ブチルヒドロキシアニソール食品添加物の危険性と安全性と使用基準

ブチルヒドロキシアニソール食品添加物がバターや油脂に使われる理由とは?発がん性の噂の真相やBHTとの違い、農産加工品を輸出する際の注意点まで、生産者が知るべき情報を網羅しました。安全性は?

ブチルヒドロキシアニソール食品添加物

この記事の要点
🛡️
強力な抗酸化作用

油脂の酸化を防ぎ、バターや冷凍水産物の風味を長期間守る重要な添加物です。

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発がん性論争の真実

ラットの前胃での実験結果と、ヒトへの安全性がどのように評価されたかを解説します。

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輸出時の隠れたリスク

海外輸出を目指す生産者が注意すべき「クリーンラベル」と代替素材のトレンド。

ブチルヒドロキシアニソール食品添加物の酸化防止剤としての役割とメカニズム


農産加工や食品製造の現場において、最も頭を悩ませる問題の一つが「酸化」です。特に油脂を多く含む食品は、空気中の酸素と触れることで急速に劣化し、異臭(変敗臭)を放ったり、栄養価が損なわれたりします。ここで重要な役割を果たすのが、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)という食品添加物です。


BHAは、フェノール系の合成抗酸化剤であり、非常に強力な「ラジカル捕捉作用」を持っています。油脂の酸化は、連鎖反応的に発生する「フリーラジカル」によって加速しますが、BHAはこのラジカルに対して自らの水素原子を素早く供与することで、酸化の連鎖を断ち切る働きをします 。この化学的メカニズムにより、ほんの微量を添加するだけで、バターや食用油脂、乾燥魚介類などの賞味期限を劇的に延ばすことが可能になります。


参考)https://www.asama-chemical.co.jp/TENKAB/YUKAWA18.HTM

特に農業従事者が加工品(例:果物のバタージャムや、揚げ菓子など)を製造する際、油脂の酸化安定性は商品の品質に直結します。ビタミンE(トコフェロール)などの天然抗酸化剤も存在しますが、BHAはそれらと比較して熱に対する安定性が高く、加熱調理後も効果が持続しやすいという特性があります。「キャリーオーバー」という概念も重要で、原材料の油脂にすでにBHAが含まれている場合、最終製品に表示義務が生じるかどうかの判断も必要になります。


BHAの主な用途は以下の通りです。

  • 油脂・バター:酸化による風味劣化の防止
  • 冷凍水産物:魚油の焼け(変色)防止
  • 乾燥魚介類:煮干しなどの油焼け防止

このように、BHAは食品ロスを減らし、遠隔地への流通を可能にするための「縁の下の力持ち」として、現代の食品産業を支えています。


酸化防止剤BHAの発がん性問題と抗がん作用に関する研究論文
このリンクでは、BHAの化学的特性と、過去に行われた発がん性試験の詳細なメカニズムについて、専門的な視点から解説されています。


ブチルヒドロキシアニソール食品添加物の発がん性と毒性に関する科学的真実

「BHAには発がん性がある」という話を耳にしたことがある生産者の方も多いかもしれません。この懸念の根拠となっているのは、1982年に名古屋市立大学の伊東信行教授らによって発表された研究論文です 。この研究では、ラットに高濃度のBHA(餌に2%混ぜるという極めて高い濃度)を与えたところ、ラットの「前胃(ぜんい)」に扁平上皮がんが発生したことが報告されました。


参考)https://www.aomori.coop/kenmin/news/detail.php?p=947

この衝撃的なニュースにより、一時はBHAの全面禁止も検討されましたが、その後の詳細な国際的リスク評価によって、現在は「通常の使用量であればヒトに対して安全である」と結論付けられています。その理由は主に以下の2点です。


  1. 器官の特異性

    がんが発生したのはラットの「前胃」という器官ですが、人間にはこの前胃が存在しません。したがって、ラットで起きた現象がそのまま人間に当てはまるわけではないと判断されました 。


    参考)https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/iken-kekka/kekka.data/pc_hisiryou_bha_291206.pdf

  2. 閾値(いきち)の存在

    BHAの発がん性は、細胞への直接的な遺伝毒性(DNAを傷つける作用)によるものではなく、高濃度での刺激による組織の再生過程で生じるものと考えられています。つまり、ある一定の量(閾値)を超えなければ毒性は発現しないという考え方です。


現在、国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類では、BHAは「グループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)」に分類されています 。これは「動物実験では証拠があるが、ヒトでの証拠は不十分」という意味です。これを受けて、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、人が一生涯毎日食べ続けても健康に影響が出ない量として、一日許容摂取量(ADI)を体重1kgあたり0.5mgと定めています 。


参考)https://www.prtr.env.go.jp/factsheet/factsheet/pdf/1-365.pdf

我々が日常の食事から摂取しているBHAの量は、このADIの数パーセントにも満たない微量であり、食品添加物として規定された使用基準を守っている限り、健康への悪影響を心配する必要はないとされています。しかし、消費者の中には依然として不安を持つ層もいるため、生産者は「科学的な安全性」と「消費者の安心」のギャップを理解しておく必要があります。


食品安全委員会による添加物の複合影響に関する評価報告書
食品安全委員会がまとめた、BHAを含む複数の添加物を同時に摂取した場合のリスク評価に関する詳細なレポートです。


ブチルヒドロキシアニソール食品添加物とBHTの違いと相乗効果による使い分け

BHAとよく似た名前で、セットで語られることが多い食品添加物に「BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)」があります。これらはどちらもフェノール系の合成酸化防止剤であり、用途も重複していますが、その特性には明確な違いがあります。農産加工品の開発において、どちらを選択すべきか、あるいは両方使うべきかを判断するためのポイントを整理します。


特性 BHA(ブチルヒドロキシアニソール) BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)
価格 比較的高価 安価
溶解性 油脂によく溶ける 油脂によく溶ける
安定性 熱に強いが、BHTよりは劣る場合も 熱に非常に強い
動物性油脂への効果 非常に高い(ラード等に最適) やや劣る
植物性油脂への効果 やや劣る 高い
揮発性 水蒸気蒸留されやすい 揮発性が高い

大きな違いは「コスト」と「対象となる油脂との相性」です。BHTは非常に安価であるため、大量生産されるスナック菓子や安価な加工食品によく利用されます 。一方、BHAは動物性油脂(バターやラードなど)に対する抗酸化力がBHTよりも優れているとされ、高級な加工品や、特定の風味を守りたい製品に選ばれる傾向があります。


参考)https://www.pochi.co.jp/ext/magazine/2022/09/antioxidant-and-dogs2022.html

しかし、最も効果的なのはこれらを併用することです。BHAとBHTを組み合わせると、単独で使用するよりもはるかに高い抗酸化作用を発揮することが知られており、これを「相乗効果(シナジー効果)」と呼びます 。さらに、クエン酸やビタミンC(アスコルビン酸)などを添加すると、これらが「シネルギスト(相乗剤)」として働き、BHAやBHTの働きを助け、使用量を減らしつつ効果を高めることができます。


参考)食品添加物としてのBHA(ブチルヒドロキシアニソール)および…

例えば、冷凍ハンバーグやソーセージなどの畜肉加工品を作る場合、BHAとBHTを混合して使用することで、肉の脂質の酸化を長期間強力にブロックできます。ただし、併用する場合の使用基準(総量規制)には注意が必要です。


ブチルヒドロキシアニソールの食品健康影響評価について
BHAとBHTの併用時の安全性や、それぞれの化学的特性の違いについて言及されている厚生労働省の資料です。


ブチルヒドロキシアニソール食品添加物の使用基準と食品衛生法による規制

食品添加物の使用は、食品衛生法によって厳格に規制されています。BHAは「指定添加物」であり、使用できる食品と、その最大使用量(残存量)が明確に定められています。これを違反すると、商品の回収命令や営業停止処分を受ける可能性があるため、加工食品を製造・販売する農業従事者は、必ず最新の基準を確認しなければなりません。


日本では、BHAは「何にでも使える」わけではなく、使用対象食品が限定されているのが特徴です 。


参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000459357.pdf

主な使用基準(最大使用量)は以下の通りです。

  • 油脂、バター、魚介乾製品、塩蔵魚介類
    • BHA単独、またはBHTとの合計で 0.20g/kg (200ppm) 以下
  • 冷凍水産物(生食用冷凍鮮魚介類・生食用冷凍かきを除く)
    • 浸漬液として使用する場合:1.0g/kg 以下
    • (※ただし、生食用の冷凍魚介類には使用不可の場合が多いので注意が必要です)
  • チューインガム
    • 1.0g/kg 以下(BHTとの合計)
  • 乾燥裏ごしいも
    • 0.20g/kg 以下(BHTとの合計)

    特に注意が必要なのは、「油脂」の定義です。単なる植物油や揚げ油だけでなく、加工食品に含まれる油脂分に対してどの程度BHAが残留しているかも管理する必要があります。また、パーム油などの輸入油脂を使用する場合、原産国ですでにBHAが添加されているケースが多々あります。これを原材料として使用する場合、最終製品でのBHA濃度が基準値を超えないように計算する必要があります。


    また、表示義務についても重要です。BHAを使用した場合は、原材料名欄に「酸化防止剤(BHA)」や「酸化防止剤(V.E、BHA)」のように、物質名を明記する必要があります。一括名での表示(単に「酸化防止剤」とするだけ)は認められていないケースや、用途名併記が必要なケースがあるため、消費者庁の食品表示基準に従った正しい記載が求められます。


    各添加物の使用基準及び保存基準(厚生労働省・公定書)
    食品衛生法に基づく最新の使用基準値が網羅された公的なPDF資料です。正確な数値の確認にはこちらが不可欠です。


    ブチルヒドロキシアニソール食品添加物の海外輸出リスクと天然代替素材への転換

    最後に、多くの記事では語られない、しかし現代の農業経営にとって極めて重要な視点を提供します。それは、「海外輸出におけるBHAのリスク」です。


    日本国内で合法的に使用されているBHAですが、海外、特にアメリカやEUへ加工品を輸出する場合、大きな障壁となることがあります。アメリカのカリフォルニア州には「プロポジション65(Prop 65)」という州法があり、発がん性や生殖毒性が疑われる化学物質を含む製品に対して、警告表示を義務付けています 。BHAはこのProp 65のリストに含まれているため、たとえFDA(米国食品医薬品局)の基準内であっても、カリフォルニア州で販売するためには、パッケージに「警告:この製品はがんを引き起こす可能性がある化学物質を含んでいます」という、販売上極めて不利な表示をしなければならないリスクがあります。


    参考)https://www.fmric.or.jp/export/data/49%E3%80%80%E5%85%A8%E6%96%87%E3%80%80%E5%8A%A0%E5%B7%A5%E9%A3%9F%E5%93%81%E3%81%AE%E8%BC%B8%E5%87%BA%E8%A6%8F%E5%88%B6%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%AF%BE%E5%BF%9C.pdf

    また、世界的なトレンドとして「クリーンラベル(Clean Label)」運動が加速しています。これは、消費者が「合成添加物不使用」「天然由来成分のみ」の製品を好む傾向のことです。欧米の高級スーパーやオーガニック市場では、BHAやBHTが使用されているだけで棚に置いてもらえないケースも増えています。


    このような背景から、輸出や高付加価値化を目指す農産加工においては、BHAの使用を見直し、以下のような天然由来の代替酸化防止剤へ切り替える動きが活発化しています。


    • ミックストコフェロール(ビタミンE)

      植物油から抽出された天然の酸化防止剤。消費者のイメージが良いですが、BHAに比べると効果はやや穏やかです。


    • ローズマリー抽出物

      ハーブのローズマリーから抽出した成分。非常に高い抗酸化力を持ち、欧米では「天然香料」や「スパイス抽出物」として扱われることもあり、クリーンラベル対応素材として注目されています。独特の香りがあるため、使用量やマスキング技術の調整が必要です。


    • 茶カテキン・チャ抽出物

      緑茶由来の成分。水溶性の系で効果を発揮しやすいですが、油溶性の製品には乳化等の工夫が必要です。


    BHAは安価で強力な優れた添加物ですが、「誰に売るか」「どこで売るか」によっては、あえて使用しないという選択も、賢い経営判断と言えるでしょう。


    加工食品の輸出規制への対応について(農林水産省補助事業報告書)
    輸出時の添加物規制や、各国の残留基準の違いについて詳しく調査されたレポートです。海外展開を考える生産者必読の資料です。




    食品級ブチルヒドロキシアニソール/BHA、35.3 Oz。