実は、目視で「水はけが良さそう」と判断した圃場でも、飽和透水係数が基準値の10分の1以下だった事例が全国で報告されています。
飽和透水係数(Ks)とは、土の間隙が水で完全に満たされた飽和状態において、単位水頭勾配あたりの水の流速を示す指標です。 数式で言えば「ダルシーの法則」に基づいており、流量Q、断面積A、動水勾配iを用いて v = k × i(vは流速、kが透水係数)として表されます。jstage.jst+1
農業の現場では、この値が土壌の排水性・潅漑後の水の動きを左右します。つまり、飽和透水係数が低い圃場は水が抜けにくく、根腐れや過湿による減収リスクが高まります。 単位はcm/sまたはm/sで表記され、農地土壌の測定値の多くは10⁻⁴〜10⁻⁶ cm/sのオーダーに集まっています。pref.okayama+1
作物の生育に適した表土の飽和透水係数の範囲は、1.0×10⁻⁶〜1.0×10⁻⁴ m/s とされています。 この範囲を外れると、トラクターによる踏み固めや、長年の耕盤層形成が原因で透水性が著しく低下している可能性があります。これが基本です。
参考)https://hozen.ceri.go.jp/manual_kukakuseibi/kukakuseibi.pdf
畑地での改良目標値は飽和透水係数 10⁻⁴ cm/s 以上、水田では 10⁻⁴〜10⁻⁵ cm/s が適正とされており、兵庫県農業技術センターなどの指針でも同様の基準が示されています。
参考)https://web.pref.hyogo.lg.jp/nk09/documents/thuchi-shishin3.pdf
| 土地利用 | 目標飽和透水係数 | 透水性の評価 |
|---|---|---|
| 畑地 | 10⁻³〜10⁻⁴ cm/s | 良好 |
| 水田 | 10⁻⁴〜10⁻⁵ cm/s | 適正(減水深15〜30mm/日) |
| 問題圃場 | 10⁻⁶ cm/s 以下 | 不良・要改良 |
定水位透水試験は、透水性の高い砂質土に適した室内試験方法です。 水頭差(h)を一定に保ちながら試料に水を透過させ、一定時間tに流出した水量Qを計測します。計算式は以下のとおりです。index-press+1
ks = Q × L ÷ (A × t × h)
ここで、L は試料の長さ(cm)、A は断面積(cm²)、t は測定時間(s)、h は水頭差(cm)です。 農地の表土サンプルを採取して室内でこの試験を行えば、機器さえあれば比較的短時間で数値が得られます。これは使えそうです。
参考)定水位透水試験とは?1分でわかる意味、透水係数の公式と計算、…
実際の試験では、供試体をセットした後に真空脱気を行い、土の間隙を完全に水で満たす飽和処理が必須です。 この飽和処理を怠ると測定値が実際より大きく出るため、「水はけが良い」という誤った判断につながります。飽和処理が条件です。
参考)https://www.gbrc.or.jp/assets/test_series/documents/so_08.pdf
農家が自前で試験を行う場合、市販の室内透水試験装置(定水位透水試験セット)は3〜10万円程度から入手可能です。農業改良普及センターに相談すると、試験の代行や指導を受けられる地域もあります。
変水位透水試験は、粘性土などの透水性が低い土質に使う方法です。 定水位法と異なり、スタンドパイプ内の水位がh₁からh₂まで降下する時間tを測定し、次の式で透水係数を求めます。env-exp-seminar.cocolog-nifty+1
ks = (2.3 × a × L) ÷ (A × t) × log₁₀(h₁/h₂)
ここでaはスタンドパイプの断面積(cm²)、Lは試料長さです。 水田土壌のように透水係数が低い(10⁻⁵〜10⁻⁶ cm/s オーダー)場合、定水位法では水の流出量が少なすぎて正確な計測が難しいため、変水位法が選ばれます。どちらかと言えば粘土質土壌が多い水田農家には、変水位法の方が実態に合っています。
参考)https://www.index-press.co.jp/books/digest/excel-22.pdf
なお、透水係数の値は水温15℃を基準として補正するのが標準です。 夏場に現場採取したサンプルを高温の状態でそのまま試験すると、水の粘性が変わるため実態より高い透水係数が算出されます。意外ですね。温度補正係数(15℃換算)をかけることが原則です。
圃場の土壌を乱さずに現場で飽和透水係数を測定したいときは、ボアホール法(現場透水試験) が有効です。 地面に穴(ボアホール)を掘り、一定量の水を注水して水位の変化を観測することで、現場条件そのままの飽和透水係数を算出できます。
参考)https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/4610/523565.pdf
埼玉県の浸透施設設計手引きでは、ボアホール法によって得た飽和透水係数を浸透施設の設計に直接用いることが推奨されています。 例えば飽和透水係数 0.0045 cm/s(= 0.162 m/hr)という実測値が得られた場合、排水溝や浸透トレンチの設計流量を計算できます。
室内試験と現場試験の違いも重要です。室内(コア試料)では完全飽和が可能ですが、現場では土を完全に飽和させることが難しく、現場飽和透水係数(Kfs)は室内のKsより低く出る傾向があります。 そのため、設計に使う場合は現場試験値の方が安全側の数値になります。つまり過大評価を防げるということです。
農業土木の専門家・農業農村整備コンサルタントに現場試験を依頼する場合、1圃場あたりの試験費用は数万円〜十数万円が目安です。複数地点の測定が必要な場合は農業改良普及センターや農業試験場に問い合わせると、補助や共同研究の窓口になってくれる場合があります。
埼玉県|雨水流出抑制施設の浸透効果量の算定(現場透水試験・ボアホール法の計算例)
現場試験や室内試験が困難な場合、粒度分布データから飽和透水係数を推定することもできます。 代表的な方法は、20%粒径(D₂₀)と飽和透水係数の相関式を使うもので、千葉県の設計指針などにも掲載されています。
参考)https://www.pref.chiba.lg.jp/kasei/kaihatsukoui/mizujunkan/documents/kaisetsu_3.pdf
例えばD₂₀が0.2mm(細砂相当)の場合、推定される飽和透水係数はおよそ10⁻³〜10⁻² cm/s のオーダーになります。 これは粒径が大きいほど水が通りやすいという直感に合った結果です。ただし推定値はあくまで目安です。
この推定法の注意点は、土壌の構造(団粒構造の有無、耕盤層の位置)や有機物含量は粒度分布に反映されないことです。 農地土壌は長年の耕作によって表層と下層で透水性が大きく異なる場合があるため、推定値だけで排水改良の判断をすることは危険です。重要な判断には必ず実測を。
特に水田転換畑では、元々の水田耕盤(グライ層)が透水性を大きく下げていることがあります。溶融スラグなどの土壌改良資材を混合すると、飽和透水係数が最大で約10倍まで上昇したという研究結果もあります。 改良資材の導入前後でKsを測定・比較すると、改良効果の定量評価ができます。
参考)東京農業大学|研究/産学官・地域連携シーズ|低平地の農地土壌…
METERグループ|土壌の透水係数の測定方法まとめ(現場・室内の各手法を網羅的に解説)
測定した飽和透水係数を農地改良に活用するには、まず測定値を改良目標値と比較することが出発点です。 畑地で10⁻⁵ cm/s 以下の場合は明らかに透水不良であり、暗渠排水工事や心土破砕(サブソイラー作業)が有効です。
心土破砕は1ha あたり数万円から実施でき、透水係数が数倍に改善したという事例が北海道農業研究センターの資料にも報告されています。 効果は持続性に課題があるため、3〜5年ごとの定期測定と再処理が推奨されます。これが原則です。
参考)https://www.hro.or.jp/upload/13678/1-43.pdf
農地改良の費用対効果を見極めるには、改良前後の飽和透水係数の測定が欠かせません。数値が2倍以上改善されれば、排水にかかる時間が大幅に短縮され、作業可能日数の増加・収量向上という形で収益改善につながります。知っておくと得する知識です。
暗渠排水の設計では、飽和透水係数(m/hr 単位)を浸透量計算式に代入して、排水管の間隔・深さを決定します。 国土交通省の雨水浸透施設設計手引きや、各都道府県の農業土木設計指針が無料でダウンロードできるため、参考にしてください。
農業改良普及センターや農業試験場では、透水試験の技術指導や土壌診断サービスを提供しています。まずは最寄りの農業センターに問い合わせることを一つの行動として覚えておいてください。
農林水産省|農地土壌の改良目標・施肥基準(飽和透水係数を含む土壌診断指標の公式資料)