卵液は殻付き卵を割って中身だけを取り出し、使いやすいようにパックした加工卵の一種で、液全卵・卵白液・卵黄液といったタイプに分かれます。 液全卵は卵焼きや茶碗蒸し、スポンジケーキなど幅広い用途に使われ、卵白液は水産練り製品やハム・ソーセージ、卵黄液は菓子やマヨネーズ、ドレッシングなど乳化性を生かした商品に使われています。 卵液は乾燥卵や凍結卵としても流通しており、いずれも「一次加工品」として業務用現場の省力化と品質均一化に大きく貢献しています。
業務用液卵メーカーは、原料卵を専用冷蔵庫で8℃以下に管理し、製品ごとに使用卵を振り分けて入出庫管理を徹底するなど、農場出荷後の温度管理とロット管理を細かく行っています。 日本の鶏卵規格基準では、殺菌液卵・未殺菌液卵に対して微生物規格や保存温度、表示事項が細かく定められており、業務用卵液はこの枠組みの中で製造・表示されています。 農場側から見ると、規格卵として安定出荷することが前提となるため、飼養衛生と選別工程が液卵メーカーとの取引条件に直結します。
参考)https://www.jz-tamago.co.jp/wp/wp-content/uploads/2020/03/E05_3_2.pdf
卵液商品は「殺菌」「未殺菌」「凍結」といった処理状態に加え、「全卵」「卵黄」「卵白」の別を名称に明記するよう求められており、荷受けの時点で用途に合うスペックを確認することが重要です。 給食センターや加工場で誤って未殺菌液卵を生食用として扱うとリスクが高まるため、名称表示の読み取り教育を現場レベルで徹底する必要があります。
参考)エラー
業務用卵液には、鶏卵だけを原材料とする無添加タイプと、トレハロースや食塩、pH調整剤、カロチノイド色素など複数の食品添加物を含むタイプがあり、同じ「液卵」でも中身は大きく異なります。 たとえば大手メーカーの凍結全卵には卵のみの製品と、卵に食塩やトレハロース、pH調整剤、色素などを加えた製品が並んでおり、保存性・色・歩留まり・食感を調整する目的で添加物が選択されています。 調味液卵では、アミノ酸等の調味料やグリシン、pH調整剤、シリコーンなどが添加され、茶碗蒸しなどを安定した固まり方と離水の少ない状態に仕上げる工夫がなされています。
一方で、卵液を使って製造されたパンや惣菜の原材料表示は「卵」や「卵液」としか書かれず、卵液に含まれていたトレハロースやpH調整剤などがキャリーオーバーとして個別表示されないケースがあります。 無添加と書かれたパンや惣菜でも、原料として使っている卵液に添加物が含まれていれば、最終製品に添加物が残留している可能性があり、表示だけでは完全に見抜けない点が落とし穴です。 農業・畜産側で「無添加卵液」を売りにしたい場合、原料卵だけでなく、卵液加工工程や取引先の表示方針まで含めて一貫したコンセプト設計が求められます。
参考)https://www.city.osaka.lg.jp/lnet/cmsfiles/contents/0000580/580988/FAQ.pdf
| 卵液タイプ | 主な用途 | よく使われる添加物の例 |
|---|---|---|
| 凍結全卵(調理用)LVなど | オムレツ・スクランブルエッグ・惣菜パンなど | 食塩、トレハロース、pH調整剤、カロチノイド色素など |
| 調味液卵(茶碗蒸しベースなど) | 茶碗蒸し・卵焼き・だし巻き卵のベース | 調味料(アミノ酸等)、グリシン、pH調整剤、シリコーンなど |
| 卵のみの液全卵 | 洋菓子・パン・卵焼き全般(添加物は別途配合) | 添加物なし(鶏卵100%) |
業務用で扱う側としては、仕様書で「卵のみ」なのか「卵+〇〇添加物」なのかを必ず確認し、必要に応じて無添加仕様の商品に切り替えることで、最終製品の訴求ポイントと整合させることができます。 消費者からの問い合わせに備えて、どのラインでどの卵液を使っているかを社内で一覧化しておくと、トラブル対応がしやすくなります。
参考)液卵のデメリットと対策!知っておきたい7つの注意点
業務用卵液の添加物構成や無添加商品の実例を確認したい場合に役立つ解説です。
卵液の衛生上の最大のリスクはサルモネラ汚染であり、殻付き卵と同様に卵殻表面や内容物にサルモネラ・エンテリティディスが存在しうるため、未殺菌液卵を常温で扱うことは特に危険です。 日本の規格基準では殺菌液卵に対し、一定の加熱条件や細菌数の上限を定めており、大手メーカーは国が定めるサルモネラ死滅条件を満たす加熱を行ったうえで出荷しています。 それでも開封後の温度管理や使用期限を誤ると、二次汚染や細菌増殖によって食中毒リスクが急速に高まるため、現場での運用が重要です。
アレルギー表示の面では、卵は表示義務のある特定原材料に指定されており、液卵・乾燥卵・凍結卵など卵由来の加工品を使用した場合も「卵」として表示する必要があります。 学校給食などアレルギー対応がシビアな現場では、液卵使用の有無だけでなく、同一ラインで卵入り製品と卵不使用製品が混在していないかといった交差接触リスクも確認しなければなりません。 農場・選別場の段階で汚卵・破卵を適切に除去することも、液卵原料の衛生レベルとサルモネラリスク低減に直結します。
参考)https://hirofha.sakura.ne.jp/syokuhin/01_86.html
卵液製造や使用に関するHACCPの考え方や、卵・液卵の管理ポイントを押さえたいときに参考になる公式資料です。
卵液に加える添加物は保存性や風味だけでなく、加熱凝固温度やゲル強度、水分保持性といった物性にも大きく影響し、卵焼きや茶碗蒸しの仕上がりや歩留まりを左右します。 研究では、砂糖や食塩、牛乳固形分などの添加によって卵液の熱凝固温度が変化し、同じ温度で加熱しても凝固のタイミングや固さ、離水の程度が大きく異なることが報告されています。 さらに、希釈水や各種添加物の組み合わせが、卵白ゲルの弾力や保水性に影響し、製品のカット性や口当たりに直結することも明らかになっています。
近年は、殺菌液卵の泡立ちや安定性の低下を補うために、酵素分解した卵白ペプチドを加えて泡立ちや泡の安定性を改善する試みも行われており、大量調理向けのスポンジケーキやオムレツの品質向上に応用されています。 こうした技術は、単に「添加物が多い=悪い」という単純な図式では語れない側面であり、大量生産現場では食感の安定化やロス削減という明確な目的で導入されています。 卵黄の色や脂質組成を調整するために、えさ由来の天然色素や化学色素を活用し、卵黄色や栄養価を変化させる研究も進んでおり、卵液の見た目と機能性の両方を設計する発想が広がっています。
参考)https://www.mdpi.com/2071-1050/13/8/4503/pdf
この視点から見ると、農業・畜産側で「卵そのものの質」を上げることは、加工側で必要とされる添加物量を減らしつつ狙った物性を出すための有効なアプローチになり得ます。 飼料設計や鶏種選定によって卵白・卵黄の機能特性を高めれば、「少添加で狙った食感が出せる卵液」として差別化しやすくなり、付加価値の高い業務用ルートの開拓にもつながります。
参考)https://www.mdpi.com/2304-8158/13/6/885/pdf?version=1710432908
業務用卵液は冷蔵(おおむね0〜4℃)で保存することが基本であり、開封後はできるだけ早く、数日以内に使い切ることが推奨されています。 冷凍液卵の場合はパッケージ表示に従って冷凍保管し、解凍後の再冷凍は品質劣化と食品安全上のリスクが大きいため避けるべきとされています。 HACCPの手引きでは、液卵用の原料卵を搬入後3日以上保存する場合は8℃以下で保存し、できるだけ速やかに割卵すること、製品卵や液卵の保管・輸送で温度変化を最小限に抑えることなどがポイントとして示されています。
現場レベルでは、製品ラベルに記載された「殺菌/未殺菌」「凍結の有無」「全卵・卵白・卵黄の別」に加え、ロット番号・賞味期限・保存温度条件を記録し、トレースできる状態にしておくことが重要です。 卵液のデメリットとして指摘されることの多い「開封後劣化の早さ」や「ニオイ移り」は、冷蔵庫内の整理や専用容器の使用、必要量だけの小分け解凍といった管理でかなり抑えられるとされています。 農場や選別場から一体で管理している事業者であれば、殻付き卵と液卵の動線や設備を分けることで、汚卵や破卵由来の二次汚染を減らすこともできます。
業務用液卵の基本と活用法、保存上の注意点を整理した実務向けの解説も参考になります。