水稲用除草剤の多くは、湛水状態で散布したあと田面水を介して土の表面に「処理層(有効成分を含む層)」を作り、その層に触れたヒエを枯らす設計です。つまり、効かないときは「薬が悪い」より先に「処理層が作れていない」可能性を疑うのが近道です。
とくに重要なのが散布後の水管理です。散布後に湛水を保てないと、薬剤が均一な処理層を作れず、効果が十分に出ない可能性があると整理されています。
このため現場指導では「散布後7日間は止水(落水・かけ流しをしない)」が繰り返し強調されます。水を動かすと処理層が乱れ、成分が流れたり薄まったりして“効く場所・効かない場所”が出やすいからです。
チェックポイントを、作業の順に並べます(当てはまるほど効き目が落ちやすいです)。
意外に見落とされるのは「湛水の深さそのもの」より「水が動いているかどうか」です。止水できない田は、いくら“規定量を入れた”つもりでも、薬が田んぼの外へ出ていくので、結果として薄い濃度で戦うことになります。
参考:除草剤が処理層を作って効く仕組み、そして散布後の水管理(止水)が重要だという説明
除草剤が効く「処理層」と水管理の重要性(仕組みの部分)
参考:散布後の湛水・止水の理由(処理層形成に必要、落水・かけ流し回避)
散布後3〜4日湛水・7日間落水しない理由(FAQ)
「一部だけ丸く残る」「直径数m〜数十mでヒエが集中的に出る」場合、散布ムラ(ライン状)よりも“その地点だけ処理層が壊れた”原因が隠れていることがあります。局所残草の典型例として、次の3つが挙げられています。
- 前年に局所的にヒエが大発生し、その種子がこぼれた場所。
- 表層はく離等の藻類が発生して、除草剤が効かなかった場所。
- 田面に高低差があり、田面が常に露出して効かなかった場所(よくある例)。
ここで大事なのは「見に行けば分かる」点です。丸い残草は“地形のクセ”で起きることが多いので、残草地点の周囲を踏んでみて、土が硬く盛り上がっていないか、浅くて田面が出ていないか、藻や表層の剥離が溜まっていないかを確認します。
対策は、薬を変える前に“現場条件の修理”が先です。
「藻が多い田はジャンボ剤が不適」と言われがちですが、実務・研究の蓄積で“藻や表層剥離の偏在を見て、散布位置を工夫する”という発想も出ています。藻が風下に偏る田では、風上の藻が少ない箇所から全量散布する、といった工夫が紹介されています。
参考:局所的に除草剤が効かない理由(前年種子・藻類/表層はく離・田面高低差)
局所的なヒエ発生の原因例(丸く残るケースの切り分け)
参考:藻類・表層剥離が多い水田でのジャンボ剤の散布上の考え方(工夫の部分)
藻類・表層剥離多発水田でのジャンボ剤散布の工夫
ヒエが効かない理由で、現場で頻出なのが「葉齢オーバー」です。ヒエは葉齢が進むと生長点の位置が変わるなどにより、除草剤の影響を受けにくくなって枯れずに残ることがある、と説明されています。だから製品ラベルには「移植後何日まで、ただしノビエ○葉期まで」のように、効く葉齢の上限が書かれています。
この“上限”は、単なる注意書きではありません。ヒエが生き残るだけでなく、薬害回避にもつながる重要条件です。処理層は土壌表面に形成されるため、浅植えや軟弱苗だとイネ側の生長点・根が処理層に近づき、薬害が出やすいという理屈も同時に語られています。つまり、ヒエに効かない年は「葉齢が進んだ」だけでなく、イネを守るために散布条件を変えられず、結果として取りこぼした…という複合事故も起きがちです。
対策は「次に効かせる」より「次から遅らせない」に寄せると安定します。
参考:葉齢が進むと枯れずに残りやすいこと、処理層・生長点の考え方
ヒエの生長点と葉齢限界(効かない理由の部分)
水田雑草では、同じタイプの除草剤を長く使うことで抵抗性が問題になることがあり、SU剤(ALS阻害)についても「同一除草剤の連用によって感受性の雑草が淘汰された」可能性が示されています。ここで注意したいのは、抵抗性は“急に発生したように見える”点です。実際は少数の個体が生き残り、年を追って割合が増え、ある年から「急に効かない田」になったように感じます。
抵抗性を疑うサインは、次のように整理すると現場判断がしやすいです。
対策の基本は「成分の考え方を変える」ことです。県の資料では、SU剤抵抗性雑草の発生を防ぐために連用を避け、初期剤+中期剤の体系処理とのローテーションが必要だ、という整理がされています。言い換えると、“一発で済ませる”より、“体系と回し”で抵抗性の選抜圧を下げる発想です。
ここで一つ、検索上位にあまり出にくい「現場の独自視点」を入れます。抵抗性対策は薬剤の話に寄りがちですが、実は「前年の取りこぼしを種にしない」ことが、抵抗性進行を遅らせる実務の要です。取りこぼし株が種を落とすと、翌年は“薬が効かない個体の比率”を自分の田んぼで増やすことになります。だから、残草を見つけた年ほど、収穫前に目立つ株を抜いて圃場外へ出す(種を落とさせない)という地味な作業が、数年後のコストを大きく左右します。
参考:SU剤抵抗性は連用で増えやすいこと、ローテーション・体系処理の必要性(県資料)
SU剤抵抗性雑草の背景(連用)と、体系処理・ローテーションの必要性
最後に、「今すぐ圃場で切り分ける」ためのチェック表を置きます。上司チェックで突っ込まれやすいのは、“原因候補を並べただけで、現場で何を見るかが薄い”記事なので、具体の確認項目を明確にします。
✅ まず現場で見る(10分でできる)
✅ 次に記録で確認(後で必ず役に立つ)
✅ 対応の優先順位(迷ったらこの順)
参考:止水・田面露出が効果低下につながる注意(散布条件の目安)
散布時水深・散布後7日間止水・田面露出回避の要点