トマトという野菜は「リコピン」などの抗酸化物質で有名ですが、実は単体での鉄分含有量は、一般的に鉄分が豊富とされる野菜と比較すると決して多くはありません。しかし、農業従事者や食品販売に関わる方々が理解すべきは、単なる「数値の多寡」ではなく、トマトが持つ「鉄分吸収のブースター(促進)」としての役割です。
文部科学省が公表している日本食品標準成分表(八訂)増補2023年版のデータに基づき、トマトと他の代表的な野菜の鉄分含有量を比較してみましょう。
| 野菜の種類(可食部100gあたり) | 鉄分含有量 (mg) | ビタミンC (mg) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| トマト(生・赤色) | 0.2 | 15 | 鉄は少ないがCと有機酸が豊富 |
| 小松菜(生) | 2.8 | 39 | 非ヘム鉄が非常に豊富 |
| ほうれん草(生) | 2.0 | 35 | シュウ酸が吸収を阻害する場合も |
| パセリ(生) | 7.5 | 120 | 含有量はトップクラスだが量は食べにくい |
| 枝豆(生) | 2.7 | 27 | たんぱく質と一緒に摂れる |
文部科学省:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年版のデータ閲覧はこちら
参考)野菜類/(トマト類)/赤色トマト/果実/生 - 01.一般成…
上記の表から分かるように、トマトの鉄分含有量は0.2mgと、小松菜の約14分の1程度です。この数値だけを見ると「トマトは鉄分補給に向かない」と判断されがちですが、それは早計です。
植物性食品に含まれる鉄分は「非ヘム鉄」と呼ばれ、体内への吸収率が2〜5%と非常に低いのが特徴です。これに対し、肉や魚に含まれる「ヘム鉄」は15〜25%の吸収率を誇ります。
ここで重要になるのが、トマトに豊富に含まれるビタミンCとクエン酸などの有機酸です。これらは、吸収されにくい非ヘム鉄(Fe3+)を、体内で吸収されやすい形(Fe2+)に還元したり、キレート作用によって包み込んだりすることで、吸収率を劇的に向上させる働きがあります。つまり、トマトは「鉄分そのものを供給する食材」というよりも、「食事全体の鉄分利用効率を最大化する機能性食材」として位置づけるのが、栄養学的にもマーケティング的にも正しい戦略と言えます。
前述の通り、トマトの真価は「食べ合わせ」によって発揮されます。特に、農作業の合間の食事や、直売所でのレシピ提案において、以下の組み合わせを意識することで、効率的に鉄分を摂取することが可能です。これは、ご自身やご家族の健康管理だけでなく、消費者に「なぜトマトを食べるべきか」を説明する際の強力なセールストークになります。
動物性たんぱく質には「MPF因子(Meat, Poultry, Fish Factor)」と呼ばれる、非ヘム鉄の吸収を促進する働きがあります。
鉄分は多いが吸収されにくい葉物野菜の鉄分を、トマトの酸味が助けます。
貝類は極めて鉄分が豊富ですが、独特の臭みがあります。トマトはこの臭みを消しつつ、栄養価を高めます。
参考)鉄分の多い食べ物を知って、効率的に摂ろう
消費者へのポップやレシピカードを作成する際は、「トマトは鉄分の吸収サポーター」というキャッチフレーズを使うと、他の高鉄分野菜(小松菜など)とのセット購入(クロスセル)を促すことができます。
農業従事者にとって、鉄分不足は労働生産性を直撃する深刻な問題です。特にハウス栽培などの高温環境下での作業や、収穫期の重労働は、汗とともにミネラルを流出させます。汗には微量の鉄分が含まれており、大量の発汗が続くと「鉄欠乏性貧血」のリスクが高まります。
鉄分は赤血球のヘモグロビンの構成成分として、全身に酸素を運ぶ重要な役割を担っています。鉄分が不足すると以下のような症状が現れ、農作業に支障をきたす恐れがあります。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」によれば、成人男性で1日約7.5mg、月経のある成人女性では約10.5mgの鉄分摂取が推奨されています。しかし、実際の摂取量はこれに届いていない人が多く、特に忙しい収穫期にはインスタント食品や炭水化物中心の食事になりがちで、ミネラル摂取がおろそかになります。
トマト生産者であれば、規格外のトマトをジュースやピューレにして常備し、日々の水分補給の一環として摂取することをお勧めします。トマトジュースに少量のレモン汁(クエン酸強化)を加えることで、疲労回復効果とともに鉄分吸収の土台を作ることができます。ご自身の体を守るためにも、トマトという身近な資源を最大限に活用しましょう。
厚生労働省:「日本人の食事摂取基準」による推奨量と欠乏のリスク
参考)トマトに含まれる栄養素とそのはたらきは?選び方のポイントも紹…
ここでは、検索上位の一般的なレシピ記事にはない、生産者視点での「高鉄分トマト」の栽培可能性について掘り下げます。通常のトマト栽培において鉄欠乏(クロロシス)は、新葉が黄色くなる生理障害として知られていますが、逆に鉄吸収を最適化することで、栄養価の高い「機能性野菜」として差別化できる可能性があります。
トマトの鉄分吸収は、土壌のpH(酸度)に強く影響を受けます。
鉄はアルカリ性土壌では不溶性の化合物(水酸化第二鉄など)になりやすく、根から吸収されにくくなります。一方、pHが低い(酸性)環境では、鉄は二価鉄イオン(Fe2+)として溶け出し、植物が利用しやすい形になります。しかし、酸性が強すぎると他のミネラルバランスが崩れるため、適切なpH管理(一般的にpH 6.0〜6.5程度)の中で、有機酸資材を用いて根圏(根の周り)のpHを微調整する技術が有効です。
土壌からの吸収が難しい場合や、果実への転流を促進させたい場合、EDTA鉄などの「キレート鉄」を含む資材の利用が効果的です。さらに、即効性を期待する場合は「葉面散布」が有効な手段となります。鉄を含む資材を葉面に散布することで、気孔から直接鉄分を取り込ませることができます。研究レベルでは、適切な時期に鉄資材を葉面散布することで、果実中の鉄分含有量が増加したという報告もあります。
「高リコピン」や「高糖度」はすでに一般的な差別化要素ですが、「鉄分強化(または鉄分吸収促進成分強化)」を謳ったトマトは市場にまだ少ないです。「女性に嬉しい鉄分吸収サポートトマト」として、成分分析を行い、具体的な数値をポップで提示できれば、直売所や高級スーパーでの単価アップにつながる可能性があります。
※ただし、栄養成分表示を行う場合は、食品表示法に基づいた正確な分析と根拠が必要です。
参考)公式【微量要素シリーズ】鉄が作物に与える役割と欠乏症状・オス…
最後に、収穫したトマトの鉄分やその他の有用成分を無駄なく摂取するための加工・調理のコツを解説します。生食も素晴らしいですが、加熱や乾燥などの加工を加えることで、単位重量あたりの栄養価を高めたり、吸収率を変えたりすることができます。
トマトを乾燥させると、水分が抜けることで栄養成分が凝縮されます。生のトマトと比較して、ドライトマトは重量あたりの鉄分含有量が数倍に跳ね上がります。天日干しにすることで、うまみ成分(グルタミン酸)も凝縮されます。
加熱して煮詰めることで、細胞壁が壊れ、栄養素の吸収効率が良くなります。鉄分自体は熱に強いため、煮込んでも壊れることはありません。
調理器具からの鉄分溶出も馬鹿にできません。特にトマトのような酸性の食材を鉄鍋で煮込むと、鍋の鉄分が料理に溶け出し、食事から摂取できる鉄分量が大幅に増加することが知られています。
農家自身がこれらの知識を持ち、レシピカードやSNSで発信することは、単にトマトを売るだけでなく、消費者の健康リテラシーを向上させ、ファンを増やすことにつながります。「鉄分」というキーワードを入り口に、トマトの持つ多面的な健康効果をアピールしていきましょう。

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