自分で海外から取り寄せた種苗は、検査前に植えると300万円以下の罰金対象になります。
植物検疫制度は、植物防疫法に基づき、農業生産の安全を守るために設けられた制度です。 目的はシンプルで、海外の病害虫が日本の農地に侵入することを防ぎ、農業被害を未然に食い止めることにあります。
参考)植物防疫法:日本
制度の運用主体は農林水産省の植物防疫所で、輸入検査・輸出検査・国内移動規制の3本柱で構成されています。 植物防疫所は全国の主要港湾・空港に配置されており、神戸・横浜・名古屋・門司・那覇など9拠点が機能しています。maff+1
農業従事者にとって最も関係が深いのは輸入検疫と国内移動規制です。「大した量じゃないから大丈夫」という感覚は通用しません。検疫体制は一度病害虫が入ると「取り返しのつかない被害」が生じるという前提で設計されています。
参考)https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/sonota/9007_jr.htm
輸入禁止品には、大きく分けて4つのカテゴリーがあります。
土が付いているだけで輸入禁止、というのは意外と見落とされがちなポイントです。 例えば、海外視察や農業研修で興味を持った球根を土ごと持ち帰ると、それだけで廃棄処分の対象になります。
輸入禁止品でないものは「輸入検査品」として、輸出国政府機関が発行した植物検疫証明書(Phytosanitary Certificate)の添付と輸入検査を経れば持ち込めます。 製材・製茶など高度に加工されたものは輸入検疫の対象外です。
これは覚えておくと便利なポイントですね。
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参考リンク先:農林水産省植物防疫所が公開する輸入禁止品の詳細一覧と大臣許可の手続きについて
農林水産省植物防疫所|輸入禁止品の輸入許可について
農業従事者が最も驚くのが、この「隔離検疫」という制度の存在です。種苗として輸入される植物は、輸入検査合格後にすぐ使えるわけではなく、国の隔離ほ場で最低1作期間の隔離栽培が義務づけられています。 1作期間とは、その植物を実際に1回育て切るまでの期間のことです。
例えば、ジャガイモの種いも(輸入禁止地域以外からのもの)は、ウイルス病を保毒している恐れがあるとして、国の隔離圃場で1作期間の隔離検疫が必要になります。 春に輸入しても、秋まで自分の手元に届かないケースがあります。
隔離栽培中に検疫有害動植物が発生・異状が確認された場合は、直ちに植物防疫官へ通知する義務があります。 違反すると廃棄処分となり、費用は輸入者側が負担します。
時間もコストも、そこそこかかる制度です。
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新品種の導入を計画している農家は、隔離検疫のスケジュールを作付け計画の1シーズン以上前から見込んでおく必要があります。これは時間に関するデメリットとして非常に大きいポイントです。
参考リンク先:JETROによる種子・苗の輸入手続き解説。
手続きの流れと必要書類が整理されている。
「国内の移動に検疫は関係ない」と思っている農業従事者は少なくありません。
これが大きな誤解です。
植物防疫法は国際検疫だけでなく、国内移動の規制も定めています。 対象となるのは、南西諸島(沖縄県・鹿児島県の奄美群島)・東京都の小笠原諸島です。これらの地域には、国内他地域には存在しない病害虫が発生しています。
主な規制対象の病害虫と寄主植物は以下の通りです。
| 病害虫名 | 主な寄主植物 |
|---|---|
| アリモドキゾウムシ | サツマイモ・ヤムイモ類 |
| イモゾウムシ | サツマイモ類 |
| カンキツグリーニング病菌 | カンキツ類全般 |
| アフリカマイマイ | 広食性(野菜全般) |
沖縄でサツマイモを栽培している農家が、本土の農業まつりへ出荷しようとした場合、植物防疫法の移動規制を無視すると違反になります。 病害虫の種類によっては、移動禁止または検査・消毒を受けることが条件です。 「沖縄産=ブランド野菜」というイメージだけで動くと、思わぬリスクに直面します。
参考リンク先:農林水産省植物防疫所による移動規制の詳細。
対象品目と手続きの説明あり。
輸入ばかりが注目されがちですが、農産品を海外へ輸出する農業従事者・生産者グループにとって、輸出検査の壁も見過ごせません。
輸出検査では、輸出先の国が求める検疫条件を満たした場合のみ、植物検疫証明書(Phytosanitary Certificate)が植物防疫所から発行されます。 この証明書がなければ、輸出通関を通過できません。
つまり証明書は必須です。
参考)植物検疫の基礎知識|日本から輸出する場合に必要な検査と証明書…
注意すべき点は、輸出先の国によって要求条件がまったく異なることです。 同じリンゴでも、台湾向け・米国向け・EU向けでは必要な処理(くん蒸・温度処理など)や証明内容が異なります。農林水産省の「諸外国への輸出検疫条件早見表」を事前に必ず確認することが重要です。maff.go+1
以下の4ステップが輸出検査の基本的な流れです。
また、独自の視点として見落とされがちなのが、薬剤処理証明・加工証明など国ごとの特殊書類の存在です。 農業協同組合や産地直送グループで輸出に取り組む場合、代表者が書類手続きを一括で管理することが現実的です。手続きが複雑なため、JETRO(日本貿易振興機構)の「貿易・輸出の窓口」への相談が最も効率的な対策になります。
参考リンク先:輸出先ごとの検疫条件と証明書取得の流れが一覧化されている農林水産省の早見表。
農林水産省植物防疫所|諸外国への輸出検疫条件早見表(貨物編)
違反した場合のペナルティは、想定より重いのが現実です。罰則の重さが条件によって段階的に異なる点も知っておく必要があります。
主な違反行為と罰則の対応を整理すると、以下の通りです。iuris+2
| 違反内容 | 罰則 |
|---|---|
| 検疫証明書なしで植物を輸入(個人) | 3年以下の拘禁刑 または 300万円以下の罰金 |
| 輸入時の検査を受けなかった | 3年以下の拘禁刑 または 300万円以下の罰金 |
| 検査を受けず・不正行為をした場合 | 1年以下の懲役 または 50万円以下の罰金 |
| 法人が違反した場合 | 5000万円以下の罰金(両罰規定) |
300万円の罰金というのは、農家の年間所得を大きく超えることも珍しくありません。
痛いですね。
さらに法人の場合、行為者個人と法人の両方に罰金が科される両罰規定があります。 農業法人・農業協同組合などが組織として輸入を行う場合は、特に注意が必要です。
参考)植物防疫法とは?輸入検査の流れと違反しないための重要ポイント…
また、検疫の結果、問題が発見された場合の廃棄費用も輸入者側の負担となります。 廃棄費用は品目・量によって異なりますが、大型貨物の場合は数十万円規模になるケースもあります。法的リスクと経済的損失、両方が重なるのが植物検疫違反の怖さです。
不安な場合は、最寄りの植物防疫所(全国9拠点)に事前相談することで、多くのリスクを回避できます。 事前確認を1回するだけで、大きな損失を防げることになります。
これは知っていると得する知識です。
参考リンク先:農林水産省の植物検疫制度の概要ページ。
制度全体の構造と問い合わせ先が掲載。