CA貯蔵の二酸化炭素濃度が収益を左右する正しい管理法

CA貯蔵の二酸化炭素濃度を正しく管理する方法

CO2を高く保てば保つほど鮮度が延びると思い込むと、果実が出荷前に全滅します。


この記事でわかること
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CA貯蔵とCO2濃度の基本

CA貯蔵がどのような仕組みで青果物の鮮度を保つのか、二酸化炭素濃度が果たす役割を数値とともに解説します。

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CO2濃度が高すぎると起こる障害

CO2濃度が適正値を超えると内部褐変・肉質軟化などの炭酸ガス障害が発生し、出荷できなくなるリスクがあります。

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品目・品種別の適正濃度と管理のコツ

りんご・トマト・ハクサイなど品目ごとに最適なCO2濃度は大きく異なります。品種特性を踏まえた設定方法を詳しく紹介します。


CA貯蔵とは何か:二酸化炭素濃度制御の仕組みを理解する


CA貯蔵(Controlled Atmosphere Storage)とは、低温冷蔵に加えて、貯蔵庫内の気体組成そのものを人為的にコントロールする貯蔵技術です。通常の大気は酸素が約20.95%、二酸化炭素が約0.03%という組成ですが、CA貯蔵ではこれを大幅に変化させます。一般的には酸素を2〜10%まで下げ、二酸化炭素を2〜10%まで引き上げた状態で青果物を保管します。


この「低酸素・高CO2」環境が、果実の呼吸作用を強力に抑制します。呼吸が抑えられることで、成熟を促進するエチレンガスの生成が大幅に減り、果肉の軟化や変色が遅れるのです。りんごを例にとると、0℃の冷蔵だけでも常温時の呼吸量が約1/10に低下しますが、そこにCA貯蔵を組み合わせることでさらに1/2まで抑えられ、常温時の1/20という驚くべき低呼吸状態になります。


つまり普通冷蔵の約2倍の鮮度保持効果が期待できます。


青森県ではCA貯蔵の活用が特に進んでおり、2021年時点で719棟・収容能力約35万トンの貯蔵施設があります。そのうちCA冷蔵庫の収容能力は約15万トンにのぼります(東京ドーム約12.7個分の容量に相当)。秋に収穫した「ふじ」りんごを翌年の8月まで出荷できるのも、このCA貯蔵のおかげです。周年供給体制を維持することで価格の安定化が図られ、農業経営の収益向上に直接つながっています。


CA貯蔵はリンゴだけではありません。バナナ・トマトジャガイモハクサイなど多様な青果物に応用されています。ただし品目ごとに最適な二酸化炭素濃度は全く異なるため、一律の設定では効果が出ないどころか逆効果になる点を必ず押さえておく必要があります。


参考:CA貯蔵の基本的な仕組みと各品目への応用について詳しく解説されている農業技術事典
ルーラル電子図書館 農業技術事典 NAROPEDIA「CA貯蔵」


CA貯蔵における二酸化炭素濃度が高すぎると起こる炭酸ガス障害

「CO2は高いほど呼吸を抑えられるので、できるだけ高く設定したほうがいい」と思いがちです。しかしこれは大きな落とし穴です。


二酸化炭素濃度が一定水準を超えると、青果物に「炭酸ガス障害」と呼ばれる深刻な生理障害が発生します。主な症状は内部褐変(果肉が内側から茶色く変色する)と肉質の軟化で、外見上は問題なく見えるのに出荷・開梱してから初めて発見されるケースも多く、農業経営上の損失につながります。


りんごでは、CO2濃度が5%を超えると内部褐変の発生が急増する傾向があることが研究で明らかになっています。特に「ふじ」は炭酸ガス障害が発生しやすい品種として知られており、青森県の試験データでは炭酸ガス濃度を1.5〜2.5%に抑えた管理が推奨されています。さらに蜜が多く入った年は炭酸ガスを2.0%より低めに設定し、無袋果では1.5%程度にするとされています。


これは厳しいところですね。


西洋ナシでは、CO2濃度をあえて0%に近い水準(O2を3%に保ちCO2をほぼゼロ)に設定すると内部褐変が全く起きなかったという報告もあります。果実によってはCO2をほとんど入れないほうが安全な場合すらあるのです。一方でいちごは高CO2(10〜20%)環境が灰色かび病(Botrytis cinerea)の抑制に非常に効果的ですが、それでも高すぎると風味が損なわれます。


つまり「CO2は高ければ高いほどよい」という考え方は誤りです。


青果物の貯蔵に適した酸素と二酸化炭素の濃度範囲は、品目ごとに比較的狭く設定されています。±1%の誤差が商品価値を大きく左右することを常に意識した管理が求められます。


参考:CA貯蔵における炭酸ガス障害とその発生条件について
青森県産業技術センター「リンゴのCA貯蔵に関する研究」(PDF)


CA貯蔵の品目・品種別に見る最適な二酸化炭素濃度の設定値

適正なCA貯蔵の条件は品目によって全く異なります。以下の表に主要な青果物の標準的な設定値をまとめました。これが基本です。



































































品目 酸素濃度 二酸化炭素濃度 温度 湿度 貯蔵期間の目安
りんご(ふじ) 1.8〜2.5% 1.5〜2.5% 0〜3℃ 90% 6〜9ヵ月
トマト 3〜10% 5〜10% 7〜9℃ 95% 約5週間
バナナ 5〜10% 12〜14℃ 85〜95% 約1.5ヵ月
温州ミカン 10% 0〜2% 3℃ 85〜90% 約6ヵ月
ジャガイモ 3〜5% 2〜3% 3℃ 85〜90% 8〜10ヵ月
ハクサイ 3% 6〜9% 0℃ 90% 4〜5ヵ月
いちご 2〜5% 10〜20% 0〜5℃ 90〜95% 短期(輸送用途)


この表を見てわかるように、品目間の差異は非常に大きいです。たとえば温州ミカンはCO2を0〜2%と極めて低く抑える必要がありますが、ハクサイは6〜9%という高めの設定が適しています。同じ「CA貯蔵」でも、品目が違えば最適条件は全く別物です。


特に注意したいのは「酸素が低すぎる場合」のリスクです。りんごでは酸素濃度が1.5%を下回ると嫌気呼吸が始まり、嫌気性細菌が増殖して悪臭が発生するリスクが高まります。CO2が高すぎる障害と、O2が低すぎる障害は両方のバランスを常に維持する必要があります。


また同じ品目でも品種・収穫タイミングによって適正範囲が変わる点も見落とせません。青森県の研究では、「ふじ」の有袋果と無袋果ではCO2の上限設定が異なり、蜜入り指数が高いほど炭酸ガス障害リスクが上がることが確認されています。品種特性を把握した上で設定を行うことが条件です。


CA貯蔵の二酸化炭素濃度を安定させるための管理・設備ポイント

CA貯蔵の効果を最大限に引き出すためには、ガス濃度の継続的な監視と精密な制御が欠かせません。これは使えそうです。


まず大前提として、CA貯蔵は気密性の高い貯蔵庫が必要です。わずかな隙間からでも外気が流入すれば、庫内のCO2濃度は急速に変化します。建設時の気密検査と、運用中の定期的な密閉性確認が不可欠です。CA貯蔵庫の建設・整備には高額の初期投資が必要になりますが、農林水産省の「産地パワーアップ事業」などの補助制度も活用できます。


ガス管理の実務では、O₂センサーとCO₂センサーを貯蔵庫内に設置し、自動制御システムで常時監視する体制が標準的です。具体的には、窒素ガス発生装置で庫内酸素を置換しながらCO2は青果物自身の呼吸と調整剤で調節するシステムが多く用いられています。CO2が高くなりすぎた場合は吸着剤(消石灰など)で除去する方法が有効で、りんごの輸出試験では段ボール箱に消石灰50gを封入することで炭酸ガス障害による果肉褐変を防止できたというデータもあります。


近年はIoTセンサーとクラウド管理システムを連携させることで、スマートフォンから貯蔵庫内のO2・CO2濃度をリアルタイムで確認・遠隔調整できる製品も普及しています。24時間人が張り付く必要がなくなるため、労働時間の削減という面でも農業経営に大きなメリットをもたらします。


CA貯蔵の運用で特に忘れがちな注意点として、「入庫直後のガス置換速度」があります。貯蔵庫を密閉してから庫内のO2を目標濃度まで下げるまでの期間が長すぎると、その間に青果物の劣化が進んでしまいます。窒素ガス発生装置の容量設計は、貯蔵物の量に見合ったものを選ぶことが重要です。


参考:青森県の研究者によるりんごCA貯蔵の適正ガス濃度と管理技術の解説
青森県産業技術センター「リンゴCA貯蔵の適正ガス濃度」(PDF)


CA貯蔵の二酸化炭素濃度管理が農業収益に直結する理由と独自視点

ここまでの情報を踏まえると、CA貯蔵のCO2濃度管理は単なる「技術的な作業」ではなく、農業経営の収益性と直結した経営上の意思決定であることが見えてきます。


たとえば青森県の「ふじ」りんごの場合、有袋CA貯蔵果の94%は4月〜8月に出荷されています。この時期は国内の他産地からの供給がない端境期にあたり、価格が高く安定しています。逆に言えば、CA貯蔵の管理を誤って炭酸ガス障害を起こしてしまうと、この「高値で売れる時期の在庫」が失われることになります。大切なのは長く貯蔵することではなく、商品価値を維持したまま価格が高い時期に出荷することです。


CO2濃度の管理精度を上げることは、そのまま出荷可能率の向上に直結します。青森県では有袋栽培の面積率が2020年には26%まで減少しており(2010年以前は約50%水準)、後期販売用CA貯蔵果が不足気味になっています。限られた貯蔵分をいかにロスなく価値の高い状態で出荷できるかが、これからの産地競争力の鍵になるわけです。


また、輸出の観点でも見逃せません。近年、CA輸送コンテナを使った青果物の輸出が拡大しており、アジア向けのりんご輸出では輸送中もO2・CO2を厳密に制御したCAコンテナが使われます。輸出先の検疫条件をクリアしながら商品価値を維持するためには、産地でのCA貯蔵管理の精度が直接輸出の成否に影響します。2019〜2020年にかけてニュージーランド産りんごの日本への輸入量が急増(2018年:3,428トン→2020年:7,248トン)している現状を見ると、国内市場でも産地間競争が激しくなっていることがわかります。


CO2濃度の管理が甘いと、国内外の競合産地に市場シェアを奪われるリスクが現実に存在します。


こうした背景から、CA貯蔵における二酸化炭素濃度管理は「鮮度を保つ手段」だけでなく「出荷戦略の基盤」と位置づけて取り組むことが、農業経営者として今もっとも重要な視点です。CO2濃度の適正管理を徹底し、高付加価値な時期での出荷を実現することで、設備投資を回収しながら安定した収益を確保することができます。


参考:青森県産業技術センターりんご研究所による周年供給体制とCA貯蔵技術の変遷・詳細
りんご大学「青森県産リンゴの周年供給を支えるCA貯蔵」


参考:CA貯蔵を活用した青果物の呼吸抑制と鮮度保持のメカニズム詳説
農研機構「青果物の鮮度に関する収穫後生理学」(PDF)






【減農薬】青森県 りんご 青森の王林(おうりん)(CA貯蔵・13〜20個入)約5kg箱【冷蔵】