酸化防止剤ビタミンC危険性とアスコルビン酸の食品添加物の基準

酸化防止剤として使われるビタミンCは本当に危険なのでしょうか?合成と天然の違いや、アスコルビン酸の発がん性の噂、農産物加工で使う際の意外な注意点まで、正しい知識を持っていますか?

酸化防止剤とビタミンCの危険性

記事のポイント
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合成と天然の正体

化学構造は全く同じアスコルビン酸であり、安全性に差はありません。

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金属との相性に注意

鉄分などと反応すると逆に酸化を早める「プロオキシダント効果」があります。

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表示と基準のルール

加工品販売では用途名併記が必要な場合があります。適切な表示で信頼を獲得しましょう。

酸化防止剤ビタミンCとアスコルビン酸の食品添加物の違い

 

農業生産者の皆様が、ジャムやジュース、カット野菜などの加工品を製造・販売する際、原材料ラベルで頻繁に目にするのが「酸化防止剤(ビタミンC)」という表記です。消費者の中には「ビタミンCは体に良いはずなのに、なぜ添加物として書かれると危険そうに見えるのか?」と疑問を持つ方も少なくありません。

 

参考)食品添加物のビタミンCの危険性とは?安全性や用途などを解説|…

まず、基本的な化学知識として整理しておきたいのが、「ビタミンC」と「L-アスコルビン酸」は同一の物質であるという事実です。

 

参考)https://pantry-lucky.net/blogs/column/antioxidant

  • 栄養素としての名称: ビタミンC(Vitamin C)
  • 化学物質としての名称: L-アスコルビン酸(L-Ascorbic Acid)
  • 食品添加物としての用途: 酸化防止剤、膨張剤、栄養強化剤

食品衛生法などの基準において、純粋に栄養補給を目的として添加する場合は「ビタミンC」や「V.C」と表示することが許されています。しかし、食品の変色や風味の劣化を防ぐ「酸化防止」の目的で使用する場合は、物質名だけでなく用途名(酸化防止剤)も併記することがルールとなっています。

 

参考)https://shareshima.com/info/36927007698

つまり、「酸化防止剤(ビタミンC)」という表記は、危険な薬品を使っているという意味ではなく、「食品の品質を保つためにアスコルビン酸を使用しています」という宣言に過ぎません。アスコルビン酸は水溶性であり、酸素と結びつきやすい性質を持っています。食品成分が酸化される(酸素と結びつく)よりも先に、アスコルビン酸自身が身代わりに酸化されることで、食品の色や風味を守るというメカニズムです。この「身代わり効果」こそが、農産物加工における変色防止の要となります。

食品安全委員会(内閣府) - 添加物の安全性評価などの情報
このリンクには、食品添加物としてのアスコルビン酸の安全性評価や、一日摂取許容量(ADI)に関する科学的な根拠が詳細に記載されています。

 

酸化防止剤ビタミンCの合成原料と天然成分の安全性の比較

「合成ビタミンCは石油から作られているから危険」「天然ビタミンCとは別物」といった噂を耳にすることがあります。しかし、現在工業的に生産されているアスコルビン酸(合成ビタミンC)の原料は、石油ではなくトウモロコシやキャッサバなどのデンプン(ブドウ糖)です。

製造プロセスは以下のようになります。

 

  1. 植物由来のデンプンを酵素処理してブドウ糖にする。
  2. 発酵技術を用いて中間体を生成する。
  3. 化学反応を経てL-アスコルビン酸に変換し、精製・結晶化する。

この工程を経て生成されたL-アスコルビン酸は、野菜や果物に含まれる「天然のビタミンC」と化学構造式が完全に一致しています。分子レベルで同一であるため、体内での吸収率や働きに違いはありません。

 

参考)アスコルビン酸とビタミンCの違いは?効果についても医師が解説…

一部の消費者が懸念するのは、原料となるトウモロコシが遺伝子組み換え(GMO)である可能性です。確かに安価な原料としてGMOコーンが使われることはありますが、最終的な結晶化の段階で高度に精製されるため、アスコルビン酸そのものに遺伝子やタンパク質は残留しません。これを「危険」とみなす科学的根拠は乏しいのが現状です。

また、「合成には発がん性がある」という誤解は、合成酸化防止剤であるBHA(ブチルヒドロキシアニソール)BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)との混同から生じているケースが大半です。BHA等は使用基準が厳しく制限されていますが、ビタミンC(L-アスコルビン酸)は毒性が極めて低いため、使用量の上限が定められていないケースがほとんどです。

 

参考)https://www.aomori.coop/kenmin/news/detail.php?p=947

厚生労働省 - 食品添加物
厚生労働省による食品添加物の指定リストや、使用基準に関する公定書を確認でき、アスコルビン酸の扱いが他の合成添加物とは異なることが分かります。

 

酸化防止剤ビタミンCの過剰摂取が引き起こす副作用のリスク

安全性高いとされるアスコルビン酸ですが、物質である以上、無制限に摂取して良いわけではありません。「毒性がない」といっても、過剰摂取による副作用のリスクは存在します。特に農産加工品を製造する側としては、添加量の目安を知っておく必要があります。

 

アスコルビン酸の過剰摂取によって起こりうる主な症状は以下の通りです。

 

ただし、ビタミンCは水溶性であるため、体内で利用されなかった分は数時間以内に尿として排出されます。そのため、脂溶性ビタミン(ビタミンAやEなど)のように体内に蓄積して重篤な中毒症状を起こすことは稀です。

一般的に、加工食品の酸化防止目的で使用されるアスコルビン酸の濃度は0.05%〜0.1%程度であり、通常の食事の範囲内で健康被害が出る量に達することはまずありません。しかし、サプリメントとして高濃度のアスコルビン酸を摂取している消費者が、さらにビタミンC強化食品を大量に食べた場合などは、一時的なお腹の緩みを感じる可能性があります。

 

国立感染症研究所 - 科学的知見に基づく情報
感染症だけでなく、広義の健康科学に関する情報も発信しており、栄養素の過剰摂取に関する基礎的なデータを確認する際の参考になります。

 

酸化防止剤ビタミンCが金属と反応して逆に劣化させる盲点

これは一般の検索結果上位にはあまり出てこない、加工現場のプロとして知っておくべき「プロオキシダント効果(酸化促進作用)」という現象です。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7285147/

通常、ビタミンCは「抗酸化剤」として働きますが、特定の条件下、特に鉄(Fe)や銅(Cu)などの金属イオンが存在する環境下では、逆に強力な「酸化促進剤」へと変貌してしまうことがあります。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10552410/

このメカニズムは以下の通りです。

 

  1. アスコルビン酸が金属イオン(Fe3+など)を還元する(Fe2+にする)。
  2. 還元された金属イオンが酸素と反応し、フェントン反応と呼ばれる化学反応を起こす。
  3. この反応により、極めて反応性の高いヒドロキシラジカル活性酸素の一種)が大量に発生する。

このヒドロキシラジカルは、食品中の成分を破壊したり、DNAに損傷を与えたりするほど強力な酸化力を持ちます。

 

参考)301 Moved Permanently

農業加工の現場で注意すべき点:

  • 加工用水の成分: 地下水や井戸水を使用している場合、鉄分が多く含まれていると、ビタミンCを添加した途端に食品の劣化や異臭(金属臭)の発生が早まる可能性があります。
  • 加工器具の材質: 鉄製の鍋や、古くなってメッキが剥がれた銅製の器具で、アスコルビン酸を含む果汁などを加熱処理するのは避けるべきです。ステンレスやホーロー、ガラス製の器具が推奨されます。
  • 容器の選定: 缶詰(特に内面塗装が不十分なもの)などでは、金属溶出により中身が黒変することがあります。

「良かれと思ってビタミンCを入れたのに、なぜかすぐに黒ずんでしまった」という失敗の原因は、この金属イオンとの反応にあることが多いのです。酸化防止剤としてビタミンCを使用する場合は、必ずキレート剤(クエン酸など、金属を封じ込める働きのあるもの)を併用するか、金属フリーの環境を徹底することが、プロの品質管理として求められます。

 

参考)https://www.mrso.jp/colorda/lab/3450/

J-STAGE(科学技術情報発信・流通総合システム)
日本の学術論文を検索できるプラットフォームです。「アスコルビン酸 プロオキシダント」で検索すると、金属イオンとの反応による劣化に関する専門的な研究論文を閲覧できます。

 

酸化防止剤ビタミンCの基準と農産物加工品の表示ルール

最後に、農家の方が自身の作物を加工して販売する際に守るべき、食品表示法の基準について解説します。

 

アスコルビン酸を使用した場合、原材料名欄への表示にはいくつかのパターンがあります。消費者に誤解を与えず、かつ法令を遵守するためには、使用目的を明確にすることが重要です。

 

使用目的 表示例 解説
変色防止・保存 酸化防止剤(ビタミンC)酸化防止剤(V.C) 最も一般的な表記。用途名(酸化防止剤)の併記が必須です。
栄養強化 ビタミンCV.C 栄養成分として添加する場合。用途名の併記は不要ですが、保存目的がある場合は不適切とみなされることもあります。
酸味付け・pH調整 酸味料pH調整剤 酸味を加える目的や、pHを下げて保存性を高める目的の場合。

特に直売所や道の駅などで販売する場合、消費者との距離が近いため、「酸化防止剤」という言葉にアレルギー反応を示す方もいます。その場合、POPや説明書きで「レモンなどにも含まれる成分と同じビタミンCで、色の劣化を防いでいます」と補足説明を加えることで、安心感につながります。

 

また、最近では「酸化防止剤無添加」を売りにする商品も増えていますが、その場合は変色をどう防ぐかが課題になります。代替案として、レモン果汁ユズ果汁を使用する方法があります。これらは食品添加物ではなく「食品」として扱われるため、原材料名には「レモン果汁」と書くだけで済み、クリーンラベル(無添加表示)を好む層にアピールできます。ただし、コストや味への影響(酸味)が出るため、アスコルビン酸のコストパフォーマンスと安定性は、依然として加工の現場では強力な武器となります。

 

正しい知識を持ち、適切に使い分けることで、安全で美味しい農産加工品を消費者に届けることができます。

 

消費者庁 - 食品表示法等(法令及び一元化情報)
食品表示法に基づく具体的な表示ルールやQ&Aが掲載されています。加工品ラベルを作成する前に、必ず最新の基準を確認してください。

 

 


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