日中ではなく深夜に電照しても、あなたの菊はうまく開花を抑制できていない可能性が高いです。
菊は「短日植物」です。日照時間(正確には暗期の長さ)が一定の長さを超えると花芽を形成し、やがて開花するという性質を持っています。この性質を農業技術として活用したのが電照栽培です。
夜間に人工光を照射することで、菊に「まだ夜は短い=長日条件」と錯覚させます。花芽の形成が抑制されたまま茎が伸び続けるため、消灯するタイミングをコントロールすることで、出荷したい日に合わせて開花させることができます。これが電照栽培の核心です。
電照栽培の歴史は古く、昭和22年(1947年)に現在の愛知県田原市周辺で初めて実用化されたとされています。当時は白熱電球が使われ、以来70年以上にわたって改良が重ねられてきました。現在、愛知県は菊の産出額で全国の約37%を占める日本最大の産地であり、田原市・豊橋市だけで全国の出荷量の30%を誇ります。産地として成立した背景には、温暖な気候と昭和43年の豊川用水完成による安定した水の確保があります。
電照栽培の仕組みで重要なのは、「昼の長さ」ではなく「夜の長さ(暗期)」が花芽分化を左右するという点です。意外かもしれませんが、菊の花芽分化を引き起こすのは「暗期が一定時間以上続くこと」であって、昼の長さそのものではありません。暗期が限界暗期(品種によって異なる)を超えると花芽分化がスタートします。この理解がないと、照射時間帯の設定を誤ります。
秋ギク品種の代表「神馬」では限界日長が約14時間、つまり限界暗期は約10時間です。夜が18時から始まるとすれば、18時+10時間で午前4時前後に最大の電照効果が得られる計算になります。暗期に感応するタイミングを狙うことが、効率的な花芽分化抑制につながります。これが電照の原則です。
【参考】園芸作物の光応答反応と農業技術①—キクとイチゴにおける電照の現状(岡山大学・桝田正治):キクの暗期中断の最適時間帯と品種ごとの限界暗期の解説あり
電照菊に使われる光源は、大きく「白熱電球」「電球形蛍光灯」「LED(赤色)」の3種類に分類されます。それぞれに特徴があり、単純に「新しい=良い」とは言い切れない面もあります。
菊の花芽分化抑制に最も効果的な光の波長は630nm付近の赤色光です。これはキクの光受容タンパク質(フィトクロム)の感度特性に由来します。同じ50ルクスの照度でも、光源の種類が異なると花芽分化抑制の効果に差が出ます。つまり、照度(ルクス)だけを揃えれば十分というわけではありません。
白熱電球は赤色を含む広い波長域の光を放射し、花芽分化抑制効果が高く、防水・防塵性にも優れています。ただし消費電力が60〜100Wと大きく、寿命も1,000〜2,000時間程度と短い点がデメリットです。10アールあたり100球設置した場合の年間電気代は約5万円前後かかることがあります。虫を引き寄せやすい点も露地栽培では悩みの種です。
赤色LED(ピーク波長625〜634nm)は、白熱電球と比べて消費電力が5分の1以下(7W程度)で、寿命は約10年と格段に長く、虫を誘引しにくい性質もあります。花芽分化抑制効果は同等以上の場合もあり、愛知県の研究では波長634nmの赤色LEDが白熱電球や蛍光灯を上回る効果を示したという結果も出ています。コストの原則はこうです。
ただし注意点もあります。LEDは光の広がりが白熱電球より狭く、距離が離れると照度が急激に低下します。設置間隔を3m×3m以内を目安とし、設置後は実際にほ場の照度を計測する必要があります。白熱電球なら50ルクス以上、赤色LED(7W・630nm)なら19ルクス以上を全エリアに確保するのが基準です。これが条件です。
| 光源 | 消費電力 | 定格寿命 | 虫の誘引 | 初期コスト |
|------|---------|---------|---------|----------|
| 白熱電球 | 60〜100W | 1,000〜2,000時間 | 多い | 安い(150〜200円/球) |
| 電球形蛍光灯 | 13〜23W | 5,000〜13,000時間 | やや多い | 中程度(400〜1,500円/球) |
| 赤色LED | 6〜13W | 約40,000時間 | 少ない | 高い(1,000〜4,000円/球) |
福島県のマニュアルによると、赤色LEDランプ(7W)を使用した場合の電気代は白熱電球(75W)の半分以下になります。初期投資は球単価が白熱電球の約8倍かかりますが、8年以上の継続使用で白熱電球より延べコストが安くなる試算が出ています。長期的な視点でLED化を検討する価値は十分あります。
【参考】キク電照栽培用 光源選定・導入のてびき(農研機構「光花きコンソーシアム」):各光源の特性比較、花芽分化抑制効果の違いが詳しく解説されている
電照の方式には複数あります。暗期の途中で点灯して暗期を分断する「暗期中断電照」、点灯・消灯を繰り返す「間欠電照」、日没直後から点灯する「初夜電照」、夜明け前に点灯する「早朝電照」などです。現場で最も広く使われているのは暗期中断電照で、深夜に集中して照射する方法です。
照射時間帯の基本は「23時〜4時」の5時間です。これは、菊にいったん暗期を感じさせた後に電照することで、効率よく花芽分化を抑制できるためです。日没直後に点灯するよりも、一定の暗期を経過した後に暗期を分断するほうが効果が高いことが複数の研究で示されています。意外ですね。
茨城県農業総合センターの研究では、8月盆出荷型小菊において「慣行の22時〜2時」よりも「0時〜4時頃」のほうが花芽分化抑制効果が高いことが実証されています。季節によって最適な照射時間帯は変化しますが、「暗期開始から4時間後〜限界暗期長+1時間」の範囲が効果の高い時間帯の目安です。鹿児島県農業開発総合センターもこれを確認しています。
白熱電球を使う場合は一般的に「50ルクス・3〜4時間」が標準ですが、やなぎ芽(柳芽)の発生を防ぐために5時間とすることも多いです。やなぎ芽とは、いったん形成されかけた花芽が栄養芽に逆戻りして、柳の葉のように細長く変形してしまう現象です。電照不足や故障による数日の断灯が原因で発生するため、タイマーや設備の定期点検が欠かせません。
また、高知県のマニュアルでは「草丈が40cmを超えるまで電照しても花芽抑制効果が薄れ、柳芽になるリスクがある」と警告しています。電照はいつまでも続ければいいわけではなく、草丈や生育状況に応じた消灯計画が必要です。長すぎる電照も禁物です。
【参考】キクの電照栽培における効果的な電照の長さおよび時間帯(鹿児島県農業開発総合センター):暗期中断の最適時間帯に関する実証データが掲載
電照栽培の最大のメリットは、出荷時期を計画的にコントロールできる点です。その核心にあるのが「到花日数」という概念です。到花日数とは、電照を終了(消灯)してから開花のピーク(50%開花)に至るまでの日数のことです。
消灯日の計算式はシンプルです。
📌 消灯日 = 目標開花日 ー 到花日数
たとえば福島県郡山市で8月7日に開花させたい場合、品種「精はんな」の到花日数は50日なので、消灯日は6月18日になります。「精はなこ」は到花日数41日なので6月27日が消灯日です。品種によってこれだけの差があります。
注意が必要なのは、到花日数は品種・地域・作型によって大きく異なる点です。同じ品種でも消灯後の日長条件や気温によって変動します。特に露地栽培では温度管理ができないため、到花日数がブレやすいです。まずは自分のほ場で栽培したい品種の到花日数を小規模で確認することが、計画的な生産への第一歩になります。
消灯のタイミングを誤ると、出荷がお盆や彼岸の需要ピークからずれてしまいます。この「ズレ」は直接的な収益の損失につながります。愛知県のデータでは、電照栽培(2条植え体系)を導入することで、10アールあたりの所得が無電照(1条植え)と比べて約16万円(約1.37倍)アップするという試算があります。出荷時期の精度を高めることが、経営安定への近道です。
定植後に電照設備の設置が遅れると、それだけで花芽分化が始まってしまうリスクがあります。移植機を使う場合でも、定植後1日以内には電照を設置することが推奨されています。準備は前倒しが鉄則です。
【参考】計画的な生産・出荷のための夏秋ギク栽培技術マニュアル(福島県農業総合センター・農研機構):品種別の到花日数一覧、消灯日の決め方、LEDランプの経営比較が詳しく掲載
電照栽培でよくある失敗のひとつが、「電照効果が出にくい品種」を選んでしまうことです。電照効果は品種によって大きく異なります。この「電照感応性」の違いを理解していないと、丁寧に電照管理をしても開花調節の精度が上がりません。
菊品種は電照に対する反応から大きく2つに分けられます。「質的な日長反応を示す品種」は、長日条件や暗期中断の環境では花芽分化がほぼ起こらず、消灯後に一斉に花芽分化します。出荷時期のばらつきが小さく、計画生産に向いています。一方、「量的な日長反応を示す品種」は電照しても花芽分化が少しずつ進行するため、抑制効果が安定せず、出荷時期がずれやすいです。
品種選定でもう一点見落とされがちなのが、光源の波長と品種の相性です。愛知県の試験では、電照の花芽分化抑制が効きにくい代表品種とされる輪ギク「岩の白扇」において、試験した光源の中でピーク波長626nmが最も効果が高かったと報告されています。つまり、品種によって最適な光源の波長が異なる可能性があるということです。これが意外な盲点です。
また、親株管理も電照効果に影響します。高温や強光線による親株の老化は柳芽の原因になることが指摘されており、採穂時の親株の状態が挿し芽後の生育に影響します。親株床の管理と、3ヶ月に一度の株更新が推奨されています。見えにくいコストですが、品質安定に効いてきます。
さらに、開花タイミングをさらに精密に合わせたい場合は、消灯後の再照明(リライティング)という手法もあります。一旦消灯して花芽分化を始めさせた後に数日だけ電照を再開し、開花を数日遅らせる方法です。需要期の直前に在庫が溢れてしまうリスクへの対策として、一部の先進農家がすでに取り入れています。
品種の特性を把握し、光源の波長・照度・照射時間帯・消灯日・再照明まで一貫して管理する。この全体設計こそが、電照栽培で安定した収益を生む本質です。まずは扱っている品種が「質的」か「量的」かを確認することが、見直しの出発点になります。
【参考】需要期安定出荷のための夏秋小ギク電照栽培マニュアル(農研機構):電照感応性の高い品種の一覧と電照効果の品種間差についてのデータあり
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