解説した記事
賦課金を払わない場合のリスクは段階的に重くなります。最初は督促状と督促手数料(100円程度)が発生し、その後延滞金が加算されます。延滞金は日数に応じて増加し、長期間放置すると本税よりも高額になることもあります。
最終的には財産差押えが実行されます。土地改良法に基づく強制徴収権により、都道府県知事の認可を得て、滞納者の不動産や預金が差し押さえられます。差押えが実行されると、その土地に係る未収賦課金の時効が中断し、競売や公売で換価される可能性があります。
参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030932535.pdf
賦課金未納がある状態で相続や売買が発生した場合、新たな権利取得者が未納分も含めた権利義務を承継します。土地改良法第43条の規定により、組合員資格の移転とともに滞納金も承継されるため、購入者や相続人が過去の未納分まで支払う義務を負うことになります。
参考)https://midorinet-motoarakawa.or.jp/documents/contents/d/page2.6.54.pdf
支払いが困難な場合は、まず土地改良区に相談することが重要です。分割払いなどの対応が可能な場合もあります。また、農地中間管理機構を活用して農地を貸し出せば、賦課金の負担を耕作者に移転できます。機構が管理している間は機構が、機構から受け手に貸し付けた後は受け手が賦課金を支払います。
参考)https://ninaiteokayama.or.jp/farmland/lendqa2.pdf
早期に専門家(弁護士や行政書士)に相談し、地区除外申請や時効援用など、法的に有効な対処方法を検討することが推奨されます。放置すればするほど延滞金が増加し、差押えのリスクも高まるため、速やかな対応が必要です。