プリグロックスLを使用する際、多くの農業従事者が最も気にするのが「希釈倍率」ですが、実は倍率と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「散布水量」です。基本となる希釈倍率は、一般的な一年生雑草に対しては100倍が推奨されています。これは、水10リットルに対して薬剤を100ミリリットル混ぜる計算になります。しかし、単に100倍に薄めれば良いというわけではありません。
参考)除草剤プリグロックスを徹底解説!
プリグロックスLは「接触型」の除草剤であり、薬剤がかかった部分だけが枯れる性質を持っています。根まで枯らすグリホサート系(ラウンドアップなど)のように成分が植物体内を移行するわけではないため、葉や茎全体にまんべんなく薬剤を付着させることが効果を出すための絶対条件となります。そのため、10アール(1000平方メートル)あたりの散布水量は、通常100リットルから150リットルが必要とされています。
参考)プリグロックスL|シンジェンタジャパンの農業用農薬(殺虫剤・…
多くの農家が陥りやすい失敗として、ラウンドアップなどの少量散布(10aあたり25〜50リットル)に慣れてしまっていることが挙げられます。同じ感覚でプリグロックスLを少量散布してしまうと、薬剤の濃度が適切であっても、雑草の葉全体を濡らすことができず、斑点状に枯れるだけで完全に枯殺できないという現象が起きます。「倍率は合っているのに枯れない」というケースの大半は、この水量不足(被覆率不足)が原因です。
具体的な希釈液の作り方として、背負い式動噴(20リットルタンク)を使用する場合を考えてみましょう。
また、希釈の際には必ず手袋やマスク、保護メガネを着用してください。プリグロックスLはパラコートとジクワットを成分とする劇物(毒物指定されている製品もあります)であり、皮膚への刺激性や誤飲時の毒性が非常に高いため、取り扱いには細心の注意が必要です。安全な希釈作業のためには、先にタンクに半分ほど水を入れ、薬剤を計量して投入し、最後に残りの水を入れて撹拌棒でよく混ぜるという手順を徹底しましょう。
参考)シンジェンタプリグロックスL (毒物)
プリグロックスLの製品ページ(シンジェンタジャパン):適用作物や希釈倍率の詳細な公式情報
畑の厄介者である「スギナ」や、大きく成長してしまった「多年生雑草」に対しては、基本の100倍希釈では効果が不十分な場合があります。こうした難防除雑草に対しては、50倍の高濃度希釈が推奨されています。
スギナは地下茎で繋がっており、地上部を枯らしてもすぐに再生してくる非常に生命力の強い雑草です。プリグロックスLは根まで枯らす効果はありませんが、地上部を瞬時に枯れさせる能力(速効性)においては最強クラスです。50倍液(水10リットルに対して薬剤200ミリリットル)を使用することで、スギナの緑色の組織を強力に破壊し、光合成を阻害して急速に茶色く枯れさせることができます。
50倍希釈で散布する場合のポイントをまとめます。
また、スギナ防除においては「反復処理」が鍵となります。プリグロックスLで地上部を枯らしても、地下茎からまた芽が出てきます。しかし、芽が出るたびに50倍液で叩くことを繰り返すと、地下茎の養分が消耗し、徐々にスギナの勢力が弱まっていきます。「一度で根絶やしにする」のではなく、「出てきたら叩く」を繰り返すことで、シーズンを通して畑をきれいに保つという戦略が、プリグロックスLを用いたスギナ対策の基本です。
さらに、裏技的なテクニックとして、移行性の除草剤(タッチダウンiQなど)とプリグロックスLを混用する方法もあります。これにより、プリグロックスLの速効性(数日で枯れる)と、移行性除草剤の根まで枯らす効果(再生を遅らせる)の両方のメリットを享受できる場合があります。ただし、混用の際は沈殿等の化学反応が起きないか事前に少量で確認するか、メーカーの推奨事例を参照することが重要です。一般的には、接触型除草剤が先に組織を破壊してしまうと、移行性除草剤の吸収が阻害される可能性があると言われますが、プリグロックスLとタッチダウンiQの組み合わせに関しては、相乗効果を狙った事例が報告されています。
参考)https://www.syngenta.co.jp/cp/articles/20200201
除草剤プリグロックスを徹底解説!:スギナへの倍率や使い方の詳細
プリグロックスLを使用する際、「展着剤」を入れるかどうかで効果に天と地ほどの差が出ます。結論から言えば、展着剤は必須と考えてください。
参考)プリグロックスに展着剤入れると効果がどの様に変わりますか? …
なぜ展着剤がそれほど重要なのでしょうか。プリグロックスLの成分であるパラコートやジクワットは、植物の葉の表面にあるワックス層(クチクラ層)に弾かれやすい性質を持っています。特に、イネ科の雑草や、葉が水を弾きやすいオオアレチノギク、スギナなどは、展着剤なしで散布すると、薬液が水玉となって転がり落ちてしまい、ほとんど効果を発揮しません。
展着剤の役割は単に「くっつける」だけではありません。「拡げる」効果もあります。接触型除草剤であるプリグロックスLは、薬液が付着した「点」しか枯れません。展着剤を加えることで、葉の上に落ちた一滴がじわっと広がり、枯れる面積を増やすことができます。これにより、散布ムラをカバーし、より確実な除草効果(枯殺力)を引き出すことができるのです。
コスト削減のために展着剤を省く農家の方もいますが、その結果、雑草が枯れ残って再散布が必要になれば、薬剤代も労力も2倍かかってしまいます。数百円の展着剤を惜しまず投入することが、結果として最もコストパフォーマンスの良い除草につながります。もし手元に専用の展着剤がない場合でも、台所用洗剤で代用することは推奨されません(泡立ちすぎてタンクから溢れたり、薬害のリスクが予測できないため)。必ず農業用の展着剤を使用しましょう。
展着剤の種類と必要性(JAマインズ):プリグロックスに展着剤が必要な理由
農業現場において、プリグロックスLが選ばれる最大の理由の一つが「雨への強さ」です。多くの除草剤は、散布後数時間は雨が降らないことが条件となりますが、プリグロックスLは散布後15分〜30分で植物体内に吸収され、効果が発揮され始めます。
これは、成分が葉の表面から瞬時に組織を破壊し浸透するためで、散布直後に夕立が来ても薬剤が流れ落ちる前に作用が完了しているケースが多いのです。
散布から効果が現れるまでの「時間」も驚異的です。晴天時の日中であれば、散布したその日の夕方には雑草が変色し始め、翌日には茶色く枯れ上がっていることも珍しくありません。この「目に見える効果の速さ」は、作業した実感を得やすく、急いで雑草を処理したい場合(作物の定植直前など)に非常に役立ちます。
一方で、この速効性は「ドリフト(飛散)」への注意喚起でもあります。風に乗って隣の作物に少しでもかかれば、その部分が数時間後には確実に枯れて斑点になります。移行性がないため株ごと枯れることは少ないですが、商品価値を損なう「薬害」が即座に出るため、風の強い日の散布は厳禁です。雨には強いですが、風には弱い(リスクが高い)薬剤であることを肝に銘じておきましょう。
最後に、意外と盲点になりがちな「ノズル選び」について解説します。ここで強調したいのは、「ラウンドアップ用のノズルを使ってはいけない」という点です。
ホームセンターなどで売られている「除草剤用ノズル」の多くは、グリホサート系(ラウンドアップ等)向けに設計された「少量散布ノズル(LVノズル)」や「泡状ノズル」です。これらは、10aあたり25リットル〜50リットルという少ない水量で撒けるように設計されており、粒が大きく、ポタポタと落ちるような出方をします。
プリグロックスLでこのノズルを使用すると、以下の問題が発生します。
プリグロックスLに適しているのは、「霧(キリ)」状に出るノズル、あるいは「多水量散布用ノズル」です。細かい霧が雑草全体を包み込むように濡らすことで、初めてその強力な除草効果が発揮されます。
「ドリフトが怖いから泡ノズルを使いたい」という心理は分かりますが、それではプリグロックスの効果が出ません。ドリフト対策としては、ノズルの先に「カバー(フード)」が付いたタイプを使用し、地面近くで散布するのが正解です。
「倍率は合っている、展着剤も入れた、でも枯れが悪い」。そんな時は、お使いのノズルを確認してみてください。もし「少量散布用」「ラウンドアップ用」と書かれていたら、それが原因である可能性が高いです。一般的な「防除用(殺虫剤用)」のノズルの方が、粒子が細かく水量も出るため、プリグロックスLには向いている場合さえあります(ただしドリフトには厳重注意)。
まとめると、プリグロックスLの極意は「適切な倍率(100倍or50倍)」「たっぷりの水量(100L/10a)」「展着剤の添加」「霧状に撒けるノズル」の4点を揃えることです。これらを遵守すれば、どんな頑固な雑草も驚くほどの速さで焼き払うことができるでしょう。
効果的な散布ノズルの使い方(シンジェンタ):ノズルの使い分けによる効果の違いを動画で解説